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2010.03.31

「殿といっしょ」OVA 無双の飛び道具、その名は…

 「コミックフラッパー」誌で連載中の「殿といっしょ」のOVAが発売されました。
 あの方があの人物の声を…というものすごいサプライズがあった本作、私も元々原作の大ファンゆえ、早速観てみました。

 今回アニメ化されたのは、原作に数多く登場する武将のうち
・伊達政宗
・武田信玄
・上杉謙信
・織田信長(明智光秀)
・直江兼続(上杉景勝)
・長宗我部元親
・浅井長政
のエピソード。秀吉は!? アニメ映えしそうな島津四兄弟は!? そして原作の半ば主人公(主観)の信幸兄さんは!? と、ツッコミたいところはありますが、しかしこうして書き出してみると結構な人数、まずは納得です。

 その武将の声の方は、既にドラマCD化されていることもあり、ほぼ皆はまり役と言って良いような内容。特に長宗我部が能登麻美子というのはほとんど反則。そりゃあ国中が元親かわいいよ元親にもなるでしょう。(そしてそれを見事に逆手に取った本作オリジナルの風邪ネタにも爆笑)

 と、声の部分は良かったのですが、しかし、それ以外の点は、正直なところ私にはちょっと…な印象。
 ネタのチョイスに史実ネタが少なかったというのはまあ良いとして、アニメなのにどうにも動きが少ない…というのはいかがなものか。
 もちろん、原作的にぐりんぐりんキャラが動き回る作品ではないのですが、それ以前に演出が微妙。見ながら何か違和感があるなあるな…と思っていてようやく気付きましたが、芝居の大部分がキャラのバストアップと口パクなんですね。

 まことに失礼ながら、コンピュータRPGなどの会話シーンを思い出しました。実は本作の浅井長政パートは(何故か)RPGのパロディなのですが、それ以上にRPGっぽい。
 エンディングロールを見たら、声優の方が作画関係のスタッフより多かった、ということはありますが、それ以上に、コメンタリーで衝撃の告白があったように、監督が初めて人間ものをやったというのが大きいのでは…と思わされました。


 しかし、本作には、そんなあれこれをたった一人でひっくり返す無双キャラがおります。
 それはもちろん、GACKTさんが演じるところの上杉謙信、というよりGACKTさんそのもの。
 いや、声優も芝居も初めてではない(って謙信やってたんだよ!)とはいえ、原作のちょっとお茶目な謙信がGACKTさんの声で喋るだけでもうもの凄いインパクト!

 本作に収録されている謙信パートは実は一本、あの「ビシャえもん」ネタのみ(おまけでGACKTさんネタはありますが)なのですが、しかし、謙信があの美声で、モザイクかけないと(躇錯剣的に)とてもお見せできないようなネタを繰り出してくるとは…しかも、これまたギリギリ危険すぎるテーマソングまで。

 確かにこれは飛び道具、反則としか言いようのないネタではありますが、しかし、それも作品の一部であることには変わりない。
 あの戦国武将がこんなことを! というのが原作からのコンセプトだとすれば、ある意味それを最も忠実に体現していると言っても過言ではありません…ごめん言い過ぎた。


 トータルで見れば、買いとは言い難いですが、(謙信パートだけは)ぜひ見ておくべき作品でしょうか。GACKTさんファンは当然購入すべきなのは間違いありません。
 いや、次はぜひ酔っ払いバージョンの謙信もGACKTさんにやっていただきたいものであります。

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2010.03.30

「変身忍者嵐」 第37話「バラバラ妖怪! 死の舟がよぶ!!」

 ハヤテたちが戸沢白雲斎の孫娘・さくらのいる寺を訪ねることを聞きつけた妖怪バラーラは、寺男を殺害して入れ替わる。隙を見て忍者大秘巻を奪おうとするバラーラだが、ハヤテに見破られ、さくらを人質に逃走する。さくらを取り戻すため、ポルトガル船を目指すハヤテ。バラーラの罠を潜り抜けてさくらを救い出したハヤテは、バラーラと対決。首を分離させるバラーラの能力に苦しむが、月の輪の助言でバラーラを打ち破るのだった。

 今回登場するのは悪魔道人率いる西洋妖怪最後の刺客、ポルトガルのバラバラ妖怪バラーラ(まず間違いなく捏造妖怪)。
 五体をバラバラにして襲いかかる…というのはフランケンもやりましたが、バラーラはロバっぽい大きな耳も切り離して、盗聴器代わりに使うのがちょっと面白い奴です。
 もっとも、首が分離しても体は別に動くというのを手っ取り早く再現するため、首がえれえ長くてぶっといという…リアル「中の人などいない」状態。造形的にははっきり言って最低レベルです。

 さて、今回のゲストキャラは、戸沢白雲斎の孫娘さくら(と、さっぱり目立たなかった)尼僧くノ一の月光院。大魔神像の目撃情報を聞くため、ハヤテは彼女たちのいる寺に向かいます(が、それは途中でどうでもいい感じに)。

 それにしてもいきなり白雲斎とは世界観的にどうなのか…時代背景を考えればギリギリセーフ? いやしかし白雲斎の弟子の佐助は甲賀流だし豊臣方で、伊賀の公儀隠密であるタツマキたちとはどうなんだろう…などという小うるさいマニアの悩みは置いておくとして、このさくらがなかなか可愛らしいキャラでよろしい。

 特に、バラーラに捕らわれ、アジトのポルトガル船で柱に縛られていた時に縄抜けして、「手首の関節を外して縄を抜けるってほんとなんだわ!」って感心をするところなど、間が抜けているのか世間知らずなんだかわからない可愛らしさがありました。
 演技も特撮番組の子役にしてはよいしビジュアル的にも整っているし…と思ったら、後に一時期必殺シリーズの常連だった西崎緑だったのには驚きましたが。

 しかし今回、上記のさくらの縄抜けといい、微妙に間抜けな印象のシーンが連発します。
 バラーラは天の巻を奪うため、崖の上でハヤテを手の短銃(西洋妖怪のくせに銃が頼りって…)で脅している時に思わず撃ってしまい、天の巻もろともハヤテは崖の下に転落。 さらにその後、ハヤテを爆殺するために火薬を満載したポルトガル船内でまた短銃を撃って、当然の如く火薬に引火、あぶなく自分も爆死ともう…

 今までひたすらクールだった月の輪も、さくらを助けに来た時に、バラーラが残していった耳に気付かず(さくらは耳に悟られないよう、音を立てないように脱出しようとしていたのに…)。「私はあなたの味方だ」とか言いながら飛び込んできて、バラーラにバレるという微妙っぷりであります。
 も一つ、バラーラに追い詰められたハヤテが、ポルトガル船めがけてスローした天の巻を拾い、「どうしてここに?」と頭をひねるのも月の輪らしくない印象でした。
(あと、ここで月の輪に斬られたはずのバラーラの耳がいつの間にか復活しているというチョンボも)

 さくら・月光院とともにバラーラに立ち向かうハヤテの「我ら日本の忍者たち! 西洋妖怪にむざむざやられはせん!」という台詞は実に格好良かったのですが…

 と、色々と微妙なシーンばかり印象に残りましたが、ラストにハヤテが月の輪に自分を助ける理由と正体を尋ねるという、次回次々回に繋がる描写もあって、いよいよ西洋妖怪編も(今回と関係なく)クライマックスであります。


今回の西洋妖怪
バラーラ
 ポルトガルのバラバラ妖怪。体の各パーツをバラバラにして自在に操ることができる。噛みつかれたものは毒に犯され、高熱に苦しむ。また、耳から毒ガスを出すことも可能。武器は短銃。人間への変身能力も持つ。
 得意のバラバラ攻撃で嵐の腕に噛みつき、動きを封じて苦しめるが、月の輪の助言を受けた嵐に、太陽光に透かすことにより首と胴体を繋ぐ一本の筋を見破られて切断された上、胴体を嵐稲妻落としで粉砕された。


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2010.03.29

「機巧奇傳ヒヲウ戦記」 第12話「天誅! 正しいのは誰だ」

 ついに京に到着したヒヲウは、父の手がかりを求めて向かった先で長州藩士・久坂と出会う。久坂は新月藩と渡りをつけるため、華と雪を連れ出そうとするが、才谷はこれを拒む。一端は引いた久坂だが、仲間が機巧に襲われ、才谷を敵と決めつけて襲いかかる。その混乱に乗じて華と雪を奪おうとする風陣の女・ヌエ。ヒヲウによりヌエの機巧が倒され、久坂の誤解は解けたが、父の行方を知るため、ヒヲウは京都に逗留することになるのだった。

 京に舞台を移しての最初のエピソードの今回、アバンタイトルは、嘉永7年1月に上演されたからくり儀右衛門の蒸気仕掛けのからくり芝居の模様。
 本編には名前のみの登場となった儀右衛門の紹介篇のような内容ですが、取り締まりに来た役人が、芝居を観て思わず笑顔で拍手してしまうシーンは、機巧の一つのあり方を示すものとして、なかなか印象的であります。

 さて、本編の方は、長州藩の志士・久坂玄瑞が登場します。
 尊皇攘夷の旗頭として活躍した久坂は、本作では、桜田門外の変にも関わっていたという新月藩と手を結ぼうとしているとの設定。
(ここで長州との関係で、才谷が二人を護ってきたという理由も明かされます)

 そのためには、新月藩の若君が必要と語る久坂ですが…若君!?
 というわけで、ここで明かされる衝撃の事実、華と雪のどちらかは男の子!
 もちろん、故あって男児が女児として育てられるというのは、時代ものではよくあるお話(ヒヲウが旅の途中で演じる八犬伝の犬塚信乃も、子供の頃は女装してました)。
 しかしどちらかが男の子とは…そりゃヒヲウもドキドキです。

 それはさておき、さるお方が仲介に入ることになったため、二人が新月藩に行く必要はなくなったという久坂に対し、才谷は自分たちで二人を新月藩に連れて行った上で、何が起きているか確かめると主張。
 お互いに敬意を払い、「友達」と呼んでいた二人の間にヒビが入ることに。
 さらに、そこに風陣の妖艶な女・ヌエがつけこんだことで、サブタイトルである「天誅!」という騒ぎになってしまうのですが…

 この久坂というキャラクター、本作での描かれ方は、決して悪人というわけではなく、ヒヲウたちにも優しく、また華と雪にも手荒な真似は控えようとするかなりの人格者として描かれます(でも、京を炎に変えても攘夷するとヒヲウに熱く語るあたり、やっぱり久坂さんだ…)。
 そんな久坂という人物でさえ――ヌエの罠にはまったとはいえ――天の誅罰を口にして、友人である才谷に刃を向けるというのが、なんとも悲しいところであります。

 それがこの時代の悲しさであり、イデオロギーの厄介さでもあると言ってしまうのは簡単でしょう。
 しかし、「友達」という言葉をストレートに捉え、二人の争いに心から悲しむヒヲウの姿には、やはり考えさせられる姿があります。
 さて、久坂たちを襲った機巧が、華と雪を狙った風陣のものだったとわかり(この機巧、蛇と虎、全く異なる姿に変形して久坂たちを惑わせるのが実に面白い)、炎サンダー(仮称)で粉砕されたことで、今回は一件落着であります。


 さて、全体を通してみると、今回初めて明かされたような情報がほとんど全てキャラクターの台詞で説明されたため、ちょっと(いやかなり?)わかりにくくなってしまった印象はありますが、しかし久坂さんのキャラ描写も良く(「斬っても日本のためにならないから斬らなかった」とヌエを見逃してしまうところも素敵)、それなりに楽しめる回でした。

 結局、儀右衛門が佐賀の鍋島に行っていたため、マスラヲのことを手紙で尋ねる必要があると、京への逗留を余儀なくされるヒヲウ。というわけで次回も京都篇ですが…何だかちょっと意外なタイトル?


「機巧奇傳ヒヲウ戦記」(バップ DVD-BOX) Amazon


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2010.03.28

四月の時代伝奇アイテム発売スケジュール

 三月は半ば近くまで寒い日が続き、本当に春が来るのかしらと心配になりましたが、それでも春はやって来て卯月四月。新年度、四月の時代伝奇アイテム発売スケジュールであります。(敬称略)

 まず文庫小説で注目は、ようやく登場の上田秀人「斬馬衆お止め記」シリーズ第二巻「破矛」でしょう。上田節横溢の第一巻も非常に面白かっただけに、期待はふくらみます。
 その他、下旬発売としかわかりませんが大久保智弘「御庭番宰領」の第五巻も、色々な意味で気になるところ。もう一つ、まだ本ブログではまだ紹介していませんでしたが、渡航「あやかしがたり」も第三巻が登場です。

 また、文庫化の方では、平城京を舞台とした山之口洋の歴史ファンタジー「天平冥所図会」、最新作が色々と物議を醸している荒山徹の短編集「忍法さだめうつし」(巨大亀もあるよ!)、三月に最新刊が出たばかりの高橋義夫「御隠居忍法 恨み半蔵」が注目です。

 も一つ要チェックは、雑誌連載後何年も単行本化されていなかった菊地秀行「幕末屍軍団」が遂に刊行されることでしょうか。おそらくは雑誌連載版から加筆修正されていると思われますので、その辺りにも期待したいと思います。


 漫画の方は、何と言っても初登場の野口賢&冲方丁「サンクチュアリ THE 幕狼異新」。原作の冲方丁による吉川英治文学新人賞を受賞作「天地明察」は真面目な時代小説でしたが、本作は唖然とするくらいブッ飛んだ幕末アクション。作画を担当する野口賢は柳生連也がハイゴッグと戦う漫画の人ですから、これは色々な意味で注目です。

 その他、ついに打ち切り完結で私は猛烈に悲しい米原秀幸「風が如く」第七巻、水上悟志「戦国妖狐」第四巻、大峰ショウコ「スズナリ! あやなし甚吉奇聞録」、七海慎吾「戦國ストレイズ」第六巻、稲光伸二「大江戸!! あんプラグド」第二巻あたりが楽しみなところであります。


 映像作品では木下恵介監督の「新釈 四谷怪談」でしょうか。この機会にきちんと見たいと思います。
 そして月一なので余裕ぶって感想を書かないでいる間にどんどん放送が進んでいる「刀語」もソフト化開始。ちゃんと感想書かないと…




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2010.03.27

「陣借り平助」 颯爽たるいくさ人見参!

