「陰陽ノ京」巻の2 ぶつかり合う二つの陰陽の道
悪名高いさる貴族が、何者かの術で魄を奪われ意識不明となった。安倍晴明の息子・吉平は術者を追うが返り討ちに遭い、自分も魄を奪われてしまう。敵の正体が、かつて自分の下にいた外法師・氏家千早であることを知った晴明は千早を討つことを決意。しかし慶滋保胤は千早を説得しようと主張する…
「陰陽ノ京」シリーズの第二弾であります。集団アクション的色彩のあった前作と異なり、本作では復讐の念に取り憑かれた外法師(陰陽寮に所属しない陰陽師)・氏家千早と、彼と因縁を持つ安倍晴明の対峙を主軸に、前作とは形を変えて「陰陽の道」の在り方が描かれていくことになります。
本作の敵役・千早の操る術は、不思議な人形を操り、人の命を成り立たせる魂魄のうち、「魄」を奪うというもの。
ある理由から自らの手で人の命を奪うことができない千早は、権勢を傘に着て外道な振る舞いを働く貴族を誅するため、この術を用いて暗躍するのですが…
実は、彼の過去に密接に関わるのが晴明であったこと(そして、そうとは知らぬまま、晴明の息子・吉平の魄を千早が奪ったこと)から二人の因縁が再燃する、その中に浮かび上がるのは、陰陽師として進むべき道、取るべき振る舞いとは何か、という命題です。
自然に働きかけ、式神を操り、常人には計り知れないと見える力を操る陰陽師――しかし、彼らもまた、天地の法則に、そして何よりも人の世の法に縛られる存在であります。
なまじ超常の力を持つばかりに、その力で乗り越えられぬ現実にぶつかった時の無力感と憤りは常人以上。ある事件がきっかけで復讐鬼と化した千早は、まさにその念に凝り固まったと言えるでしょう。
同じ理不尽を目にして、外法でそれを乗り越えることを選んだ千早と、現実の枠の中で変化させていくことを選んだ晴明――両者のぶつかり合いは、「陰陽の道」の在り方を巡る本作特殊なものであると同時に、実は普遍的な、我々の間でも起こり得る葛藤であると気づきます。
前作を読んだ時に、陰陽師の世界をわかりやすく現実に落としこんで見せる作者の腕に感心したのですが、本作では、それと逆の構図となっているのに、またもや感心させられました。
しかし――その複雑な葛藤を解決してみせる保胤の言葉は、本来であればもう一つの道を示すものであったと思うのですが、やはり甘い…というより軽い、と感じます。
本作の核心に関わることゆえはっきりとは書けませんが、両者が払う犠牲の不均衡には触れずに「情」の言葉でもって相対化していること、いや、そもそも加害者が犠牲を払っていないことを捨象しての言葉は――個人的には理想主義も嫌いではない私が見ても――綺麗事に過ぎる、と感じさせられるのです。
エンターテイメントとしてのクオリティは相変わらず高いだけに、大上段に振りかぶった刀が滑ったかのような落とし所だけが、残念でならないところであります。
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