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2010.04.30

「書家」 画仙道術が描いたものは

 江戸の町を騒がせる怪物・画獣。江戸を守る画仙道術使いの頭領・十文字は、これに抗するため「書家」墨屋紙朗らを呼び寄せる。旅の途中、謎の敵に襲われた紙朗は、敵を追っていった先で同じ書家の紙巻巻平、絵名と合流する。そこに出現した巨大な鬼の画獣を倒した三人だが、画獣たちを操る書家・黒染源との戦いはまだ始まったばかりだった…

 2002年から、「明日のアニメ界で活躍する人材の発掘」を主旨としてシナリオを募集しているアニマックス大賞。その第七回大賞受賞作が本作「書家」であります。

 舞台は江戸時代、漢字を書いて力を引き出す能力者が江戸を守るという設定を耳にしたときは、これはどう考えても「天保異聞 妖奇士」だろ…と、色々な意味で興味を持ちましたが、実際に見てみれば、当然のことながら、あちらとは全く異なる味わいの作品でした。

 本作の中心になるアイディア・画仙道術とは、書く/描くという行為や、そのための道具を用いた術の総称。その術の効力の対象となるのは、文字のみならず絵画、いやそれらを記すための紙までも含まれるというのが実に面白い。

 自ら書いたものが効果を発揮するというのは、対象を象徴する漢字の力を引き出す「妖奇士」の漢神よりも、むしろ「侍戦隊シンケンジャー」のモヂカラに近いものがありますが、己の属性が定められているモヂカラに比べると、描いてしまえば何でもありな本作の方が、より自由なイメージがあります。

 その画仙道術の力を描いて出色だったのは、書家の一人・巻平と、カラクリダルマの対決シーンでしょう。
 いわゆる巨大ロボとして無茶な攻撃を繰り出すダルマに対し、紙使いである巻平は、紙をハリセンやドリル(!)に変えて対抗。形を作れさえすれば何でもあり、と言わんばかりのアクションには、本作の魅力を最もよく表していたかと感じます。

 が、その一方で、主人公である紙朗の能力は、空間が文字が浮かび上がる程度のエフェクトで、彼ならではの面白みが感じられなかったのが正直なところ。
(声を当てた中尾明慶はかなり頑張っていて、これは拾いものだったのですが…)

 その意味では、画獣の絵を町中に貼っておいて後で実体化させるという、敵側のテロ行為の方が、うまく能力の特性を描いていたと感じます。


 その辺りを考えると、結局のところ、よくまとまったOVA第一話もしくはパイロット版という印象となるのですが、しかしそれはそれで一つの立派な成果であることは言うまでもありません。

 個人的には、よくまとまっていただけに、そこに時代ものとしてのフックを入れ込むことも可能だったのでは…と感じてしまうのも正直なところではありますが、しかし、本作は、元々時代ものをやりたかったというより、やろうとしていたことを表現するのに時代ものが適していたということなのでしょう。
 こうした、手段としての時代ものというのも、それはそれでアリなのではないでしょうか。

 なお本作では、「書く」ということから連想してか、手書きタッチの描線となっているのも特徴の一つ。
 特に人物のビジュアルに関してはこうした場だからこそできる実験的な作風であったかと思います。しかしそれだけに、よりアニメーションとしての「動き」を意識させる描写となっていたのも興味深いところでありました。


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2010.04.29

「佐和山物語 君と別れのくちづけを」 希望に繋がる別れという道

 佐和山を訪れていた徳川秀忠が突然人事不省となり、暗殺未遂の嫌疑で捕らえられてしまった井伊直継。ようやく元いた世界に戻る方法を見つけたあこは、直継を救うためこの世界に残り、家老名代の主馬と犯人を探すことになる。しかしその前に現れた大谷吉継にあこは拐かされて…

 鳥居家の娘・あこと、井伊家の若き当主・直継の恋の行方を描く「佐和山物語」の第四巻であります。

 前作のラストで、京に向かう途中佐和山に立ち寄った秀忠が人事不省となり、当然ながら(?)責任を問われて捕らえられてしまった直継。
 一方、自分のいた世界から三ヶ月時間を遡って佐和山に来てしまったあこは、ようやく元の時間に帰る手段を見つけるのですが…
 しかし、今いる世界が、自分が本来属していたのとは別の時間軸にある世界であると――すなわち、一度戻れば、想いを寄せたこの世界の直継には永遠に会えないと知ってしまい、より悩みを深めることに。

 さらに、この二人を巡る人間関係も色々な意味で入り組んできて、どうにも重たい内容となっていたのですが――

 さて、この巻では、元の世界に戻ることを一端置いて、あこは直継のために奔走することになります。
 しかし彼女を待っていたのは、秀忠に呪いをかけた犯人にして、盟友・石田三成とともに怨霊と化して徳川の世を覆さんと企む大谷吉継。
 吉継に捕らえられ、再び三成のもとに連れされられたあこは、自分に秘められた驚くべき力を知ることになります。
 天下を覆すどころではないその力を悪用させぬため、ついにある決意を固めるあこですが――

 そんな、ある意味最大の危機を乗り越え、ついにお互いの想いを確かめたあこと直継。
 もう、このむせかえるようなラヴっぷりはおっさんには目の毒――想定読者の正反対にいるような存在には発言権はないですが――ではありましたが、実に初々しい中に妙な生々しさがあって実によろしい。
 ここに辿り着くまで、ずいぶんと長い時間がかかった気がしますが、想いが積み重なり、二人の間の溝を埋めるまでに、必要だったということでしょう。

 そして、その二人が選んだのは、別れという道。しかし、別れとは悲しみのみを生むものではありません。別れて初めて踏み出せる一歩もある。そしてその一歩が再会への希望に繋がることだって――

 そして、この二人の間の関係の他にも、この巻においては、入り組んだ人間関係のそれぞれに、一定の答えが示されることとなります。
 これまで、果たしてどうなるものかと(いい意味で?)心配させられた本作ですが、暗雲が晴れて、実に爽快な結びだったかと思います。


 しかし、これでシリーズ終了? と思ってしまうような内容と幕切れながら、まだシリーズは続きます。
 別れた二人の進む先は、そして二人が抱いた希望の行方は、まだまだ健在の三成一党の動きは――さて、今後どのようなドラマが展開されることになるか、期待であります。


 と――蛇足かもしれませんが、どうしても不満な点を一つだけ。それは、キャラクターの口調であります。
 お話が良くできていれば良くできているほど、キャラクターの現代人喋りが目につくのが、残念でなりません。
 特に今回の影の主役とも言うべき主馬は、キャラ的には面白いのですが、さすがにこの喋りはいかがなものか。

 もっとも、この辺りまでガチガチにすると、読者がついてこれなくなる危険性があるのですが――いや、これはおっさんマニアの繰り言であります。

「佐和山物語 君と別れのくちづけを」(九月文 角川ビーンズ文庫) Amazon
佐和山物語  君と別れのくちづけを (角川ビーンズ文庫)


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2010.04.28

「変身忍者嵐」 第41話「母のない子と嵐の母!!」

 カゲリたちからジャワラの情報を知らされたハヤテ。しかし子犬にしかけられた爆弾により、そばにいた母子の母が深手を負う。さらにジャワラが化けた医者により母は殺され、残された子・六助はハヤテを仇と憎む。医者に唆された六助に谷底に落とされたハヤテは、さらにジャワラに襲われ深手を負うが、イタチ小僧の助けで辛うじて復活。六助がハヤテから預かったサタンの鈴を奪おうとするジャワラの前に現れた嵐は、ガンビームでジャワラを粉砕するのだった。

 大魔王サタン編第二回目の今回、登場するのはジャワ出身の硫黄怪人ジャワラ。悪魔というよりミュータンロボットみたいなビジュアルですが、突然周囲を黄色く染め、地の底から現れるという登場シーンはなかなかよろしい(が、その後、野里村で何をやっていたのか今ひとつわかりにくい…ジャワラの力で野獣の村と変わった、というのですが、硫黄で飢饉になって食い物がなくなった? 硫黄で人々が狂った?)

 が、やることはサタン直属の部下とは思えない微妙さ。ハヤテの目の前で子犬をいじめ、見かねたハヤテが引き取ったかと思いきや、子犬には爆弾が!
 …いや訂正、非道さでは図抜けてますね。今では抗議が来るレベル。しかもそれでハヤテではなく、そばにいた母子の母が巻き添えになったと見るや、今度は医者に化けて近づき、治療のフリをして毒薬(自分の硫黄?)を飲ませて殺害、その子供・六助にはハヤテが犯人だと吹き込む始末であります。

 おかげですっかりひねくれた六助(これがまた無駄に厭な顔なんだ…)に散々駄々をこねられた挙げ句、崖っぷちに六助が落とした守り袋を拾いに行かされたハヤテは、六助が落とした岩を喰らって谷底に転落、さらにそこでジャワラにリンチされるという悲惨すぎる展開。
 これで六助が最後まで改心しなかったら、ピープロ作品みたいな鬱展開で終わるところでしたが、そこまではさすがに行かなかったのは良かったのか悪かったのか…

 それはさておき、一人になってしまった六助の前に偶然現れたのは、盲目となりながらも一人ハヤテを求めて彷徨う母・シノブ。おお、ここでタイトル通り母のない子と嵐の母の心の交流が描かれるのだな! と期待したのですが、ハヤテのことを訪ねられた六助が、そんな人知りませんよーだ、とひねくれたことを言うだけ、という色々な意味のすれ違いっぷりにがっかり。

 今回、ハヤテが子犬爆弾(いやこうして書くと本当に非道い)にひっかかるのも、六助のわがままにつき合うのも、生き別れの母――裏返せば母のいない子――に対する複雑な想いがあったからこそ(そのわりに、前回まで完璧に母のことを忘れていましたが、まあ変身忍者になるときに頭の中いじられているし、色々あるのでしょう。色々)。
 その辺りを踏まえて、六助が改心するきっかけがシノブとの触れあい…というのに期待しましたが、まあそれはそれでベタでしょうか。

 さて、結局、ジャワラがゲロったおかげで六助は真犯人を知りあっさり改心、ハヤテはもんのすごい仮面ライダーチックな演出(これって血車党編より後退ではありますまいか?)で嵐に変身、ジャワラをほとんど相手にせずバトンでフルボッコにした末、正義の光線ガンビーム! で爆殺でおしまい。


 あんまり良いことを書きませんでしたが、今回、コメディだけでなくちゃんとハヤテをリリーフするイタチ小僧は、重い話の中で良い仕事をしていたと思います。あと出番は少ないですがカゲリとツユハはやっぱりよろしい。特に男言葉のカゲリ。
 あ、ジャワラの足跡が黒く焦げているのは良かった!