 時は群雄割拠する戦国時代。緋色の愛馬・丹楓を駆り、数々の戦場に颯爽たる姿を見せる若武者・魔羅賀平助。特定の主君に仕えず、戦場では必ず寡兵・劣勢の陣に加わる彼を、人は「陣借り平助」と呼んだ。今日は尾張、明日は甲斐…稀代のいくさ人・平助は、今日も戦場を駆け抜ける。

 今頃で本当に恐縮ですが、続編「天空の陣風」が刊行されたこともあり、宮本昌幸先生の短編連作「陣借り平助」を読みました。
 一世の冒険児にしていくさ人、「陣借り平助」こと魔羅賀平助の痛快極まりない活躍を描いた、まさに宮本時代活劇ここにありと言うべき快作であります。

 陣借りというのは、戦国時代の合戦の際に、正規軍以外の兵(浪人)が、手弁当で一方の勢力に味方して戦うことを言います。
 正規軍ではないので賃金が支払われるとは限らず、むしろ合戦で活躍することで己の武名を高め、仕官を狙うという示威行為的要素が強いもので、(本書でも語られますが)不始末をしでかして織田家を追われた前田利家も、一時期これを行っていたとのことです。

 さて、本作の主人公・平助が行うのも、もちろんこの陣借りですが、しかし、通常のそれと異なるのは、彼が仕官を望まないことでしょう。
 足利義輝に「百万石に値する」と評されたという――これはつまり、宮本作品においては地上最強の称号を得たのとほぼ同様を意味するわけですが――平助がその気になれば、どの家にも仕官は可能であるはず。
 にもかかわらず、どの家にも仕えず…いやそれどころか、合戦デビューである厳島の戦以来、わざわざ合戦で負けそうな側について大暴れすることをもって快とする、根っからの自由人なのであります。

 そんな彼の活躍が描かれるのは、本書に収録された以下の七編。必ずしも合戦が舞台ではない作品もありますが、しかしいずれも錚々たる面々が顔を出す物語ばかりです。(カッコ内は舞台となった戦と平助が属した側)

「陣借り平助」(桶狭間の戦 織田信長)
「隠居の虎」(野良田の戦 浅井久政)
「勝鬨姫の鎗」(長尾景虎の小田原攻め 北条綱成)
「落日の軍師」(川中島の戦 山本勘介)
「恐妻の人」(三河平定 松平元康)
「モニカの恋」(堺の町衆の争い 日比屋了珪)
「西南の首飾り」(横瀬浦焼き討ち 大村純忠)

 いやはや、時代の動くところ、陣借り平助ありであります。

 しかし本書の読後感を素晴らしく爽やかなものとしているのは、平助が単なるマッチョ原理に基づいた戦士ではなく、真に弱者の立場で考えられる、強さと同時に優しさを持つ、有情の人物である点であります。

 我らが平助がその力を振るうのは、実は戦場において、武士のためのみではありません。
 か弱き女性のため、次代を案じる老人のため…戦場で戦う者のみならず、その陰で嘆き悲しむ者たちのためにも、平助の槍は振るわれるのです。

 彼がそのような一種騎士道的な、当時としてはある意味破格の精神を持つに至った理由は、本書の後半で語られる彼の出生にも関わるのですが、しかし彼の場合は、平助は平助だから、という理由で十分に思われます。

 私は個人的にいくさ人という言葉には男性原理主義的なものを感じて、あまり良いイメージを持っていなかったのですが、平助のような人物をいくさ人と呼ぶのであれば、これは大いに賞賛すべきものと感じます。

 さて、平助の旅がどこまで続くか、それはわかりませんが、まだまだ戦国の世は続きます。強さと優しさを合わせ持ったいくさ人の活躍が、これからも楽しみでなりません。とりあえず早く「天空の陣風」を読まなければ…


 それにしても丹楓のツンデレバトルヒロインぶりは異常。
 「恐妻の人」のラストの対決は、(冷静に考えると無茶なのですが)丹楓タンの素晴らしいアシストのおかげで、本書随一の燃える対決シーンとなっております。

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2010.03.26

「シグルイ」第14巻 希望と絶望の御前試合へ

 ついに駿河城御前試合開幕か!? というところまでたどり着いた「シグルイ」第十四巻。時系列でいえば、ほぼ第一巻冒頭にまで追いついた(?)こととなりますが、まだまだ一波乱も二波乱もある景色であります。

 ようやく復活したかに見えた藤木。しかし心身ともに度重なるダメージを受け続けた彼は、ついに昏睡状態に。
 その藤木の前に現れたのはなんと伊良子…

 と、相変わらず堂々巡りを続けているようにも見える本作ですが、しかしむしろこれは螺旋階段を上っている(あるいは下っている)というべきか、少しずつ、少しずつ事態は、そして人の心は変わっていきます。

 その最たるものが、藤木その人。伊良子の差し入れの夜叉猿(違 の黒焼きが良かったか、奇跡的な復活を遂げた彼は…
 何だか見違えるように真っ当で爽やかな武士に。

 あの師匠に心酔していた故か、言動はかなりアレだった藤木。それが一度ならず死にかけ、どん底に落ちた末、たった一つ残った己が守るべきものに気付いたとき――彼は変わったのでしょう。

 そして、冷静に考えればイケメンの藤木の真情に触れ、三重の心も和らいでいきます。
 その二人が、まず最初にしたことが、あの虎眼先生の顔が浮き出た血染めの打ち掛けを焼いたことだったのは、二人が過去の呪縛から、未来の希望へと解き放たれた第一歩なのでしょう。

 いや、第十三巻の感想で予想したことが悉く覆された感があるのは汗顔の至りですが、藤木が一個の人間として高みに上ったことを考えれば、これは大いに喜ぶべきでしょう。

 と、そのまま最終回にしたいくらいのめでたい展開ですが…どう考えても悲劇の前振りというか、同門の表現を使えば、雑巾を貶めるには雑巾を飾りたてること、ということでしょうか。

 そう、御前で武技を見せる相手が常人であれば知らず、この御時世に、真剣に武装蜂起を考えている狂人であったとは、藤木の思いも寄らぬところだったでしょう。
(この辺りの描写は、原作読者をまず悩ます車典膳の宿敵・五位鷺志津馬も登場するなど、「武魂絵巻」の要素も取り入れてられているのが嬉しい)

 そんな藤木をはじめとして、それぞれの思いを抱きつつも御前試合に臨む剣士たちが、この十四巻の巻末で勢ぞろいしました…と、思いも寄らぬところで欠員が出てしまう有様。

 希望と絶望と――後者が圧倒的に強いものの――その両者が込められた駿河城御前試合、いよいよ待ったなしであります。

「シグルイ」第14巻(山口貴由&南條範夫 秋田書店チャンピオンREDコミックス) Amazon
シグルイ 14 (チャンピオンREDコミックス)


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2010.03.25

「浪華疾風伝あかね 弐 夢のあと」 少女が選んだ名前

 自分と瓜二つだという天秀尼に会うため、彼女が隠れているという吉利支丹村に向かった茜。しかしそこで茜は、鴻池家の用心棒・甲斐に捕らわれてしまう。奉行所に連行された鴻池新六と引き替えに、大坂城代に引き渡される茜。果たして誰が本当の姫なのか、真田大助の真意は、そして大坂を守る闇の一族とは…

 戦乱からから復興を遂げつつある大坂を舞台とした青春時代伝奇活劇「浪華疾風伝あかね」待望の第二巻であります。
 豊臣家滅亡から八年後、豊臣秀頼の娘・茜が、生き別れの弟・国松を求めて大坂を訪れたことから始まった第一巻では、母と信じていた人が茜を豊臣家の姫ではないと告げた上で、彼女の目の前で自決するという衝撃的なラストを迎えました。

 その衝撃を引きずりながらも、この第二巻では、茜は事の真偽を確かめるため、「母」とともに大坂にやって来たという天秀尼――千姫の庇護の下、鎌倉東慶寺に入れられた秀頼の娘ですが、本作では茜の身代わりでは? という設定――を探して行動することになります。

 彼女の忠臣、頼みの綱であり、そして今ではそれ以上に想う相手である真田大助は、理由も告げずに彼女のもとから去り、「母」のいまわの際の言葉から、やはり自分は豊臣の姫ではないのか、自分こそが身代わりだったのか!? と、自らのアイデンティティに関わる重大な疑問を抱えながらも、茜は真実を求めて走り続けるのです。

 本作は、伝奇小説としてと青春小説としてと、二つの側面を持つ作品です。
 そんな本作において、生きていた秀頼の子、豊臣の隠し金の存在といった伝奇ものの要素と、自分自身が何者なのか、自分はどう生きるべきなのかといった青春ものの要素と、二つの要素を体現し、そして統合するのが、茜その人であることは言うまでもありません。
(ちなみに、茜が今後力を減じていく武士という立場を代表する一方で、もう一人のヒロインであるお龍が、これから発展していく商人という立場を代表するという配置も、実に興味深いところです)

 その彼女が、己が姫たることを否定された上、ついに徳川方に捕らわれるという逆境――これもそれぞれの要素を象徴するものであります――の中で、己の名乗りを上げ、それに応えるように呉越同舟の一大バトルが開始されるクライマックスは、そんな本作の二つの要素が見事に統合され、昇華される名シーン。大いに興奮させていただきました。


 さて、茜を巡る状況は、この第二巻のラストで一応の落ち着きを見せますが、しかし、本作で示された謎の全てが解決したわけでは、もちろんありません。
 茜の旅の目的である国松は果たしてどこにいるのか。大助と甲斐の因縁の元である豊臣の隠し金の在りかは。そして大助は本当に単なる鉄面皮の美形なのか。

 作中ではついに在天別流の存在が本格的に語られ、いやがうえにも盛り上がる本作。
 残念ながら第三巻はまだ先になるようですが、しかし少しでも早く続きが読みたい! と心より祈っている次第です。


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浪華疾風伝 あかね 弐  夢のあと(ポプラ文庫ピュアフル つ 1-2)


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2010.03.24

「変身忍者嵐」 第36話「耳をふさげ! 地獄の呼び声だ!!」

 西洋妖怪サイレンを目撃してしまい、父を殺された娘を保護したハヤテは、タツマキとともに幻の塔に向かう。そこで落とし穴に落とされた二人だが、月の輪に助けられ、塔にあった天の巻を手にする。しかし娘とともに残ったツムジの元にサイレンが現れ、地の巻が奪われてしまう。とって返した嵐はサイレンを破るが、地の巻は悪魔道人の手に渡ってしまうのだった。

 もうちょっと続く忍者大秘巻争奪戦、今回はちょっとした(?)動きがありました。

 今回登場の妖怪は、南の国(ずいぶんアバウトな…)から来たサイレン。
 今ではセイレーンの名の方が有名ですが、その語源となったサイレンの音を響かせつつ(聞いたこともない変な音を出す…ってそりゃないだろう)嵐の前に立ちふさがります。

 ビジュアル的には、赤いフードの下に、溶け崩れたような顔とホルン状口というなかなかおぞましいデザイン(ちょっと水木妖怪チック)、声は女性ですが、かなりインパクトのある容姿です。
 伝説にあるように、催眠性の歌声でハヤテを幻の塔(非常に現代建築的なその正体は聖蹟記念館)におびき寄せ、地の巻を奪おうとするのですが…

 敵の超能力には滅法弱いハヤテは、サイレンの声におびき寄せられた上に土手っ腹を貫かれ、さらに落とし穴からたたき落とされるという目に遭わされますが、回復力は異常に高い彼のこと、月の輪に救い出された後はあっさり回復です。

 しかもこの時、ハヤテをおびき寄せるエサとして天の巻を用意したサイレン、安心して回収せずに幻の塔を離れてしまったため、復活したハヤテにあっさり巻物を奪われるという大チョンボ。
 逆に、ツムジが持っていた地の巻を奪ったのはお手柄でしたが、結局天と地が入れ替わっただけというオチでした。

 ラストの対決では、主題歌の歌詞通り地を割り見参する嵐は面白かったのですが(Aパートで、いきなり大木を割って出てくるシーンも衝撃的だった)、サイレンの音波を防ぐのが、羽根手裏剣で耳を防ぐだけというのが腰砕け(しかもツムジの声援は聞こえる)。
 結局今回は、行ったり来たり走り回って終わったなあ…という印象でありました。

 ちなみに今回のスペシャルゲストはキックの鬼・沢村忠。唐人服を着てハヤテたちの行く先々に現れる謎の男で、あまりの怪しさに「目を合わせんとこ」とスルーされるのが面白すぎるところ。

 まあ、視聴者には悪者なわけはないとわかっているわけですが、ツムジに下忍(何故かローマの剣闘士風の鎧に、剣と盾を持ったタイプ)が迫った時、颯爽と唐人服を脱ぎ捨てたその下はもちろんキックボクサースタイル! …いや、きっとあったんですよそういう服も。あの当時。

