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2010.02.28

「機巧奇傳ヒヲウ戦記」 第09話「激闘! 父ちゃんはどこだ」

 アラシの妨害をかわし、ついに高山にたどり着いた一行。しかし既にマスラヲはその地におらず、ヒヲウは落ち込んでしまう。その前に現れた浪人・清河は、攘夷のために機巧の力を貸せと語る。が、炎にエレキテルが搭載されていたことを知ったヒヲウは元気を取り戻し、スチームインジンを搭載して暴走するアラシたちの屋台を撃退する。炎の可能性を知ったヒヲウは、炎を見せるため、父が向かった可能性のある京に旅立つのだった。

 第九話にして父・マスラヲがいる可能性のある飛騨高山に到着したヒヲウ一行。
 ついに当初の目的地にたどり着いたわけですが、ストーリーの一区切りに相応しく、見所がぎゅぎゅっと詰め込まれた物語が展開、これまでで最高の盛り上がりを見せてくれます。

 アラシの襲撃を退けて(この冒頭の戦い、谷を渡る吊り橋の上の攻防の中に描写される炎のギミックとアクション描写が、これだけで普段のクライマックス並みの迫力)、高山にたどり着いたヒヲウ一行ですが、瞼の父はそこにはなく、ヒヲウはものすごい落ち込み&むくれっぷり…
(ここで、スチームインジンを作ろうとして高山の職人たちから嘲笑われ、去っていくマスラヲの背中には色々と考えさせられます)

 そこに近づいてきたのは、何と清河八郎! 浪士組結成から約一年前の姿ですが、確かに色々あって諸国を放浪していた清河がここにいても平仄は合いますが、これは意外な出会いであります。
 しかし清河が、攘夷実行の手段として、我が国古来の機巧に目をつけ、ヒヲウたちを味方に引き入れようという展開には「その組合せがあったか!」と大いに感心。こういうひねりがあるから、この作品(というか會川時代劇)はやめられません。

 しばらく登場してこなかった、「機巧(=テクノロジー)は何のためのものか?」という命題が、ここで再び触れられることになります。
 もっとも、機巧を武器にすることが嫌いな上に、ご機嫌最悪だったヒヲウにはガン無視されて終わりでしたが…

 ちなみにアバンタイトルは、この清河が新徳寺で行った浪士隊へのアジ演説の模様。これが新撰組誕生のきっかけになったわけですが、ちょい役とはいえ、芹沢、近藤、土方、沖田に原田も登場して、これも嬉しいサービスです。
(しかし寺がカラクリ屋敷化して、仏像が原田に襲いかかるのはあんまり)

 さて、そろそろ今回のクライマックス。実は炎に発電機関が搭載されていることを知ったヒヲウが元気を取り戻すのとほぼ期を一にして、アラシと三バカが改造したスチームインジン搭載の暴走屋台が高山を蹂躙!
 これに立ち向かう炎は、四つ辻で左右を屋台に挟まれた上に、前後から屋台の連続体当たりを喰らう(アラシは結構な軍師だなあ)というピンチですが…

 もちろんここで炎の新たなる力が発動、腕を通じて放たれた電気はスチームインジンを爆発させ、さらに夜空に美しい火花を放ちます。
 この辺りの流れは、お約束的といえばその通りなのですが、主人公ロボの新兵器お披露目エピソードのフリをしつつも、ヒヲウの抱えてきた悩み(そして相手にしなかったとはいえ清河の誘い)が炎の放つ電気の火花のように美しく昇華され、さらに「カラクリは作ったり色々なことを試したりするものだ!」という台詞に繋がっていく辺りの構成の巧みさは、溜息がでるほどです。
(新兵器を出しつつ、機巧の兵器利用を否定してみせるアクロバットが、見事に決まった!)

 今回も敗れたアラシは、今度は自分の手で機巧を作りたいとおとなしく引き下がるのですが、これも、ライバルが新たな力を求めて…という展開に留まらぬ温かみを感じさせてくれます。

 その他、先に述べた吊り橋の上でのメカ描写や、清河たちとの対決で見せる才谷の立ち回りや、少年たちのメンターとしての才谷の描き方や、炎の発電の際のユーモラスな描写などなど、小さな見所も含めて、本当に最初から最後まで見所満載の今回。
 本当に面白いものみたなあ…と大満足のエピソードでした。

 さて、京からも手紙を出していたマスラヲを追って、炎は京へ。華と雪も同行を望み、そして清河も何やら企み…と、舞台は移れど、これからの展開も本当に楽しみなのです。


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2010.02.27

「陰陽ノ京」巻の3 百足と龍が描く陰陽の道

 愛宕山に隠棲する外法師・鷹晃は、ある晩、蘇芳と名乗る不思議な老人と出会う。その愛宕山には、三年前に陰陽寮が総力を挙げて封印した大百足が眠っていた。が、嵐の日に封印の要石が破壊され、化け百足が復活してしまう。保胤は晴明らと協力して、化け百足と対決するが…

 毎回ユニークな切り口で陰陽師の世界を描く「陰陽ノ京」のシリーズ第三弾は、実に意外な内容の作品。何と京の都を襲う大怪獣と陰陽師たちの攻防戦が描かれる、一種の怪獣ものなのですから…

 本作に登場する化け百足は、かつてかの藤原秀郷が退治したという伝説の怪物(なお、本作ではこのエピソードに一定の合理的解釈がなされているのが面白い)。
 その巨体と凶暴さに加え、体内に充満した毒により、うかつに攻撃すればこちらが危ないどころか周囲が汚染されるという、何とも厄介な怪物で、単純に大火力で撃退できない存在として設定されているのが工夫でしょう。

 作中では、三年前に京に迫り、陰陽寮が総力を挙げながらも、上に述べた特性により愛宕山に封印するほかなかった大百足が復活。
 これを再度封印するため、主人公・保胤をはじめとする陰陽師たちが挑むことになるのですが――

 単純に力でもって殺すわけにはいかない相手を倒すため、大百足を封印する地とそこまでの誘導ルートを選定する。大百足の動きを封じるための秘密兵器(?)を準備する。天狗の力を借りて空から偵察・移動する…この辺りの描写が怪獣もの的なのが何とも面白いのです。

 しかしもちろん、単なる怪獣アクションもので終わるわけではありません。
 大百足の正体を単なる魔物や巨大生物とはせず、そこに人の力で天然自然に働きかける陰陽道の負の側面の象徴的性格を与えている点が、実に本シリーズらしい視点と感じるのです。

 さらに、本作を構成するもう一つの要素――半人半龍の青年・鷹晃の出自に関わるドラマが、物語の横糸ともいうべき
存在となっているのもまた本作の巧みなところ。
 人間ならざるものの関わりを通じ、人間の、そしてそれらを包み込む自然の姿、そしてその象徴としての陰陽道の形を浮かび上がらせる…その意味でも、本作はやはりユニークな陰陽師ものと感じます。

 なお、本作ではシリーズ最新作「陰陽ノ京 月風譚」で主役を務めた賀茂光栄と住吉兼良コンビが初登場。出番は少ないながらも、なかなかの存在感でありました。


 にしても、ヒロインのはずの時継は、前作に続きほとんどオチ要員に…保胤が真ヒロイン状態だけに仕方ないか。


「陰陽ノ京」巻の3(渡瀬草一郎 メディアワークス電撃文庫) Amazon
陰陽ノ京〈巻の3〉 (電撃文庫)


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2010.02.26

「首狂言天守投合」 室町伝奇+コメディ=?

 毎度お馴染み「異形コレクション」の朝松室町伝奇、最新巻の「喜劇綺劇」に掲載されたのは、「首狂言天守投合」であります。
 「喜劇綺劇」は、そのタイトルから察せられる通り、ホラーでありつつも、「笑い」をテーマとしたアンソロジー。その中に描かれた本作は、室町伝奇+スラップスティックコメディといった趣の怪作であります。

 そもそも、一見相反するものと思われる「笑い」と「恐怖」の関係については――これは編者によるアンソロジーの序文をご覧いただくとして、異形コレクションでの朝松先生の作品しかご存じない方には、氏がコミカルな作品を書くというのは、少々意外かもしれません。

 が、昔からの朝松ファンであれば、「笑い」が氏の作品を飾る重要な色彩の一つであることを、よくご存じのはず。
 100を数える朝松先生の単行本のうち、実に一割以上が、スラップスティックコメディに分類される作品なのですから――(コミカルな味付けの作品も含めれば、その数はさらに倍にもなるでしょう)

 さて、そんな作者が今回題材に選んだのは、「首化粧」という風習。
 戦国時代、合戦で討ち取った首を首実検に供する前に、洗い清め、見栄えよく化粧するという、雅やかなのか忌まわしいのかよくわからないこの風習、実際に担当したのは女性たちとのことです。

 本作で描かれるのは、とある城の天守を舞台に、首化粧をする三人の姫君の姿。
 薄暗い天守も、腐敗を始めた生首もものともせず、いかにも年頃の少女らしく賑やかに、楽しげに首化粧に勤しむ彼女たちですが、お互いの悪ふざけがエスカレートして…という趣向なのです。

 ちょっとした摩擦や衝突がエスカレートして大暴走、というのは、これはコメディの常道の一つですが、朝松作品でもそれは健在。
 その代表格は、正月のカルタ取りが異種格闘技戦となったりが日常茶飯事だった「私闘学園」シリーズ(そういえば本作の三人の姫は、一条家の三姉妹を彷彿とさせる…などと書けばあとで恐ろしいことになりそうですが)ですが、本作は、まさにその辺りの呼吸を感じさせます。

 が、作者のコメディは大分久しぶりだったということもあってか(あるいは本作執筆の直後に体調を崩して入院ということもあってか)、本作のテンション、ギャグの切れは、正直なところ今ひとつの印象…
 作者にとっても本作は不本意な出来だったようですが、いずれにせよ、「笑い」も「恐怖」も思い切りが必要なのだなあと、残念ながら確認させられた次第でした。


 しかしながら、段々と登場人物と物語が歪んでいき、ついには世界そのものが崩壊していくという、いかにも朝松ホラーらしい展開とスラップスティックの組合せというのが、存外似合っているということがわかったのは本作の収穫でしょう。

 そして何より、ラストに至り、「天守」を舞台とする意味が明らかになるという構成も、室町伝奇として実に気が利いています。

 できれば、今後も室町伝奇+コメディの試みは、続けていっていただきたいと…そう感じたのも、紛れもない事実であります。

「首狂言天守投合」(朝松健 光文社文庫「異形コレクション 喜劇綺劇」) Amazon
喜劇綺劇―異形コレクション (光文社文庫)

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2010.02.25

「目付鷹垣隼人正裏録 錯綜の系譜」 上田作品、一つの到達点

 久能山東照宮には神君の遺品はなかった。将軍綱吉の厳命により探索を続ける暁に迫る刺客の群れ。親友にして義兄の平太郎に護られ、暁は一歩一歩、徳川家の将軍位に秘められた闇に近づいていく。最後の謎を解き明かすため、日光東照宮の神君廟所に向かう二人を待つものは。

 将軍綱吉により抜擢を受けた目付・鷹垣隼人正暁を主人公とした上田秀人先生のシリーズ「目付 鷹垣隼人正 裏録」第二弾であります。

 書院番の一人が斬首に処されたことに、着任早々不審を抱いた暁。独自に調べを始めた彼は、事件が徳川将軍家の正統性をも揺るがしかねない神君の遺品と繋がりがあることを知ります。その遺品を求めて、ついに久能山に向かった暁を待っていたのは…
 というのが前巻「神君の遺品」のあらすじ。こちらを上巻とすれば、下巻とも言うべき本作では、ついに天下を揺るがしかねない一大秘事が明かされることとなります。