今回の悪魔
ジャワラ
 ジャワ出身の硫黄怪人。口から硫黄を吐き、相手を溶かしてしまう。トゲ付きの杖を得物とする。
 野里村をその能力で野獣の村と変えたが、ハヤテの接近を知り、子犬爆弾で殺害しようとした。失敗するや、医師・源庵に化けてまきぞえで深手を負った母を殺し、その子・六助を唆してハヤテを追い詰めた。ハヤテが六助に預けたサタンの鈴を奪おうとしたが、嵐に邪魔をされ、ほとんど手も足も出ずガンビームで爆殺された。


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2010.04.27

「機巧奇傳ヒヲウ戦記」 第16話「渡れ! 激流を越えて」

 新月藩の目の前まで辿り着いたヒヲウたち。しかし間道まで風陣は関所を設けており、後は海を越えるしか手段がなかった。折良く月食の晩で海の水が引き、むき出しとなった海底を歩く炎。しかしそこに風陣の大機巧・屋形鯨が現れ、華と雪の引渡しを要求する。海の水も戻り初め、追い詰められた炎を救うため、雪は華とともに海に飛び込む。混乱の中、炎は新月藩の岸にたどり着くが、二人はアラシに捕らえられていた。

 いよいよ第一部(?)もクライマックス、新月藩を目前として、最後の障害を描くエピソードであります。

 これまで当時としては脅威の二足歩行で(ちなみに今回のアバンは現代のロボット開発者の姿。二足歩行ロボの開発が難航する中、彼らが炎の図面を見つけて…これを元にロボット作ったら怒るぞ、と思ったら、昔から二足歩行は人間の夢だっんだ、だから頑張ろう! と持っていくところは感心)、山だろうが谷だろうが乗り越えてきた炎ですが、しかし今回炎の前に立ちはだかるのは海…

 華と雪がいるため通常の道は行けず、土地の者しか使わないような間道にまで風陣が関所を設けていて――と、ここで初めて一行は新月藩と風陣の関わりを知るのですが、視聴者は既によく知っていたので、ちょっと意外――と文字通り八方塞がりであります。
(意外と言えば、ここで以前登場した島田敏声の風陣が再登場したのもちょっと意外)

 そこで本当に偶然にその晩が月食であったことから、海の水が引いて渡れるようになるというのはさすがにどうかなあ…と思いますが、大部分引いたとはいえ、まだ水が残る中を、顔を出した岩の上を炎が歩いて/跳んで行くのはちょっと面白い。
 しかも横から、妙に可愛いデザインの風陣の機巧・屋形鯨が、これまた妙にラブリーな魚型の魚弾をポンポン撃ってくるというクライマックスは、緊迫感があるようでないようで…な不思議な展開でありました。

 さて、そんな今回、中心にフィーチャーされていたのはマユ姉ちゃん。みんなのお母さん役として最近はちょっと引いた立ち位置だったマユですが、今回は色々と活躍いたします。

 ヒヲウが雪弥に連れションしようと言い出した――この辺の子供っぽさはいいなあ――のがきっかけで起こった騒動を収めたり、土地の漁師の子供と仲良くなったり…
 といった相変わらずのお母さんぶりだけでなく、飛び出したヒヲウを追って海に出した舟が転覆したところを屋形鯨に捕まるという大ピンチも、あっさり火薬装填前の魚弾に飛び乗って脱出というアクションヒロインぶりであります。(というかアカ、さすがに今回は呆け過ぎだろう)

 そして、新月藩を目前に、ちょっとナーバスになった上、拠り所を唯一の肉親である雪に求める華に、二人とも自分の姉弟と同じ、と語るあたりが、キャラ面のクライマックスというところでしょうか。
 ラストの雪弥のダイビングも、マユのその想いあってこそ――ということなのでしょう。

 …正直なところ、その辺りの盛り上げ方がそんなにうまくいっていたとは言い難く、また史実とのリンクも――毎回毎回は難しいとは思いますが――なかったため、今回はお話的にはそれなりに大事なはずが、ちょっと繋ぎ的な印象なのが残念なところです。


 さて、どさくさに紛れて華と雪をさらっていくアラシですが、彼の傍らには謎の機巧が。必ず二人を助け出すと決意するヒヲウとの再戦は、そして…いよいよ次回、ヒヲウとマスラヲの再会であります。

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機巧奇傳ヒヲウ戦記 DVD-BOX(下)


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2010.04.26

「ほおずきの風 あやかし草紙」 真相は闇の中…?

 幇間の藤八が湯屋で聞いた噂…鈴ヶ森の獄門首が公方の死を予言したというその噂に憤りを抱いた藤八は、その噂の裏を確かめるべく鈴ヶ森に向かう。その彼の前に現れたのは、かつて二度にわたって彼を襲った謎の一団。江戸を混乱させようという謎の敵に、一人孤独に立ち向かう藤八だが。

 「丑三つの月」「半夏生の灯」と続く「あやかし草紙」シリーズの第三弾であります。

 元お庭番の藤八(ちなみに藤八をはじめとするレギュラー陣は、「江戸あやかし舟」「異人街変化機関」「からくり偽清姫」と、本シリーズ以前から描かれている竹河先生の時代ものにも登場しております)が、幕末の江戸で暗躍する謎の敵を向こうに回して活躍する本シリーズですが、本作の導入部は、前二作に比べると一層怪談めいた印象。
 鈴ヶ森の獄門首が口を開き、時の将軍・徳川家茂の死を予言して嗤ったという噂が流れ、藤八は怒り半分、好奇心半分でその真偽を確かめに向かった先で、三度事件に巻き込まれることとなります。

 様々な手段で江戸を混乱させ徳川幕府の権威の失墜を狙おうとしていること、そして目的のためには人の命など何とも思わぬ非情の集団であること以外は、一切が謎に包まれている敵――
 その敵に好むと好まざるとに関わらず狙われることとなった藤八は、元お庭番ということで、決して常人ではないものの、しかし今はただの幇間。その彼が、数少ない手持ちの武器で必死に強敵に立ち向かう展開は、なかなか楽しめました。


 しかし、どうにもすっきりしないのは、その敵をはじめとして、物語の全体像が曖昧模糊として見えてこないことであります。

 もともと、竹河先生の時代ものはその傾向が強いのですが、本シリーズ以前の、時代ホラーに分類される作品であれば、全てを明らかにせず、真相は闇の中、という構成も、それはそれで納得がいきました。

 しかし、「普通の」時代小説側に近づいた本作、いや本シリーズにおいて、それは果たしていかがなものか…
 パリ万国博覧会への柳橋芸者衆派遣のエピソードなど、非常に面白い題材もあっただけに、やはり残念に感じられます。

 本シリーズの今後の展開がどうなるかはわかりませんが(解説に書いてあったのは、あれはあくまでも解説者の希望でしょう)、この点はもう少し…と、わかってないファンだなあ、と言われることは承知で思うのです

「ほおずきの風 あやかし草紙」(竹河聖 角川春樹事務所ハルキ文庫) Amazon
ほおずきの風―あやかし草紙 (時代小説文庫)


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2010.04.25

五月の時代伝奇アイテム発売スケジュール

 何だか春だというのに冬並みの気温の日があったりとなかなか波乱含みだった四月。まさか都心で雪が降るとは思いませんでした。どこいった温暖化現象。
 しかしそれでもやっぱりGWは来るよ! というわけで、五月の時代伝奇アイテム発売スケジュールです。(敬称略)

 まず小説、文庫書き下ろし時代小説の新刊では上田秀人の「闕所物奉行 裏帳合」第2巻が気になるところ。作者にしてはピカレスク要素の強い主人公だけに、活躍が気になります。不安要素は最近のシリーズが2巻終了となっていることですが…
 その他、鳴海丈「右近百八人斬り」(別の意味に取りそうだね!)、第1作が伝奇要素濃厚だった早見俊「浪花の江戸っ子与力事件帳 お蔭の宴」などが要チェック。また、「異形コレクション 憑依」には朝松室町伝奇が掲載されるようです。

 さて、文庫復刊の方では、何と言っても角田喜久雄「半九郎闇日記」の登場でしょう。波瀾万丈という言葉も生ぬるい、先が全く読めない――それでいてきっちりロジカルな――本作は、間違いなく作者の代表作の一つです。必見。
 その他、宇月原晴明の「廃帝綺譚」が文庫化されるのも嬉しいお話です。


 漫画の方では、新登場はありませんが、既刊のシリーズものが非常に充実。先日無念の打ち切りを迎えながらも素晴らしい最終回を迎えた「風が如く」第8巻、今や掲載誌の看板作品の「猫絵十兵衛 御伽草紙」第3巻、ずいぶん前の巻から待たされた「姫武将政宗伝 ぼんたん!!」第4巻などがまず目につきますが、その他、「裏宗家四代目服部半蔵花録」第6巻、「無限の住人」第26巻、「BRAVE10」第7巻、「天下一!!」第2巻も必見です。

 また、復刊の方では本宮ひろ志の「真田十勇士」が登場。これは柴錬先生原作のNHK人形劇の漫画化ですが、これを気に他の関連作品も復刊されないものか…簡単に言うと「スーパー柴錬大戦」なんですよね。



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2010.04.24

「戦国妖狐」第4巻 妖精眼に映るもの

 水上悟志の時代アクション漫画「戦国妖狐」の第四巻が発売されました。
 第三巻のラストでは、ヒロイン(?)の一人である灼岩がまさかの退場で大いに驚かされましたが、この巻ではある意味物語の鍵を握る人物(?)が登場、物語は大きな展開期を迎えることになります。

 赤子を産む母親を守り、霊力を使い果たして岩と化した灼岩。
 彼女との突然の、理不尽な別れに一番衝撃を受けたのは、やはり、彼女に慕われていた真介であります。

 仇である四獣将への激しい怒りと憎しみに取り憑かれた、魔剣の遣い手としての覚醒したかに見える真介。
 しかし――たとえ大事な者を殺した相手でも、生かしておけば必ず大きな障害になる敵でも、命を易々と奪って良いものか…
 これまでのヘタレキャラぶりがうって変わったような変貌を見せつつも、人としての自分のあり方に悩み続ける真介は、やはり本作の主人公の一人なのだと感じさせられます。

 そしてまた、ある意味真介以上の変貌を見せつつあるのが、これも本作の主人公の一人である迅火であることは間違いありません。
 人のぬくもりを知らずに育ち、友としてきた闇を人に殺されて極度の人嫌いとなった迅火。彼をその境遇に追いやった原因、妖精眼の何たるかが、今回描かれます。

 妖精眼と言えば、同じ作者の名品「散人左道」、おお懐かしい…そういえば妖精眼を持つ者は双子という設定があったな――などと思っていたら、その妖精眼を通じて描かれるのは、こうくるか! といいたくなるような形での彼のキャラクターの掘り下げ。
 イタさギリギリのところまで踏み込んでのキャラクターの内面描写は、水上作品でしばしば見られるところではあります。
 しかし今回は、パワーアップのための修行という、少年漫画的ベタな展開の中でそれを繰り出してくるのに感心させられた次第です。(そしてそれは、本作における強さが、単なる戦闘力の高さとイコールではないことを示していると言えるでしょう。)


 しかし、惜しむらくは――毎回言っているような気がしますが――本作における戦国らしさというものが、まだ見えてこないように感じられます。

 戦国らしさというのは、何も戦国武将などが顔を出すことでも、有名な事件が描かれることばかりではありません。
 人が人を殺す極限状態が普遍的に存在する時代でしか描けないもの――それを見たいのです。

 人と闇の戦いにどれほどの意味があるのか?
 そして、人があるいは闇が、たとえそれに理由があったとしても、他者の命を奪うことは許されることなのか――

 この時代でなければ描けないその答えが、いつか本作で描かれることを期待しているところです。

「戦国妖狐」第4巻(水上悟志 マッグガーデンブレイドコミックス) Amazon
戦国妖狐(4) (BLADE COMICS)


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2010.04.23

「風が如く」第7巻 好漢・百地三太夫

 やっぱり連載打ち切り、しかし最終回はまれに見る感動的な幕切れ…ということで、ファンとしてはどうにも複雑な気分の「風が如く」。
 単行本の方は、あと二冊で完結とのことですが、そのラスト一つ前、第七巻であります。

 この巻で描かれるのは、前の巻から引き続いての五右衛門の過去編。
 幼い頃、百地三太夫に拾われ、伊賀の里で忍びとして過酷な試練を受け、ついに上忍候補生となった五右衛門が、しかし陰で行ったのは、盗賊まがいの行為…?