 この沢村忠、百地仙人がハヤテたちの警護のためにつけた男…という設定で、これまでのファイティング原田や高見山のような通りすがりの格闘家でなかったのは、進歩かなあ。


今回の西洋妖怪
サイレン
 南の国から来た西洋妖怪。催眠音波や殺人音波を操る。蛇の口状になった右手で相手を吸い寄せ、槍状になった左手で突き刺す戦法を使う。
 ハヤテを幻の塔におびき寄せて忍者大秘巻地の巻を奪ったが、逆に天の巻を奪われた。頼みの音波も耳を塞いだ嵐に効かず、叩き斬られた上に、自分が殺した猟師の娘に止めを刺された。


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2010.03.23

「機巧奇傳ヒヲウ戦記」 第11話「なぜ? 機巧嫌いの男」

 山寺に泊まることになったヒヲウ。だが、寺の僧・無元は、機巧を異常に嫌悪していた。実は無元は井伊直弼の供回りであり、桜田門外の変で一人逃げた過去があったのだ。風陣のクロザルは無元を脅し、ヒヲウ襲撃の手引きをさせる。しかし、襲いかかるクロザルの猿機巧に苦戦する一行の窮地を救ったのは、再び刀を取った無元だった。炎で機巧を一蹴し、戻ったヒヲウが見たのは、満足げに逝く無元の姿だった。

 今回も本筋には直接関係しないエピソード…が、メインライターの會川昇氏が担当して凡百の内容になるわけがない、と思っていたらこれがまた想像を上回るクオリティの内容。白状すれば本作で初めて泣かされました。

 今回のアバンタイトルは、再び桜田門外の変。以前のエピソードで、風陣の(そしてあの人物の)機巧によって実は井伊直弼が討たれたことが描かれましたが、今回はそれと角度を変えて、警護の侍たちから見た変の現実が描かれます。
 そしてその乱戦に背を向けて逃げ出してしまった男・無元が、今回の物語の中心であります。

 桜田門外で主を、仲間を置いて逃げるというのは、武士の習いから考えれば万死に値する行為。それでも死ぬこともできず、もちろん武士に戻ることもできない無元にとって、僧としての暮らしがどのようなものであったか、想像に難くありません。
 今回のもう一人のゲストキャラクター、草莽の志士として血気に逸る青年武士・村上が、無元のことを軽侮したのも、無理もない話ではあります(もっとも、その村上自身は武士の生まれではないというのがまた皮肉なのですが…)

 そんな無元にとって、機巧は、桜田門での機巧の恐怖を思い起こさせることはもちろん、それ以上に、己の過去の「罪」を否応なしに認識させるもの。
 ヒヲウの機巧を目にしたときに、無元の抱いた感情は、単純な恐怖というものではなかったのでしょう。

 そしてその無元を、さらに過去に直面させるのが、桜田門の変にも加わっていた風陣・クロザル。華と雪を狙うクロザルは、家族に武士としての生き恥を晒す無元のことを告げると脅し、無元に手引きをさせます。
 一度はそれに屈した無元(それを知った華の「あなたは、あなたはもう武士ではありませぬ!」という台詞が二重の意味で重い!)が、ヒヲウたちの危機に、己を取り戻すというのは、これはドラマとしては定番の展開ではありますが、しかし、そこにヒヲウの涙と無元の叫びを絡め、ぐいぐいと盛り上げていくのは脚本と演出の妙というものでしょう。

 そして何よりも圧巻はその後の場面。
 ヒヲウたちを逃がすため、ただ一人その場に残った無元を、「お前武士じゃない」と嘲るクロザル。それに対する無元の言葉は…
「武士が捨てられるものならどんなに良かったか…だが武士はどこまでも追ってくる。武士とは人の世の正しき道が見えた時、己の欲を殺し、それを従える者のこと。拙者は胸の内の声に従う。あの子らをむざむざ殺させはせん!」

 武士は単なる身分ではなく、主義主張でもない。武士とは生き方であり――だから、逃げられない。
 逃げられないものであれば、それに向き合い、全うするしかない。

 それは、一面救いであり、一面呪いとも言えるでしょう。
 しかし、彼がヒヲウに遺した言葉が、「もう、怖くない」だったことは、一つの救いがそこにあったことは間違いありません。
 そしてまた、村上が後に名前を変えたとき、無元の本名と同じ名を選んだことも…(村上――後の相楽総三の運命を思えば、それは大いなる皮肉とも言えるのですが)。


 いずれにせよ、武士、武士道という言葉をあまりに無自覚に扱う作品が反乱している中で、ここまで武士という存在を掘り下げた物語が――個人的にはこのような言い方はしたくありませんが――子供向けアニメで描かれたというのは、驚くほかありません。

 これは最終話まで紹介した後に述べようと思っていたのですが、本作は、メインライターである會川氏とそれ以外の諸氏で、時代劇としての味わいが驚くほど異なります。
 それはそれで問題ではありますが、會川時代劇の精華をこうして味わうことができるのを、まずは感謝すべきでしょうか。


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2010.03.22

「薔薇とサムライ GoemonRock OverDrive」(その二) 新たなる五右衛門物の誕生

(感想の続き、後半部であります)
 と、(上演が始まったばかりということもあり)内容にはあまり触れずに本作を紹介する分には、前回の感想で終わってしまうのですが、それでは少々もったいない
 …というわけでこのブログらしい御託を並べておきましょう。

 実はこの舞台のことを聞いて以来、一つの疑問が頭にありました。果たしてなぜ、五右衛門なのかと。

 その一でも触れたように、本作は「五右衛門ロック」の続編に当たる作品です。
 しかし、主人公が古田五右衛門であることを除けば、本作はそちらとの関係はほぼなきに等しく(前作の曲は一曲のみ流れますが…それがまたいいところに流れるんだ! というのはさておき)、独立した作品となっています。
 これは言い換えれば、五右衛門が登場する必然性は、実は非常に小さいということとほぼイコールでしょう。
 それが何故、再びの五右衛門なのか…それを見極めたいと、実は密かに思っていたのです。

 そして、その答えはと言えば、私なりには見えたようにも感じます。
 本作を、アンヌを主人公の一人に据えた一つの舞台として成立させるために、五右衛門の存在が必要だった、と。

 本作で物語の中心にいるのは、実は五右衛門ではなく、アンヌであります。
 アウトローとして暴れ回る海賊だったアンヌが、しかし途中で国という体制を背負い、維持する側に回ることになるという立場の変化(この辺りいのうえ歌舞伎、というより中島かずき作品の視点の変化と重なる点があって実に興味深いのですが、それはさておき)から生じるドラマが、本作の中心となるわけです。

 しかし、そのドラマを深めるために、そしてそれをエンターテイメントとして成立させるために――アンヌの想いを知りつつ、しかし彼女のいる世界の外側に立つ存在、それが必要だったのではないかと感じるのです。

 外側に立つのは、彼女と本来は遠ければ――物理的にも、思想的にも――遠い存在であるほど良い。そしてもう一つ、彼女に負けないキャラクター性を持っていなければならない。
 そのようなキャラクターを、あくまでもアンヌを中心に立てつつ(舞台という限られた時間空間で)描くことができるか?

 ――その答えが、古田五右衛門の再登場ではないでしょうか。
 遠く日本から流れてきた(そしてまたいつか流れていく)、権力には決して屈しない大泥棒。
 その名を聞けば、誰の頭にもほぼ共通のイメージが沸く――それでいて空想の余地が十二分にある――有名人。
 ついでに言えば、もう新感線キャラクターとしてデビュー済み、古田新太のイメージにもぴったりとくれば、これはもう五右衛門以外考えられないのです。


 …というのは、これはまず結論ありきのお話であって、牽強付会にもほどがあるというのは、自分でもよっくとわかっております。
 しかしこう考えてみると、華麗に花開きながらもその土地に根つく「薔薇」と、中途半端でも己一人の誇り高き魂を抱いて旅する「サムライ」(「侍」に非ず)の在り方の違い、そしてそこから生じる物語のダイナミズムという構造が見えてくるようで、面白いではありませんか。


 いずれにせよ、新感線は凄いキャラクターを手に入れた、というのは、間違いないことでしょう。
 歌舞伎には「五右衛門物」と呼ばれる作品群がありますが、これはもう、いのうえ歌舞伎における「五右衛門物」が成立したと思って良いのではないでしょうか。
(さらに言ってしまえば、本作はあくまでも「五右衛門物」なのだから「五右衛門ロック」と設定が合わなくても問題ないのです)

 次なる「五右衛門物」、三度目の「五右衛門ロック」に、今から期待している次第です。いやいやその前に、「薔薇とサムライ」をもう一度見なくては!


「薔薇とサムライ GoemonRock OverDrive」 公式サイト / 戯曲 Amazon
薔薇とサムライ


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2010.03.21

「薔薇とサムライ GoemonRock OverDrive」(その一) 痛快無比、古田五右衛門再登場!

 日本を飛び出し、今は地中海の女海賊アンヌの用心棒におさまった石川五右衛門。しかし彼女の左目にコルドニア王家の証があったことから、アンヌは女王に祭り上げられ、海賊との戦いを余儀なくされてしまう。海賊同盟の一員としてアンヌと対決する五右衛門だが、アンヌの身にも危険が迫っていた…

 今年30周年の劇団☆新感線、その記念すべき年の第一弾興行は、「薔薇とサムライ GoemonRock OverDrive」。「五右衛門ロック」以来、二年ぶり二回目の石川五右衛門に古田新太が、女海賊アンヌ・ザ・トルネードを天海祐希が演じる痛快な大冒険活劇であります。

 今回の舞台は地中海の小王国。五右衛門が身を寄せていた女海賊が、実は亡き王の娘だったことから、五右衛門は王国と海賊の、そして王宮の中で繰り広げられる戦いに巻き込まれることになるのですが…

 いや、これはもう贅言を費やす必要のない痛快な一作であります。
 一言で表せば、新感線ファンであれば、いや、理屈抜きに痛快な冒険活劇が見たければ、絶対見るべき作品。
 もう少し長く表せば、女好きで脳天気で、でもやる時にはやる主人公が、馬鹿で気のいい奴や気っぷのいい姐やらと共に、派手でカッコ良い曲をバックに偉くて悪い奴らをブチのめすようなお話が大好きな人間は絶対見とけ、というほかありません。

 ここしばらくの新感線の作品は、ドラマ性が特に強く、それはそれで間違いなく面白いのですが、理屈抜きに痛快なバカどもの大暴れを見たい、という点からすれば、寂しい部分もあったのは事実かと思います。
 本作はそんなひねくれたファンの想いを笑い飛ばすように、もうこれでもか、と言わんばかりの「面白さ」「楽しさ」の釣瓶打ち。

 アクションあり、おバカあり、そしてそれらの中にもドラマありとぎっしり詰め込まれた、それでいて本当に全くだれず、無駄な場面やキャラクターのない、まさにエンターテイメントのお手本のような作品であると、自信を持って断言できます。


 …そして個人的に何よりも嬉しかったのは、五右衛門がより五右衛門らしく、気持ちの良いキャラクターとして成立していた点であります。

 サブタイトルからわかるように、本作は二年前の「五右衛門ロック」の続編に当たる作品。
 こちらはこちらでまた、実に楽しい作品だったのですが、しかし一点残念だったのは、主人公であるはずの五右衛門が、他のキャラクターに食われてしまっていた部分があったことです。

 「五右衛門ロック」の感想で、私は恐れ知らずにも書かせていただきました。
 「新感線の五右衛門は、まだまだこんなものじゃないだろう」「新感線の五右衛門、古田五右衛門には遙か上を行って欲しい、人の心を、人間の自由を笑う奴らを、真っ向からブチのめして欲しい」と。

 本作の古田五右衛門は、まさにまさにそんな私の気持ちに応えてくれたキャラクター。
 実はお話の中心からは、少し離れたところに立つ存在なのですが、しかしそれが功を奏したか、「これこれ、これが見たかった!」と言いたくなるような、痛快無比な「サムライ」でありました。


 その他、じゅんさんは相変わらず真面目な人に見せたら縁を切られそうな素敵なバカっぷりだったし、粟根さんは相変わらず○○眼鏡だったし、聖子さんは悪女でやっぱり最後はバカで…
 そして客演組も、登場シーンだけで「いいもん見た!」と拝みたくなった天海さん(冒頭のチャンバラシーンがちょっとおぼつかなかったのはご愛敬)をはじめとして、ことごとく見事なはまりっぷり。特に、ジャガーなんだかタイガーなんだか風雲なんだかわからない名前の山本太郎さんの素敵キャラは実に素晴らしかったと思います。

 いや、本当に見に行って良かった、と思い出し笑いが浮かぶ作品です。

(終わったように見せかけて、その二に続く)

「薔薇とサムライ GoemonRock OverDrive」 公式サイト / 戯曲 Amazon
薔薇とサムライ


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2010.03.20

「幕末めだか組」第1巻・第2巻 二重写しの青春群像

 1864年、欧米列強の脅威を知った幕府は、勝海舟の下、軍艦乗りを育成するために神戸海軍操練所を設立した。その伝習生の一人、薩摩出身の一路隼人が配属されたのは癸組。しかし、幕臣・藩士入り交じり、一癖ありげな者ばかり集まった癸組は、周囲から「めだか組」と呼ばれることになる…

 今年の大河ドラマは坂本龍馬が主人公ということで、時代ものでも幕末ものが増えているやにも感じられます。
 連載開始以来、単行本化を待ちこがれていた本作「幕末めだか組」もおそらくはその一つ。
 幕末の神戸に実在した海軍操練所を舞台にした青春群像劇であります。

