「陰陽ノ京」巻の3 百足と龍が描く陰陽の道
愛宕山に隠棲する外法師・鷹晃は、ある晩、蘇芳と名乗る不思議な老人と出会う。その愛宕山には、三年前に陰陽寮が総力を挙げて封印した大百足が眠っていた。が、嵐の日に封印の要石が破壊され、化け百足が復活してしまう。保胤は晴明らと協力して、化け百足と対決するが…
毎回ユニークな切り口で陰陽師の世界を描く「陰陽ノ京」のシリーズ第三弾は、実に意外な内容の作品。何と京の都を襲う大怪獣と陰陽師たちの攻防戦が描かれる、一種の怪獣ものなのですから…
本作に登場する化け百足は、かつてかの藤原秀郷が退治したという伝説の怪物(なお、本作ではこのエピソードに一定の合理的解釈がなされているのが面白い)。
その巨体と凶暴さに加え、体内に充満した毒により、うかつに攻撃すればこちらが危ないどころか周囲が汚染されるという、何とも厄介な怪物で、単純に大火力で撃退できない存在として設定されているのが工夫でしょう。
作中では、三年前に京に迫り、陰陽寮が総力を挙げながらも、上に述べた特性により愛宕山に封印するほかなかった大百足が復活。
これを再度封印するため、主人公・保胤をはじめとする陰陽師たちが挑むことになるのですが――
単純に力でもって殺すわけにはいかない相手を倒すため、大百足を封印する地とそこまでの誘導ルートを選定する。大百足の動きを封じるための秘密兵器(?)を準備する。天狗の力を借りて空から偵察・移動する…この辺りの描写が怪獣もの的なのが何とも面白いのです。
しかしもちろん、単なる怪獣アクションもので終わるわけではありません。
大百足の正体を単なる魔物や巨大生物とはせず、そこに人の力で天然自然に働きかける陰陽道の負の側面の象徴的性格を与えている点が、実に本シリーズらしい視点と感じるのです。
さらに、本作を構成するもう一つの要素――半人半龍の青年・鷹晃の出自に関わるドラマが、物語の横糸ともいうべき
存在となっているのもまた本作の巧みなところ。
人間ならざるものの関わりを通じ、人間の、そしてそれらを包み込む自然の姿、そしてその象徴としての陰陽道の形を浮かび上がらせる…その意味でも、本作はやはりユニークな陰陽師ものと感じます。
なお、本作ではシリーズ最新作「陰陽ノ京 月風譚」で主役を務めた賀茂光栄と住吉兼良コンビが初登場。出番は少ないながらも、なかなかの存在感でありました。
にしても、ヒロインのはずの時継は、前作に続きほとんどオチ要員に…保胤が真ヒロイン状態だけに仕方ないか。
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