 と、そこで制裁に乗り出した三太夫と五右衛門との対決からこの巻は始まります。
 色々と悲劇の予感しかしないシチュエーションですが、しかし、過去編の前半がそうであったように、こちらの「このパターンであればこうだろう」という予想を、良い意味で次々と裏切っていくのが本作。

 その裏切りの中心人物(?)と言えるのが五右衛門の師・百地三太夫であることは、読者であれば皆納得してくれるでしょう。
 百地三太夫といえば、フィクションで登場する場合はかなりの高確率で悪人。大抵の場合、伊賀の上忍・絶対権力者として、配下の命など塵芥としか思わない人物という印象が強い…のは白土三平先生のおかげかもしれませんが、まあ時代ものの上忍というのは大体において印象が悪いものであります。
(ちなみに巷説では三太夫は弟子の五右衛門に妻をNTRされたことになっております)

 しかるに本作の三太夫先生は、忍びの力を用いた平和な国の建設を夢見る理想家にして、弟子の成長を心から案じ、身を挺して正しい生き様を見せる熱血漢。おそらくは、百地三太夫史上に残る好漢でありましょう。

 しかし、三太夫と五右衛門を待ち受けるのは、過酷な運命の悪戯。
 五右衛門が何故風の力を宿し、そして仲間を拒否して一人流離う盗賊となったか…過去編は、それを描いていくこととなります。

 そして過去編が終わり、始まるのは滝川一益との戦いの第二ラウンド…のはずが、ここからがまた怒濤の展開!

 戦いの中で明らかになる、一益の意外な正体(かぐやの秘宝の力で、彼の正体が現れるシーンはちょっと楽しい)。
 第三勢力として乱入する秀吉と――やっぱり生きていた――斬鬼さん。
 そして乱戦の果ての五右衛門とある人物との和解――

 急展開の連続は、色々と背景があるのでしょうが、しかしそれで面白くないかといえば答えはもちろん否。
 剣術対剣術、忍術対忍術、忍術対近代兵器(!)のアクション連発ときて、ここにグッとくるドラマが入るのですからつまらないわけがない。

 こんなに面白い作品があと一巻でおしまいというのは、やはり色々と思うところありますが、しかしそれは今更言っても詮ないお話でしょう。
 あとは、来月発売の最終巻をただ楽しみに待つとしましょう。

「風が如く」第7巻(米原秀幸 秋田書店少年チャンピオンコミックス) Amazon


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2010.04.22

「変身忍者嵐」 第40話「空を飛ぶ妖怪城!!」

 カナダの吸血魔インデゴは、村人を襲い、次々と血を吸って僕にしていく。それを目撃したハヤテは代官に警告するが、実はインデゴは代官に乗り移っていた。それを目撃して捕らわれた盗賊・イタチ小僧は処刑寸前のところをハヤテとカゲリ・ツユハに救われる。インデゴを圧倒する嵐だが、そこにサタンが嵐の母・シノブを人質に現れる。涙を呑んでインデゴを倒す嵐だが、母はサタンの怒りを買い、眼を潰されて円盤から放り出されてしまう。果たして母の行方は…

 今回から物語も最終章、大魔王サタン編であります。OP映像も一新され、インデゴと次回登場のジャワラを相手にする嵐が見れます(と、前回予告で流れたこの二体との戦闘シーンはOP映像だったのか! 騙された)。

 さて、登場するなり「ワシは妖怪城の主、地獄の王者、その名はサタン、大魔王サタン!」といきなり自己紹介したサタン様。世界各地に眠る悪魔たちを甦らせ、配下として日本を支配するのだそうです。
 …で、わざわざ自らカナダに円盤で向かい、妖原子エネルギーの放射能(何だかよくわからないが凄いことはよくわかる)でインデゴを復活させるマメさは大魔王としてどうなのかなあ。

 さて、復活したインデゴが日本でまずしたことは代官所の襲撃。日本征服という目的の大きさに比べてそれはどうなの…と思いましたが、村人を襲ってツララを突き刺し、それをストロー代わりに血を吸う姿はなかなか不気味でありました。
 血を吸われた人間は、血の気を失ったとも霜に覆われたとも見える青白い姿でインデゴに操られるというのは、ドラキュラの二番煎じではありますが、ビジュアルが本当に死体みたいで不気味なのでよしとしましょう。
 このインデゴ、カナダ出身ということでモデルはアメリカインディアンの間に伝わるウェンディゴですが、そこにインディアンを絡めてインデゴという名前にしている様子であります。

 そのインデゴ、代官に乗り移っているわけですが、この代官、農民に対して、年貢は納めなくてもいい上に、米倉から米を出して農民に分けるという、エライというかおかしい人だったようですが…むしろその後の展開を見ると、取り憑かれてからそうなったと考えた方がよさそうですね。

 と、真っ先にその正体を目撃してしまったのは、今回から登場の新レギュラー・イタチ小僧。小僧といいつつ潮健児ですが、実にうさんくさい小悪人ぶりが実によろしい。
 それはさておき、代官が樽の中に隠していた「血の年貢」を、円盤のサタンに献上している姿を目撃してしまったイタチ小僧。同じ光景を目撃してしまった代官の娘はハヤテに助けられたのに、イタチは置いてけぼり…まあ仕方ない(?)

 そして処刑寸前のイタチを救ったのは、同じく新レギュラーの美人姉妹・カゲリとツユハ。正確には前々回から登場していた、鬼目の源十郎の娘たちですが、単発のキャラかと思えばこうして登場してくれるのは嬉しい限り。
 しかし単なる美人というわけではもちろんない二人、襲ってくるインデゴ配下の村人たちを容赦なく斬り捨てるのですが…インデゴ倒せば元に戻るって言われても、どうみても村人死んでます。

 さてここからクライマックス、新生のパワーか、インデゴをフルボッコする嵐の前に現れたサタンは、ハヤテの母・シノブを人質に取っていました。
 いきなり母!? …と思いつつも、ちゃんとその前に、寝ていたハヤテが母の夢を見るというシーンがあるのですね。
 これだって随分唐突だなあ…と思っていたら、ハヤテ自身が不思議がっていましたが、しかし彼自身が出した答えは、合体した兄フユテの記憶だろうということ。なるほど、それなら今回見るというのも納得がいきます。

 って、夢の中にどうみても子供時代のフユテとハヤテがいるよ! 双子で同じもの見てるのに何でお前は覚えていないのだ…

 それはともかく、サタンの呪いか、変身するたびに死の苦しみを味わうという母に、一度は変身を解いてしまうハヤテ。しかし気丈にも自分に構わず変身しろという母に、結構この辺は容赦ないハヤテは「正義のためです! 許して下さい!」と再変身。新必殺技の正義の光線ガンビーム一発でインデゴは大爆発であります(でも眼がピカピカしたら悪魔が爆発するだけなので迫力はいまいち)。

 さて、戦い終わってその場に謎の鈴を見つけるハヤテ。サタンはそれとシノブを引き替えにすると言い出すのですが、シノブが語るにはそれこそが妖怪城の謎を解く品。大事な秘密をばらされて怒ったサタンは、シノブの両目を潰した上に、空飛ぶ円盤から外に放り出すという悪魔の所業(悪魔です)。さらに崖から絶対死にそうな転落の仕方をするシノブ、さてハヤテの母の行方は…というところで以下次回。

 結局シノブは生きていることは言うまでもないのですが、サタンの鈴の秘密をいつの間にか暴いていることといい、やっぱり忍者なんだなお母さん…


今回の悪魔
インデゴ
 カナダの吸血魔。妖原子エネルギーの放射能を浴びて千年の眠りから目覚めた。縄付きのトマホークを武器とし、獲物にツララを突き刺し、そこから血を吸う。血を吸われた犠牲者はインデゴの意のままに動かされる。
 平山代官所の代官に乗り移り、村人たちを襲って血を集めていたが、変身した嵐には全く敵わず、ガンビームで爆死する。


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2010.04.21

「機巧奇傳ヒヲウ戦記」 第15話「泣くな! ハナ」

 漁をしていた炎の網に象がかかり、ヒヲウはハナと名付ける。一方華たちは異国人タンドリーと出会い、彼の人捜しを手伝うことに。途中の町でヒヲウと再会しながらも、なかなか素直になれない華。そんな中、風陣のヌケはハナを自分の機巧に組み込み、炎を攻撃させる。苦戦する炎だが、タンドリーの笛にハナが止まった隙に、機巧を引きはがすのだった。タンドリーはハナと共に去り、ヒヲウと華も仲直りするのだった。

 どこからどう見ても本筋以外の回(アバンタイトルの…ぶりからしてもうそんな印象)なのですが、京都編でギクシャクしてしまったヒヲウと華の仲直りを描くという点では意味のあるエピソード。
 そしてそれ以上に、象と子供たちの触れあいや、奇天烈な風陣メカとの対決など、単発ものとしてはなかなか面白い回でした。

 旅の途中、豪快に炎で漁をする(こんだけ生活力溢れるロボは最近ではあと∀くらいか)ヒヲウたちが偶然引き上げたのは、嵐で船が難破した象のハナ(ヒヲウ命名)。
 そして、前回ヒヲウたちと別れて旅立った華・雪・才谷の方は、その象のかつての持ち主である異国人・タンドリーさんと出会って…
 と、お互いを探しあうゲストキャラ同士が、それぞれのサイドに別れることで、ハナとタンドリー、ヒヲウと華が重ね合わされるのがなかなかよろしい。
 ベタではありますが、ヒヲウが語るハナの話を、自分のことだと勘違いして怒る華もかわいいのです。

 かつて、金目当てにパクシャ(象の本名)を売り払ってしまったことを気に病み、パクシャが自分を許さない、パクシャに会えないと嘆くタンドリーに対し、本当は会いたいのに勝手にヒヲウを意識して、避けたり乱暴に接してしまう自分を重ね合わせる華の姿は、ああ、子供の頃ってこうだよね…と微笑ましくなりました。
(ここでツンデレなどという便利な言葉を持ってくると、こういう感覚も一気に吹っ飛ぶのでいかんですね)
 というか子供なみに駄々をこねすぎですタンドリーさん…

 さて、それだけではちょっとお話が締まらないわけで、ここで襲ってくるのは風陣の怪人…というか変人・ヌケ。
 出番の度ごとに動物のマスクを被って登場し、珍妙な機巧に乗って現れる彼のナニっぷりは、アカも思わず引くほどですが、元来が技術家集団である機の民であれば、こういう奴もいるでしょう。

 そのヌケ自慢の大機巧こそが、防水スチームインジンを搭載したウニエビガメ――いや、ハナの体の上に乗ってウニエビガメゾウであります。
 おそらくはハナなしでは重すぎて動けないウニエビガメですが、炎以上のパワーを誇るハナを移動用の動力源とすることで炎を圧倒。
 ハナがいなかったらどうするつもりなんだ…というのは禁句として、こういう思わぬ強敵が飛び出してくるのもたまにはいいですね。
 対決の方は、タンドリーさんの笛の音にハナが動きを止めるというお約束に、久々登場の縄付き鈎で機巧部分をひっぺがして炎が勝利。
 タンドリーとハナはどこかに(どこに?)去っていき、ヒヲウも華にちゃんとごめんなさいできて、まずはめでたしめでたしであります。

 たまにはこういう回もいいのかな。時代ものとしてのフックは無いに等しかったですが…


 …しかし今回、止め絵が多くありませんか。


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2010.04.20

「四谷怪談忠臣蔵 仮名鑑双繪草紙」 伝奇性の豊かさと構成の難と

 先日、新橋演舞場の陽春花形歌舞伎「四谷怪談忠臣蔵 仮名鑑双繪草紙」を観て参りました。 題名通りの「四谷怪談」+「忠臣蔵」かと思い――それはそれで間違いではないのですが――特に内容の予習もせずに行ったら、これが素晴らしい伝奇的内容となっていて大いに驚かされました。

 何しろ、冒頭で登場するのが新田義貞の怨霊(言うまでもなく、本作は室町時代が舞台)。これが高師直に取り憑き、足利幕府の転覆を狙うというのですから!
 かの塩冶判官との刃傷沙汰も、この高師直=義貞が、わざと判官を挑発して起こさせたもので、これでもって足利幕府の権威を失墜させようという企み。さらに義貞の息子でやはり妖術師の大盗賊・暁星五郎と呼応して、幕府を攻め滅ぼそうという邪悪な企みが巡らされることになります。
 そして、この義貞憑依の様を目撃し、義貞と星五郎を阻むべく追うのが、本作では善玉の斧定九郎というのが嬉しい。 もうわくわくするような幕開けであります。
 ちなみにこの暁星五郎、元々は同じく忠臣蔵をベースとした「菊宴月白浪」の登場人物で、実は斧定九郎が名を変えたもの。それが本作では星五郎に挑むのが定九郎という構造も面白いのです。