 この海軍操練所は、当時軍艦奉行であった勝海舟の建言によって設立された、歴とした幕府の機関ではありますが、しかし今の目から見ると興味深いことに、そこで学んでいたのは、幕臣のみならず、薩摩・長州・土佐といった、後に維新の原動力となる諸藩の士でした。
 もっともこれは、その前身とも言える長崎海軍伝習所時代からそうではあったのですが、しかし、1864年と言えば、前年に八月十八日の政変が起き、長州と幕府(そして薩摩)の間が非常に険悪なムードとなった頃。その時期に、こうした場が存在していたというのが、実に面白いではありませんか。
(ちなみに坂本龍馬はここの塾頭だったという説とそうでないという説がありますが、本作では後者を取っている模様)

 そして、物語の主人公たちが所属することになる癸組、通称「めだか組」は、そのユニークさを象徴するかのように、幕臣・藩士が入り交じって構成されたクラス。
 他のクラスは、幕臣は幕臣、藩士は藩士でまとまっている中で、唯一の混成であり、しかもどこか変わり者が集まったはみだし集団であります。

 超ポジティブシンキングの薩摩隼人に、夢を見失った元○○○の青年、金持ちのボンボンに、薩摩に敵意を燃やす長州のはぐれ者、ワケありな美青年幕臣…
 個性の固まりのような連中が繰り広げるドラマは、いつの時代も変わらぬ若者たちの学園ドラマであると同時に、極めてその時代特殊の事情を背景にした時代劇でもあるのです。

 そんな二重写しの物語を、無理なくイキイキと成立させているのは、これはやはり作り手の技というものでしょう。
 原作は遠藤明範、作画は神宮寺一――遠藤氏は三遊亭円朝を主人公とした時代小説を過去に発表し、そして神宮寺氏は(このブログでも取り上げている)「機巧奇傳ヒヲウ戦記」を見事にコミカライズした、それぞれに時代ものに親しんだクリエイターであります。

 正直なところ、この第一、二巻では、まだ伝習生たちが軍艦に乗る前の物語であり、かなり地味な展開ではあるのですが、それでもしっかりと物語に引きつけられるのは、さすがだと感じます。


 幕末のごくわずかの期間存在した海軍操練所。そこでめだか組の若者たちが何を見て、何を経験することとになるのか――実に先が楽しみな作品です。

「幕末めだか組」第1巻・第2巻(神宮寺一&遠藤明範 講談社KCデラックス) 第1巻 Amazon/第2巻 Amazon
幕末めだか組(1) (KCデラックス)幕末めだか組(2) (KCデラックス)

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2010.03.19

「雪月記」第1巻 軍師が視た死の未来

 一年のほとんどを雪に閉ざされ、夏短く作物はほとんど育たない照遠の地。神子と呼ばれる村長・緋乃は、己に備わった未来を視る力「浄天眼」を用い、常勝の軍師として知られていた。村を滅びから救うために、己の心身を削りながらも緋乃は未来を視る…

 「アフタヌーン」誌にて連載中の時代ロマン「雪月記」の単行本第一巻が刊行されました。中世の北陸を舞台に、相争う武士たちに、己の未来視の力を売り込む「軍師」照遠緋乃の物語です。

 人界から遠く離れた照遠の、その長の家に生まれた(この辺り、色々と裏がありそうですが現時点では不明)緋乃が持つ力「浄天眼」。それは、避け得ない未来を視る力であります。

 なるほど、あらかじめ未来を知っていれば、戦場でその結末を確実にする方法を指南するのは容易いこと、作中で緋乃が常勝の軍師として、半ば畏怖を以て迎えられるのも頷けるところであります。
(避け得ない未来が見えるため、負ける未来が見えた相手には雇われないというのもちょっと面白い)

 しかし緋乃の能力は、単純な予知能力・千里眼の類ではありません。
 その能力を正確に表せば、己が触れた相手が近く死を迎える場合、その死をあらかじめ体験する能力…人の死を媒介にした未来視とも言うべきものなのです。

 すなわち、彼が知ることができるのは、あくまでも個人レベルの死の未来。それを軍師としての助言に足るものに高めるためには、死の未来視の数を、それだけ増やす必要があるのですが――
 しかし、単に人の死を視るのではなく、死を己のものとして体験する彼の力は、言うまでもなく諸刃の刃。
 緋乃は、己の心身を削りながらも、軍師としての務めを果たしていくことになります。

 そんな緋乃の能力は、それ自体の面白さもさることながら、己の手を血で汚すことなく、幾多の生死を生む軍師という存在の残酷さを、逆説的に浮き彫りにしている感があるのが、実に面白いところです。

 この第一巻のラストでは、なぜそこまでして緋乃が軍師として金を稼ごうとするのか、その理由が描かれます。
 緋乃の未来に何があるのか、そして本当に未来を変えることはできないのか――
 派手さはありませんが、先が気になる(その意味では実に「アフタヌーン」掲載らしい)作品であります。


 ちなみに、ある場面で、この宿場は食べ物が悪くなったと言いつつ、時代背景を考えるとやたら良いものを食べているように見えるのですが…実際どうなんでしょうね。

「雪月記」第1巻(猪熊しのぶ&山上旅路 講談社アフタヌーンKC) Amazon
雪月記 1 (アフタヌーンKC)

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2010.03.18

「義風堂々!! 直江兼続 前田慶次月語り」第6巻 兼続・慶次いよいよ見参!

 いつの間にかすっかり時代漫画比率が高くなっていた「コミックバンチ」誌。その筆頭とも言える「義風堂々!! 直江兼続」第六巻であります。
 この第六巻に至り、ついに樋口与六から直江兼続と名が変わり、さらにあの男を初めとして新キャラ次々登場と、想像以上に盛り上がってきた感があります。

 前の巻で御館の乱がほぼ集結し、ようやく景勝を中心となるかに見えた上杉家。
 しかし、混乱――その中でお船の夫・直江信綱が死に、与六が直江家を継ぐことになった事件もその一つ――が未だ収まらぬ中、信長軍の侵攻が開始されます。
 それに対して乾坤一擲の策で臨む兼続…

 というわけで、この巻の中心となるのは上杉軍と織田軍の激突となるわけですが、その中で暴れ回る兼続の姿は痛快の一言であります。
 織田軍を迎撃に出た景勝が戻るまでの間、ごくわずかな手勢で春日山城を守るという任を引き受けた兼続――この漫画を読んでいるとわからなくなりますが、彼はまだ二十歳を過ぎたばかりの、家中ではまだ若輩者。
 そんな彼が、兵たちをまとめ上げ、困難なミッションを成功させるにはどうすればよいか?

 …答えは自分が率先して大暴れしてみせる!

 と、冷静に考えれば無茶苦茶な理屈で突っ込む兼続ですが、だがそれがいい。
 豪快に槍を振う兼続のるってリアル無双状態な暴れっぷりは、講談の豪傑たちの活躍を現代に甦らせたかのような、プリミティブな興奮を感じさせてくれます。
(さすがに「北斗の拳」のゲイラみたいな敵はやりすぎだと思いますが)

 そしてこの戦いを盛り上げてくれるのは、兼続のみではありません。
 後に兼続の終生の友となるあの男…大河ドラマには出てこなかった最強のいくさ人・前田慶次がついに本編に登場であります。

 本作は、僧形となった後の慶次による回顧録のスタイルを取った物語ですが、今回登場したのは、もちろん若き日の(前田家を出奔する前の)姿。
 登場するなり鉄砲隊の銃撃を鋼鉄の傘で受けとめて見せるという心憎い演出で、思わずニヤリとさせられます。
 両者の直接対決は次の巻に持ち越しですが、さてこのファーストコンタクトがいかがなりますか、これは期待するしかありません。

 また、伝奇ファン的に嬉しかったのは、やはりこの巻で初登場の乱裁道宗。
 本作では、秀吉と結ぶ山の民の長にして最強の忍びとして登場しますが、ここでこの人物が登場するとは…と正直驚かされました。

 そしてこの道宗の造形がまたイイ。忍びらしく得体の知れぬ部分は持ちながらも、茶や花を好む風流人にして、人の情に深く通じる男(煙管を手にした姿はダンディに過ぎる)。
 当然、敵ながら兼続とは不思議な交誼を結ぶのですが…このくだりもまた、胸に来るものがあって良いのです。
(それにしても、この道宗をはじめとして、今回もまた兼続出生の秘密を知っている人間が登場したのには苦笑)


 豪傑怪人を向こうに回し、兼続がいかに傾きぶりを見せてくれるか…男泣きテイスト溢れる大活劇を期待したいところです。

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義風堂々!!直江兼続前田慶次月語り 6 (バンチコミックス)


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2010.03.17

「若さま同心徳川竜之助 風神雷神」 真の敵、その剣の正体は

 ついに「若さま同心徳川竜之助」シリーズが十冊目の大台に突入しました。
 この「風神雷神」が記念すべき十冊目ではありますが、お話の方はそれどころではない、まさに風雲急を告げる展開。深手を負った竜之助の再起の道は…

 前作のラストで、宿敵・柳生全九郎との決闘に勝利したものの、逆上した全九郎の刃で左手を落とされた竜之助。
 左手はかろうじて繋がったものの、それで簡単に復活できるわけでもなく、しばらく病床に就くことを余儀なくされた竜之助は――
 それでもめげずに、床の中から事件解決に挑むのでした。

 というわけで、本書の、特に前半では、竜之助がリハビリ代わりに(?)岡っ引きや先輩から聞かされた情報を元に、事件を解決していくベットサイド・ディテクティブ形式で物語が展開することになります。
 いやはや、この展開には驚かされましたが、これが想像以上に面白い内容になっていて、さらに嬉しい驚きを味わいました。

 さすがにシリーズが(一定のスタイルを保った形で)ここまで続いてくると、どうしてもマンネリになってしまう部分はあるのですが、ここで意外な形で、新しい空気を取り入れてきたのには感心いたします。
 もちろん、単に新味があるというだけでなく、事件の内容そのものも、推理ものとしてなかなかよくできたものとなっているのも、嬉しいところでした。

 さて、本シリーズには、怪事件・珍事件に挑む奉行所ものとしての側面と、もう一つ、竜之助の会得した秘剣・葵新陰流を破らんとする敵と対決する剣豪ものとしての側面があります。

 左手が完治しておらず、到底刀を取れる状態ではない竜之助ですが、しかしそれでも彼を狙う敵は現れます。
 さらに本書では、前の巻でほのめかされた真の敵、竜之助と全九郎の戦いを陰で操っていた存在がついに登場。
 その剣の正体は――


 と、毎度毎度のことながら、今回も猛烈に気になるヒキとなったところで幕。
 この、真の敵の目的は何か、そして、未だ傷の癒えない竜之助に抗する術はあるのか…

 おそらくはこのシリーズも残り数冊ではないかと思いますが、最後まで一気にこのテンションで駆け抜けていただきたいものです。

「若さま同心徳川竜之助 風神雷神」(風野真知雄 双葉文庫) Amazon
風神雷神ー若さま同心徳川竜之助(10) (双葉文庫)


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2010.03.16

「鴉 KARASU 04」 若き鴉、舞台に見参

 戊辰戦争の戦火が東北にも及ぶ頃、仙台藩士・細谷十太夫直英は、はみ出し者たちを集めた部隊を結成する。その名は衝撃隊、またの名を人呼んでカラス組。十太夫以下、自分たちの夢のために戦うカラス組は、不利な状況の中、長州藩奇兵隊と死闘を繰り広げる。しかし、ついにカラス組から犠牲者が…

 NHKBSハイビジョンで、D-BOYS主演の舞台「鴉 KARASU」を見ました。D-BOYSは、若手の、いわゆる若手俳優グループですが、彼らが題材としたのが幕末に活躍した細谷十太夫の鴉組という、何ともマニア泣かせ(?)のチョイス。これは見逃せないとばかりにチェックしたのですが、なかなか面白い舞台でした。

 細谷十太夫の衝撃隊、通称鴉組は、十太夫が博徒などを集めて組織した遊撃隊。
 黒装束に身を包み、長ドス一本で新政府軍に夜襲を繰り返したことから鴉組の異名を取った彼らは、その名を幕末史に留めているのですが…
 正直なところ(短絡的な発想でお恥ずかしいのですが)新撰組や白虎隊に比べると、どうしてもマイナーな――いや、時代小説では大御所の方々が描いているのですが――彼らを題材にしてくれるとは、冒険したなあと感心すると同時に、個人的にはよくやってくれた! という印象が強くあります。

 内容の方は、十太夫と副官に加え、鴉組に集まってきた若者たち――農民の兄弟、脳天気なやくざ、謎めいた銃の名手、病気の母を抱えた樵、理不尽な仕打ちに主家を飛び出した浪人――の姿が描かれるという趣向。
 個人的には十太夫はむしろ少しだけ脇に引いた印象があり、その分、鴉組の隊員たちのドラマに焦点が当たっていましたが、これはこれで悪くない構成です。

 そんなキャラクターの中で特に印象に残ったのは、勢いだけで生きているようなやくざの寅吉。彼もまた悲惨な過去を背負ってはいるのですが、そんなことを微塵も感じさせずに、チームのムードメーカーとして暴れ回る姿がよろしい。
(何よりも、侍になったらどんな名字をつけるかと聞かれて、その時々に好きなもの・気に入ったものがどんどん追加されて寿限無みたいになってしまうのが愉快!)
 この寅吉を演じたのは、五十嵐隼士さん。いや、一年間ウルトラマンで頑張っただけのことはあります。