 上田作品の魅力といえば、幕府にまつわる伝奇的秘密と、幕府の権力の座を巡る暗闘、その二つの面白さだと私は常々考えていますが、言うまでもなく本作でもそれは健在…どころか、これまで以上にクオリティの高い内容となっているのですからたまりません。

 その魅力の一つ、伝奇性はと言えば、これがまた、伝奇慣れ(?)した私も唖然とするほどの意外かつスケールが大きな物語が展開されます。

 前作である程度の謎は明かされていた上に、本作の序盤でも早々にある秘密が示されたためにすっかり油断させられましたが、実はこれが一種のミスリードとも言うべきもの。
 数々の戦いと謎を経て暁が辿り着いた、ある人物にまつわる秘密――結末で語られるその内容は、もちろんここに明らかにするわけにはいきませんが、まさか! と驚かされることは間違いなし。
 時代ものにはしばしば登場する人物ではありますが、正直に言ってこの解釈は初めて見た――それほどの衝撃的かつ思わず納得の内容です。

 そして、それに負けていないのが、もう一つの魅力である権力の魔との戦い。
 絶対権力者たる徳川将軍を戴いた幕府――しかし、その裏側で展開されるのは、少しでも己が権威勢力を増すために、時として将軍ですら駒として扱われるような、熾烈かつ陰湿な暗闘であります。

 この展開自体は、やはり上田作品でお馴染みのものであり、他の上田作品の主人公同様、暁もまた、この権力の魔に憑かれた者たちに対し、己の正義を貫くべく戦いを挑んでいくのですが――
 しかし本作では、暁もまた、権力の甘美さに触れ、一瞬とはいえ心を迷わせる姿が描かれます。

 これまでの上田主人公は、幕府で一定の権力を持つ役割につこうとも、それを積極的に用いようとしない者が大半であり、(幕政の中にありながらも)その権力と対峙する位置に立っていたと言えます。
 それはヒーローとしてあり得べき姿かもしれませんが、しかしそれは、主人公の目を通して権力というものを描くという点では、実は一面的と言わざるを得ません。

 本作において暁が権力の甘美さ――そしてそれこそが権力の魔の卵なのですが――に惑わされる姿を描いたことは、その一面的な見方を脱し、より複層的で現実的な視点から、権力というものに向き合う姿勢を取ったと感じるのです。


 思えば、現在活躍している中で、上田秀人ほど権力というものと真摯に向き合ってきた――そしてそれは、実は作品の強い伝奇性とは表裏一体なのですが――時代小説家は少ないと感じます。
 その作者が、それまでの立場からさらに踏み込んでみせた本作は、一つの到達点と言えるのではないでしょうか。

 まことに残念ながら、このシリーズは本作で一端の終了とのことですが、いつかまた、権力の魔に触れながらも、それでもそれに負けぬ道を貫く暁の姿を見たいと、心から感じる次第です。


「目付鷹垣隼人正裏録 錯綜の系譜」(上田秀人 光文社文庫) Amazon
錯綜の系譜―目付鷹垣隼人正裏録〈2〉 (光文社時代小説文庫)


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2010.02.24

「アイゼンファウスト 天保忍者伝」第4巻 くやしい…でも な快作

 山田風太郎先生の「忍者黒白草紙」を原作にしつつも大胆に漫画化した問題作「アイゼンファウスト」の第四巻が発売されました。
 この巻で描かれるのは、先の江戸南町奉行・矢部駿河守一家を巡るエピソード。引退してもなお人望を集める駿河守を破滅させんとする鳥居耀蔵の意を受けて、DT忍者・箒天四郎は矢部駿河守と息子・彦四郎、そしてその妻・貞代を付け狙うことになるのですが…

 が、彼らを陥れんとする天四郎の目から見ても、あまりにも強い絆を持った矢部家には落ち度の一つもなし。落ち度がなければ作ればいいじゃない、と陰湿な工作に走る天四郎ですが、しかし、ここでまあ大方の読者の予想通り、色々とナニでアレな展開になるわけです。

 個人的にはこの手のシーンは好きではないのでこれまではあまり触れてきませんでしたが、そんな私の目から見ても原作にも登場した打ち首人形を絡めたアレなシーンの展開のバカバカしい面白さは相当のもの。
 山風先生に謝れと言うべきか鳥居様に謝れと言うべきか…本人たちが大真面目(?)だからこそかえっておかしいというコメディの基本に則った迷シーンであります…アレだけど。
(ちなみにこの打ち首人形、このシーン以外も含めて、原作よりもうまい使い方をしていたように感じます…と言ったら怒られるかしら)

 と、それでも諦めない天四郎の執拗な策略により、ついに訪れるカタストロフ。
 強い絆も、天四郎のとった残酷かつ忌まわしい手段でもって断たれ、脆くも崩壊していく矢部家ですが…実は、ここから先の展開こそが――特に原作との対比において――この巻の真骨頂とも言うべき内容となっているのです。

 少々ネタバレになってしまうのですが、矢部家の面々の辿る結末は、表面上は原作と同じであっても、その根底にあるものはむしろ正反対のもの。
 どれだけ無惨な運命に見舞われようとも、決して壊れない絆を残すことにより、彼らは勝ったのだと、そう言い切ることができる結末には、くやしいことにグッとくるものがありました。

 そしてもう一つ――天四郎との会話の中で矢部駿河守が語る言葉は、本作のテーマとも言える、正義とは何か、悪とは何か? に対する一つの明確な答え。
 原作でも描けなかったその答えを、ここではっきりと示してみせる作者のセンスには、思わず唸らされます。


 本当に毎回毎回、本当にどうしようもないエロ展開ばかりのバカ漫画なのですが、しかし時としてこのように原作の描かんとしていたものを、より鮮烈に、深化させた形で描いてみせる本作。
 くやしい…でも(ry と言わざるを得ない、くやビク漫画の怪作…いや快作であります。

 残念ながら、掲載サイトの終了で本作はこの第四巻で一旦完結、という形になりましたが、しかし媒体を変えて本作の続きが描かれていくとのこと。本当にくやしいのですが、これからも、このくやビク漫画とはつき合っていかなくてはいけないようです。

「アイゼンファウスト 天保忍者伝」第4巻(長谷川哲也&山田風太郎 講談社KCDX) Amazon
アイゼンファウスト天保忍者伝 4 (KCデラックス)


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2010.02.23

「月の蛇 水滸伝異聞」第2巻 黒い蛇矛、その名は…

 もう一つの異聞の方は終わってしまいましたが、こちらは頑張る「月の蛇 水滸伝異聞」。
 第一巻はキャラクター紹介編の感がありましたが、この第二巻では趙飛虎ら主人公側の三人の出会いの模様が語られるなど、少しずつ物語が動き始めた感があります。

 李忠・周通・穆弘・薛永を倒した趙飛虎と彼の「主君」こと祝翠華。
 まだ少女ながら梁山泊討滅を悲願とする翠華と飛虎が出会ったのは…という過去エピソードが、冒頭で描かれます。

 ひたすら強い相手を求め、梁山泊の五虎将の董平(真っ先に倒されたのはともかく、一コマも登場しなかったのはまことに残念。ただでさえ、ほとんど漫画に登場したことのない好漢なのに…いや、個人的に好きな好漢なだけですが)を倒した飛虎の力を借りるべく、翠華が訪れたのは北京牢城。しかしその牢城は梁山泊の蔡福・蔡慶に牛耳られた、カサンドラ牢獄のような恐怖の獄で…
 と、ここでは蔡福・蔡慶が救いようのない悪人として描かれていますが、それはよいとして、むしろ本題は二人との対決後に登場した林冲の存在でしょう。

 世の中の全てに絶望して己の両目を閉ざしたという意味ありげな姿で描かれる林冲。その彼の目を一年ぶりに開かせたのは、飛虎が持つ黒い蛇矛――その名も「月の蛇」!
 元々、飛虎が蛇矛を持っていることから、同じく蛇矛を得物とする林冲との関係は物語当初から気になっていましたが、ここでは黒い蛇矛の名――そして本作のタイトルの由来――が語られただけで終わったものの、これからの展開が気になるヒキでありました。

 物語の方は、その後、江州を舞台に穆弘の敵討ちに燃える李俊・張順・張横と飛虎らの対決が描かれることになりますが、そちらは第三巻に続くとして、そろそろ気になってくるのは、翠華が梁山泊を執拗につけ狙うその理由。
 「祝」という姓から大体のところは察しが付きますが、さて、いかに梁山泊が悪人の集まりとて、彼女の戦いの動機――おそらくは私憤――に、どれだけの説得力を持たせられるか?

 ここがうまく描かれなかった場合は、単に「水滸伝」という物語の構造を裏返しにしたに過ぎなくなってしまうわけで(それはそれで面白いのですが)、ある意味本作の存在意義が問われることになるかと思うのですが…さて。


 ちなみに――今頃気付くのもお恥ずかしいのですが――本作で飛虎たちと戦いながらも死ななかった面々(穆春・蔡慶・童兄弟・そしておそらく李俊)は、原典でも生き延びたメンバーなのですね。なかなか面白い。

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2010.02.22

「変身忍者嵐」 第32話「妖怪三十一面相!!」

 ハヤテたちが泊まった宿屋でモズマに襲われ、怪我をした老婆に付き添って街道を行くことになったハヤテ。一方、モズマと思われた宿の客が替え玉だったと知り、ハヤテを追うツムジは下忍の襲撃を受けるが、そこに意外な助っ人が現れる。老婆から正体を現したモズマと対決する嵐は、分身の術に苦しめられながらも、奇策で本体を見抜き、モズマを倒すのだった。

 また妙なタイトルの今回登場するのは、霧のロンドンはイギリスからやって来た西洋妖怪モズマ。
 出典は佐藤有文の捏造妖怪本ですが、そちらによれば、人間に化けながら夜になると口から内臓を吐き出して人体を裏返した姿となり、人を襲って脳を食らうという、文章で書いていても実に厭な妖怪であります。
(事実、子供の頃読んだ私はイラストのリアルさもあって震え上がったものです)

 本作でのモズマはさすがにそこまでグロではありませんが、異様な色をした皮膚と、体の外側に飛び出したような骨というデザイン、そして様々な人間に化け、そして他の人間を自分の姿に変えるという変身能力の持ち主であるという点に、原典のイメージを残しています。

 さて、そのモズマに扮するのは怪優・潮健児。特撮悪役の常連である氏ですが、今回はモズマのみならず、モズマが変身する船頭・侍・老婆に扮しての大活躍。
 …おかげで、変身というよりは変装という印象が強くなってしまいましたが、冷静に考えると、モズマがハヤテを襲い、忍者大秘巻を狙うだけというえらいシンプルなストーリーを盛り上げてくれたと思います。
 ちなみに、モズマは同郷のドラキュラや狼男、フランケン、ゴルゴンの敵討ちに燃えてる辺り、なかなか人情味(?)があるのですが、その辺りは氏ならではの味かな。

 さて、このモズマの恐ろしいところは、自分が化けるだけでなく、上に述べた通り他人を自分の姿に変えて操ること。
 冒頭で渡し船の客を襲撃して捕らえ、彼らを自分の姿に変えてハヤテたちを襲わせるという周到な手段で、ハヤテを苦しめることになります。
(ちなみにこの時、モズマに変身させられた人々を、知らぬとはいえハヤテたちが殺してしまっているのですが、それはスルー)

 しかし、クライマックスで彼ら替え玉とともに襲ってくるモズマの本体を見抜くために嵐が取った手段が、地の巻を放り出して、それに手を出すかどうか、というのはいかがなものか。頭の中まで操られているなら、全員一斉に手を出しそうなものですが…
 いかがなものかと言えば、分身に苦しむ嵐の前に現れた月の輪の台詞が「モズマの実体はあくまでも一つ…それを探すのだ!」ってわかってるよそんなこと!