 さて、全体の構造としては、「四谷怪談」と「忠臣蔵」の物語を、この星五郎の跳梁が繋ぐというイメージですが、それとは別に、さらに二つの物語をリンクさせる趣向となっているのがまた面白いところ。
 簡単に言ってしまえば、伊右衛門は終盤まで生き残り、何と小林平八郎と名を変え(!)、師直の家臣として、討ち入りの段で佐藤与茂七と対決することになるのです。
 そこでもちろん(?)お岩さんのフォローが入り、与茂七が伊右衛門を討つことになるわけですが――本来並行して(あるいは互い違いに)展開していく物語だった「四谷怪談」と「忠臣蔵」が、このように合一されるのも実に興味深いところです。

 歌舞伎は元々時代伝奇の偉大なるご先祖様ではありますが、しかしここまで自由にしていいのか! と、改めて感心。起伏に富んだ展開で、正味四時間という長さも、あっという間に感じられました。


 が――個々のエピソードについては、このように非常に面白いのですが、しかし残念ながら、全体を通してみればバランスが悪い、の一言に尽きます。
 簡単に言えば、上で述べたとおり「四谷怪談」と「忠臣蔵」が綺麗にリンクしている一方で、本作ならではの要素である星五郎と定九郎の存在が、浮いてしまっているのです。

 一応「忠臣蔵」サイドにしてみれば、討たれる側の師直と星五郎に霊的な血縁関係があるわけで、その点での繋がりはあるのですが、しかし「四谷怪談」サイドと、星五郎の存在がほとんど繋がってこないのが、実に残念に感じられるのです(一応、伊右衛門が主家から奪った三千両を、星五郎に横取りされている=伊右衛門の困窮とお岩さんの惨劇に繋がってはくるのですが…)。

 本作の最後の場面は、赤穂浪士が首尾良く本懐を遂げた後に、明神ヶ岳に籠もった星五郎と、判官の霊から妖術封じの宝の矢を与えられた定九郎が死闘を繰り広げるという非常に伝奇テイスト溢れる内容で、本水を使った殺陣も楽しいのですが、しかしこれとて、「四谷怪談」と「忠臣蔵」が二重のクライマックスを迎えた討ち入りの後だけに、非常に厳しい言い方をすれば、物語的には蛇足という印象があります。

 史実から「忠臣蔵」へ、「忠臣蔵」から「四谷怪談」へ、「四谷怪談」から本作へ…という複雑な経緯・構造を考えると実に興味深い作品でありますが、しかし「忠臣蔵」と「四谷怪談」に存在したような明確な対比・対置の関係が、本作でははっきりと見えてこないのが実に残念であります。
 星五郎と定九郎――本来は同一の存在(しかも「忠臣蔵」では悪人とされた定九郎が、「菊宴月白浪」では実は善人なのだから実にややこしくて面白い)が、二つに分かれて相争う中に、これも裏表の物語である「四谷怪談」と「忠臣蔵」が挟まれるという構造は、色々と象徴的ではあるのですが、これが効果を挙げていたかといえば…ううん、実に勿体ない。

 本作の売りには、現在では上演時に常にオミットされる「四谷怪談」の「深川三角屋敷」と「忠臣蔵」の「十段目天川屋」と、この二つが復活していることがあります。
 しかし、これも希少価値以上のものであるかと言えば首を傾げるところで――本作では主役の一人とも言える直助権兵衛の最期を描く前者は格別、後者は内容的にも微妙なだけに――この時間をほかの場面に当てていれば、というのはこれはないものねだりかもしれませんが、そういう感想も浮かんでくると言うのが正直なところです。


 何だかずいぶんとネガティブな感想になってしまいましたが、前半に述べたように、決して全面的につまらない舞台というわけでは、もちろんありません。
 歌舞伎の伝奇性というものの中で、「忠臣蔵」という物語の構造を、新たな角度から見せてくれたかもしれない作品だけに、構成の難が実に勿体ないと…そう感じられた次第です。

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2010.04.19

水滸伝サイト作りました

 既にTwitter上では紹介したのですが、念願の水滸伝サイト「水滸百八」をようやく作ることができました。
 内容的には毎度毎度のことながらのデータベースサイト、テキストだらけで目に悪い代物ですが、現時点で小説・漫画・ゲーム等、原典を含めて二十近い作品に登場する梁山泊の好漢たち(もしくはそれに該当する者たち)のデータを集めたのは、あまり類を見ないものではないかと思っている次第です。
 日本ではかなりマイナーな存在である水滸伝ですが、しかし現在に至るまで、それなりの作品が、日本でも生み出されているのもまた事実。ことに近年は、北方謙三先生のおかげで、ずいぶん知られるようになったのではないかと思います。
 …が、その割りに、原典の姿が知られていない作品であることもまた事実。それではいっそのこと、原典だけでなく、様々な水滸伝バリエーションの姿を一望できるサイトを作ってみたら? と考えた次第です。
 正直なところ、まだまだ掲載したい作品の半分程度ではありますが、今後もこのブログと並行してコツコツとデータを追加していきたいと思いますので、何かの拍子に思い出したら、アクセスしていただけたら望外の喜びであります。
 どうぞよろしくお願いします。

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2010.04.18

ゾンビ時代小説特集を終えて

 さて、勝手に始まったゾンビ時代小説特集ですが、最後に、私なりにゾンビ時代小説に、ゾンビそのものに対して思うことを記して終わりとしましょう。

 これまで五本の作品を取り上げることができたこの特集ですが、正直に言ってチョイスはある意味難しく、ある意味簡単なものでした。何しろ、ゾンビが登場する時代小説自体が非常に少ないのですから!
 その中でも、ゾンビの存在が物語の中心となっている、或いはそれなりのウェイトを占めている作品が、この五本であったということになります。
(時代小説において最も印象的なゾンビ活躍シーンがあると個人的に考えている荒山徹「魔風海峡」は、あくまでも作中の一エピソードということで今回は取り上げませんでした)

 さて、この特集の中では、作中の表現を用いてゾンビを「生ける死人」と表記していますが、ややこしいことに、ゾンビは生ける死人ですが、生ける死人がゾンビとは限りません。
 例えば吸血鬼、例えばフランケンシュタインの怪物(人造人間)…彼らもまた、生ける死人と呼べる存在です。
 しかも、人造人間は格別、吸血鬼が登場する時代小説はそれなりの数に上るため、この辺りを含めれば、結構賑やかな内容にできたかもしれません。

 それでもなお、ゾンビに今回拘ってみたのは――「WORLD WAR Z」刊行記念というのは置いておくとしても――私にとっては、ゾンビには吸血鬼とも人造人間とも明確に異なる特徴を持っており、分けて考えるべきだと考えたからであります。

 その特徴――それは、彼らがかつては普通の人間であった、その点に尽きます。
 その点に、基本的に生まれながらの怪物である吸血鬼(この場合、吸血鬼に血を吸われて吸血鬼になった者はとりあえず置いておきます)や、人を材料に作りながらも、全く新しい個性を持つ人造人間を分かつものがあるやに感じられるのです。

 彼らゾンビは、かつては人間として生まれ、暮らし、死んだ存在であります。それが、魔術にせよ病原体にせよ未知の自然現象にせよ…ある原因でもって、己の意志を持たぬ全くの怪物と変わる。

 言うなれば、かつては我々と同じ存在であり、そしてあるいは我々もいつかこうなるかもしれない(!)怪物――

 人外の魔族でも、宇宙からの怪物でもない、我々と地続きの存在。そこに、我々がゾンビを恐れ、悲しみ、怒る理由の源があると感じるのです。


 こう考えてみると、ゾンビという存在が、実は普遍的な存在であって――我々が存在する限り、ゾンビもまた存在しうるのですから――時代小説に登場しても、さして不思議ではないと考えることができます。

 さらに…現実と伝奇の関係と、人間とゾンビの関係は、どこか似ているようにも、私には思えます。
 伝奇が、現実を写した歪んだ鏡像であり、その奇怪な像でもって、現実の隠された諸相を映し出すものであれば――ゾンビは、人間の歪んだ鏡像として、人間という存在の隠された部分を映し出す機能があるのではないでしょうか?


 この辺りを組み合わせて考えてみれば、実はゾンビは時代伝奇小説に適した題材である! …というのは、さすがに狂人のたわごと以外の何ものでもありませんが、ゾンビという存在の持つ可能性――その存在をもって描けるものの多様さ――と、そして時代小説がその存在を拒むものではない、ということくらいは、この特集を通じて証明できたのではないかと感じている次第です。


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 ゾンビ時代小説特集 第五回「幕末屍軍団」

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2010.04.17

ゾンビ時代小説特集 第五回「幕末屍軍団」

 時は幕末、幕府は近い将来に予想される長州ら倒幕勢力との決戦のために、密かに「ぞんびい」を兵力としようとしていた。一方、京で浪士狩りに当たる新選組の前にも、生ける死人たちが現れていた。平賀源内の孫・源庵と、沖田総司――江戸と京、二つの都市で繰り広げられる生者と生ける死人の物語の行方は…

 そしてゾンビ時代小説特集最終回は、先日刊行されたばかりの――それでいて、はるか以前から刊行が望まれていた――作品。菊地秀行先生の「幕末屍軍団」であります。

 ここで些か矛盾した表現をしたのはほかでもありません、本作には、シリーズ化を想定しながらも一編で途絶した、タイトルも同じ短編版が存在します。
 平賀源内の孫・源庵と岡っ引きが竹製のパワードスーツで幕府のぞんびい軍団に挑むというその内容は、キャラクターの名前こそ変わってはいますが、ほとんどそのまま、この長編版の導入部として使用されております

 この、江戸を舞台としたエピソードを受けた上で、この長編版では、京がもう一つのそして主たる舞台となります。
 江戸のぞんびいを生み出したのは徳川幕府。しかし京で新選組の、沖田総司の前に現れたぞんびいは、明らかに彼らを敵として襲いかかり…

 と、ここまでくれば、なるほど、江戸と京にあらわれたぞんびい軍団に、源庵と総司が手を携えて立ち向かうのか! と期待するのも無理もない話かと思いますが、しかし、その期待は、ほとんど裏切られることとなります。


 実のところ、本作で中心となるのは、総司と、意志を持ち京の市中で静かに暮らすぞんびいの娘・お町との、不思議な交流の姿。
 明らかに生きてはいない。しかし完全に死んでいるわけでもない。何よりも、単なる怪物ではなく、人の心を確かに持っている――そんなお町を前に、総司は生と死のありように、そして己自身の生と向き合うことになるのです。

 ここで描かれるのは、昨日紹介した「魔剣士 妖太閤篇」をはじめとしてこれまでも菊地作品で幾度となく描かれてきたテーマ――生者と生ける死人、人間と人間以外の者の交流と、それを通した生者とは、人間とは何か、という問いかけであります。

 とはいえこの展開は、冒頭――江戸城内で行われるぞんびいの恐るべき性能テスト!――の場面や、源庵医師のエピソードから考えると、いささか意外なもの。
 生者と生ける死人との一大決戦「戊辰戦争Z」が描かれると勝手に期待していた――特に短編版から待っていた――私のような読者にとっては、厳しいことを言えば、肩すかしとも感じられます。


 しかし、それでもなお、本作は魅力的な作品であり続けます。

 上で述べた本作の構図において、生者の側を代表する者、生ける死人と交流する存在として、本作で設定された者…それが、労咳を病んで己の死を近い将来のものと感じながら、なおも死地において刀を振い他者の生命を奪う者、「死せる生者」ともいうべき沖田総司であるという配置の妙に、何よりも私は感心させられるのです。