 と、さらに役者のことを言えば、十太夫役の鈴木裕樹さんも、イケメンなのはもちろんのこと、声も良く出ていてさすがに主役の貫禄、実に良かったのですが、しかしどこかで聞いた名前…と思ったら、獣拳のニキニキの人だったんですね。あの印象しかなかったので、嬉しい驚きでした。


 さて、お話の方は、彼らが宿敵・長州藩の奇兵隊と戦いを繰り広げる中、犠牲者を出しつつも仲間としての結びつきを強めるも、しかし戦の大勢には抗することができず――というもの。
 クライマックスの「修羅維新牢」的に重い展開が、ちょっと「走れメロス」を彷彿とさせるオチになってしまったのは脱力ですが、敵方を奇兵隊(最初は「?」と思いましたが、北越にも転戦しているからおかしくはないのかな)に設定することにより、劇中でも語られるように、本来は同じような境遇にある連中が敵味方に分かれて戦うことの理不尽さは、感じることはできたと思います。

 もっとも、やはり時代ものとして見ると、一面的過ぎる部分は否めず、そこに拒否反応を示す真面目な方はいるかとは思います(幕末はうるさ型多いからね…)
 しかしながら、個人的には、イキの良い若い衆が、細谷十太夫と鴉組を活き活きと演じてくれただけでも、大変に嬉しいのです。


 ちなみにこの舞台は、同じ内容を別キャストでも上演されており(今回放映されたのは「鴉 KARASU 04」、もう一方は「鴉 KARASU 10」)、さらにそちらをベースに「ヤングガンガン」誌上で漫画化されているというなかなかユニークな企画になっています。
 こちらの別バージョンも、なかなか気になるところであります。

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2010.03.15

「変身忍者嵐」第35話 「消えた嵐? 妖怪集団が狙う!!」

 ゴーレムと再生妖怪に敗れ、地の巻を奪われた嵐。月の輪の助けでその場を逃れた嵐は、ゴーレムともみ合った末に崖の上から落ちてしまう。親切な村人に匿われ、傷を癒す嵐を追う新たな西洋妖怪グレムリン。再生妖怪もタツマキが呼んだ伊賀からの援軍とすり替わり、嵐に迫る。ついに嵐の隠れ家を掴んで地の巻を奪ったグレムリン。復活した嵐は、月の輪やツムジの助けで再生妖怪、そしてグレムリンを倒し、地の巻を奪い返すのだった。

 悪魔道人の姫路城攻略の鍵となる忍者大秘巻地の巻を巡る攻防戦の、今回は後編。
 前回のラストで四人の西洋妖怪に袋だたきにあわされ、完全にダウンした嵐――ワーラスの時もそうでしたが、結構打たれ弱いな、と思いきや、月の輪の乱入で助かったと思えば元気にゴーレムを追跡、意外と回復が早いのかな…と思っているうちに、今度はゴーレムと相打ち状態で谷底に転がり落ちてしまうのでした。忙しい。
(しかし、転がり落ちた時に起きた爆発は一体何なのだ…)

 さて、谷底に落ちてあっさり死んだゴーレムに代わり作戦を遂行するのは、アルプスの麓からやってきた妖怪グレムリン。
 実際の(?)グレムリンはアルプスとは関係ありませんし、存在が語られるようになったのは二十世紀になってからですが、まあいたんですよアルプスには昔から。きっと。

 それはともかく、怪物三人組も頭の上がらないグレムリン。このグレムリンの造形が実は非常に素晴らしい。
 青黒い肌に血管が浮き出たような頭、ギョロッとした眼という非現実的なパーツの中に、ただ一つ、口のみは中の人(っていうな)の唇がそのまま表に出ているのが、妙なリアリティを醸し出しているのです。
 ほとんど子供サイズの体も相まって、この強烈な異次元的存在感は、今見ても十分魅力的です。
 これで移動時のBGMが、早送りしたヨーデルでなけりゃ…(これはこれで不気味ですが)

 とはいえ、嵐との直接対決ではやはり分が悪い。相変わらず回復力が強すぎる嵐に追いかけられた末、最大の武器の角笛も月の輪に奪われ、ツムジに使われてしまう始末。
 配下の怪物三人組は、復活の際にそれまでの弱点がなくなった(だからドラキュラも昼に活動できる…って言われるまで忘れてた!)から不死身かと思いきや、笛の魔力で動きを封じられた間に斬られてしまいます。

 そして当のグレムリンも、壺に入って逃れたと思いきや、嵐の「壺真っ向割り」というニッチな必殺技で真っ二つ。壺が先に二つになって、外に出てからグレムリンも真っ二つ(断面図つき)という無惨な最期でした。

 と、実に西洋妖怪五体を投入した姫路城攻略作戦も未然に防がれ、まずはめでたしめでたし…にしても嵐って強いのか弱いのかよくわからんですね。


今回の西洋妖怪
グレムリン
 アルプスの麓からやって来た妖怪。普段は壺に入って浮遊し、腰の角笛「眠り笛」から出る煙は人を眠らせる。
 再生西洋妖怪軍団を率いて嵐から地の巻を奪うが、嵐たちの逆襲に遭い、逃れるところを嵐の壺真っ向割りで壺ごと真っ二つとなった。

再生西洋妖怪軍団
 悪魔道人により甦ったドラキュラ・フランケン・狼男の三体。ドラキュラの十字架・日光など弱点は復活の際になくなったが、不死身になったというわけではない。
 三人がかりで嵐たちを苦しめるが、ツムジが吹く眠り笛の魔力で縛られ、嵐に倒される。

ゴーレム
 嵐に追い詰められ、地獄の砂も嵐旋風返しで跳ね返された末、ともに崖の上から転がり落ちて死亡。


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2010.03.14

「機巧奇傳ヒヲウ戦記」 第10話「唐人だ! 雪の宿は大騒ぎ」

 雪の中も旅を続ける炎一行は、山中の温泉宿で働く代わりに泊めてもらう。そこにやってきたのは、少年武士と深編笠の男。編笠の下が気になるヒヲウは、機巧人形を部屋の中に潜り込ませるが、その騒ぎの中で明らかになった素顔は外国人だった。その外国人・バートと一緒に露天風呂に入り、仲良くなったヒヲウ一行。しかしそこに風陣のウツギの機巧が襲ってくる。一度は撃退したが再び襲ってきたウツギに、ヒヲウは炎で反撃。エレキテルで機巧を粉砕し、バートらは無事に旅立つのだった。

 今回は脚本が會川昇氏ではない…というわけで(?)番外編的エピソードであります。
 アバンタイトルは、太平天国の乱のお話。上海で植物の調査をしていたプラントハンターのバート・ファイブマン氏が、太平天国軍に襲われた時、彼らを攪乱したのは何とヒヲウの機巧人形で――と、ヒヲウとバート氏の因縁が語られることになります(が、それがヒドいオチなんだ…)

 雪に降り込められて飛び込んだ山奥の温泉宿で、謎の深編笠の客と出会ったヒヲウ一行。その深編笠の下はもちろんバート氏。既に開国後とはいえ、確かにこんな山中の宿に異人さんというのは珍しいわけで、タイトル通りの大騒ぎとなるのもまず頷けます。

 ヒヲウとシシは、第一話のアバンでシーボルトと出会っているわけですが、これだけ近くで異人さんと接するのは初めて。この辺りの拘りは全くないヒヲウはともかく、シシは初めはちょっと刺々しく当たるのですが…
 やっぱり人間、裸の付き合いが一番だよね! というわけで、場所も露天風呂というわけで一緒にお風呂に入ってたちまち仲良くなるバート氏と一行。
 風呂に入って、異人さんも自分たちと何も変わらない人間だと知るのは、ベタと言ってしまえばベタですが、ヒヲウやシシの子供っぽさがうまく働いて、スッと違和感なく入ってくるのはうまいものだと思います。
(しかし露天風呂といえばサービス! と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、ええ、ヒヲウとシシがばっちりサービスですよ。マユもサイはガッチリガードです)
 ちなみに今回、何だかとってつけたような理由で風呂に入らなかった華と雪ですが…

 と、ヒヲウの機巧に夢中のバート氏に面白くない顔なのは弟子の秀太郎。イギリスの蒸気機関は汽車として役に立っているのに、日本の機巧は役に立っていないと言い切りますが…
 それに対してサイが「機巧は私たちの誇りなんです。古くからこの国に伝わってきた、大切な物なんです」と言うのは、大人のサイらしくてわからないでもありませんが、ちょっと違和感。むしろヒヲウの「機巧は人を楽しませる。人の役に立ってるじゃないか」という呟きの方が、物語のテーマ的に叶った内容かと思います。
(が、本当にサラッと流された感があるのが残念)

 そんなこんなの中に襲ってくる今回の敵キャラは、島田敏声の風陣の刺客・ウツギ。
 蒸気機巧の弱点である水に対しても、二重構造で防水ばっちりという機巧を使い、入浴中の一行に襲いかかるのですが、本来の目的は華と雪なのに、バートを目撃してターゲットを変えてしまうのは、風陣という組織が機巧を使って攘夷を企んでいるという設定から不自然さはありません。
 まあ、炎サンダー(仮称)に機巧を倒されてあっさり撤退してしまうのですが…


 さて、一夜明けて無事旅立つバート氏ですが…彼の手の中にはヒヲウの機巧人形が。
 ヒヲウが彼の素顔を見るために、彼の部屋に潜り込ませた機巧人形。それが行方不明になってしまい、ヒヲウはずっと探していたのですが、それがここにあるということは…この異人さん、ヒヲウの機巧人形をいただいちゃってました。

 いやーこれはちょっとどうなんだろう。友情の証という理屈でヒヲウがプレゼントしたことでも良かったろうに…日本に対する当時の外国人の態度を端的に示した、ということでもないでしょうに、ちょっとひどいオチだったなあ…
 「日本にはいいものたくさんありますね」じゃない!


 と、最後にミソをつけてくれたバート・ファイブマン氏。日本の後に上海に行ったという辺り、ロバート・フォーチュンがモデルと思われます。
 フォーチュン氏、さすがに機巧人形は持ち出さなかったと思いますが、中国からインドにお茶の木を持ち出して、インドに紅茶産業を根付かせたあたり、やっぱり持ち出すのが好きな人だったのかもしれませんね。


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2010.03.13

「僕の世界」 時代小説はセカイを否定できるか?

 とある藩で同心を務める「僕」は、周囲との接し方に違和感を感じ、浮いた存在となりながら日々を送っていた。近習組の侍を刺殺した破落戸を追うことになった僕は、退屈しのぎに出かけた賭場でその男と出会うが、男は殺した侍の妻に複雑な愛情を抱いていた…

 先日、前島賢氏の「セカイ系とは何か」を読みました。セカイ系というヌエのような概念に対し、その成立から現在に至るまでをわかりやすく語った好著ですが、読みながら私の頭に浮かんだのが、実は本作でした。

 本作は菊地秀行先生の時代ホラー短編「幽剣抄」の一編。四冊目の短編集「妻の背中の男」に収録されている作品ですが、これが実はシリーズ中の他の作品と比べても、いや、時代小説全体の中でも、実にユニークな内容の作品なのです。

 本作の、町方同心が、ある侍を殺したやくざを追った末に…という内容自体は、珍しいものでは全くありません。
 しかし本作が通常の時代小説と全く異なるのは、物語を一人称で進めていく主人公「僕」が、彼の住まう「世界」に、大きな違和感を抱いている点にあります。

 江戸時代の社会のあり方、武士という生き方…その時代特殊の事象に対して、ある種イデオロギー的な見地から、あるいは内に抱えた虚無感から、登場人物が違和感を抱くというのは、これはさほど珍しいものではありません。
 しかし、「僕」が抱く違和感には、そうした明確な理由がありません。強いて言えば、「馴染めない」がゆえのものなのであります。

 時代小説のキャラクターは――実は未来人だったというオチでもない限り――その世界観は、彼が生きる時代に根付いたものであることは言うまでもありません。その世界に違和感を抱こうと、否定しようと、それはあくまでもその時代の人間の立場に限定されます。
 しかしながら、本作の「僕」には、そうした縛りはない。強いて言えば彼の視点は、現代人のそれに近いと言えますが、しかしそれは、単に書き手がヘボで現代の思考回路でしか小説を描けないというものでは、もちろんありません。

 思えば時代小説は、確たる「世界」の存在を前提に描かれます。それは(若干の改変は許されても)不変の存在であり、そしてキャラクターはみなその存在に疑いや違和感を抱くことがない…それが時代小説というジャンルです。
 それを前提の段階から否定しつつも、それでもなお時代小説として成立させる…そんなアクロバットを、本作は、「世界」を、その中で生きながらも、そこに強烈な違和感を抱く「僕」の視点から描くことで達成しているのです。

 先に述べたとおり、本作は「僕」の一人称で進められていきます。この世界に真から馴染めない彼の自意識を通すことにより、この「世界」を否定し、そしてそれにより、「僕」の抱く茫漠たる孤独感を――それは実は、全ての時代に生きる読者、つまり「僕」に共通のものなのですが――浮き彫りにしてみせる。
 私は後にも先にも、このような奇妙な時代小説を読んだことはありません。


 さて、冒頭に述べた「セカイ系」の中に本作が含まれるものとは、私はもちろん言いません。
 本作は、タイトルこそ共通項が感じられるものの、狭義でも広義でも、に該当するものではないでしょう。

