「水滸伝に学ぶリーダーシップ」 神機軍師 知もて好漢を束ねる
時代でも伝奇でもないものを突然どうしたのだ…と思われるかもしれませんが、これが水滸伝ファンには見逃せない奇書。一見よくある歴史ネタのビジネス本に見えますが、水滸伝ファンが見ても思わず納得の二次創作本的内容の一冊であります。
一見、タイトルだけ見れば水滸伝の原典の中からビジネスに使えそうな箇所を拾い上げて解説をつけたもののように思われるかもしれませんが、さにあらず。
本書の趣向は、ナビゲーター役である梁山泊第三十七位、地魁星・神機軍師朱武が、梁山泊で好漢たちが引き起こす様々な事件を解決していく中で、リーダーシップや組織マネジメントの要諦を語るというもの。
その事件というのがある意味本書のキモなのですが、原典のエピソードに依ったものはごくわずかで、そのほとんどは、本書オリジナルなのですが――しかしオリジナルでありながらも、その内容が思わずファン納得なのです。例えば…
・王英と扈三娘で味を占めた宋江が仲人に燃え始めて皆が困る
・宋清に何の役を与えたらいいか皆で頭を抱える
・花栄を差し置いて董平が五虎将に選ばれて周囲が騒ぎ出す
と、原典ファンであれば、「あるある」と思わず噴き出してしまいそうなものばかり。
それに対して朱武が皆の悩みに答えていく部分は――この手の本にはありがちかもしれませんが――朱武がことごとく優等生的に正解を返していってしまうのでちょっと面白みはないのですが、それでも、天然の天性のカリスマの宋江や、色々とアレな(アレ言うな)呉先生ではなく、原典でも古典マニア的扱いの朱武の口から答えが出ると、何となく納得できるのが面白い。
こうしたエピソードや登場キャラクターのチョイスを見るに、作者はかなりの水滸伝ファン、水滸伝の楽しさをわかっている方なのだろうなあ…と強く感じた次第です。
また、個性の固まりのような連中(それも基本的にトラブルメーカーばかり)が一つところに集まった梁山泊という場は、こうしたリーダーシップや組織マネジメントの題材として、案外適しているのでは、とも。
正直なところ、ビジネス書として本書がどの程度のレベルにあるかは私は畑違い過ぎて判断できませんが、こと水滸伝のキャラクター本として見れば――それが作者の意に添ったものとは思えず、誠に恐縮なのですが――本当に楽しい一冊で、ファン必読…とは言いすぎなまでも、変格水滸伝ファンとしては買って損なしな一冊であります。
(しかし、ビジネス指南部分は結構現代的な内容にもかかわらず、「徳」が重要な要素として登場する辺りは、やはり中国なのだなあと変なところで感心)
「水滸伝に学ぶリーダーシップ」(趙玉平 日本能率協会マネジメントセンター ) Amazon
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