 これまでの作品では、主として両者の間を隔てる距離の大きさが描かれてきた生者と生ける死人。しかし、本作で我々に突きつけられるのはそれと些か異なる視点であります。
 暴力による理不尽な死が日常的に存在する世界において、その生者と生ける死人に、果たしてどれだけの相違があるのか…この問いかけを体現する存在として、本作の主人公カップルは、まことに相応しい存在と思えるのです。

 そして、その問いかけの上で、この世の運命を決める者は誰であるべきかを、静かに、しかし雄弁に物語る終盤の展開――総司の取った行動と取らなかった行動――は、読み終えてみれば、本作の一つの結論として受け止めるべきでしょう。

 伝奇ものとして「面白い」、というのは違うかもしれません。しかしゾンビものとして「興味深い」――本作は、そんな作品であります。

「幕末屍軍団」(菊地秀行 講談社ノベルス) Amazon
幕末屍軍団 (講談社ノベルス)


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2010.04.16

ゾンビ時代小説特集 第四回「魔剣士 妖太閤篇」

 何者かの手により、生ける死人と化した秀吉。生ける死人の軍団を操り、天下取りを目前とした秀吉は、しかしそれに飽きたらず、海の向こうまでも手中に収めようとしていた。この世を死人で満たさんとする秀吉の野望を唯一阻める者は、しびとの剣を操る美貌の生ける死人・奥月桔梗。生ける死人同士の対決の行方は――

 さて、ゾンビ時代小説特集も後半。あと二回は、「生ける死人」に深い愛情を注ぐ作家の作品を取り上げます。
 その作家とは言うまでもない、菊地秀行先生。吸血鬼、フランケンシュタインの怪物、そしてゾンビ…脇役に敵役に、そして主役に、その作品の中で様々な生ける死人を描いてきた、生ける死人のマイスターであります。

 今回取り上げるのは、その生ける死人が菊地時代小説でヒーローを務めた初のシリーズである「魔剣士」の第二弾「妖太閤篇」であります。

 本シリーズの舞台となるのは戦国時代。第一作「黒鬼反魂篇」は、本能寺の変の直後から幕を開けます。
 変の混乱の最中に死んだ異国の黒人魔道士を甦らさんとする謎の一団に対し、二十年の眠りから覚めた不死身の剣士・奥月桔梗が戦いを挑むというこの作品は、スタイル的にはそれまでの菊地伝奇を踏襲しつつも、特に主人公の出自に見られるような題材のチョイスなど、それまでの菊地時代劇とはいささか異なる味わいの佳品でありました。

 が、ややこしいことに、第一作は、ゾンビというよりむしろフランケンシュタイン――すなわち人造人間――テーマの作品。今回取り上げるのは、上記の通り、第二弾の「妖太閤篇」であります。


 自らの戦力として死人の兵団を生み出し――その中には伊藤弥五郎までもが!――いやそればかりか、自らが生ける死人と化し、無敵の戦鬼と化した秀吉。
 日本はおろか、海の向こうまで侵略の手を伸ばし、世界を死人のそれに変えようとする秀吉に、桔梗は対峙することとなります。

 戦国大名がゾンビ兵団を、というのは、この特集の第二回で紹介した「関ヶ原幻魔帖」と共通するアイディアではありますが、本作のゾンビは正真正銘の(?)生ける死人。そればかりか、天下人・秀吉までもがゾンビと化す――それも自ら望んで――というのは、これは菊地先生ならではのもの、と言うほかありません。

 しかし、本作の真にユニークな点は、そこから物語が向かう先が、生者と生ける死人、生ける死人と生ける死人の全面戦争になるのではなく、生者と生ける死人を分かつもの…突き詰めれば、生命とは、生きるとは何か、という問いかけに収斂していく点であります。

 この辺り、本能寺の変から秀吉の最期まで、長いタイムスパンを描くこともあって、伝奇アクションとしては興を削ぐ部分は確かにある――エンターテイメントとしての完成度は「黒鬼反魂篇」の方に軍配が上がる――のですが、しかし、生ける死人に向ける眼差しは、本作におけるものの方が、より真摯であると言えます。

 何よりも、結末の、ある史実を通じて生者と生ける死人の間に横たわる自明の、しかし皮肉すぎる真理が描かれる結末は、時代小説でゾンビを描くことの一つの意味を、考えさせてくれるのであります。


 そして、生者と生ける死人の間にあるものを見つめる視点は、最新作「幕末屍軍団」に受け継がれるのですが――それは次回。

「魔剣士 妖太閤篇」(菊地秀行 新潮文庫) Amazon
魔剣士―妖太閤篇 (新潮文庫)


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2010.04.15

ゾンビ時代小説特集 第三回「あやかし同心 死霊狩り」

 ある雨の晩に起きた怪事件――大工が何者かに襲われた現場に落ちていたのは、死後久しい死人の腕だった。それを皮切りに、江戸の町に歩く死人たちが現れ、さらに奇怪な殺人事件が続発する。事件の謎を追う南町隠密廻り同心・香月源四郎とその義兄・志垣隆之介が見たものとは…

 ゾンビ時代小説特集第三弾は、最新のゾンビ時代小説とも言える作品を取り上げましょう。
(実は本作、刊行直後に紹介しており、一冊一回という本ブログのモットーからは外れますが、その際はゾンビのゾの字も書かなかったのでご寛恕を請う次第)

 さて、本作は加納一朗先生の文庫書き下ろし時代小説「あやかし同心」シリーズの第二作であります。
 タイトルと媒体からわかるとおり、奉行所もの、捕物帖のスタイルを取りながらも、本シリーズで主人公たちが対峙するのは、超自然の怪物たち。
 第一作では江戸で跳梁する吸血鬼を真っ正面から描き、一部のファンを喜ばせたのですが、さてこの「死霊狩り」に登場するのは…そう、生ける死人、ゾンビなのです。

 雨の夜、大工が何者かに襲われた現場に落ちていたもの――抵抗した大工が振り回した工具が相手に当り、そこに落ちたとおぼしきそれは人の腕、しかも死後しばらく経ったものだった…!
 という、定番ながらゾクゾクするような冒頭部から始まり、本作では、江戸に跳梁する生ける死人の怪を静かに、しかし余すところなく描いていきます。

 本作の、本シリーズの特徴の一つは、敵する相手が超自然のものであっても、主人公たちはあくまでも常人、奉行所に属するごく普通の人々であることでしょう。
 当然、彼らは怪魔と対峙するに――いやそれ以前にその正体をまず暴くために、地道な調査と推理を重ねていくこととなります。

 それは、一歩間違えれば――その正体をとっくに察している読者からすれば――ひどく地味で、じれったいものとなりかねません。
 しかし本作においては、少しずつ姿を露わにしていく怪異と、少しずつ明らかになっていく真相が巧みに重なり合い、ゾンビホラーにして奉行所ものという、本作独自のスタイルが、見事に奏功したものとなっているのです。

 そしてさらに言えば、そのスタイルは、本作におけるゾンビ跳梁の理由とも巧みに結びついていくこととなります。

 これは本作の核心に迫ることゆえ詳細は述べませんが、本作におけるゾンビは、例えばこの世を狙う魔道士が生み出したものでなければ、一種の自然現象で生まれたものではありません。
 犯人がゾンビ――人間ならぬ人間を用いる理由と目的、それはあくまでも、彼の人間的な想いに基づくものなのです。

 つまりは、どれだけゾンビが跳梁し、猛威を振るおうとも、本作で描かれるのは、あくまでも人間が起こした、人間の事件。
 そこに、本作で同心が活躍する余地、そして同心ものとして描かれる必然性があるのです。

 心を持たぬゾンビを描くと同時に、その背後にある人間の心を浮かび上がらせる――本作は、そんなゾンビホラーの佳品です。

 なお、加納先生には、現代を舞台としたゾンビホラーの名品「死霊の王国」があります。こちらもどこかで復刊されないかしらん…

「あやかし同心 死霊狩り」(加納一朗 ワンツーマガジン社ワンツー時代小説文庫) Amazon
あやかし同心 死霊狩り (ワンツー時代小説文庫)


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2010.04.14

ゾンビ時代小説特集 第二回「関ヶ原幻魔帖」

 坊津の漢方医・入来玄蔵は、師匠の手紙で呼ばれ、京に向かった。しかしそこで待っていたのは師の墓と、怪人・外道院が率いる奇怪な一団だった。師が生み出したという死なずの怪物・死霊人――天下分け目の合戦を前に、死霊人軍団を生み出そうとする外道院一味に、玄蔵は医術と武術で戦いを挑む。

 ゾンビ時代小説特集第二弾は、意外な作者が意外な舞台で描いた作品。
 作者は火坂雅志、舞台は関ヶ原――昨年の大河ドラマ「天地人」の原作者が描く、ゾンビ活劇であります。

 火坂先生が、現在のように歴史小説メインとなる前に、伝奇色の強い時代エンターテイメントを量産していたことは、ファンであればよくご存じかと思いますが、本作は言うまでもなくその中でも最も尖った作品。
 何しろ、関ヶ原の合戦の秘密兵器として徳川軍がゾンビ――本作では死霊人といういかにもそれらしい語が当てられていますが――兵団を組織! いやそれどころか、石田三成その人がゾンビに!? という驚天動地の内容なのであります。

 しかし、どれだけ無茶に見える作品であろうとも、きっちりと理屈を合わせてくるのは、ある意味火坂先生の火坂先生らしいところ。
 本作の主人公・玄蔵が挑むことになる死霊人誕生の秘密と、死霊人撃退の方策…その中で描かれるのは、ある意味実に理に叶ったゾンビ理論(?)。

 その内容は読んでのお楽しみですが、戦国時代にゾンビを登場させるのに、最も無理のない手段はなにか…
 それを検討した上で選んだ手段が、正統派かつ意外にゾンビもので取り上げられることが少ないように思えるものであったところに、火坂作品の持つ一種のリアリズム、まじめさが感じられるのです。
(もっとも、冷静に考えると突っ込みどころがなきにしもあらずではあるのですが…)


 正直なことを言えば、本作は全体として見た場合、この時期の火坂作品によくある「普通に面白い」作品以上でも以下でもありません。

 しかし、戦国時代の合戦にゾンビ兵団を!(それも合理的なアイディアで)というのは、これは今見ても実に魅力的なアイディアであることは間違いなく、それを見事に実現してみせた作者の手腕、そして何よりもその嗜好に、心から敬意を表する次第です。

 …それにしても火坂先生、後に外道院の正体を主役にして一本作品を書いているのは、なんと表すべきか。
 その辺りから考えても、ある意味幻の作品ではありますが、しかし、埋もれさせておくにはやはり惜しい作品であります。

「関ヶ原幻魔帖」(火坂雅志 ミリオン出版大洋時代文庫) Amazon
関ケ原幻魔帖 (大洋時代文庫)


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2010.04.13

ゾンビ時代小説特集 第一回「神州魔法陣」

 独楽使いの達人・巳之吉は、とある事件がきっかけで、素浪人・内藤端午と知り合う。江戸で頻発する怪事を追うこととなった端午と巳之吉の前に現れる生ける死人の群れ。それを操るのは、平賀源内を名乗る怪老人だった。日本を襲うという大災厄を防ぐため、源内を追って端午と巳之吉たちは東海道を京へ向かうが…

 ゾンビ・ホラーの大作「WORLD WAR Z」刊行に便乗してを記念して、今週はゾンビ時代小説特集を行いたいと思います。
 ゾンビと時代小説というのは、また無茶な取り合わせですが、その気になれば何でも取り込んでしまうのが時代伝奇というジャンルの恐ろしさ。ゾンビが登場する、ゾンビを中心とした時代小説というのは、数は多くないものの、存在しているのです。


 さて、その第一弾は、都筑道夫先生のおそらく最長の長篇「神州魔法陣」であります。

 ゾンビ時代小説を特集するにあたって、やはり最初に取り上げるべきはその第一号作品。しかし、時代伝奇小説では、死から甦った者などというのはザラ、吸血鬼も珍しくはありませんが、ゾンビを出した作品といえば…
 そして、突き当たったのは本作。私の知る限り、本作こそは時代小説で本格的にゾンビを暴れ回らせた初の作品かと思います。

 富士見時代小説文庫版のあとがきで作者自らが述べている通り、本作のスタイルは、あくまでも古式ゆかしい時代伝奇小説の典型。
 市井の善男善女や曰くありげな浪人、盗賊などが、日々の暮らしの中でちょっとした変事と出会ったかと思いきや、それがあれよあれよと巨大な陰謀へと繋がり、奇想天外な冒険に巻き込まれていく…本作は、まさにそんな作品です。

 しかし、それが単なる懐古趣味で終わらないのが都筑先生の先生たるゆえん。
 王道の伝奇スタイルに、一種時代小説離れした様々な要素を取り入れることにより、今読んでも十分に面白い作品として成立させている本作――その最大の要素は、やはりゾンビの存在でしょう。

 江戸中から次々と若い娘を拐かし、また奇怪な幻術を操る者――死から甦り、生と死の秘密を解き明かしたと豪語する平賀源内(!)が、己の手足の如く操るのが、生ける死人たち。
 己の意志を持たず、術者の命じるままに襲いかかる怪力・不死身の怪物…これもまた、古式ゆかしいゾンビの姿ではありますが、しかしそれが伝奇時代小説の世界に投入された時のインパクトたるや!