 しかし、それでもなお、「世界」を捨象(否定)することにより自分の存在を捉えようとする――言い換えれば、そこに自分の居場所を見つけようとする――自意識の固まりである「僕」の存在は、セカイ系の根底に流れるものと、共通するものがあると、そう感じられるのです。

 牽強付会は百も承知、読んだ本にすぐ影響されおって…と思われても仕方のないことですが、それが作者の意図したことかどうかはどもかく(そして偶然ならばなおさら)、僕はこの共通項に、非常に心引かれるものを感じた次第です。

「僕の世界」(菊地秀行 角川文庫「幽剣抄 妻の背中の男」所収) Amazon
妻の背中の男―幽剣抄 (角川文庫)

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2010.03.12

「陰陽ノ京」巻の4 すれ違う心と陰陽の道

 化け百足騒動の余波で家に転がり込んできた時継に手を焼きながらも平穏に暮らす保胤。しかし友人の住吉清良の様子がおかしいと、彼の兄・兼良から伝えられる。清良には、彼を慕いながらも幼くして命を落とし、ある男の手で蓮の精と結びつけられて命を繋ぐ少女が憑いていたのだが…

 毎回バラエティに富んだ内容で楽しませてくれる「陰陽ノ京」の第四弾は、前の巻からぐっと趣を変えての悲恋もの。
 シリーズのレギュラーである住吉清良を中心に、切なくも悲しい人の想いが描かれます。

 住吉家の識神が嗅ぎつけた、清良の体から漂う資料の匂い…それは、かつて住吉家に仕えた男の娘であり、清良が妹のように可愛がってきた少女・蓮のものでした。
 事故であっけなく命を落とした彼女の心残りの一つである、余命わずかな父の世話をしたいという願いを叶えるため、ある陰陽師が彼女を式神として仮初めの命を与えたものですが――彼女の心にもう一つの心残りがあったことから、思わぬ騒動と相成ります。

 明確な悪人が登場することが少ない本シリーズですが、本作もまた、相手を思いやる心のすれ違いが、この騒動を引き起こすことになります。

 蓮に命を与えた陰陽師は、前の巻から登場している保胤の甥・賀茂光榮なのですが、彼とてもこのような事態は予想しておらず、彼なりの善意で行ったもの。

 その光榮に与えられた残りわずかな時間を賭して――己が鬼と化すことも覚悟の上で――清良への想いを実らせようとする蓮。
 蓮の想いに困惑しながらも、彼女を見舞った悲劇を心から悲しみ、守ろうとする清良。
 同じ女として蓮に同情し、思わぬ形で彼女に力を貸す時継…
 今回は脇に引いている保胤や兼良も含めて、皆の善意と愛情が、互いを縛る鎖となる…皮肉というにはあまりにも残酷な状況ではあります。

 本作の中では、自然にとって人の心は畢竟歪みでしかないと述べる部分があります。
 確かにそれは一面真実、自然に働きかけてその因果を曲げる陰陽の術による今回の事件は、その歪みの表れと言えるかもしれません。

 しかし――本作が人の心を単に悪しき存在として断ずるものではないことは、言うまでもありません。
 本作で描かれた保胤と仲間たちの姿、特にクライマックスでの清良を見れば、歪みを引き起こす人の心が、同時にその歪みを正し、超えることができると、そう教えてくれます。
 そしてその自然と人の心を結ぶ道こそが、おそらくはあるべき陰陽の道なのでしょう。


 分量的には中編(ただし、巻末には絵物語「絵草子 訃柚」を追加収録)、保胤もほとんど活躍しない番外編的内容の本作。
 しかし読後感は、紛れもなく本作が「陰陽ノ京」であり、そしてこれまでの長編に劣らぬ満足感を与えてくれるものであります。

 ちなみに番外編と言いつつも、本作ではこれまで謎に包まれていた時継の実家・伯家(いわゆる白川神道とは別もの…のはず)の秘密の一端が描かれます。
 時継の冗談のような世間知らずっぷりが、後半の展開で意外な形で生きてきたりと、作者の小説家としてのうまさも確認させられた次第です。

「陰陽ノ京」巻の4(渡瀬草一郎 メディアワークス電撃文庫) Amazon
陰陽ノ京〈巻の4〉 (電撃文庫)


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2010.03.11

「蒼きサムライ」 百五十年前の青春に見るもの

 水谷家の一人息子で元服したばかりの秀太郎は、先輩たちにからかわれながらも、剣の修行に励む毎日。そんなある日、剣術の師である杉田が、町で破落戸たちに袋叩きにあわされたという噂が流れる。師の汚名を濯ぐため、想いを寄せる師の娘・凛のため、秀太郎は先輩たちと真相を探るのだが…

 時代小説というと、どうしても比較的高い年齢層向けという印象がありますが、最近は、売り方次第では十分イケると気づいたのか、若い層をターゲットとした時代小説も、少しずつではありますが増えてきた印象があります。

 本作「蒼きサムライ」も、その一つと言えるでしょう。あまり「らしく」ないタイトルといい、ワカマツカオリ氏のイラストといい、若い層のアレルギーを刺激することなく、時代小説を手にとってもらおうという意図が感じられます。

 さて、そんな本作の舞台となるのは、江戸から離れたとある藩。元服したばかりの主人公・秀太郎の通う剣術道場の主が、町で破落戸に袋叩きにあったという事件をきっかけに、彼は大人の世界を垣間見ることになります。

 道場主の娘との叶わぬ恋の悩み、正しいことを主張すれば勝てるとは限らない大人の世界の仕組み、尊敬する先輩の裏切りへの疑い…
 ちょっとした(?)非日常的事件をきっかけに、突然それまでと全く異なる世界に放り込まれた主人公の心情の動きが、鮮やかに伝わってくるのには、好感が持てます。
(主人公の、強すぎず弱すぎず、目立ちすぎず埋没しすぎずな存在感が良い一方で、主人公の恋愛模様の描写は、ちょっと豪快過ぎるオチも含めてひっかかるものがなきにしもあらずですが、そこは好みの問題でしょう。)


 もっとも、本作に登場するキャラクターが、主人公をはじめとして、あまりにメンタリティが現代の若者のそれに過ぎる、という印象は強くあります(まあ、若い衆の考えてることは、いつの時代もそうそう違うとも思えませんが)

 この辺り、時代劇はちょんまげを載せた現代劇なのか(そしてそれで良いのか)という、ある意味永遠のテーマを否応なしに思い出さされますが、一つのツールとしての時代小説というものもあって良いのでしょう。
 現代に比べ、より制限の多い時代だからこそ、よりビビッドに見えてくる人間の心の動きを描くための――


 何はともあれ、本作は小説としてみれば、なかなか面白いものであることは間違いありません。終盤で、ある歴史的事件がひょいと顔の覗かせてくる趣向も好みであります。
 主人公の一人称が時々「僕」だったり、考証的にどうなのかなあ、と思う点は幾つかありますが…


 約百五十年前の若者の青春の中に、現代の若者が自分たちのそれを(一種逆説的ものも含めて)見出すのであれば、それはとても楽しいことだと思います。

「蒼きサムライ」(福田栄一 メディアファクトリーMF文庫ダ・ヴィンチ) Amazon
蒼きサムライ(MF文庫ダヴィンチ) (MF文庫ダ・ヴィンチ)

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2010.03.10

「竹島御免状」(感想・裏) 十兵衛の原動力は何処に

 前回に続き、「竹島御免状」感想。今回は裏面であります。
 今回もネタバレがありますのでご注意下さい。

 しかし…本作には大きな問題点が存在すると感じます。

 実は本作は、荒山柳生もののみならず、山田風太郎先生の名作「魔界転生」の続編としても描かれています。(「柳生忍法帖」、そして「柳生武芸帳」(!)の続編でもあるようですが)
 これは匂わすというものではなく、作中ではっきりと、荒木又右衛門が以前にも甦ったことがあると、その時の十兵衛との戦いの模様まで描かれているのですから間違いありません(躇錯剣に触れないレベルではありますが)。

 …が、これは別に構いません。ちょっとどころではないやりすぎ感はありますが、自作が実は他の作家の作品に繋がっていくという趣向は、山風先生ご本人もしばしば使っていたものであり、私としてもそういう趣向は嫌いではない…というより大好物であります。


 しかし、本作でどうにも受け容れがたいのは、その本来お遊び、読者サービスであるはずの部分が、本作の主人公の一人である、柳生十兵衛の行動原理にかなり密接に関わっている点であります。

 本作の十兵衛は、いまだ矍鑠たる剣の達人でありながらも、人としては、かつて愛した者も、友も、敵すらも全て失った、老残の身。その十兵衛が、かつて死闘を繰り広げ、そしてその時にアクシデントに近い勝ちを拾った強敵と再度相まみえた時、彼との対決に己の残された全てを燃やすことは、無理もない話――いや、大いに盛り上がる展開であります。
 …それが自作の中のみで築かれた設定であれば。

 主人公を動かす想いの源となるところ、主人公が最後の対決に向かう原動力を、他の作家の作品に求めるというのは、小説としていかがなものでしょう。
 「魔界転生」自体がそういう作品、という声はあるかもしれませんが、あちらはそれ自体を物語の主軸に据えた点で、作中の要素の一つに留まる本作とは異なると考えます(そしてその一要素に、突然クライマックスでクローズアップされた感にも違和感はあるのですが…)。

 もちろん、荒山先生の山風作品、山風十兵衛に対する愛情と敬意を疑うものでは全くなく、「死なない剣豪」vs転生衆というアイディアも実に面白いと思うものではありますが――しかし、これは自分で自身の価値を下げてる行為ではありますまいか。

 本作には他にも、ネタを投入しすぎて物語の統一感に欠ける点や、終盤に敵の企みの全容を一人のキャラに全て語らせてしまうという点などの問題点はありますが、それは荒山作品にはまま見られる点であり、そこは一種持ち味と解釈しても良いでしょう。
 しかしこればかりは――


 これはあくまでも作品の一要素であって、そこに目くじらを立てる私がおかしいのかもしれません。
 しかし、荒山作品のパロディもシリアスも一緒くたの無茶苦茶な味わいを愛するからこそ、本作を、一個の荒山先生自身の作品として(本当に大袈裟に言えば)成立させないような使い方は、残念というほかありません。

 前回述べたとおり、なまじ荒山ファン、時代伝奇ファンには実に面白い作品であるだけに、この点が大きく気になってしまったことであります。


「竹島御免状」(荒山徹 角川書店) Amazon
竹島御免状


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2010.03.09

「竹島御免状」(感想・表) 荒山柳生サーガ最新作にして集大成!

 鳥取藩に潜入していた裏柳生が、柳生に急報をもたらす寸前、惨殺された。柳生十兵衛は、その下手人の中に驚くべき者を見る。それと期を一にして、剣豪陰陽師・柳生友信は朝鮮妖術師の日本侵入を察知する。かつて領有権を巡り日本と朝鮮が一触即発となった「竹島」を巡り、奇怪な戦いが始まろうとしていた…

※以下の記事はネタバレを含みます。
 その大胆極まりないタイトルに、荒山ファンの間で期待が高まっていた「竹島御免状」がついに刊行されました。
 隠岐諸島の北西方に浮かぶ竹島――ちなみに江戸時代にこう呼ばれた島は現在の鬱陵島であり、現在竹島と呼ばれるのは当時の松島であります――とその漁業権を巡り、日本と朝鮮が双方の主張を戦わせた竹島一件から四年後の元禄六年、竹島を巡り奇怪な陰謀を巡らす敵の一団に、齢九十一の柳生十兵衛と、あの柳生友景の曾孫・友信が立ち向かうこととなります。

 …と、サラッと書いてしまいましたが、今回の主役コンビは荒山ファンであれば驚愕&歓喜の組合せであります。

 これまでも様々な荒山作品に登場してきた十兵衛ですが、本作の十兵衛は、「柳生薔薇剣」「柳生百合剣」に登場した十兵衛と同一人物(いやそれどころか…)
 慶安三年に死んだはずの十兵衛が、元禄六年に何故生きているのか、という点も含めて、当代最も十兵衛に偏愛を注いできた作者ならではの十兵衛造形であります。

 そしてもう一人の主人公・柳生友信は、「柳生陰陽剣」で主役を務めた柳生友景の曾孫であり、そして十兵衛の孫娘・典矩の夫。
 チートキャラだった友景に比べればおとなしいですが、それでも四体の式神を操る陰陽師にして、十兵衛の薫陶を受けた遣い手という剣豪陰陽師であります。
(にもかかわらず、今は典矩と駆け落ちした先の深川で、占い師で糊口をしのぐ十三人の子持ちという設定が色々とおかしい。先生、次は文庫書き下ろしで人情ものを書く気ではありますまいか)

 このある意味最強タッグの敵となるのは、もちろん(?)朝鮮妖術師――のみならず、三人の剣豪。
 その名も柳生五郎右衛門、荒木又右衛門、深尾角馬…この名前を見ただけで共通点に思い至った方はかなりの剣豪ファンかと思いますが、それはさておき、物語の時点で既に故人であるはずの三剣鬼が、強敵として立ち塞がるのです。
(今回使われたある共通点しばりで剣豪を集めるというアイディアはちょっと見たことがなく、感心しました)

 妖術あり、チャンバラあり、大怪獣バトルあり、水戸のご老公あり…毎度毎度のことながら、自分が面白いと思ったものを歯止めをかけずに投入しまくったかのような本作――
 言うなれば、荒山柳生サーガ最新作にして、集大成。荒山ファンであれば必読としか言いようがない怪作/快作なのであります。

 しかし…(裏に続く)