 …と、モズマにばかり目が行ってしまいましたが、今回もスペシャルゲスト・高見山関が登場。
 罠にかかったことを知らせるため、ハヤテを追うツムジが道にぶつかったのは、何故か褌一丁で米俵二つ持った高見山というシチュエーションで…いやホント、本当なんです。
 高見山はツムジの頼みで下忍を蹴散らしてくれるのですが(というか出番これだけ)、化身忍者がいて西洋妖怪がいて高見山がいる…何だか素敵な世界観です。

 あ、今回もカスミはラストにのみ突然登場。もう、現場の混乱が見えるようだ…


今回の西洋妖怪
モズマ
 ロンドンからやって来た変身術を得意とする妖怪。自分が他人に化けるのみならず、他人を自分に変えることも可能。戦闘時には、刺した相手を白骨に変える西洋剣や槍、また手首についた鎖を武器に使う。
 これまで倒された西洋妖怪たちの仇をとり、忍者大秘巻地の巻を奪うため、渡し船の客を襲って分身に仕立て上げ、ハヤテたちを襲ったが、地の巻に気をとられたことで本体を見抜かれて倒された。


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2010.02.21

「機巧奇傳ヒヲウ戦記」 第08話「裏切り? 雪山に消えたマチ」

 山道を行く炎に襲いかかる風陣。何とか逃れた一行だが、マチは旅を続けるうちに華に育ちの違いを感じ、飛び出してしまう。そんなマチの前に現れ、華たちと別れろと警告するアラシ。しかし追っ手の接近を知ったマチは、追っ手を引きつけつつ怪我をした華と共に逃れる。炎はアラシに落とし穴にはめられながらも、何とか撃退し、マチと華も無事に炎に戻るのだった。

 今回のアバンタイトルは海軍操練所の勝海舟と坂本竜馬の姿。本編の方は今回は史実との絡みはほとんどありませんが、その分こちらで補充というところでしょうか(ほとんどじゃれあっているだけでしたが)。
 そういえば才谷=坂本が示されたのは今回が初めてかな?

 さて、今回はタイトルにあるとおりマチが主役回。そしてそれと同時に、前回から登場した華と雪、特に華の存在がクローズアップされることになります。

 才谷の頼みと、そして何よりもヒヲウの決意もあって、華と雪を連れていくこととなった一行。しかしまだまだ両者は出会ったばかり…
 武士の、しかも藩主の子と、制外の民である機の民の子――両者の違いは、我々が想像する以上に大きいのでしょう。

 もっとも、ヒヲウはその辺りは無頓着ですし、サイやマユはその辺りを呑み込めるほどは大人であるわけで…ここで両者の違いを描くのにマチを持ってくるのは、実にうまいと感じます。

 特に良かったのは、食料を買うために、ためらいもなく着物を差し出す華たちに、マチが違和感を感じる場面。
 確かに、華にとっては何ということもない行為でも、マチにとっては、複雑な気分になることは、彼女の年頃の女の子の心境を想像すれば、納得がいきます。

 しかしもちろん、それでマチが華と雪を放り出すなどというのは、あり得ない話。
 確かに、たまたまマチたちの仇と、華たちの仇が、同じ風陣であったということはありますが、そうでなくとも、マチは華を助けたであろうことは、想像に難くありません。

 本作では子供の良くも悪くもストレートな部分が嫌味なく描かれているのが好きなのですが、今回も、そのストレートさがアンビバレントに出てしまいながらも、それを何とかすり合わせて頑張るマチの姿が、素直に良いと思えました。

 クライマックスも、そのマチと華が風陣の追っ手をまいて逃れるのと、ヒヲウの炎がアラシたちの機巧と対決するのとが、平行して描かれるのがなかなかの盛り上がりであったと思います。


 ちなみに、久々に今回ヒヲウの伏姫人形が登場。
 「こんなの伏姫じゃない!」というマチの突っ込みは、個人的にはちょっと深読みしたくなるものが。


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2010.02.20

「相棒」 意外さで定番を包んだエンターテイメント

 大政奉還を数日後に控え、将軍慶喜の駕籠が何者かに狙撃された。倒幕派の薩摩・長州も、佐幕派の会津も、みな大政奉還に反対している状況下で、幕閣は双方の勢力に通じる二人の男を密かに招いた。土方歳三と坂本龍馬…敵同士の二人は、残されたわずかな時間内に下手人を捕らえることができるか?

 既にほとんどの方が突っ込んでおられるのであまり突っ込みませんが、非常に紛らわしいタイトルの本作。
 内容はもちろんあちらとは全く関係なく、幕末オールスターキャストを向こうに回し、土方と龍馬、二大ヒーローが活躍する快作であります。

 もちろん、相棒どころか宿敵の間柄の二人をそうそう簡単に組ませられるわけはない。そこで本作が用意したのは、薩摩の西郷との秘密会談に向かう途中に起きた、徳川慶喜狙撃という一大事件であります。

 会談の存在を知るのは、幕府側も薩長側もごくわずかの人間のみ。しかしながら、双方それぞれの思惑から大政奉還に反対している状況下では、そのほとんど全てが容疑者と言っても良いような状況…
 ここでもめるようなことがあれば、慶喜が翻意するやもしれず、至急下手人を捕らえる必要がある――そこで白羽の矢が立ったのは、それぞれの勢力の裏の裏まで知り尽くした二人、という展開に相成ります。

 はっきり言ってしまえば、この設定自体は、土方と龍馬にコンビを組ませるというシチュエーションありきのもの。
 その一方で、土方と龍馬、そして彼らが捜査の最中に対面する幕末の人々のキャラクターは、定番と言うべきか、史実や様々な作品を通じて我々が持っているイメージを、一歩も出るものではありません。

 その意味では、本作を深みがないと切って捨てる人がいてもおかしくないかなとは感じるのですが、しかしこれはこれで割り切ってしまえば、実に楽しい作品です。
 水と油の二人が不承不承コンビを組み、衝突を繰り返しながらも共に危機を乗り越えているうちに…というのは、いわゆるバディものの定番展開ではありますが、しかしそれがあの、「我々がよく知る」土方と龍馬というのは、実に痛快ではないでしょうか。

 また、二人が佐幕派・倒幕派双方を捜査する過程で、二つの勢力の、そしてそれに属する人々の立ち位置というものが明快に語られていくというのもなかなか面白い。
 一見単純なようでいて、実は複雑怪奇に思惑が絡み合った幕末の勢力分布図を、ミステリの形を借りて描いていくというのは、一つの工夫と言えるでしょう。

 実は、意外なシチュエーションも定番のキャラクターも、このための仕掛けなのでは…というのは都合よく考えすぎではありますが、この点は評価すべきではないでしょうか。


 このように欠点はありますが、水準以上の作品であることは間違いない本作。
 意外さで定番を包んだエンターテイメントとして、気軽に楽しめる作品です。

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相棒

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2010.02.19

「風が如く」第6巻 対決、伊賀対甲賀 そして…

 雑誌連載の方は最終章突入ということで、ファンにとっては胃が痛くなるような今日この頃ですが、単行本でまとめて読むとやっぱり面白い「風が如く」。
 第六巻にで五右衛門の前に現れるのは信長軍二番手・滝川一益、そしてその戦いを経て語られる五右衛門の過去とは…

 滝川一益は、信長配下の武将の中では比較的マイナーかもしれませんが、しかし時代伝奇ファンであれば忘れてはいけない人物。
 何しろ出身地があの甲賀ということで、前歴が今ひとつわからないこともあり、時代伝奇ものに登場する時には高確率で忍者として描かれることが多いのです(ちなみに前田慶次郎は一益の縁者)。

 本作の一益ももちろん(?)忍者。それも甲賀忍者の総帥であり、実力も最強クラス――というわけで、五右衛門と一益のファーストコンタクトは、伊賀と甲賀の忍術合戦となるのですが…これがまた実に読み応えある内容なのです。

 分量で言えば、週刊連載一回分なのですが、そのほとんど全てを使っての対決は、何でもありが信条の本作らしく、どこから何が飛び出してくるかわからないアクションの連続。
 元々画力には定評のある米原先生だけに、実は無茶苦茶をやっているはずが(対決終盤の一益の乱射モードなどその真骨頂)、むしろリアリティすら感じさせる描写には、ただただコーフンさせられるばかり…

 この一益との対決の前に挿入されている短編エピソードで描かれた、五右衛門と出雲の阿国とのバイク対決(!)にも舌を巻きましたが、実に痛快なアクション描写であります。


 …が、決してアクションだけではない本作の魅力。この第六巻後半から描かれる五右衛門の過去篇では、五右衛門の孤独な魂のあり方を描く人間ドラマが展開していきます。

 幼い頃に伊賀の上忍・百地三太夫に買われ、忍者候補生として苛烈な試練の数々を受けることとなった五右衛門。
 かつては目的もなく、ただ流されるままに生きてきた彼の心の中に、その試練の数々は、しかし、人間として在るべきものを与えていくことになるのですが…

 身よりのない子供たちを集めた養成場という、バトルものの過去話には定番の鬱要素かと思いきや、しかしそこでグッとくるような成長物語が展開していくという意外さもさることながら、一見悪人と見せて実は…の百地先生のキャラクターも相まって、物語展開の妙を味わわせていただきました。

 しかし五右衛門の過去はまだ半ば。鬼ヶ島で勝鬼を倒したあの力の正体は、そして何故五右衛門は伊賀の里と、百地先生と別れることとなったのか――
 一益との対決の行方も含めて、第七巻も必見の展開であります。


 しかし、やっぱり週刊連載の方の加速ぶりは…

「風が如く」第6巻(米原秀幸 秋田書店少年チャンピオンコミックス) Amazon


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2010.02.18

「やわら侍・竜巻誠十郎 寒新月の魔刃」 二人の探偵が追う陰謀

 江戸の町を激しい嵐が襲った翌朝、男女の水死体が発見された。女の水死に関する本所方同心の懈怠の疑いに、誠十郎は目安箱改め方として調べを開始する。一方、水死した男の弟・勘次も、兄の死に不審を持ち、独自に調べを始める。二人の調査は、やがて意外なところで交錯し、巨大な陰謀を浮かび上がらせる。

 将軍吉宗の時代、目安箱への匿名による訴えを秘密裏に調査する影のお役目・目安箱改め方を拝命した浪人・竜巻誠十郎の活躍を描くシリーズ第四弾。今回は、嵐の後に発見された水死体から、思わぬ陰謀があぶり出されていきます。

 本所方同心が川にはまった女を見殺しにしたという訴状の調査を行うこととなった誠十郎。
 一度は備え付けの鯨船(あの、破れ奉行が乗って突撃する船)を出しながらも、何故か任を果たさず帰還したというその同心は、しかし、誠十郎の調べでは謹厳実直をもって知られる人物で、とても懈怠をするような人物ではないことがわかります。
 それでは、一体何故同心は女を救うことができなかったのか? それが、本作の大きな謎として、解き明かされていくことになります。

