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2009.12.30

「天下一!!」第1巻 ギャップを越えて生き延びろ!

 実家が古武術道場を営む女子高生・武井虎は、ある日城跡でおかしな着ぐるみ男から逃げるうち、戦国時代に紛れ込んでしまう。元の時代に戻るためには信長を本能寺で生き延びさせねばならないと知った虎は、元の時代に帰るため、小姓として信長の元に近づくが…

 高校生+タイムスリップというのはよほど相性が良いのか、先日ちょっと思いつくままに挙げてみたところ、高校生がタイムスリップする時代漫画が、現在連載中のもので少なくとも五つもあることに気付き、驚いてしまいました。
 そのうちの一つが、「八犬伝」や「デアマンテ」など、時代漫画でも活躍する碧也ぴんく先生による「天下一!!」です。

 本作、「フツーの女子高生・虎は、なぜかタイムスリップ、気がつくとそこは戦国時代だった!! 信長に気に入られ、超美形有能小姓集団の一人としてもぐり込んだ虎を待つものは……!?」というAmazonの内容紹介や、美形たちが麗々しく並んだ表紙を見ると、何やらキラキラフワフワした内容(?)を想像してしまいますが、しかしそれで決して終わらないのが、碧也漫画の碧也漫画たるゆえんであります。

 本作でまず印象に残るのは、戦国時代の陰の部分にも、きちんと目を向けている点でしょう。
 最近は…いや昔から、戦国時代、特に戦国武将を中心に描いた作品は、戦国時代の格好良い部分、威勢の良い部分が強調されますが、しかし現実には、彼ら英雄、強者の陰で悲惨な扱いを受けていた人々がいたこともまた事実。
 戦で命を奪われるだけでなく、財を奪われ、犯され、奴隷として売られ…本作でタイムスリップした主人公・虎の目にいきなり飛び込んでくるのは、そんな戦国時代の現実であります。
(というより、いきなり主人公が人狩りにあって売り飛ばされるというハードコア展開)

 虎は、かろうじて命拾いした彼女は、生き延びるため、元の時代に戻るため、信長の元に近づくことになるのですが、そこで彼女は、小姓に扮することなります。。
 小姓、すなわち男に扮するというのは、偶然か必然か彼女の容貌が信長の今は亡き小姓と瓜二つであったことも大きいのですが、それ以上に、ぶっちゃければ、自分の操を守るため、であります。

 戦国時代の陰の部分を描くことにより、女が男に扮するという――フィクションでは全く珍しくないものの――無理のある展開を通し、さらに信長に近づいてからの、(一見ではありますが)華やかな世界とのギャップを際だたせる…この辺りの一石で二鳥も三鳥も落としてみせるうまさは、作者ならではと感じます。


 と、もちろん、作品の前提になる部分を強調しすぎてしまいましたが、もちろん、本筋は主人公の目に映った信長像や小姓生活を巡るてんやわんやであります。しかしその点も本作は史実を踏まえつつ、うまく脚色して描き出しているのが実に面白いのです。。
(男になったから操は一安心、と思いきや夜伽を命じられて…という辺りの展開など、その回避策も含め、ベタですがやっぱり面白い)

 冷静に考えてみれば存外少ない、小姓視点での物語というのも実にユニークであり、その部分だけ取ってみても、実に楽しく、そしてよく考えられている作品であると感じさせられます。


 現代と戦国時代のギャップ、戦国時代の陰と陽のギャップ、そして男と女のギャップ…様々なギャップを乗り越えて、いかに虎が生き延びて見せるのか。これは読み応えのある作品になりそうです。

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