 特に第一部のラスト、主人公たちの長屋を襲撃してきたゾンビたちが、己の体に火を付け、人間たいまつと化して周囲を紅蓮の炎に包むシーンは、その怪力で火消したちを叩き伏せる様なども相まって、時代の冠をつけないゾンビ小説としても、かなりの名場面と言うべきではありますまいか。
(菊地秀行の「魔界行」でゾンビを満載した列車が駅に突入して大惨事となる場面は、これを参考にしたのではないかしらん)

 実を言えば、本作でゾンビが登場するシーンは存外少なく、前半1/4くらいで登場する上に挙げたシーン以降は、ほとんど全編幻術大会と化すこともあり、ラストまでほとんどゾンビは登場しません。また(こうやって取り上げておいて恐縮ですが)本作をゾンビの観点からのみ語ることも、また偏った見方でしょう。
 しかし、そうであったとしても、おそらくは時代小説に初めて本格的にゾンビを投入し、素晴らしい名場面を見せてくれた本作を、このゾンビ時代小説特集の最初に紹介したいという気持ちが、私には強くあります。


 …考えてみると、この辺りの和洋折衷といいますか、普通であれば思いつかないような取り合わせは、時代小説をこよなく愛し、そして同時に欧米のホラーにも通じた都筑道夫先生であればこそ、と言うべきでしょうか。
 いかなる理由か、もう数十年来絶版となっている本作ですが、あたかも本作の平賀源内が如き復活を願ってやみません。

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2010.04.12

「変身忍者嵐」 第39話「あゝ嵐! 死す!!」

 骸骨丸の前で正体を明かした月の輪。彼はハヤテの双子の兄・フユテだった。再会を喜び合う間もなく、人質を救うため地獄谷に急ぐハヤテ。しかし嵐は魔神斎の奸計で溶岩の中に落とされてしまう。月の輪は嵐を救うため自らも溶岩に飛び込み、兄弟の力で新生・嵐を生み出す。勝ち誇る魔神斎と悪魔道人を一撃で粉砕する嵐。しかしその前に、彼らを操っていた大魔王サタンが出現するのだった。

 ついに西洋妖怪編も今回で完結。そして同時に父の敵である魔神斎との戦いも決着します。
 …色々と意外かつあっさりと。

 冒頭で謎に包まれていた正体を明かした月の輪の正体は、市川治の声で話す南城竜也…ではなく、ハヤテの双子のフユテ。どうやら以前からこの時あるを予感して西洋妖怪を追っていたようです。
 …別に正体を隠しておく必要はなかったんじゃ、とも思いますが、双子のどちらかが傷つけばもう一方も傷つくそうなので、そういうことなんでしょう。

 さて、前回死にそうだった骸骨丸はあっさり復活して再び月の輪に襲いかかりますが、あっさりまた敗北。
 魔神斎の秘密をしゃべるとみっともなく命乞いしますが、そこで悪魔道人の怒りを買い、不死身の魂(というものがあるんだそうです)を没収されて地獄の業火に焼かれてしまうのでした。
(しかしフユテ・タツマキ・ツムジの周囲を下忍が輪になって取り囲み、ぐるぐる回って動きを封じ、さあ攻撃! ってところで「クラーム」でどろん、というギャグみたいな展開にはひっくり返りました。)

 さて、人質となったカゲリとツユハは、火口の近くに磔状態。それを救おうとしたうっかりハヤテは魔神斎の攻撃を喰らって転落。変身して空駆けの術で飛び出したところをさらに雷を喰らわされ、姉妹は助けたものの、自分は溶岩の中に…

 そこで月の輪は自分の生命力と合わせて救ってみせると後追いダイブ、嵐と月の輪の兄弟が合体すれば、二人の体内に蓄えられた不滅のエネルギーが作用する…と謎のナレーションをバックに、溶岩の中でひしと抱き合う二人!
 よくわからない原理で合体した二人は、超能力を持った新生嵐に。

 おもむろにとりだしたバトンの先からの変な光線を喰らった悪魔道人は、苦しんだ挙げ句崖から落ちて盛大に爆死(目から血を流す魔神像がキモイ)
 そして逃げる魔神斎にも、空中でバトンの一撃! あっさり粉砕された魔神斎の正体は機械人形という超展開であります。

 さらに超展開は止まらない。そこに飛んで来たのは変なUFO、その中に乗っているのは金髪の天本英世、大魔王サタン!
 なんと魔神斎は大魔王サタンの人形、悪魔道人もサタンの配下だったと…
 血車党って? 魔神斎って? と色々混乱しますが、妖怪城を根城に日本征服を宣言するサタン――まだ平和は遠いようです。

 タツマキとツムジは忍者大秘巻二巻を持って伊賀の里へ。合体の後遺症か、声が市川治になってしまったハヤテは大魔王サタンを倒すための旅に出るのでありました。


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2010.04.11

「機巧奇傳ヒヲウ戦記」 第14話「でかい! 魔界に眠る天狗の剣」

 清河の誘いで、獅子王に炎を見せるヒヲウたち。しかし清河が獅子王に刃を向けたため、ヒヲウたちは捕らわれてしまう。すぐに誤解は解けたが、獅子王はヒヲウに再び自分に仕えよと語る。迷いつつも長岡京に天狗剣を探しに向かうヒヲウ。その前に、薩摩浪士そして風陣が現れる。乱戦の中、ヒヲウは戦いを止めるため炎を動かす。天狗剣は風陣に奪われたものの戦いは終わり、マスラヲが新月藩にいたことを知ったヒヲウは再び旅に出る。

 今回は京都編のラスト。様々な人々の思惑が入り乱れての乱戦の中で、ヒヲウは自分のなすべきことを見出すことになります。

 さて、前回ほど場面転換は少ないものの、やはり人間関係が入り組んだ今回。しかし、少しずつ舞台から登場人物は消えていきます。
 私欲のために動いているという醜い心底を獅子王に見抜かれて這々の体で逃げ出す清河(行きがけにテツを手にかけようとした外道っぷりが光ります)。
 清河の巻き添えで捕らわれたヒヲウたちを救うために自らが新月藩主の嫡子と名乗りをあげ、才谷や華と共に去る雪…いや雪弥。
 そして、同志のもとに帰るため、叔父の益満に刃を向ける有坂少年――

 実は有坂少年は、今回のお話では少し外れた――ヒヲウと関係のないところに――いたのですが、しかし、人死にが正面から描かれることが少ない本作において、彼が物言わぬ姿となって川につっぷして浮かぶシーンは、実に衝撃的。
(有坂が後の誰なのか一生懸命調べていた私もびっくり)

 自らの理想に燃えていた若き命が、悲劇的な最期を遂げるというのは、幕末という時代のある種の象徴と言うべきでしょう。有坂の姿に一種複雑な憧れを抱いていたヒヲウではありますが、しかし自らの志のためとはいえ、人が人を殺すというのは最も否定すべきもの。
 クライマックスの天狗剣を巡る長岡京での乱戦(獅子王配下の八瀬童子まで参戦! 連環馬軍団かと思いました)において、たとえ敵であっても人死にを防ごうというヒヲウの叫びは、まさにその想いの表れと言うべきでしょう。

 かつては御所に仕えたという機の民。そして彼らが操った炎と一対の存在である天狗剣。
 何故機の民が御所を去ったのか。そして何故天狗剣のみを長岡京に残していったのか…
 その答えは今回明示はされませんでしたが、しかしそれはヒヲウの姿の中に示されていると見るべきでしょう。

 もっとも、それに説得力が――あくまでもドラマそのものとしてのではなく、ヒヲウという少年の主張として――あるかは別のお話。
 「機巧は祭のために用いるべし」とは、本作の冒頭から語られる機の民の掟ですが、しかし、古来祭と政はイコールだったと語る獅子王の言葉は、一定以上の重みを持って感じられます。

 ちなみに、前回冒頭に登場したマスラヲは、掟を破った機の民である風陣の大頭と親しく語る姿を見せました。それは、マスラヲなりに、この問題に答えを出したということなのでしょう。

 果たしてヒヲウは、マスラヲと出会った時に自分なりの答えを明確に示すことができるのか…
 そのマスラヲの居場所も、いよいよヒヲウたちの知るところとなり、舞台は新月藩へ。いよいよクライマックスであります。


 ちなみに今回感心したのは、テツの動かし方。前回同様、やっぱり情報量が多かった今回ですが、その辺りの慌ただしさを、うまく緩和していた印象があります。
 天狗剣の在りかを巡るイシ・フブキとのもどかしいやりとりは、ベタでしたがやはり面白かったですね。

 そしても一つ、どう考えても浮いていた前回と今回のサブタイトル中の「魔界」の意味づけにも感心。


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2010.04.10

「はぐれ忍び 烈」 天才忍者の大いなる目的

 慶長五年、豊臣秀吉亡き後、天下を巡る動きの中で、忍びたちの暗闘も激化する。そんな中、直江兼続の前に「烈」と名乗る忍びが現れた。人並み外れた剣技と知謀、カリスマで上杉家に助力する烈。しかし、その一方で烈は徳川家康の前にも姿を現す。果たして烈の狙いは…

 いつの間にかめっきり数を減らしてしまった忍者ものの時代小説。まったく寂しいお話ですが、そんな中で、真っ向から忍者を主人公としてくれたのが本作「はぐれ忍び 烈」です。

 忍びの活躍を通して描く関ヶ原秘話、ともいうべき本作の主人公・烈は、伊賀の里で育った天才忍者。
 若き日に伊賀が信長に攻め滅ぼされ、諸国を放浪することとなった烈は、長じた後、ある目的をもって、直江兼続に近づくことになります。

 秀吉亡き後、天下を窺う家康配下の服部半蔵率いる伊賀忍者に壊滅的打撃を受けた上杉家の忍者団に代わり、上杉家存続のために活躍する烈…
 これだけであれば、さほど珍しい内容ではありませんが、面白いのは、烈が、兼続と対立する家康の側にも助力することです。

 天下の趨勢が家康と石田三成の全面対決に向かう中、烈は家康による多数派工作に力を貸して、関ヶ原の合戦で家康を勝利に導くために暗躍します。
 兼続と家康、双方のために働く烈は、単なる二股膏薬の卑怯者のように見えますが、そこには烈自身の大いなる目的が秘められているのです。


 …正直なことを言えば、本作は小説として見れば、文章力・表現力はまだまだ…という印象が強くあります。
 その点でいえば、まことに残念ながら人に薦めにくい作品ではありますが、しかし、本作の中心にある烈の真の目的と、それに密接に結びつく烈の出自の意外性など、見るべき点も様々にあります。
(ちなみに、この点に関わるものですが、本作は、実は作者の前作「雲の彼方に 希代くノ一忍法帖」の続編であります)