 さて、本作の特徴は、ここでもう一つの謎、そしてもう一つの探偵役が登場することであります。
 もう一人、水死体となって発見された男…その弟の漁師・勘次は、兄が簡単に溺れ死ぬとは思えないと、独自に調査を開始します。
 その過程で浮かび上がるのは、兄が訳ありの儲け仕事についていたこと、そして何かを知り、逃げだそうとしていたこと――

 ここに、誠十郎と勘次、二人の探偵役がそれぞれ追っていた男女の水死体の謎が重なりあい、クライマックスの大活劇に繋がっていくこととなります。

 個人的には――前の巻の感想でも述べましたが――本シリーズ当初にあった、人の心の微妙な陰影と、それを優しく救う誠十郎という人情ミステリ的要素が完全に薄れてしまったのが残念ではあるのですが、これはもう、シリーズ自体がマクロな対決の物語に移行したということなのでしょう。
(ちなみに、本作の帯にある「長屋で暮らす派遣労働侍」というキャッチも、本作ではあまり前面には出ていないのですが…)

 事実、今回の陰謀は豪快の一言で、本シリーズの背後に描かれてきた幕府と尾張の暗闘も、いよいよクライマックスに近づいてきたことが感じられます。
 そしてラストには、次回が何とも気になるヒキも用意されており、色々と思うところはあれど、やはりこれからの展開が見逃せないシリーズであります。

「やわら侍・竜巻誠十郎 寒新月の魔刃」(翔田寛 小学館文庫) Amazon
やわら侍・竜巻誠十郎 (小学館文庫)


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2010.02.17

「水滸伝に学ぶリーダーシップ」 神機軍師 知もて好漢を束ねる

 時代でも伝奇でもないものを突然どうしたのだ…と思われるかもしれませんが、これが水滸伝ファンには見逃せない奇書。一見よくある歴史ネタのビジネス本に見えますが、水滸伝ファンが見ても思わず納得の二次創作本的内容の一冊であります。

 一見、タイトルだけ見れば水滸伝の原典の中からビジネスに使えそうな箇所を拾い上げて解説をつけたもののように思われるかもしれませんが、さにあらず。

 本書の趣向は、ナビゲーター役である梁山泊第三十七位、地魁星・神機軍師朱武が、梁山泊で好漢たちが引き起こす様々な事件を解決していく中で、リーダーシップや組織マネジメントの要諦を語るというもの。

 その事件というのがある意味本書のキモなのですが、原典のエピソードに依ったものはごくわずかで、そのほとんどは、本書オリジナルなのですが――しかしオリジナルでありながらも、その内容が思わずファン納得なのです。例えば…

・王英と扈三娘で味を占めた宋江が仲人に燃え始めて皆が困る
・宋清に何の役を与えたらいいか皆で頭を抱える
・花栄を差し置いて董平が五虎将に選ばれて周囲が騒ぎ出す

と、原典ファンであれば、「あるある」と思わず噴き出してしまいそうなものばかり。

 それに対して朱武が皆の悩みに答えていく部分は――この手の本にはありがちかもしれませんが――朱武がことごとく優等生的に正解を返していってしまうのでちょっと面白みはないのですが、それでも、天然の天性のカリスマの宋江や、色々とアレな(アレ言うな)呉先生ではなく、原典でも古典マニア的扱いの朱武の口から答えが出ると、何となく納得できるのが面白い。

 こうしたエピソードや登場キャラクターのチョイスを見るに、作者はかなりの水滸伝ファン、水滸伝の楽しさをわかっている方なのだろうなあ…と強く感じた次第です。
 また、個性の固まりのような連中(それも基本的にトラブルメーカーばかり)が一つところに集まった梁山泊という場は、こうしたリーダーシップや組織マネジメントの題材として、案外適しているのでは、とも。


 正直なところ、ビジネス書として本書がどの程度のレベルにあるかは私は畑違い過ぎて判断できませんが、こと水滸伝のキャラクター本として見れば――それが作者の意に添ったものとは思えず、誠に恐縮なのですが――本当に楽しい一冊で、ファン必読…とは言いすぎなまでも、変格水滸伝ファンとしては買って損なしな一冊であります。
(しかし、ビジネス指南部分は結構現代的な内容にもかかわらず、「徳」が重要な要素として登場する辺りは、やはり中国なのだなあと変なところで感心)

「水滸伝に学ぶリーダーシップ」(趙玉平 日本能率協会マネジメントセンター ) Amazon
水滸伝に学ぶリーダーシップ

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2010.02.16

「ひとつ灯せ 大江戸怪奇譚」 怪異の中に生を知る

 隠居してから死への恐怖に怯え、床についてしまった料理屋の主・清兵衛。親友の甚助によって取り憑いていたモノが祓われ回復した清兵衛は、甚助の誘いで怪談を語り合う「話の会」に参加する。そこで知り合った人々と楽しい時間を過ごす清兵衛だが、怪異は少しずつ彼らの周囲を歪ませ始める…

 宇江佐真理先生の「ひとつ灯せ 大江戸怪奇譚」が文庫化されました。
 副題の通り、江戸を舞台とした時代ホラーではありますが、単に怖がらせるばかりではなく人の生について考えさせられる、いかにも作者らしい作品であります。

 物語の中心となるのは「話の会」なる怪談会。
 構成メンバーは隠居商人、三味線の師匠、町医者、私塾教師、奉行所同心――一種江戸の有閑階級に近い人々が、自分が伝聞した「本当にあった怖い話」を物語る会合であります。

 こうした怪談会を舞台としたオムニバス形式の怪談集というのは、(本書の解説でも当然触れられているように)岡本綺堂の「青蛙堂鬼談」、野村胡堂の「奇談クラブ」などでお馴染みの形式ですが、しかし、本作がそれらと大きく異なるのは、物語が進むにつれ、会に参加する人々と、彼らを取り巻く状況が奇怪に変化し、そしてある結末を迎えることでしょう。

 本作の第一話では、主人公の清兵衛が、「話の会」に参加するいきさつが描かれます。
 がむしゃらに働いて息子に店を譲り、余裕が出た途端に死の恐怖に取り憑かれた清兵衛。そんな彼に対し、親友の甚助は、恐怖に打ち勝つためにはもっと怖い話を聞けばよい、と会への参加を誘うのです。
 その後のエピソードで描かれるように、会に参加した清兵衛は、それまでとは全く異なる人間関係の中で第二の生を満喫するのですが――しかし恐怖を友にし、怪異を楽しむはずの会が、あたかもそれ自体恐怖を招くかのように、徐々に現実が変質していくことになります。

 初めはささいなメンバー間の行き違いであったものが、やがて呪詛に変じ悲劇を招く。メンバー自身が怪異に悩まされ、異界に巻き込まれる。そしてついには――
 あくまでも彼岸のものとして楽しんでいたモノが、気がつけば此岸に、自分の傍らにあった…怪異に関する遠近法が歪んだかのような恐ろしさが、そこにはあります。

 そして、最終話で描かれる、ついに彼岸と此岸が重なり合ったかのような世界の恐ろしさたるや…いや、ただ脱帽するほかありません。


 が、ただ怖かった、で終わらないのが宇江佐作品と言うべきでしょうか。

 最後に清兵衛が恐怖の果てに達する境地――それは、不思議な静謐に満ちた世界。
 あれほど死を恐れていた清兵衛が、すぐ隣にその存在を感じるようになったにもかかわらず、そのような心境に達したその理由は、皮肉なことではありますが、恐怖の淵源とも言える彼岸と、彼の生きる此岸の合一にあるのでしょう。

 この世のものならぬ怪異を知ることは、つまりは死を、死の先にあるものを知ること。
 そして、死を知るということは、その裏側にある生を知るということ――

 実はこれは、考えてみれば清兵衛が会に参加したそもそもの理由。本作は、それを清兵衛が真に理解するまでの物語と言えるのかもしれません。

「ひとつ灯せ 大江戸怪奇譚」(宇江佐真理 文春文庫) Amazon
ひとつ灯せ―大江戸怪奇譚 (文春文庫)

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2010.02.15

「変身忍者嵐」第31話 「妖怪人形! ドーテムの呪い!!」

 西洋妖怪ドーテムに襲われた樵の亡骸を発見したハヤテたち。ドーテムは樵の二人の娘に催眠術をかけ、父の仇としてハヤテたちを襲わせる。姉は意識を取り戻したものの、妹ともどもツムジが攫われ、ドーテムの神殿に連れ去られてしまう。一度は二人を助け出したものの再度連れ去られたハヤテは、死人岩でドーテムと再度対決。嵐稲妻斬りでドーテムを倒し、忍者大秘巻を守るのだった。

 オープニングでの「松島トモ子」「ファイティング原田」の名前に驚かされる今回。登場する西洋妖怪ドーテムは、アフリカ出身(…西洋?)の仮面の呪術使いであります。
 ネーミングはトーテムから来たものらしく、仮面や操る人形のデザインも、それっぽいものが感じられます…が、見ているうちにアフリカなんだか南米なんだかわからなくなるのが困る。

 さて、お話の方は今回もハヤテの持つ忍者大秘巻地の巻を狙って西洋妖怪があの手この手で襲ってくる…という展開。
 たまたまハヤテの近くにいた樵を襲って白骨死体にし、その娘たちを焚きつけてハヤテたちを襲わせるというお話自体は悪くないのですが、どうにも話を構成する要素がブツ切りで、内容が散漫に感じられるのが正直なところであります。

 攫われた二人の子供を追ってきたハヤテたちの前に出現する怪しの神殿(壁の大きな仮面の目から痺れ光線を発する)を突破して二人を助け出したと思ったらまた攫われ、今度はまた別の場所に誘き出され…という、何だか激しく二度手間な展開もさることながら、その途中に現れる助っ人が本当に凄い(ひどい)。

 傷を負い、下忍たちに追い詰められたタツマキ。その前に現れた謎の雲水、その正体は…
「少林寺拳法師範、ファイティング原田!」
 突っ込みどころだけで構成された台詞も凄いですが、彼がどうやら単なる通りすがりの少林寺拳法師範らしいのには、本当に驚きました。
 現場の苦労も何となく察せられますけどね…

 ちなみにもう一人のゲスト、松島トモ子は、大きな目がなかなか可愛らしいのですが、前半でフェードアウト。妹よりこっちを攫わんかい! と心の底から思いました。

 唯一の救いは、ドーテムが存外に正統派のアクションを見せてくれるところで、槍と盾を手にしての殺陣はなかなかダイナミック。 間合いと防御力に優れるドーテムに対して嵐が放つ必殺技が、空中でのきりもみ回転から急降下斬りを決める嵐稲妻斬りというのも、理に叶っていたと思います。

 しかし話のオチが、白骨死体になったと思った親父さんが、ドーテムが死んだら元通りに生き返った! という豪快な展開に加え、どこにあるかドーテムにもわからなかった地の巻は、(最近すっかり出番がなくなって、いなくても違和感なくなってきた)カスミが持ってました! というナニっぷりにまたもや脱力。
 西洋妖怪編に入ってから、それなりに見れるエピソードが続いていたように思いますが、今回はさすがにちょっと…と言うほかありません。いやはや…


今回の西洋妖怪
ドーテム
 アフリカから来た呪術を得意とする妖怪。巨大な仮面をつけ、槍と盾を武器にする。小さな人形を操り、目くらましや催眠術をかける。槍で刺した者を白骨に変えることも可能(実際に殺害しているのではなく、一種の呪術で変化させているらしい)。
 樵の娘たちを操ってハヤテたちから忍者大秘巻地の巻を奪おうとしたが、次々と策を破られた末に嵐稲妻斬りで斬られ、人形になって燃え尽きた。