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2010.03.08

「変身忍者嵐」第34話 「謎のにせ嵐出現!!」

 姫路城乗っ取りに必要な抜け道が載った忍者大秘巻を狙うゴーレムは、嵐に化けて城の家臣たちを次々と殺害。城下を訪れたハヤテは、下手人として捕らえられてしまう。嵐に化けてタツマキから大秘巻を奪おうとするゴーレムだが、ツムジに本物との違いを見破られ、さらに本物の嵐もそこに見参。ゴーレムを追い詰める嵐だが、そこに復活したドラキュラ・フランケン・狼男が出現。一転して嵐は絶体絶命の危機に…

 今回は久々の前後編の前編。姫路城を舞台に、ニセ嵐の出現に強敵ゴーレムとの対決、そして復活した西洋妖怪たちの出現と、なかなか充実した内容です。
 西洋妖怪の狙いは、ハヤテたちの持つ忍者大秘巻地の巻…なのは毎度毎度のお話ですが、今回一味違うのは、大秘巻そのものが目的ではなく、その大秘巻に記された抜け道を使って、姫路城を乗っ取ろうという大目的があること。
 何故姫路城かと言えば、西の備えである姫路城を奪って日本を分断し、東西それぞれを征服していこうという理由もあって…なるほど、なかなか理に叶った作戦です。

 その作戦遂行に当たるのが砂漠の妖怪ゴーレム。大秘巻を奪うのなら、姫路城近くまで誘き寄せて…というわけで、嵐に変身して城の侍たちを惨殺(現在では普通の時代劇でもなかなか見れない結構えぐい殺害シーン)し、さらにハヤテを密告して役人に捕らえさせて動きを封じてしまおうという寸法です。
(ちなみに普段礼儀正しいハヤテにも似ず、牢に入れられた時の対応が結構感情的だったのは、さすがに腹に据えかねたのかしらん)

 ここでなかなか用心深いゴーレムは、差し入れの弁当に毒を入れてハヤテに食べさせるのですが…馬を殺すという猛毒も「忍者はどんな毒にも平気な訓練をしてあるのだ!」の一言で無効化するハヤテさんさすがです。

 さて、特撮ヒーローものにはお馴染みのニセ者作戦ですが、これがゴーレムの化けたニセ嵐は、遠目には全くわからないほどそっくりという、ある意味掟破りの完成度の高さ。
 本物と違うのは、マフラーの結び方と羽根の紋が逆という実に些末なもので、これは見破ったツムジが見事というべきでしょう(ちなみに私は、マフラーの色が本物と違って趣味の悪い紫じゃん、とか思っていたのですが、本物も紫だったという…)。

 そんな二人嵐対決は、本当にどっちがどっちかわからない状態なのですが、しかしそれが緊迫感を高める効果をあげているのは、たぶん偶然とはいえ実に面白い展開です。

 そして倒れる片一方の嵐…もちろんそれはゴーレムの方、普段であればここでめでたしめでたしですが、しかしそこにゴーレムに意外な助っ人が!
 悪魔道人の秘法で復活した三大妖怪(別名怪物くんのしもべトリオ)の猛攻のために…というか、頭上から落ちてきた網のために戦闘力を失った嵐は、ただ敵に蹂躙されるがまま。
 ああっ、ドラキュラの牙が嵐に! というところで次回に続くのです。
 そして次回は更なる新妖怪が! これはかなりの盛り上がりが期待できそうであります。

 ちなみに今回のゴーレム、斬られても断面から粘土がニュルニュル出てきて再生してしまうなど(相当気持ち悪いビジュアル)、能力的にはかなり雰囲気が出ているのですが、ビジュアル的に小太りのおっさんがラクダシャツを着ているようにしか見えないのはいかがなものか…


今回の西洋妖怪
ゴーレム
 粘土から生まれる妖怪。指から出す砂で目潰しする「地獄の砂」、その砂の中に引きずり込む「蟻地獄」など、砂を操る。また怪力を持ち、足踏みしての「ゴーレム地震攻め」で地震を起こす。斬られても粘土のためすぐに繋がってしまう。
 自在に他人に化ける能力を持ち、嵐に化けて悪事を働き、嵐に罪を着せた。

ニセ嵐
 ゴーレムが化けた嵐のニセ者。マフラーの結び方と羽根の紋が逆なこと以外は本物と変わらない姿を持つ。剣技では本物に変わらず、首を切り落とされるが…


「変身忍者嵐」第3巻(東映ビデオ DVDソフト) Amazon
変身忍者 嵐 VOL.3 [DVD]


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 「変身忍者嵐」 放映リストほか

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2010.03.07

「機巧奇傳ヒヲウ戦記」 放映リスト&キャラクター紹介

 お話の上ではちょっと一区切りですので、「機巧奇傳ヒヲウ戦記」の放映リストとキャラクター紹介をここで。
 放映リストから、各話レビューに飛べます。(全話見終わっての感想はこちら

<放映リスト>

話数 

放映日

サブタイトル

脚本

絵コンテ

演出

 01 00/10/24 走れ! 炎 會川昇 アミノテツロー 佐藤育郎
 02 00/10/31 見よ! これが機巧だ 會川昇 アミノテツロー 佐藤育郎
 03 00/11/07 敵討ち!? 幕末英雄登場 會川昇 アミノテツロー 西森章
 04 00/11/14 勝つか負けるか! アラシ対ヒヲウ 會川昇 アミノテツロー 岡本英樹
 05 00/11/21 さいなら? テツとこけし 荒川稔久 森邦宏 森邦宏
 06 00/11/28 目指せ! 山の彼方へ 五武冬史 赤根和樹 渡邊哲哉
 07 00/12/05 守れ! 秘密の華と雪 會川昇 西森章 佐藤育郎
 08 00/12/12 裏切り? 雪山に消えたマチ 稲荷昭彦 錦織博 増井壮一
 09 00/12/19 激闘! 父ちゃんはどこだ 會川昇 森邦宏 森邦宏
 10 01/01/09 唐人だ! 雪の宿は大騒ぎ 五武冬史 伊東伸高 岡本英樹
 11 01/01/16 なぜ? 機巧嫌いの男 會川昇 錦織博 佐藤育郎
 12 01/01/23 天誅! 正しいのは誰だ 稲荷昭彦 西森章 山田弘和
 13 01/01/30 ちぇすと! 魔界京都に刃が光る 會川昇 森邦宏 森邦宏
 14 01/02/06 でかい! 魔界に眠る天狗の剣 會川昇 錦織博 政木伸一
 15 01/02/13 泣くな! ハナ 名田寛 Nichola Hayes 佐藤育郎
 16 01/02/20 渡れ! 激流を越えて 稲荷昭彦 西森章 寺崎智史、有江勇樹
 17 01/02/27 会えた! 悲しみの始まり 會川昇 笹木信作 佐藤育郎
 18 01/03/06 嘘! 父の見た夢 會川昇 西森章 岡本英樹
 19 01/03/13 危うしヒヲウ! カラクリの三剣城 五武冬史 森邦宏 森邦宏
 20 01/03/20 父よ! 旅立ちの時 會川昇 錦織博 政木伸一
 21 01/03/27 風雲! 馬関海峡 會川昇 水島精二 佐藤育郎
 22 01/04/03 行くな華! 子どもたちの戦場 會川昇 西森章 岡本英樹
 23 01/04/10 聞こえるか? 炎の声が 會川昇 笹木信作 小山田桂子
 24 01/04/17 燃えよ! 父ちゃんの機巧 會川昇 森邦宏 森邦宏
 25 01/04/24 舞え! 俺たちの祭 會川昇 西森章 黒木らう
 26 01/05/01 さらば龍馬! やがて東京と呼ばれる町へ 會川昇 アミノテツロー 佐藤育郎


<登場キャラクター>(カッコ内はキャスト)

ヒヲウ(桑島法子)
 本編の主人公で「機の民」の少年。好奇心旺盛で、無鉄砲で行動力に溢れるが、泣き虫でテンションが高まるとすぐ泣く。
 村に伝わる伝説の機巧・炎を復活させ、父・マスラヲの後を追って旅に出る。炎ではシシとともに操縦を担当。

マチ(水橋かおり)
 ヒヲウの幼なじみの「機の民」の少女で村長の娘。負けん気が強いがヒロインとしては影が薄い。

シシ(愛河里花子)
 ヒヲウのケンカ友達の「機の民」の少年。血気盛んで、両親の敵討ちに逸ったこともあった。
 炎ではヒヲウとともに操縦を担当。

サイ(飛田展男)
 ヒヲウの兄でマスラヲの長男。優しく沈着冷静、思慮深い性格で、最年長として炎一行のリーダー役を務める。

マユ(矢島晶子)
 ヒヲウの姉でマスラヲの長女。優しくおっとりとした性格だが、いざというときは翼機巧などで活躍する。

テツ(鉄炮塚葉子)
 ヒヲウの弟でマスラヲの三男。まだ片言しか喋れないが、好奇心旺盛。
 炎では発電役。

ジョウブ(南央美)
 ヒヲウの弟でマスラヲの四男。お尻の青い赤ん坊で、炎一行で最年少。
 炎では重し役?

(池澤春菜)/(南央美)
 新月藩の姫。母を風陣に殺され、国元へ向かっての旅の途中でヒヲウたちと出会い、行動を共にするが…

アラシ(三木眞一郎)
 機巧を戦のために使う集団・風陣の頭目の息子。ヒヲウと炎に打ち勝つため、三人の子分を引き連れて執拗に勝負を挑む。

才谷(井上和彦)
 ヒヲウたちの前に現れた飄々とした浪人。マスラヲの友人でもあり、炎一行と同行して彼らを見守る。
 その正体は坂本龍馬。

マスラヲ(大滝進矢)
 ヒヲウたちの父で、優れた腕を持つ「機の民」。新しい技術を求めて諸国を旅しているが…
 天保期には蛮社改所の面々とも関わりがあった。


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2010.03.06

「白疾風」 風は、再び吹く

 かつて「疾風」の異名を取った伊賀の忍び・三郎は、今は忍びを捨て、妻の篠とともに、武蔵野で農地を開墾して暮らしていた。そんな中、村を束ねる平蔵が、武田の隠し金山の在処を隠しているとの噂が流れ、村に次々と怪事が起こる。村を守るため、再び疾風が立ち上がる…

 先年惜しくも亡くなられた北重人先生は、作家デビューこそ遅かったものの、その分、これまでのご自身の人生経験を反映したかのような、味わい深い作品を発表してきました。
 本作「白疾風」は、ジャンルでいえば伝奇もの、忍者ものと言えますが、しかし作中で描かれる空気感は、やはり北作品と言うべきものが、色濃く感じられるのです。

 本作の主人公・三郎は、かつては凄腕の忍びとして活躍しながらも、秀吉の小田原攻めを最後に忍びを辞め、同じく忍びだった妻・篠とともに、老境にさしかかった今は、静かに農民として暮らす人物。
 そんなある日、協力して開墾を行ってきた元・武田家の武士の家に、武田の隠し金山――大久保長安ゆかりの黄金の手がかりがあるという噂が流れ、少しずつ、少しずつ、平穏だった村の生活に、歪みが生じていきます。
 三郎は、かつての仲間たちの協力を受けつつ、敵の姿に一歩一歩迫っていくのですが…

 既に戦いの場から退いたかつての戦士が、己の生活を守るため、再び立ち上がるというのは、アクションものの一つのパターンではあります。
 しかし、本作では、そこに至るまでの三郎たちの日常と、そしてそれを取り巻く武蔵野の自然の姿を丹念に描くことにより、単なるアクションもので終わらない、滋味溢れる物語が展開されていると言えます。

 特に、かつては食うか食われるかの苛烈な戦いの世界に身を置きながらも、今は篠と二人、土とともに暮らす三郎の姿には、一種澄み切った安らぎとも言えるものが感じられるのです。
(特に、物語の後半で語られる二人の互いに抱く想いが語られる場面の描写が実に良い)

 この辺りの描写は、やはり若い作家にはおそらく難しい部分、人生経験を積み重ねてきた者の筆によるものと言えるでしょう。

 そしてまた――この安らぎの世界が描かれるからこそ、それを壊そうとする者たち、利用しようとする者たちに対して、三郎が安らぎを捨ててまで立ち上がることに、説得力とカタルシスが生まれます。

 個人的な趣味で言えば、ラストの展開はもうちょっと別の形にならなかったのかという印象は強くあります。
 しかし、結末に至り、三郎と、我欲に動いた者たちの対比がより明確になったことは間違いなく、これはこれで納得のいく結末ではあります。

 諸国を吹いた風は、ついに留まるべき地を見つけたのですから――

「白疾風」(北重人 文春文庫) Amazon
白疾風(しろはやち) (文春文庫)

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2010.03.05

「危機之介御免 ギヤマンの書」第2巻 未来之危機 一件落着

 天下のフリーター・危機之介こと富士見喜亀之介と仲間たちが考証無用で暴れまくる「危機之介御免」の第二部「ギヤマンの書」の第二巻にして完結編が刊行されました。
 ギヤマンの書、すなわち「ターヘル・アナトミア」を巡る争いは、江戸の運命を巡る戦いにまでスケールアップいたします。

 警護を引き受けたオランダ商館長を守れず、お尋ね者としてターヘル・アナトミアを懐に逃避行を余儀なくさせられた危機之介。
 親友の柳生十三は実家に逼塞させられ、兄の富鶴之介は瀕死の重傷。後ろ盾の田沼意次も政敵の一橋治済に追い詰められた上、本所の鐵率いる先手組は敵に回り、さらには謎の南蛮人暗殺者も迫る…と、冷静になってみれば古今未曾有の危機であります。

 それにとどまらず、江戸を襲うバイオレンシアの嵐――
 本書の帯には「江戸消滅か危機解決か」とあり、最初に見た時はまたずいぶんと大袈裟な、と思ったのですが、それが実は大袈裟でなかった! というのにはさすがに驚かされました。

 しかし、もちろん、危機に陥ったからとて逃げ出すような危機之介ではありません。
 相変わらず表情はどこかアンニュイですが(ってこれはもしかして作画のタッチが変わっただけかしらん)、第一巻での最大の不安要因だったあの弱気さはさすがになりを潜めてくれたのは実に嬉しい。

 これまでと同様、決して刀を抜くことなく、機転で状況を打開し(今回はウタの絵の使いどころが実に痛快)、危機を収めてみせる…頼もしい仲間たちとともに。


 もちろん、前途はまだまだ多難ではありますし、危機之介が第一巻で抱え込んだ悩みの全てが解決したわけではありません。
 しかし、今回の弱音の象徴ともいえる「災い」という言葉を、最後の最後で叩き返してみせる姿を見れば、彼の、彼の仲間たちの未来も、信じることができるでしょう。

 思わぬところで「未来之危機」でしたが、まずは一件落着。
 巻末の後書きを見るに、これでシリーズ全体の完結のようではありますが、いつかまたどこかで会うことができれば本当に嬉しい――そんな結末であります。

「危機之介御免 ギヤマンの書」第2巻(海童博行&富沢義彦 アスキー・メディアワークス電撃コミックス) Amazon


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2010.03.04

「コギャル忍者・萩王見参! 富士魔界篇」 人外魔境に忍者舞う?