 そしてまた、冒頭に述べたように、現在では貴重な忍者ものとしてのアクション描写も楽しい本作。
 確かに残念な部分はありますが、まだ作者の三作目であり、これからの伸び代はあると考えたいところです。

 天下は安寧に向かったとはいえ、未だ争いの種が残ることを考えれば、烈の今後の活躍を見てみたいという気持ちもあるのです。


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2010.04.09

「陰陽ノ京 月風譚 黒方の鬼」 変わったもの、変わらぬもの

 左大臣・藤原実頼の館から、彼を呪詛する符が見つかった。事件を未然に防ぐため、陰陽頭・賀茂保憲の息子・光榮は、密かに事件の調査にあたる。異国の血を引く女外法師・藤乃とともに京の闇を行く光榮の前に、奇怪な鬼の姿が…賀茂光榮と住吉兼良、若き二人の陰陽師が闇に挑む。

 ようやく追いつきました。約三年ぶり、そして新主人公による「陰陽ノ京」シリーズ最新巻であります。

 主人公を務めるのは、これまでもシリーズに準レギュラーとして登場していた賀茂光榮。
 大陰陽師・賀茂保憲にして前の(と書くのは抵抗ありますが)主人公・慶滋保胤の甥というサラブレッドですが、見かけは浮浪者のような無頼漢、しかしうちには優しき心を秘めた愛すべき男であります。

 物語の舞台となるのは、晴明が京を離れ、貴年と「その主人」が安倍邸に世話になっていることから、おそらくは巻ノ五の直後の世界。
 時の左大臣・藤原実頼を狙い京を跳梁する奇怪な鬼に、光榮とその相棒(?)住吉清良が挑むことになります。

 果たして実頼を狙う者は何者か、そして何故狙われるのか…その謎を追う光榮たちの姿と平行して描かれるのは、実頼と、彼女と因縁のある女外法師・藤乃の心の交流。
 その二つの流れが絡み合った末に迎える結末までには、一ひねりも二ひねりもあり、派手な術描写のみに頼らず、人と人の繋がりを陰陽道に託して描くという、本シリーズのカラーは変わっていないと感じさせられました。


 しかし、その一方で変わったと感じさせられた部分もいくつかあります。

 その一つは、物語の背景として、史実との関わりを明確に描いたことでしょう。
 これまでのシリーズでは、晴明や保憲といった実在の人物こそ登場したものの、それ以外の実在の人物は登場せず、背景として平安時代というものは存在しつつも、その背景が物語に有機的に結びつくことはほとんどありませんでした。
 それが本作では、事件の中心を実頼という人物と、ある歴史上の事件に置くことにより、明確に物語を史実に結びつけているのです。

 もう一つ言えば、貴族を呪詛から守るために戦う陰陽師という本作の構図は、陰陽師ものの定番のシチュエーションではありますが、本シリーズはかなり珍しいものであります。

 こうして考えると、本シリーズそのものがある意味異色だったわけで、本作で、それがいわゆる陰陽師ものの定番に近づいたと言えるかもしれません。
 この辺りは、新レーベルにて新シリーズ――なのでしょう、きっと――を開始するに伴い、シリーズの方向性を少し変えたということなのでしょう。

 それが果たしてシリーズの今後にどのような影響を与えるか、それはまだわかりませんが、しかしそれでも上で述べたように、陰陽道を媒介に、人と人の繋がりを中心に描くという部分に変わりはありません。
 そうである限り、本作も、そしてこれからの作品も安心して読むことができます。

 後に望むことはただ一つ、次回作はあまり待たせないで欲しい、ということのみです。

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陰陽ノ京 月風譚 黒方の鬼 (メディアワークス文庫)


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2010.04.08

「サンクチュアリ THE幕狼異新」第1巻 異能の狼、聖域を守る

 幕末の京都、治安維持のために刃を振るう新選組は、一人一人が人知を超えた異能を持つ戦闘集団だった。その新選組の前に現れたのは、倒幕派を陰で操る謎の集団・八瀬童子。王城の聖域(サンクチュアリ)を守る新選組に託された密命とは…

 「天地明察」で一躍時代小説シーンに躍り出た冲方丁が原作を担当する新選組もの――しかし「天地明察」しか読んだことのない方は、一読確実に目を白黒させるであろう作品、それが本作「サンクチュアリ THE 幕狼異新」であります。

 既に無数のクリエイターにより題材とされている新選組でありますが、しかしくせ者の冲方丁が原作を書いて普通で終わるわけがない。
 何と本作での彼らは、言うなれば一人一芸の能力者集団。鬼使いの土方、遠隔視の沖田、再生能力の斎藤、風使いの井上、幻術使いの谷三十郎(ってまたえらいのを持ってきたな…)etc.、こんな新選組見たことない! と断言できます。

 考えてみれば冲方作品には「ピルグリム・イェーガー」「シュヴァリエ」と、伝奇活劇――虚実織り交ぜたキャラクターたちの能力バトルの要素が強い――の二大雄編があるわけで、その意味では本作の内容も意外ではないかもしれません。
 しかし、こうしてある意味コロンブスの卵的な作品を見せられると、その奇想には改めて驚かされます。

 正直なところ、この第一巻はその大部分が、新選組の面々がどのような能力を持っているかを描く「顔見せ」以外のものではなく、その点では食い足りない部分もあります。
 しかし、既に現時点でも、実は池田屋事件で死んでいた近藤勇(土方と沖田しか知らない替え玉の正体にまた吃驚!)、松平容保に下された密勅と、先が楽しみになるようなフックが見られ、こちらの期待を煽ってくれます。

 何よりも、新選組の「選」の字の中に「巽」が隠されているとして、彼らの他にあと七つ、京を巡る八卦を象徴する集団が存在するという趣向は、これはもう厨臭いと言われようが何と言われようが、これから登場するであろう連中が、楽しみでなりません。

 最後になってしまいましたが、作画の方は野口賢でこちらも全く不安なし(「黒塚」を除けば時代ものはあの「柳生烈風剣連也」以来?)。
 あとは腰を据えて、破天荒な物語の行方をじっくりと見せてもらうとしましょう。

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サンクチュアリ-THE幕狼異新 1 (ジャンプコミックスデラックス)

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2010.04.07

「射雕英雄伝EAGLET」第3巻 彼の、最初の戦場

 現在チャンネルNECOで李亞鵬主演のドラマ版が放映されている金庸先生の大河ロマン「射雕英雄伝」。その漫画版…としては、真面目な金庸ファンからはほぼ黙殺されていますが、それでも頑張ってほしい「射雕英雄伝EAGLET」の第三巻の登場であります。

 さて、この巻で描かれるのは、前巻から引き続きの武術大会・江南論剣での死闘の数々。
 成り行きから論剣に参加することとなった主人公・郭靖と黄蓉ですが、その前に現れたもう一人の主人公と言うべき男・完顔康の力の前に手も足もでず…というのが第二巻までのお話。

 内功では一日の長のある黄蓉はともかく、郭靖は片腕に深手を負って、ただでさえ未熟なところが戦力大幅ダウン。それでも論剣の本戦は近づいて…
 というところで、この巻で描かれるのは、達人・洪七公による郭靖特訓編なのですが、これがなかなか面白い。

 これが要するに、郭靖が眠っている間に、過去の戦いを追体験させるというビックリ睡眠学習――これを「睡功」というのはちょっと違う気もしますが――なのですが、しかし、これまでの戦いを遡っていった果てに待つ彼にとっての最初の戦場というのが、彼の父が殺された牛家村での戦いだったという展開には、「なるほど!」と膝を打ちました。

 もちろんその当時、彼は母のお腹の中であったわけですが、しかしあの運命の夜をもって彼の最初の戦いとするそのセンスが実によろしい。
 まさに、彼の波乱に富んだ戦いの人生は、あの夜に始まったのですから…

 本作はストーリー的にも絵的にも、あまりにも原作(のイメージ)とかけ離れていることから、冒頭に書いたように原作ファンの評判は芳しくないのですが、しかし、このようなストーリー上の一ひねりや、相変わらずシャープな作画のアクション描写など、評価できる点は幾つもあると――そしてそれはどんどん増えていっていると――私は感じています。

 原作ものでなければ…というのは失礼極まりない感想ではありますが、しかし正直な印象ではあります。


 さて、江南論剣もいよいよ大詰め。郭靖と完顔康――ライバル同士の二人が、ついに自分たちが生まれる前からの因縁の存在を知ったことで、果たしてどのようなドラマが生まれますか。
 ここまで来たら、どんどんこちらの固定観念を破壊して、驚かせて欲しいものです。

 ちなみにこの巻では西毒・欧陽鋒も顔見せ的に登場。どちらかというと悪い魔法使い然としていますが、これはこれで毒物じじい的で、なかなか良いと思います。
(むしろ西毒に比べると洪七公のデザインが今ひとつ、単なるお爺さんなのは何とも残念…)

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2010.04.06

「鬼しぐれ 花の小十郎はぐれ剣」 かぶき者、最後の大喧嘩

 天下のかぶき者で大ホラ吹きの戸沢小十郎は、大御所・徳川秀忠の囲碁指南役として呑気に暮らす毎日。しかし将軍家光は、秀忠薨去を期に、弟・忠長と並んで不倶戴天の敵である小十郎抹殺を柳生に命じる。自ら牢人となり、全ての後ろ盾を捨てた小十郎は、家光に対し命懸けの喧嘩をふっかける!

 大ホラ吹きでへそまがり、剣の腕は武蔵や十兵衛に匹敵するという天下御免のかぶき者・戸沢小十郎の活躍を描くシリーズ久しぶりの第四弾――そして最終巻であります。

 佐竹藩士という身分はありながら、大老・土井利勝のもとに出入り勝手、それどころか江戸城や御所にまで顔を出す怪…いや快人物小十郎は、これまで様々な権力者を相手に喧嘩を繰り広げてきましたが、今度の喧嘩相手はなんと日本の頂点・将軍家光であります。
 かつて江戸市中で辻斬りを行っていた時に小十郎に出くわし、散々に打ちのめされた家光にとって、小十郎は、将軍位を争った弟・忠長に匹敵する恨み骨髄の相手。
 小十郎や利勝の奇計により、大御所・徳川秀忠の囲碁指南役となることで、家光の追求の手をかわした小十郎ですが、しかし秀忠が亡くなったことをきっかけに、事態は大きく動き出すことになります。

 というわけで、たかが一人の男を相手に、柳生一門を――すなわち幕府最強の戦力を――動かして戦いを挑む桁外れのバカ将軍と、その戦いを真っ向から(かぶき者的意味で)受けて立つ桁外れのかぶき者という、とんでもない戦いが展開されるという趣向。

 ――が、実はこの本題に入るのが、実は大部の作中の丁度半分あたり。そこまでは、もう一人の家光の宿敵・駿河大納言忠長が蟄居させられ、さらに改易・逼塞に追い込まれていく様が描かれていくことになります。
 この辺り、小十郎の活躍を待っている身とすればいかにも長い…と言いたいところですが、徳川家、つまりは幕政の行方を巡るマクロな動き、小十郎とは遠く離れたよう話題でありつつも、小十郎をはじめ、シリーズお馴染みの登場人物たち――利勝、沢庵、宗矩――の目を口を通じて描かれるため、個人的には全く退屈することはありませんでした。

 さて、そして始まる小十郎の戦い。佐竹藩士という身分を捨て、利勝との繋がりを捨て、背水の陣で挑む彼の目的はただ一つ、家光の首(!)。
 バカ将軍に自分がバカであると叩き込み、バカを道理で説得と思いこんでいる幕府の知恵者たちを笑い飛ばすため、小十郎は命を的に大喧嘩を始めることとなります。
 これまで口八丁手八丁、様々な相手と戦い、到底不可能と思えることを成し遂げてきた小十郎ですが、さすがに今回ばかりは相手が大きすぎる…などとは、シリーズファンであれば思いますまい。
 いかに小十郎が天下を相手に繰り広げる喧嘩祭の顛末を、ぜひご覧いただきたいと思います。