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2010.02.14

「機巧奇傳ヒヲウ戦記」 第07話「守れ! 秘密の華と雪」

 何者かに追われる華と雪を助けたヒヲウたち。二人と同行することにした一行は町外れの宿に泊まるが、マチたちは、母親を殺され国元に向かう新月藩の姫だという二人の素性を疑う。それを裏付けるように宿から消えた二人。しかし二人を信じるヒヲウは、隠し部屋に捕らわれていた二人を発見。襲いかかる忍びたちからも、アラシの助けもあって逃れることができた。二人を追っていた桑名藩の忍び・服部半蔵は、ヒヲウを信じて手を引くのだった。

 全編を通じての重要キャラ・華と雪が登場する第07話。才谷さんも再登場したかと思えば、風陣側もアラシの子分トリオが登場して、前二回から一転、物語が動き始めた感があります。

 飛騨高山への旅の途中、あからさまに怪しい男たち(実は才谷さんと伊藤ナントカさん)に追われていた華と雪を助けた一行。
 二人は実は越前新月藩の姫君、父は亡くなり、母も機巧を操る連中に殺されたため、国元の叔父を頼っていくという二人と同行することになった一行が、怪しげな宿で騒動を繰り広げることとなります。

 子供たちだけということで町中の宿から宿泊を断られ、ようやく泊まることができたこの宿、実は謎の忍者の一団が仕掛けた罠。
 ご丁寧に華と雪が、実は外を遊び歩いている尾張の姫君だ、というデマを流した上、置き手紙を残して二人を連れ去る忍者たちですが――
(そして彼らとは別口に何やら企む才谷さんも十分怪しいのですがそれはさておき)

 そんな今回のハイライトは、たとえ周囲の状況がどうであっても二人を信じるヒヲウの姿でしょう。
 ヒヲウたちに対し、両親を失ったことを語った華と雪。その境遇は自分たちと同じだと、話したくても話せない心の内があると、涙ながらに主張するヒヲウ――

 二人の言葉が本当かわからない、それこそ噂通りに嘘をついている可能性もあるのを信じるのは、確かに根拠のないことかもしれません。
 しかしそこを理屈抜きで突っ走るヒヲウの姿には、子供というものの善き側面が現れているようで、実に気持ちが良いシーンであります。
(ラストでも、姫であろうと何であろうとどうでもいいと宣言するヒヲウですが、この辺りも、彼が制外の機の民であるという以上に無垢な子供ならではの言葉と取るべきでしょう)

 そこからは、炎vsからくり屋敷の仕掛け(連なった屋根の瓦が鞭のように絡まって炎の動きを封じるのが面白い)→何故か炎を助けてしまうアラシ→ヒヲウたちの前に現れる服部半蔵→半蔵と主君・松平定敬の会話と、畳みかけるような展開。
 様々な登場人物の思惑が、短い中に一気に展開し、そして終幕に向かうという流れも、なかなか気持ち良いのです。

 さて、ラストに正体を現した服部半蔵正義は、ナレーションにもあるように桑名松平家に仕えた実在の人物であります。
 幕末に服部半蔵というのは一見胡散臭く思われるかもしれませんが、江戸時代前期に大久保長安事件の巻き添えで失脚した服部半蔵正重が桑名藩に拾われ、代々家老職を務めたというのは歴とした史実。
 その主君の松平定敬(松平容保の弟で、五稜郭まで行った人物)ともども、実に面白い存在であるのにほとんど時代ものには採り上げられない人物を持ってきたのは、さすがだなあと感心した次第です。


 ちなみに今回のアバンタイトルは忍者。煙幕張ってドロンドロンという忍者像は否定して、忍者がいかに地味なものか語るのですが…からくり屋敷は地味じゃないと思う。
(というか、あの屋根のからくりは本来なんの用途だったのやら)


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2010.02.13

「八百万」 人間らしさを見つめる目

 神田の町角の稲荷社の神様として、お供の夏葉・秋色・お咲と共にやってきた春門。神としての自覚がさらさらない春門は、人間の姿で町に顔を出しては、厄介事に巻き込まれてしまう。なりゆきから事件に挑む春門が、その中で見る人間の姿とは…

 「ミステリーズ!」誌に掲載された畠中恵の原作を、「地獄堂霊界通信」の漫画化等を担当しているみもりが漫画化した「八百万」が単行本化されました。

 二話発表された原作を、それぞれ三回に分けて漫画化した、その第一話については以前感想を書きましたが、今回二話まとめて読んでみると、なかなかよくできた漫画化であるという印象を持ちます。

 人間界に越してきたばかりの春門が、町内の鼻つまみ者だった商家の次男坊が毒殺された事件の謎に挑む第一話。
 そして、人に恋して出奔した神を追うことになった春門が、予言者めいた言動を見せる男が町で倒れた事件の真相を暴く第二話――
 いずれも、いかにも畠中作品らしいシチュエーションの物語であります。

 主人公の春門は、八百万の神の一人。当然ながら(?)超常的な力を持っているわけですが、しかし、事件に対してはその力を用いず、むしろロジカルな推理力でもって、真相を解き明かしていくことになります。
 それでは神様である意味は…となるかもしれませんが、もちろんそこに抜かりはなし。 春門が、神――人間と共にあり、人間を見守る存在――としての自覚は全くなく、それどころか人間にはむしろ懐疑的、いや冷笑的ですらある視点を持つ存在という点が、本作に独自な視点を与えているのです。

 二つの事件の中で、春門が見ることになるもの――
 それは、己のために他人を傷つける人間の醜さであり、不条理にしか見えないことを行う人間の愚かさであり、わかっていてもあやまちを重ねてしまう人間の哀しさであり、そしてそんな中に時折埋もれている人間の優しさであり…いうなればある種の「人間らしさ」というものであります。

 人間以外の、人間に否定的ですらある存在の目を通して、人間らしさというものを、より鮮明に浮き彫りにしてみせる。本作はそんな作品なのです。

 この手法は、一歩間違えるとずいぶんと冷たく、また重たいものとなってしまいますが、そこを巧みに緩和し、そしてむしろぬくもりすら感じさせる物語として成立させているのは、畠中作品らしいキャラ立てと、そして何よりもみもり氏のキュートで、温かみのある絵柄によるところが大でしょう。
 特に春門の、人の(神の?)悪い、それでいてある意味無邪気なキャラクターは、この絵柄でないともう想像できない…というとちょっと大袈裟かもしれませんが、実に良く似合ってることは間違いありません。

 続編が発表されないまま、ずいぶんと長い時間が過ぎてしまった原作ではありますが、ある意味実に良い形で復活できたのではないかと感じます。
 これを機に、原作の方も続きを、と望むのは、ちと調子に乗りすぎかも知れませんが…

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2010.02.12

「御家人斬九郎」 肩の力を抜いた無頼

 剣の達人ながら無頼の遊び人・斬九郎こと松平残九郎は、名門の家柄に生まれながら無役で最下級の御家人。美食家で大食らいの母・麻佐女を養うため、罪を犯した者の首を内密に討つ「かたてわざ」を請け負う斬九郎だが、毎回何故か厄介な事件に首を突っ込むことに…

 渡辺謙主演の「御家人斬九郎」がHD化されて、CSの時代劇チャンネルで放送開始となったのをきっかけに、久しぶりに柴田錬三郎先生の原作を再読しました。

 今ではすっかりTVドラマの方が有名になった本作ですが、原作の方は柴錬先生が晩年に執筆した連作シリーズ。短編十話で構成された第一篇と、中編シリーズ四篇の、全五篇十話からなる作品です。

 あらすじの方は、ドラマをご覧の方はよくご存知かと思いますが、無頼の御家人・斬九郎が、大食いで美食家の母親を養うために、表沙汰に出来ない首切りをかたてわざ(副業・内職の意)で請け負う中で、様々な事件に巻き込まれるというもの。
 …なのですが、小説ではかたてわざがメインなのは第一篇「片手業十話」くらいで、残りのエピソードでは、斬九郎が親友の南町奉行所与力・西尾伝三郎らに依頼されて、様々な事件解決に挑むというスタイルと相成ります。

 内容的には、正直なことを言ってしまえば、かなり粗いものとなっていて――特に中編では、物語が破綻しているものもあり――その意味では残念な部分もあるのですが、しかしそれを補って余りあるのは、やはり斬九郎と母・麻佐女のキャラクター造形、やり取りの面白さでしょう。

 斬九郎の方は、齢八十を過ぎても矍鑠として美味いものをたらふく食べたがる麻佐女を、「娑婆塞ぎのくそババア」などと罵るかと思えば、麻佐女の方は、十八松平に連なる家に生まれながら、滅多に家にも寄りつかぬ極道息子に、本気で長刀を振り回すという殺伐っぷり…
 それでいて、実は二人とも、誰よりもお互いを気遣っているという、今の言葉でいうところのツンデレなのも楽しく、ある意味息のあった二人の罵り合いが、何とも楽しいのです。
(余談ですが、柴錬作品で首斬りを扱ったものに「首斬り浅右衛門」という名品があります。こちらは、首斬りの業に憑かれて破滅していく男の姿が描かれた作品ですが、同様の生業を持ちながらも、斬九郎があくまでも陽性のキャラクターとなっているのは、母の存在がやはり大きいのではありますまいか)

 このような斬九郎のキャラクター造形は、極めて不遇な家庭環境――いや、斬九郎も不遇と言えば不遇ですが――による宿業を背負わされることがほとんどの柴錬主人公の中では、珍しいタイプではあります。
 しかし、己自身のために、その優れた剣技を振るいながらも、人として越えてはならない一線は決して越えず、己の命に恬淡として孤剣を頼りに死地に飛び込んでいく――そんな斬九郎の中にもまた、柴錬流の「無頼」精神があるのは言うまでもありません。

 柴錬作品における「無頼」が、単に勝手気ままな振る舞いでも無法でもなく、己の信ずる道を、誰に頼ることもなく独り歩む姿勢であることは、これまでも様々な作品の感想の中で述べてきましたが、斬九郎もまた、その無頼というダンディズムの体現者なのであります。

 良くも悪くも肩の力を抜いて書かれた作品ではありますが、やはり柴錬作品は面白いと、そんな当たり前のことを――そして、原作の持ち味を活かしつつも、独自のビジュアライズをしてのけたドラマも凄いと――改めて感じさせられたことです。

「御家人斬九郎」(柴田錬三郎 新潮文庫) Amazon

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2010.02.11

「AKABOSHI 異聞水滸伝」第3巻 そして夜明けを告げるもの

 「週刊少年ジャンプ」に連載されながらも、惜しくも短期で終了することとなった「AKABOSHI 異聞水滸伝」の、泣いても笑ってもこれで最終巻であります。
 梁山泊奪取を目指す戴宗たちの戦いは意外な方向に展開し、さらには真の敵と戴宗との因縁が描かれた上で、惜しくも物語は終幕を迎えることとなります。

 義賊集団「替天行道」のリーダー・宋江の命で梁山泊奪取のために潜入した戴宗と林冲。しかしそこで待ち受けていたのは、奇怪な術でもって梁山泊を支配する怪人・王倫。さらに、官軍と結んだ王倫の裏切りにより、梁山泊に迫る四人の刺客――
 善魔入り乱れての激戦の中、百八の星の真の意味を知る戴宗ですが、その前に現れた巨悪・高キュウとの間の因縁が描かれたところで、物語は一応の閉幕となります。