 言葉遣いに少々問題アリの伊賀忍者・観音萩王は、統領の百地丹波から、甲斐の武田信縄の下で任に就くよう命じられる。そこで思わぬ成り行きから、富士山麓に存在するという幻の黄金郷・家基都之宮の探索に向かうことになった萩王。おかしな面々と旅に出た萩王が、家基都之宮で見たものとは…

 時代小説作家がライトノベルも書く、というのはさほど珍しいことではありません。この「コギャル忍者・萩王見参! 富士魔界篇」の作者・沢田直大氏は、学研M文庫でイキのいい忍者ものを幾つも執筆されていた、沢田黒蔵氏の別ペンネームであります。
 当然(?)、ライトノベルでもユニークな忍者ものが書かれるもの、と思いきや、これが蓋を開けてみれば実は…という一種の怪作なのでした。

 あまりに印象的なタイトルロールとなっている主人公の美少女忍者・萩王は、霊術を得意とする伊賀忍者。
 忍者にしては脳天気な性格と、「○○だけどー」「△△だしー」と語尾を伸ばす喋り方(任務で横浜に滞在しているうちに訛ってしまった、という素晴らしい設定。うむ、理に叶っている…?)から、統領の百地丹波からは三歳児呼ばわりされるような問題児であります。

 その萩王が、甲斐の守護・武田信縄(信玄の祖父)の依頼で向かうことになったのは、禁断の地とも黄金郷とも地元に伝えられる家基都之宮なる地。
 かの新田四郎が迷い込んだ富士の人穴の、そのまた先にあるという伝説の地を探るため、萩王は、中年ダメ忍者・武田家の剣士・土地の子供・謎のカエル忍者というおかしなパーティーで探索行に向かってみればそこは!

 …というわけで、実は本作は、キャッチーなノリの忍者ライトノベルの皮を被った、秘境冒険もの・人外魔境ものとも言うべき作品なのです。

 迷い込んだ人間の感覚を狂わせる樹海、地底に広がる人穴の脅威はまだまだ序の口、ついに彼女たちが辿り着いた家基都之宮に待っていたのは、異形の怪物の群れと超古代文明の遺跡――

 かつてはエンターテイメントの世界で一ジャンルを形成しながら、いまや時代伝奇もの以上に滅亡の危機に瀕している秘境冒険ものを、こういう形で描くという手があったか! と、思わぬところで旧友に再会したような、嬉しい驚きを味わいました。


 内容的には、古史古伝色が相当強く、終盤の展開も萩王の神懸かりっぷりにちょっと引く部分はあるのですが、今日日(といってももう十年近く前の作品ですが…)本当に珍しい秘境冒険ものとして――そしてそれを時代伝奇ものとリンクさせて――成立させてみせたことは、大いに評価すべきかと思います。
 個人的には、忍者・秘境・怪物・武田・超古代…とくると、宮崎惇先生の「魔界住人」を思い出してしまうのですが、それはマニアの僻事かな。

「コギャル忍者・萩王見参! 富士魔界篇」(沢田直大) Amazon

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2010.03.03

三月の時代伝奇アイテム発売スケジュール

 いくら二月は短いとはいっても、うっかりしているうちにもう終わって三月に入ってしまいました。遅ればせながらで恐縮ですが、三月の時代伝奇アイテム発売スケジュールであります。(敬称略)

 小説の方は、一時期に比べればそれなりのラインナップ。一番の注目は、第一巻が実に面白かった築山桂「浪華疾風伝あかね」の第二巻と、前の巻がもの凄いヒキで終わった「若さま同心徳川竜之助」の第十巻(!)でしょうか。かたや青春もの、かたや奉行所ものの側面を持ちつつも、伝奇性濃厚なシリーズですので、非常に楽しみです。

 また、文庫化の方では大佛次郎「ごろつき船」の復刊がちょっとした驚き。だいぶ以前に徳間文庫で出て以来、入手困難な作品でしたので…
 その他、二月に前半が刊行された「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」は後半二巻が刊行されて完結、一月に「堀割で笑う女」が文庫化された輪渡颯介「浪人左門あやかし指南」シリーズ第二弾「百物語」も文庫化です。

 単行本の方では、「陣借り平助」シリーズの最新刊「天空の陣風」や、「御隠居忍法」シリーズの最新刊「魔物」も気になるところです。


 漫画の方では、何と言っても楽しみなのは神宮寺一&遠藤明範の「幕末めだか組」の初登場。幕末の神戸海軍操練所を舞台とした青春ものです。なかなか単行本が出ない…とやきもきしていたら、一・二巻同時刊行とのこと。
 その他続巻ものも充実。山口貴由「シグルイ」第十四巻、たかぎ七彦「なまずランプ」第三巻、平松伸二「戦国SANADA紅蓮隊」第二巻、武村勇治「義風堂々!! 直江兼続」第六巻と刊行されるほか、日高建男&京極夏彦「巷説百物語」の最終第四巻も刊行されます(できれば「後…」以降もやってほしかった…)

 また、近代もの(?)としては、東冬「嵐ノ花 叢ノ歌」、霜月かよ子&柳広司「Dの魔王」のそれぞれ第二巻が登場。後者は伝奇じゃない? ごめんなさい。
 そしてもひとつ、「コミック怪」誌で本格連載が始まった山崎峰水&大塚英志の「黒鷺死体宅配便」の番外編「松岡國男妖怪退治」も発売。相変わらず大活躍ですね、柳田先生…(あと笹山さん)。


 映像作品は…今のところ「殿といっしょOVA」くらいでしょうか。GACKTさんはすごいなあ。眠狂四郎も気になります…


 そしても一つ、時代伝奇もの以外では、やはり気になるのは富野由悠季の「リーンの翼」の新版。旧版はあまり好きではなかったのですが、今回はOVA版のエイサップ君の話も小説化されるというので見逃せないところです。こんな記事も書きましたしね…




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2010.03.02

「戦国ゾンビ 百鬼の乱」第4巻 ゾンビの恐怖は何処に

 ついにゾンビ出現の原因も判明し、物語も終盤に至った感のある「戦国ゾンビ」第四巻。
 しかし、武田信勝と赤葬兵の周囲は敵また敵…まだまだ彼らに安息の時は訪れそうにはありません。

 天目山地下に築かれた城塞で、山本勘助から鬼人(ゾンビ)の正体とその意外すぎる目的を聞かされた一行。
 しかし時既に遅く、最強の武人・本多忠勝ら徳川軍が突入し、さらに地下城塞で実験台とされていたゾンビも軛を離れ暴れ出すことに(この辺りはゾンビものの定番の一つですな)。

 時代伝奇ファン、忍者ファンには嬉しくも意外な新メンバーを加え、ようやく天目山から逃れた一行が、越後に向かう途中に迷い込んだのは、奇怪な教団が支配する村。
 後方からは徳川軍が迫る中、囚われの身となってしまった一行の運命は…

 といったこの巻の展開ですが、正直に言わせていただけば、残念ながら、これまでの勢いにストップがかかってしまった、という印象があります。

 その一番の理由は、ゾンビが物語の(恐怖の)中心でなくなってしまったことでしょう。
 ゾンビの正体が判明し、そしてゾンビが犇めく閉鎖空間から脱出してしまったこと(この脱出という要素、これだけで、THE ENDとなるゾンビものもあるくらいの一大目的であります)。
 そして、ゾンビなど歯牙にもかけぬリアル無双キャラ・忠勝の登場…

 既にゾンビが本作における役割の大半を終え、ほとんど障害物状態となったことで、本作のテンションが、ずいぶんとトーンダウンしてしまったと感じます。
(今回登場した邪教徒の村も、とってつけたようなエロ描写も相まって、違和感ばかりが強く残ります)

 もちろん物語の盛り上がりには山も谷もあるのは承知の上。これからおそらくは最後の山に向けて一気に上り詰めていくものと期待していますが…
 天目山での死闘を越える盛り上がりを見せることが出来るかが、本作全体の評価にも関わってくるかもしれません。


 ちなみにこの巻の冒頭では、バカ時代劇(褒め言葉)定番のあの武器が登場。
 やっぱり戦闘は火力だねえ、とすっかり嬉しくなってしまいました。

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2010.03.01

「変身忍者嵐」 第33話「ヒマラヤの死神!!」

 霧の野原に潜み、人々の魂を食らう死神妖怪ワーラス。その噂を聞きつけたハヤテ一行だが、ワーラスに操られる異国娘リタに騙され、ツムジが捕らわれてしまう。それを追うハヤテとタツマキは、ワーラスの南蛮屋敷に乗り込み間一髪ツムジを救うが、死者の魂を操るワーラスに苦しめられる。月の輪の助けでワーラスと一騎打ちに持ち込んだ嵐は、妖術に苦戦しつつも、嵐岩石通しでワーラスを倒すのだった。

 まだまだ続く忍者大秘巻争奪戦(というか、ハヤテの持つ地の巻を狙って襲来する西洋妖怪との対決編)、今回の敵は、ヒマラヤから来たワーラスであります。
 白髪を生やした腐ったミイラのようなビジュアルが(いい意味で)厭な妖怪で、歪んだ口から覗く乱杭歯など、ある意味水木妖怪の忠実なビジュアライズという印象なのですが、どうもこの妖怪、水木先生由来の様子。

 手元の資料で調べてみると、カンボジアのアンコールワットの壁に彫り込まれている妖怪で、アンコールワットに危機が迫ると実体化して暴れ出すという、大魔神のカンボジア版みたいな妖怪として描かれています。
 設定(設定いうな)的にも、むしろ牛男っぽいビジュアル的にも、全然本作のワーラスとは異なりますが…

 それはさておき、このワーラスはなかなかの強敵。野原の一角に霧で包まれた死の世界を造り出し、迷い込んだ者を追い詰めた挙げ句、その魂を食らうという、まさに死神の名に相応しい、イヤ~な妖怪です。
 また、かつて食らった者の魂を操って自分の戦闘員代わりに使ったり、さらにははるばる中国(たぶん)から自分の命を狙ってきた異国娘・リタを脅して自分の手足として使うなど、さすが二千年生き続けてきたというだけあって悪知恵も働く。

 クライマックスの嵐との対決では、白髪と髑髏で嵐の動きを封じ(ワーラスの操る髑髏は、たぶん白髪だと思うのですが、脊髄にも見える尻尾がついていてとても怖い)、殴る蹴るの暴行を加えて嵐がグッタリするまで追い詰められる有り様であります。
 これはたぶん変わり身の術か何かで逃れるのだろう、と思っていたら、本当に嵐がグロッキーになっていたのには驚きました。何げに最強クラスだったのかも…

 しかしワーラスの優勢もそこまで。最後の力を振り絞った嵐に、力の源である白髪をむしり取られ…
 ってその白髪はヅラだったのか!? お前はギル太子か! と突っ込みたくなりますが、とにかく頭が寂しくなった状態で逃げるところを、空中回転から刀を投じる嵐岩石通しでワーラスは粉砕されるのでありました。

 ちなみに、こういう時に悪の手から逃れて自由の身になるポジションのはずのリタは、途中でワーラスに魂を喰らわれてそれっきり…あんまりです。


 そうそう、今回の月の輪は、ワーラスが操る死霊兵士三人を向こうに回し、ほとんど初めての大立ち回り。
 短めの刀を逆手に持っての殺陣がなかなか格好良く、最近「クラーム!」の叫びを聞くと胸がときめく私のような人間には嬉しいプレゼント(?)でした。


今回の西洋妖怪
ワーラス
 ヒマラヤからやってきた死神妖怪。死の世界を造り出し、迷い込んだ者の魂を喰らって二千年生きてきた。犠牲者の髑髏や自分の白髪をまといつかせて相手の動きを封じ、口からは火の玉を放つ。また、白髪は鞭にもなる。
 白髪で嵐の動きを封じて袋叩きにし、一度は敗北寸前まで追い詰めるが、一瞬の隙を突かれて力の源である白髪を奪われ、逃げるところを嵐岩石通しで貫かれた。


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