「宵闇迫れば 妻は、くノ一」 小さな希望の正体は
壮絶な戦いの末、御庭番衆を壊滅状態に追い込み、母・雅江を失った織江は、明日の望みのない潜伏生活を送っていた。これに対し、御庭番頭領は織江への刺客として「夜に溶ける」と言われる伝説の忍びを送り込む。織江を守るため松浦静山が取った手段とは…
と、あらすじに主人公の名前が出せませんでしたが、数奇な運命に引き裂かれた彦馬と織江のカップルの苦難の行方を描く「妻は、くノ一」の第六巻です。
風野作品屈指の大殺陣が展開された第五巻を受けての本作で描かれるのは、御庭番衆からの新たなる刺客と織江との対決。
前作で織江・雅江・静山に江戸の配下を壊滅させられ御庭番衆は、各地に潜入していた凄腕の忍びを呼び返すのですが、その第一号が「夜に溶ける」と評される怪忍者・宵闇順平であります。
迫る宵闇の魔手に、織江が、静山がいかに対するか、というのを縦糸に、そして今日も江戸の怪事件・珍事件に挑む彦馬の姿を横糸に、物語は展開していきます。
正直なところ、縦糸の緊迫感に比べると、横糸の印象がちょっと薄れる感もありますが、しかし、抜け忍であることに疲れ、酒に溺れていた織江を復活させるのが、彦馬写しの怪事件解決という趣向はうまいものだと思います。
も一つ感心させられるのは、作中へのペーソスの織り込み方の巧みさでしょう。
織江が酒に溺れる辺りの妙なリアリティは、決して単なる理想の女性ではない彼女の等身大の姿を浮かび上がらせてくれますし、その彼女の母を一方的に聖女視する鳥居耀蔵のダメ人間描写と対比できるのがまた面白いところ。
そして何より、クライマックスの織江と宵闇順平の対決の中で、織江が反撃の糸口を掴む原因というのがまた…
これだけペーソス溢れる理由で術を破られる忍者というのも珍しいと、思わず同情させられた次第です。
と、そんな色々な意味でシリアスな展開が続く中で、ラストに炸裂する爆弾は、痛快というか脱力というか…
この展開は予想できなかった! と思わず仰天すると同時に、彦馬と織江の行く先に灯った小さな希望の灯りの存在に、ホッとさせられました。
よりによってお前かよ、と突っ込みたくなる気分も同時にあるのですが…いやはや、全く油断できないシリーズであります。
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