 …まあ、要するに打ち切られたわけですが、それ故の早急さはあるものの――さすがに終盤の戴宗と高キュウの対面は豪快すぎるかと――しかし、変格水滸伝マニア(?)として本作に抱いてきた好感は、最後まで変わることはありません。
 一見無茶苦茶な原典アレンジと、しかしその背後でかなり計算されている人物描写とストーリー展開が相まって生まれる興趣は、無視できるものでは決してないと思います。

 特に、戴宗と高キュウの間の因縁が、一見無感動無気力な戴宗のキャラクター形成に強く影響していたというくだりは、ありがちではありますが、そこに「笑えねー」といういかにもイマ風(?)の戴宗の口癖を絡めてくることで、そういうことか! という嬉しい驚きを感じさせてくれました。
(も一つ、百八星の意味付けも、本作のキモであろう星の力のみならず、暗闇から星空へそして夜明けを告げるものという象徴的なそれも実に格好良いのです)

 もちろん、不満点も存在するわけで、敵キャラ(特にこの巻に登場した四人組)に魅力が感じられなかった点は、キャラクターのパワーバランスがどんどんメタメタになっていく点も相まって、強く感じさせられました。
(もっとも、ほとんど名前のみとはいえ、天山勇をここまでフィーチャーした漫画はおそらく世界初ですし、何濤のイカれた忠誠心の描写にはニヤリとさせられたのですが、それはごく一部のマニアの感想)


 と、後ろ向きなことはこれくらいにして、嬉しかったのは書き下ろしエピソードやおまけページが充実していたこと。

 書き下ろしエピソードでは、本編では顔見せに終わった九紋竜史進と王進のその後の姿が描かれるのですが、これがまた短いながら史進の男っぷりが描かれた、実にイイ話。
 さらにも一つ、翠蓮(皇甫端涙目w)のその後が描かれた掌編も書き下ろしというサービスぶりであります。

 おまけページでは、本編最終話に一コマだけ登場した好漢たちの名前が記され、色々想像が膨らむ――と思えば、ラストには彼らが活躍する続編の予告まで! …まあ、ウソ予告なんですが。

 これでラスト、せめて最後くらいは…という作者のサービス精神かと思いますが、しかし、読者としてはこういうのが一番嬉しいし、応援したくなるもの。
 一水滸伝ファンとして、本作の存在を忘れず語っていこうと、心に誓ったところです。


 …でも、やっぱりMETEORAはないと思う。

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2010.02.10

「陰陽師 天鼓ノ巻」 変わらぬからこその興趣

 安倍晴明と源博雅のコンビが怪事件に挑むご存知「陰陽師」シリーズの最新刊「天鼓ノ巻」が刊行されました。
 前作「夜光杯ノ巻」(つい先日文庫化されました)から約二年半ぶりの新刊ですが、全くブランクを感じさせない、これまでと変わらぬ味わいの短編集であります。

 本書に収録されているのは、「瓶博士」「器」「紛い菩薩」「炎情観音」「霹靂神」「逆髪の女」「ものまね博雅」「鏡童子」の全八編。
 晴明のもとに博雅や依頼者により持ち込まれた怪事件を晴明が解き明かすというシリーズの基本スタイルは本書のほとんどの作品でも健在で、まさに平安のシャーロック・ホームズと言ったところでしょう。

 しかし、そんなこともあって本当に全くもっていつも通りの展開…という印象も強い本書の収録作の中で特に印象に残ったものを挙げれば、やはり本の帯などでも内容が触れられている「逆髪の女」でしょうか。

 晴明と博雅の友人であり、これまでもシリーズに登場している琵琶の名手・蝉丸と、彼に取り憑いた逆髪の女の因縁を、浄瑠璃の「蝉丸」を踏まえつつ物語る本作。
 驚いてしまったのは――蝉丸の盲目の来歴という要素はあるものの――本作の内容が、シリーズの過去の作品をほとんどそのまま敷衍したものだったことなのですが、しかし真の驚きはラスト数ページに待っていました。

 女がなぜ逆髪なのか、その理由が明かされたその後に描かれる二人の姿は、男と女の愛情と憎悪が極めてシンプルに、そして同時に複雑怪奇に絡み合いながら具現化したような、美しくも恐ろしいもの。
 いかにも本シリーズらしい、悽愴な美の中にそれが浮かび上がる姿は、これはもう圧巻というほかなく、わずか数ページ、いや数行で、本作に対する評価を180度変えさせられた次第です。

 その他、内容だけみれば本当に驚くほどシンプルなのに、何とも心浮き立つような楽しい印象が残る掌編「霹靂神」(本書の題名の由来でありましょう)、唯一「異形コレクション」からの収録であり物語のスタイルも従来のパターンとは一線を画する「鏡童子」など、定番があるからこそ描けるような作品もあり、このあたりは獏先生の技だよなあと、しみじみと感じ入ってしまったことです。
(ちなみにこの二作にも蝉丸が登場しており、本書では、さながら蝉丸が第三のレギュラーといった感があります)


 些か本書に影響されたような表現で言えば、四季折々の風景が、毎年同じものが巡ってくるように見えながらも、しかし年毎に少しずつ異なった美しさがあるように――
 変わらぬ中にこそ感じられる興趣というものが本シリーズにはあると、再確認させられました。


 と――台無しなお話で恐縮ですが、冒頭の「瓶博士」での晴明と博雅のバカップルぶりがあまりにもインパクト充分で、どういう顔をして読めばいいのか真剣に悩みました。
 君たちゃ一体…

「陰陽師 天鼓ノ巻」(夢枕獏 文藝春秋) Amazon
陰陽師 天鼓ノ巻


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2010.02.09

「狐憑きの娘 浪人左門あやかし指南」 二つの不満が…

 川辺で子供たちが目撃した侍の死体が消え、子供たちも次々と死んだ。生き残った一人が通う手習い塾の師匠・良峻は、夜な夜な怪しい人影に悩まされ、左門と甚十郎が見張りに当たることになった。そんな中、甚十郎に持ち上がった見合い話の相手は、良峻の娘で狐憑きの噂のある弓枝だった…

 酒と怪談をこよなく愛し、怪談の裏を暴くことを飯の種にしている浪人・平松左門と、主家の剣術指南候補の好青年ながら無類の恐がりの苅谷甚十郎の名(迷)コンビが、怪談絡みの事件に挑む「浪人左門あやかし指南」の第四弾「狐憑きの娘」であります。

 釣りに出かけた子供の一人が侍の死体を目撃するも、死体は忽然と消失。その子供たちのうち二人が謎めいた死を遂げ、生き残った一人の周囲に出没する怪しい影…
 その影の正体を暴くために雇われた左門に引っ張り込まれた甚十郎の前には、彼が以前巻き込まれたいざこざで斬り、川の中に消えたはずの男が現れ、さらに、国元からやってきた甚十郎の先輩剣士が持ってきた見合い話は、奇行が多く狐憑きの噂がある娘で…と、今回も怪談としか思えぬような事件が頻発する中、左門がその裏に潜む企てを暴いていくこととなります。

 シリーズ第四作目ということもあって、既にお馴染みと言っても過言ではない左門と甚十郎のキャラの楽しさは相変わらず、特に今回は甚十郎の恋が物語の軸の一つになることもあり、そのイジられキャラっぷりはこれまで以上で、大いに楽しませていただきました。
 およそキャラクターノベルとしては、水準以上の作品であることは間違いありません。


 が――シリーズ第一作からの読者としては、大きな不満が、それも二つあります。

 一つは、怪談が物語のアクセント以上の役割を果たしていないこと。

 本シリーズでは、様々な怪談が作中で物語られるのが定番となっています。もちろんそれは、物語の雰囲気作りという意味合いもあるのですが、例えば第一作では、怪談という曖昧さを内包する情報の固まりを用いたトリックが描かれ、また第三作では、その曖昧さが事件の後始末にある役割を果たし――
 と、本シリーズでは怪談を、その特質にまで踏み込んで、有機的に物語の中で活かしてきたという特長がありました。

 本作ではそれがほとんど感じられず、物語の賑やかしに留まってしまっているのが、残念で仕方ないのです。

 もう一つは、事件の内容と、それにまつわる人間関係に、あまりに偶然の結びつきが多すぎることで――これは物語の内容に密接に絡んでしまうために詳述できませんが、簡単に言ってしまえば、どれだけ甚十郎の藩は江戸でやらかしているのかと。

 もちろん、きちんと最後まで読めば、その中に必然も含まれていることがわかるのですが、しかし全体として偶然による部分が多すぎるため、その必然まで印象が薄くなり、全体として(非常にきつい言葉ですが)ご都合主義に見えてしまっているのです。


 個人的にはこうしたことを書くのは大嫌いなのですが、大好きなシリーズであるだけに、今回はあえて書かせていただきました。
 上記の通り、キャラクターノベルとしては面白いだけに、なおさら残念であり、また心配であるところなのです。

「狐憑きの娘 浪人左門あやかし指南」(輪渡颯介 講談社) Amazon
狐憑きの娘 浪人左門あやかし指南


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2010.02.08

「変身忍者嵐」 第30話「魔女ザルバー! 恐怖第三の眼!!」

 魔女ザルバーは、伊賀忍者・黒丸を殺害して第三の目を埋め込んで操り、忍者大秘巻地の巻を奪おうとする。が、伊賀の里から来たというくノ一・朧が黒丸を倒し、ハヤテは彼女に地の巻を託す。しかし実は朧こそがザルバーと見抜いていたハヤテは彼女を捕らえ、見逃す代わりに悪魔道人を誘き出そうとする。協力するとみせかけたザルバーは、隙をみて逃れんとするが月の輪に阻まれ、嵐に倒されるのだった。

 ゴルゴン、メドーサに続く魔女三番手は、イタリアの魔女ザルバー。元ネタがさっぱりわからないのですが、この世界の魔女らしく(?)、やはりレオタード装着です。

 が――妖怪とはいえ女性にこういうことを書くのは心苦しいのですが、先の二人に比べるとビジュアル的に…なザルバーさん。
 簡単に言えば現役時代の北斗晶に、逆さまに生えた牙と長い爪を生やし、青いレオタードに黄色いブーツ、表が黒で裏が赤のマントを着せた姿…なのであります。
 後頭部には、妙にリアルな第三の目がギョロリと光っているし…(怖いよホント)

 と、魔女三人の間では人気は万年第三位間違いなしのザルバーさんですが、その作戦はなかなかクレバー。
 百地大仙人からハヤテへの手紙を届けに来た伊賀忍者・黒丸を殺害して自分の傀儡とし(胸に目玉が埋め込まれているのがこれまた怖い…目玉が取れると溶けて死ぬし)、自分はくノ一に扮して黒丸を倒してハヤテたちの信頼を勝ち取るという寸法です。

 もっとも珍しく疑い深かった嵐に簡単に見破られ――この時、ハヤテは黒丸に変身してザルバーの前に現れるという珍しい行動を披露――マタタビ責めで使い魔の黒猫を封じられて捕らわれるという有り様です。あれ、もしかしてドジっ娘?
(その他、悪魔道人ともの凄い気合いの入ったテレパシーで通信する場面とか、縛られていた縄を焼き切ったらその煙が真剣に煙くてしかめっ面してる場面とか、結構楽しいシーンが多いザルバー)

 そこに萌えたのか、珍しく命を取らなかったハヤテは、助命と引き替えに悪魔道人を呼び出そうとするのですが…そこであっさりザルバーの投降を信じてしまうのが、漫画版のハヤテとは一味違うところ。
 危うくツムジが第三の目の餌食になりかけたところを、「誰だ!」「俺に名前を言わせるつもりか、ザルバー!」と、実に格好良い台詞と共に現れた月の輪にフォローしてもらったおかげで何とかなりましたが…

 と、毎度のごとく突っ込みどころはありましたが、ザルバーさんのインパクトと、敵味方の作戦の面白さもあり、なかなか楽しめた回だったと思います。


今回の西洋妖怪
魔女ザルバー
 火の国イタリアからやって来た魔女。黒猫が変化したマントを巻き付けて相手を焼き殺す「紅のマント」や、腕からの火花など炎を操る。また、後頭部に催眠能力を持つ第三の目があり、死体に埋め込んで意のままに操る。得物はレイピア。
 嵐との決戦では、剣戟では圧倒されながらも刃の通じぬ不死身の体で勝ち誇ったが、月の輪の伝言で第三の目が弱点と知った嵐に手裏剣で目を潰され、炎に消えた。


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変身忍者 嵐 VOL.3 [DVD]


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2010.02.07

「機巧奇傳ヒヲウ戦記」 第06話「目指せ! 山の彼方へ」

 山道を行く中、炎が壊れてしまった。ヒヲウは知り合った商人・喜三郎の紹介で麓の鍛冶屋・権十に修理を頼むが、直す代わりに山を下りろと言われる。何とか権十を説得した一行は、新たに炎の腕に取り付けた鉤付き綱で難所・鎖峠を上り始める。何度も危機に瀕しながらも、ついにヒヲウたちは登り切るのだった。

 アバンタイトルは、攘夷浪士たちが英国公使オールコックを襲撃した高輪東禅寺襲撃事件。その陰には、東禅寺を守る西洋騎士――と思いきやそれは機巧! という仰天展開です。今回の本筋とは無関係ですが…
(しかし、本作が予定通り描かれていたら、こうした機巧が正史の陰でどこへ、何故消えたかまで描いたのでしょうか)

 さて、本編の方は前回に引き続き、子供たちだけの道中編。
 飛騨高山へは、当然のことながら険阻な山道を越えていかなければいけないのですが、しかし、いかに優れた機巧を搭載していようと、図体の大きな炎では、山道を踏破するのは困難…
 その苦難を、機の民としての技術と、そして何より子供たちのまっすぐな気持ちで乗り越えていこうという趣向です。

 そしてそこに絡むのは、喜三郎という青年商人。士籍を離れた上に、異人相手に商売をする彼を快く思わない朋輩に付け狙われる彼は、ヒヲウたちに助力しながらも、同時に、彼らの苦闘と自分の生き様を重ねていて…

 というところで、クライマックスは、新たに腕に装備した鉤爪を使った、いわば大車輪ロケットアンカーで、坂の上の岩に綱を引っかけ、ウィンチ代わりにして炎を引っ張り上げる作戦にチャレンジ。
 全員が力を合わせて坂道を上りきるという美しい展開なのですが――正直なところ、めでたしめでたし、以上の感想を書けないのが困ったところ。

 喜三郎周辺の設定はありますが、前回以上に時代背景へのフックが小さく、またドラマ的にもストレートすぎたという印象です。
 正直なところ「本筋以外の回」以上でも以下でもない、と言うほかありません。

 ちなみに今回のアラシは、前回同様、単身炎を追っている設定。川に落ちた喜三郎の朋輩を助けたり、坂を上る最中の炎を攻撃しなかったりと、存外人の良いところを見せてくれますが、マユ姉ちゃんに全く相手にされていなかったり、やはり付け足し感は否めないかなあ…


「機巧奇傳ヒヲウ戦記」(バップ DVD-BOX) Amazon


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2010.02.06

「真田幸村 家康狩り」 真田vs家康、最後の死闘

 道みちの者を束ねる真田昌幸と、徳川家康――実は信濃の醜鳥の戦いは、信長が倒れ、秀吉が天下を統一した後も続いていた。その中で、昌幸の次男・幸村も、十勇士を率いて家康配下と暗闘を繰り広げる。昌幸がこの世を去り、家康の奸計で豊臣家が危機に瀕する中、幸村の最後の戦いが始まる。

 朝松健先生の「真田昌幸 家康狩り」三部作に続く完結編「真田幸村 家康狩り」が、ついに発売されました。

 真田家が、道みちの者――遊芸者や歩き巫女等、諸国を放浪する制外の者たち――の大檀那(庇護者)であったとの設定の下に描かれてきた本シリーズ。
 真田昌幸が徳川家康――実は幼い頃に死んでいた家康に成り代わった下忍の子・信濃の醜鳥――を倒すべく繰り広げてきた死闘、すなわち「家康狩り」は、昌幸の子・幸村の代に引き継がれることとなります。

 秀吉の小田原攻めの少し前、幸村の少年時代から物語は始まり、大坂夏の陣に終幕を迎える本作は、かなり長い時間の流れを舞台とするため、いささか駆け足となっている部分は否めないのですが、しかし登場人物の造形と、史実上の事件の伝奇的解釈の面白さは、さすがに伝奇の達人ならでは、と言うべきでしょうか。

 特にユニークなのは、豊臣秀吉のキャラクター。同じ作者の「五右衛門妖戦記」では大悪人として描かれていた秀吉ですが、本作、いや本シリーズでは、ある意味戦国時代の象徴的存在として、昌幸と共に物語の前半を強力に牽引することとなります。
 晩年の秀吉を語る上で避けては通れない朝鮮出兵についても、ユニークかつ思わず納得(個人的には森田信吾の「影風魔ハヤセ」を想起)の理由付け。
 本作は、幸村を主人公としつつも、幸村の目を通して最後の戦国武士たちの姿を描く側面も強いのですが、その強烈な代表格として、楽しませていただきました。

 また、朝松ファン的には、(全く別の物語であるのですが)霧隠才蔵のキャラクターが、あのお馴染みの強烈だったのも嬉しいところでありました。


 と、十二分に楽しませていただきながらこういうことを書くのも何ですが、残念な部分――というより勿体ないところがあるのもまた事実。
 それは先に挙げた分量の問題で、通常の文庫書き下ろしに比べれば結構な多さではあるのですが、それでもやはり幸村の活躍を描ききるには、少々厳しかった、という印象はやはりあります。

 せめてもう一巻あれば、戦国武士…というより室町武士道の善き部分を継いだ新時代の武士としての幸村の個性を十全に描きつつも、新しい武士道――と言いつつもそれは支配者のツールとしての精神なのですが――を打ち立てようとする家康との、一種イデオロギー対立を存分に描くことができたのでは、というのが正直な心境であります。
(また、結末に描かれた「家康」の想いも、より痛切なものとなったと思います)


 そして失礼を重ねますがもう一つ。「家康狩り」はここに終わりましたが、真田の戦いはまだ終わっていないはず。
 新しい武士道の下で、道みちの者たちを守るための、もう一人の真田のより困難な戦いがあったのではないかと――そう夢想するとともに、その夢想が現実となることを祈っている次第です。

「真田幸村 家康狩り」(朝松健 ぶんか社文庫) Amazon


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2010.02.05

「退屈姫君 これでおしまい」 これにて完結、大団円

 今日も暇を持て余すめだか姫のところに入ってきた、姉・猪鹿蝶姉妹の行方不明の報。それにかこつけて変わり菊比べを見物しためだかは、そこで雪見桜という新種の菊を生み出した御家人たちと知り合う。しかし、田沼親子が将軍に江戸城での菊の品評会開催を焚きつけたことから、事件は思わぬ方向へ…

 毎回毎回破天荒な大暴れで楽しませてくれた「退屈姫君」シリーズも、この第四弾で完結。非常に残念ではありますが、「これでおしまい」とはっきり宣言されては致し方ありません。

 さて、その完結編の本作の発端となるのは、めだか姫の行き遅れの姉・猪鹿蝶三姉妹の行方不明事件。
 前作「退屈姫君 恋に燃える」で、脇役ながら十分過ぎるインパクトを残したお姉さま方が、輿入れを目前に三人とも行方不明になったというのは確かに事件ですが、しかしそこから物語は全く思わぬ方向へ突き進むことに…

 と、これまでも展開の意外さと、題材の豊富さで楽しませてくれた本シリーズですが、今回はこれでおしまいだけあって出し惜しみなし。
 江戸時代の園芸ブームを踏まえた変化菊栽培の模様が語られたと思えば、隠された変化菊の鉢を求めての暗号ミステリが展開。
 かと思えば、クライマックスはお仙と熊野忍びたちが、江戸城を舞台に死亡遊戯チックな死闘を繰り広げてくれて、最後の最後まで、そのサービス精神には頭が下がります。

 しかし、確かに大いに盛り上がったのだけれど、本当にこれでおしまいにできるのかな? と思えば、最後の最後に待ち受けていたのは嬉しいサプライズ。
 なるほど、これでは確かにさしものめだか姫も退屈している場合ではないわい…と納得であります。

 最後には登場人物たちのその後も語られて――約一名を除いては皆幸せになって――本当に良かった! と笑顔の結末。
 特にシリーズ第一作(「退屈姫君伝」ではなく!)からの読者にとっては、本当によかったなあ、とニンマリしてしまうような結末も用意されていて、まずははこれにて大団円であります。

 わずか四冊、「風流冷飯伝」を合わせても五冊の間ですが、本当に楽しく読むことができました。いつか、次の世代の物語も読んでみたいもの…と、少々気が早いですが思った次第です。


 しかし、三姉妹のその後は…これはこれで大いにハッピーエンドですが、最後の最後までおじさん目線の物語だったなあ…(それを言うと、めだか姫のその後もそうなのですけどね)

「退屈姫君 これでおしまい」(米村圭伍 新潮文庫) Amazon
退屈姫君 これでおしまい (新潮文庫)


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2010.02.04

「陰陽ノ京」巻の2 ぶつかり合う二つの陰陽の道

 悪名高いさる貴族が、何者かの術で魄を奪われ意識不明となった。安倍晴明の息子・吉平は術者を追うが返り討ちに遭い、自分も魄を奪われてしまう。敵の正体が、かつて自分の下にいた外法師・氏家千早であることを知った晴明は千早を討つことを決意。しかし慶滋保胤は千早を説得しようと主張する…

 「陰陽ノ京」シリーズの第二弾であります。集団アクション的色彩のあった前作と異なり、本作では復讐の念に取り憑かれた外法師(陰陽寮に所属しない陰陽師)・氏家千早と、彼と因縁を持つ安倍晴明の対峙を主軸に、前作とは形を変えて「陰陽の道」の在り方が描かれていくことになります。

 本作の敵役・千早の操る術は、不思議な人形を操り、人の命を成り立たせる魂魄のうち、「魄」を奪うというもの。
 ある理由から自らの手で人の命を奪うことができない千早は、権勢を傘に着て外道な振る舞いを働く貴族を誅するため、この術を用いて暗躍するのですが…

 実は、彼の過去に密接に関わるのが晴明であったこと(そして、そうとは知らぬまま、晴明の息子・吉平の魄を千早が奪ったこと)から二人の因縁が再燃する、その中に浮かび上がるのは、陰陽師として進むべき道、取るべき振る舞いとは何か、という命題です。

 自然に働きかけ、式神を操り、常人には計り知れないと見える力を操る陰陽師――しかし、彼らもまた、天地の法則に、そして何よりも人の世の法に縛られる存在であります。
 なまじ超常の力を持つばかりに、その力で乗り越えられぬ現実にぶつかった時の無力感と憤りは常人以上。ある事件がきっかけで復讐鬼と化した千早は、まさにその念に凝り固まったと言えるでしょう。

 同じ理不尽を目にして、外法でそれを乗り越えることを選んだ千早と、現実の枠の中で変化させていくことを選んだ晴明――両者のぶつかり合いは、「陰陽の道」の在り方を巡る本作特殊なものであると同時に、実は普遍的な、我々の間でも起こり得る葛藤であると気づきます。

 前作を読んだ時に、陰陽師の世界をわかりやすく現実に落としこんで見せる作者の腕に感心したのですが、本作では、それと逆の構図となっているのに、またもや感心させられました。


 しかし――その複雑な葛藤を解決してみせる保胤の言葉は、本来であればもう一つの道を示すものであったと思うのですが、やはり甘い…というより軽い、と感じます。
 本作の核心に関わることゆえはっきりとは書けませんが、両者が払う犠牲の不均衡には触れずに「情」の言葉でもって相対化していること、いや、そもそも加害者が犠牲を払っていないことを捨象しての言葉は――個人的には理想主義も嫌いではない私が見ても――綺麗事に過ぎる、と感じさせられるのです。

 エンターテイメントとしてのクオリティは相変わらず高いだけに、大上段に振りかぶった刀が滑ったかのような落とし所だけが、残念でならないところであります。

「陰陽ノ京」巻の2(渡瀬草一郎 メディアワークス電撃文庫) Amazon
陰陽ノ京〈巻の2〉 (電撃文庫)


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2010.02.03

「なまずランプ 幕末都市伝説」第2巻 今度の相手は大なまず?

 運の悪いダメ男・平次郎が、次から次へと襲い来るピンチに翻弄されまくる「なまずランプ」。
 江戸城御金蔵破りに巻き込まれた平次郎の苦闘もこの第二巻で解決しますが、続いて物語は全く新しい展開を見せることになります。

 殺人の濡れ衣を着せられ処刑直前のところを、口から出任せで逃れた平次郎。成り行きで、江戸城の御金蔵破りを追うことになるのですが…
 と、実行犯のおかしな男・虻丸を味方につけてようやく黒幕に迫ったものの!? というところで終わった第一巻ですが、まだまだ事態は二転三転。
 意外かつ納得の真相に驚く間もなく、平次郎を襲う最後のピンチを乗り越えた先に待っていたのは――いやはや、最後の最後まで驚きの連続でした。

 なるほど、今一つピンとこなかったタイトルの「幕末都市伝説」とはこういうことか…と納得して、ああ面白かった、と思う間もなく、平次郎を襲うのは次の事件。
 実は御金蔵破りの事件(天の巻)はこの巻の冒頭で完結、次なるエピソード・地の巻が始まります。

 成り行きで御用聞きとなった平次郎の近所に越してきた謎のイケメン・風科光馬。
 不思議なカリスマを持つ彼は、地震について学ぶ「なまず講」を主催し、次なる地震から生き延びる法を教えると称して次々と信奉者を増やしていくのですが…

 この巻ではまだ明確な事件は起きていないものの――それゆえ奉行所も動かないという構成がうまい――しかしどう考えても胡散臭い「なまず講」。
 その謎に挑むべき平次郎は、しかしあっさり光馬の信奉者となってしまい、さて、天の巻とは全く違う意味で、先が読めない展開となってきました。

 地震を的確に予言する光馬の能力の正体は、「なまず講」の正体は、そして平次郎の狙いは…虻丸も再登場して、いよいよ物語は核心に近づいてきた感がありますが、まだまだ振り回してくれることでしょう。


 それにしても「弾丸二つで二百文 刀の研ぎ代よりもはるかに安い」は良い台詞ですね。
(弾丸一つが本当に百文で買えたかは不勉強でわかりませんが、この作者の作品に出てきたのであれば、何となく信じられる気がします)

「なまずランプ 幕末都市伝説」第2巻(たかぎ七彦 講談社モーニングKC) Amazon
なまずランプ 2 (モーニングKC)


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2010.02.02

「浪華疾風伝あかね 壱 天下人の血」 浪華を駆ける少女の青春

 大坂夏の陣から八年、真田大助らと共に、苦しい逃避行を続けていた豊臣秀頼の娘・茜は、落城の混乱で生き別れた弟の消息を求めて大坂に帰ってきた。ある日、暴漢に襲われていた娘・お龍を助けた茜は、それがきっかけで思わぬ騒動に巻き込まれる。江戸からやって来た母娘、そしてお龍を守る用心棒・甲斐の正体とは…

 ポプラ文庫ピュアフル(旧ジャイブ ピュアフル文庫)は、児童文学・ライトノベル・一般文芸の丁度中間点にあるような青春小説中心というユニークなレーベルですが、そこで築山桂先生が書き下ろし作品を――しかも伝奇ものを書くと知った時は、嬉しい驚きを味わいました。

 本作「浪華疾風伝 あかね」は、そんな私の期待に違わぬ、実に伝奇色の強い作品であります。
 何しろ、主人公・茜は豊臣秀頼の娘で、真の天秀尼(というのはおかしな表現ですが…)とでも言うべき存在。そして大坂落城以来、逃避行を続けつつ彼女を扶育してきたのはあの真田大助だというのですから、これを伝奇と言わずしてどうしましょう。

 落城時に身代わりを立てて逃れて以来、野に伏して生き延びてきた茜が、同様に逃げ延びたはずの弟・国松を探して大坂に戻ってきたところから始まる本作ですが、茜の運命は波瀾万丈の一言。
 ならず者に襲われていたお龍を心ならずも助けて、お礼にと彼女の父・鴻池新六のもとに強引に連れて行かれたと思えば、その新六が江戸から船に乗せてきたという娘に瓜二つだったことから囚われの身になり、そこから辛うじて逃れて、件の女性の一人と出会ってみれば…! と、ラストまで一気に楽しめる快作でした。

 …が、本作の優れた点は、単に起伏に富んだ伝奇活劇というのに留まらず、思春期の少女を描いた青春物語としても、しっかりと成立している点であります。

 豊臣家の落胤として物心ついて以来逃避行を続け、そしてこれから先に往くべき道も見えない茜。唯一の心の支えであり、いまや密かな思慕の対象でもある大助も、彼女に対しては、あくまでも主家の姫として接するばかり…
 そんな茜の境遇は、もちろん、時代伝奇小説ならではの極端なものではあります。

 しかし、自分のこれからを考える年齢になりながらも将来は見えず、恋も思うようにはならない。そして何よりも、自分自身のアイデンティティが奈辺にあるのかわからず悩む…そんな彼女の等身大の姿は、現代に生きる同年代の少女たち――そしてそれは、本作のレーベルの対象読者層でもあります――と何ら変わるものではありません。。

 少女がままならぬ境遇を乗り越えて、いかにして自分自身の存在、在るべき場所――本作のクライマックスで描かれるある人物の言葉は、実に伝奇的であると同時に、まさにこのテーマに直結するものであります――を、この世界の中で見出していくか。
 日常から遠く離れた舞台だからこそ、逆に普遍的なものを浮かび上がらせることができる――伝奇小説が本来持つ機能の一つを用いて、本作は普遍的な若者の生を描き出そうと試みていると感じられるのです。


 そして築山先生の、ある作品のファンであれば決して見逃せない点がもう一つあります。

 本作の重要な登場人物の一人が、鴻池の用心棒としてお龍の身辺警護にあたる男・甲斐。野卑なようでいてどこか洗練された物腰を持ち、戦闘能力では真田大助にも劣らぬ謎の人物であります。

 この甲斐、特技は龍笛で、どうやら四天王寺に縁ある謎の一族(それを率いる者の名は!)と関わりがあるらしく…とくれば、もうたまりません。
 大坂の歴史と共に在ったあの一族が、中世と近代の境で揺れる大坂でどのような役割を果たすのか? その点もまた、大いに楽しみでならないのです。

「浪華疾風伝あかね 壱 天下人の血」(築山桂 ポプラ文庫ピュアフル) Amazon
浪華疾風伝 あかね 壱 天下人の血(ポプラ文庫ピュアフル)

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2010.02.01

「変身忍者嵐」 第29話「死のけむり妖怪! マーダラの恐怖!!」

 マーダラに襲われている駕籠を助けたハヤテたち。駕籠に乗っていた姫と乳母を連れて近くの屋敷に助けを求めた一行だが、煙となって侵入してくるマーダラの前に、屋敷に閉じこめられてしまう。と、ハヤテが休んでいる間に、荷物を探る姫たち。実は姫の父がマーダラに捕らわれ、引き替えに忍者大秘巻を持ってくるよう脅されていたのだ。しかし人質は月の輪に救い出され、マーダラと対決した嵐は、煙の体に苦戦しつつも嵐旋風落としで打ち勝つのだった。

 これまではメジャーどころが登場していた西洋妖怪も、今回から謎の捏造妖怪シリーズに突入。
 佐藤有文がジャガーバックスで出していた妖怪本にしか掲載されていないような奇怪な世界中の妖怪が、嵐の前に立ち塞がります(これはこれで夢の対決…かなあ)。

 その一番手、マーダラは――手元に資料がないため、伝聞になってしまうのがお恥ずかしいのですが――「まだらミイラ」が元ネタと思しい妖怪(出身地が同じフィンランドなのでおそらくそうでしょう)。
 まだらとmurdererをかけたのでしょうか、なかなかナイスなネーミングです。

 そのマーダラ、口から吐く赤い霧を浴びた者を、斑模様の骸骨に変えてしまうという恐るべき能力の持ち主。
 しかも自分の体を煙に変えて、ちょっとした隙間から忍び入ってくるのだから恐ろしい。今回のエピソードの舞台となった荒れ屋敷のように、隙間の多い日本家屋で襲われたくない妖怪であります。
(しかも、隙間はなくとも煙を立てたらそこからも出現できるというタチの悪さ!)

 これだけでも相当厭な相手ですが、マーダラの真の狙いは別なところに…ハヤテたちに保護された土地の家老の姫と乳母は、実はマーダラの手先。父を人質にされて、ハヤテたちの隙を見て忍者大秘巻を盗むよう、脅されていたのでした。
 悪人が、関係ない者を脅し、油断しているヒーローたちを襲わせるというのは定番パターンでありますが、今回はそこに密室パニックものを絡めてきたのが面白い。忍者大秘巻争奪戦にも色々なパターンを用意してくるものだと感心します。

 ただ、いかに猛毒とはいえ、煙に包囲されてもあまり緊迫感が…というのが正直なところではありますが――
(キングの「霧」の怖いところは、霧そのものではないですからねえ)
 また、煙の体を持っているので刃が通じないマーダラをどうやって倒すのかと思ったら、頭上高く飛んで刀を振り回しながら落ちてくる嵐旋風落としで煙を吹き払ったので、普通に斬れるようになったぞ!(と見える)のも、謎の結末です。

 ちなみに今回の月の輪さんは、(予想通り)人質となっていた家老の救出役。
 もはやすっかりお馴染みとなった謎の呪文「クラーム!」一声、バリアーで煙をはじき返してしまう無敵ぶりは、いつものことながら凄いとしか。

 そういえばクライマックス、マーダラと対決した際に、「あの娘の父親の命はどうなるのかな?」と言われて「父親!?」と返した嵐…絶対忘れてただろ。


今回の西洋妖怪
マーダラ
 フィンランドから来た煙の妖怪。煙になって移動し、煙が立つとそこから出現することもできる。口からは猛毒の煙を吐き、浴びた者は斑模様の骸骨に変わってしまう。また、体が煙のため、刃も通じない。
 土地の家老を人質に取り、その娘と乳母を使ってハヤテたちから忍者大秘巻を奪わせようとしたが、嵐の嵐旋風落としで煙を全て吹き飛ばされ、嵐旋風斬りで爆死した。


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