 …しかし、どんな祭にも終わりの時は訪れます。
 大喧嘩の末に待っていたのは、小十郎も思いも寄らぬ、ほろ苦い結末。それを知った時、小十郎の胸に去来したものが果たしてなんであったか――
 考えてみれば、結末で描かれるある史実は、「天下泰平」をある意味象徴するが如き事件。騒動あるところに活躍の場のあった小十郎も、そろそろ休むべき時、ということなのでしょう。

 それはもちろん寂しいことではありますが、しかし、これまでの痛快な活躍を考えれば、お疲れ様でした、とファンとしては心から言いたいと思います。
 もちろん小十郎がそれを耳にして喜ぶとは思いませんが――へそまがりの血が騒ぎ出してもうひと騒動、となれば、これはこれでこちらも望むところ、ではあります。

「鬼しぐれ 花の小十郎はぐれ剣」(花家圭太郎 集英社文庫) Amazon
鬼しぐれ―花の小十郎はぐれ剣 (集英社文庫)


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2010.04.05

「変身忍者嵐」 第38話「謎の剣士月ノ輪の正体!!」

 魔神斎は、血車最強の忍者・鬼目の源十郎の二人の娘を人質に取り、嵐を倒させようとする。ツムジを捕らえ、ハヤテを決戦場の神社に誘き寄せる源十郎だが、嵐の前に敗れる。そこに血車党から逃れた娘たちが割って入るが、実は魔神斎は源十郎を殺し、入れ替わっていた。魔神斎は娘たちを人質に、ハヤテに天の巻を要求する。その天の巻を持つタツマキを襲う骸骨丸は月の輪に倒され、最後の息で月の輪の正体を見たいと望むが…

 ついに西洋妖怪編…というより化身忍者編のクライマックス。悪魔道人に嵐の相手を任せ、しばらく蚊帳の外だった魔神斎と骸骨丸が久々に登場です。
 骸骨丸は、大魔神像の足元潰されていましたが、魔神斎曰く「長年石の下で修行していた」とのことで…長年!?

 それはさておき、今回嵐の前に立ち塞がるのはこの二人ではなく、かつて血車党三百人(意外と少ない?)随一の忍者と呼ばれ、ハヤテの父・谷の鬼十の親友だったという抜け忍・鬼目の源十郎。
 かねてから魔神斎のやり方に反対し、二人の娘・カゲリとツユハのために血車党を抜けた源十郎ですが、今その娘たちを人質に取られ、ハヤテとの対決を余儀なくされるという展開であります。

 引退した戦士が、やむを得ぬ理由から復帰し、(主人公と)戦うというのは、エンターテイメントによくあるパターンですが、本作ではそれがおそらくは化身忍者よりも強いベテランの忍者という設定が嬉しい。しかも源十郎を演じるのは、大ベテラン・戸上城太郎であります。

 ――が、展開的にはどうにもしまらない今回。人質取っては逃げられ、また人質取られて…という展開の連続で、だんだんなんのために戦っているのかわからなくなってきます。
 源十郎が戦う理由である二人の娘は、冒頭で捕まったと思えばあっさり逃走に成功。
 その源十郎がハヤテを誘き寄せるために捕らえたツムジ(ここで源十郎が、ギニョルを片手に無表情に腹話術を使ってハヤテに呼びかけるシーンが妙にシュールでおかしい)は、ハヤテが到着する前にあっさり解放されます。
しかも源十郎、最大の目的である天の巻を持ってこいと言い忘れるチョンボ(これ、後で考えると本当に不思議)。
 そして終盤のどんでん返しでは、また娘二人が魔神斎に捕らわれて、ともう何が何だか。

 道中、下忍たちのしょぼい待ち伏せは見なかったことにして、さすがに源十郎と嵐(久々に変身シーンあり!)の対決は、生身ながら分身の術を駆使して源十郎が嵐を圧倒するのが実にらしくてよかったのですが…

 この後に今回最大の???が!
 源十郎、既に魔神斎に殺され、入れ替わられていました。

 …いや、自分が戦うんだったら、源十郎に化ける必要なかったじゃん(ハヤテの戦意を喪失させるためだったかもしれませんが、ハヤテ全然普通に戦ってたので意味なし)。

 そんなこんなで魔神斎の挑戦に応じ、地獄谷に向かうことになったハヤテたちですが、ここで
天の巻はこのとおりでござる! と懐から取り出した途端に骸骨丸に奪われるタツマキ
→次の瞬間ハヤテに刺された上に、追ってきた月の輪に叩き斬られる骸骨丸
という冗談みたいなテンポの展開で、もうお腹一杯…

 骸骨丸の最後の頼みで変身を解除する月の輪、その素顔は…というところでつづく!
 クライマックスにこんなノリで、大丈夫かな次回…あと、月の輪が前回ラストで来いって言ってた天狗岳はいずこに!?


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2010.04.04

「機巧奇傳ヒヲウ戦記」 第13話「ちぇすと! 魔界京都に刃が光る」

華は何者かに追われる少年武士・有坂と出会うが、ヒヲウは華が有坂を気にするのが面白くない。清河の言葉に応じ、獅子王なる人物に機巧を見せたヒヲウは、機の民は武士として御所に仕えよという獅子王の言葉には応えられず、その場を離れる。一方、有坂についていった華は、薩摩の過激派に捕らわれてしまうが、偶然華の歌を聞いていたテツのおかげで居場所がわかり、救い出されるのだった。

 前回からスタートした京都編、今回と次回がその本編といったところですが、さて今回は登場人物の思惑が入り乱れ、相当慌ただしい印象です。

 大まかに整理すれば、
・京の機巧堂で父の情報を待つヒヲウ一行
・何者かに追われる少年武士・有坂と彼を追う男・益満
・京に眠る天狗剣を探す風神のイシとフブキ
・清河八郎と彼が接近する獅子王なる高貴の人物
の各グループ(?)のやりとりで物語が展開していくことになります。
 見ている間はあまり感じなかったのですが、今回メモを取りながら改めてみてみると、非常に細かく場面展開していることに驚かされます。

 物語の中心となるのは、ヒヲウと喧嘩――ヒヲウが華を男と疑って布団に潜り込むという二重に失礼なことがきっかけで――した華と、薩摩の過激派に属する少年武士・有坂であります。
 華は、フィクションとしての本作の中心である三剣藩関連のエピソードを代表する人物。一方、有坂は、時代ものとしての本作の背景となる京の政治情勢の一面を象徴する人物であって、この二人が中心となるのは、ある意味正しい構成でしょう。

 その一方で、そこから微妙に外れた位置に立つ――そして考えてみればそれは本作全体に共通することかもしれませんが――ヒヲウが、今回は少し霞んでしまったかな、という印象。
 珍しく今回は炎が戦わず、その代わりのクライマックスとなった薩摩浪士からの華奪還にも居合わせなかったということもあっての印象なのですが、先に述べためまぐるしい構成もあって、ちょっとお話(の目指すところ)が掴みにくかったかもしれません。

 もっともその辺りを和らげる役割にあったのが、大人(?)たちの思惑と一人関係なく飛び回っていたテツなのでしょう。
 周囲の人々の思惑の行き違いなどはどこ吹く風、無邪気に飛び回っては敵味方関係なく関わる姿は、子供たちが主人公という意味をある意味体現していると言えますし、何より見ていて楽しいものでした。これ、単純なようでいて大事ですからね。


 さて、次回は今回終盤に登場した謎の人物・獅子王の思惑と、伝説の天狗剣の存在が描かれることとなります。
 今回ちらりと顔見せした風陣の大頭や、謎の機巧・ミコトなど、今後描かれるであろう部分も楽しみなのです。

 そういえば今回、マチが、蝶々が出てくる機巧杖を使ったのですが、懐かしかったなあ…ってこっちが先だよ!


 ちなみに今回のアバンタイトルは生麦事件でしたが、被害者の方々が堂々と機巧馬に乗ってきたのはやっぱり違和感…
 最終的には機巧が消えゆく様も描かれる予定だったのかな?


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2010.04.03

「巷説百物語」第4巻 日高版百物語、ひとまず完結

 日高建男先生による漫画版「巷説百物語」もこの第四巻で最終回。「死神 或は七人みさき」のラストから、「柳女」「帷子辻」「老人火」の四話を収録して、完結となります。

 シリーズ最大のクライマックスともいえる「死神 或は七人みさき」は、大半が第三巻に収録されているため、ラストのみの収録となっているのが少々残念ですが、冷静に考えると豪快極まりないあの結末も、きちんと真っ正面からビジュアル化しているのに好感が持てます。
(第三巻に収録された「船幽霊」の時も思いましたが、アレの存在はかなりギリギリかと…)

 しかしちょっと残念なのは、大いに盛り上がった「死神」と、そのエピローグと言うべき「老人火」の間に、「柳女」「帷子辻」が入ることでしょうか。
 これは、原作発表順ではなく、作中の時系列順というこの漫画版の構成のためであり、そしてもちろん独立した作品としてみれば、この二編は文句なく面白い作品なのですが、ちょっとどの作品も割を食ったかな…という印象は、正直なところあります。


 さて、それは贅沢な悩みとして、めでたく原作の「巷説百物語」「続巷説百物語」を全編漫画化した本作。
 「巷説百物語」という作品(シリーズ)は、全編の情報量(台詞)が非常に多い上に、人の変態心理・異常心理を妖怪に仮託して事件を解決するという内容ゆえに、漫画化するには、大胆にアレンジするか、真っ正面から忠実に描くか、どちらかのアプローチしかない、なかなか難しい作品であったかと思います。

 この日高先生による漫画版は、後者のアプローチを取ったわけですが、台詞量が非常に多いのは上記の通り仕方ないとして、それ以外の点については、よくぞここまできっちりと漫画化したものだと、感心いたしました。
 特にキャラクターのビジュアルは、リアルさと漫画っぽさのぎりぎり中間点で、物語のイメージに似合ったものであったかと思います。
(田所様は、あれはもうあれしかないのでよいのです)
 特に又市は――ちょっと格好良すぎるという声はあるかもしれませんが――もうこのビジュアルしか浮かばないはまりっぷりであったかと思います。

 さて、日高先生による漫画版はここでひとまず完結ですが、あとがき漫画によれば、原作者・編集サイドは続編GOの様子。ここまで来たら原作全作品描ききって欲しいものです。

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2010.04.02

「なまずランプ」第3巻 なまず講の裏の裏

 時は幕末、平凡な(?)ダメ人間の平次郎が何故か大事件に巻き込まれて右往左往…の時代サスペンス「なまずランプ」の第三巻、物語的には第二部の「地の巻」の完結編であります。

 御金蔵破りの事件で辛うじて命を拾い、御用聞きとなって妹と呑気に暮らす平次郎。
 そんな彼の近所に、「なまず講」なる団体を主催するイケメン・風科光馬が越してきたことから、平次郎はなまず講を巡る騒動に巻き込まれることとなります。

 物語当初から、重要な背景として存在している安政の大地震。生々しく残るその恐怖の記憶を利用して、一大勢力となったなまず講に平次郎も飲み込まれて…
 というのが第二巻までのあらすじですが、さてそこからの物語は、半分は予想通り、それ以降は…え? え? ええっ!? という展開の連続。

 いやはや、なまず講に取り込まれたように見えた平次郎が実は、というのは誰にでも予想がつくと思いますが、しかしなまず講の裏の裏に隠されていた真の目的たるや…

 なまず講自体は、怪しいとはいえさまで大きな事件には見えなかったところを、回り舞台がぐるっと回ってその裏側が現れてみれば、これが江戸がひっくりかねない一大事件に早変わり。

 物語の趣向が趣向だけにその内容まで描けないのが実にもどかしいのですが、かの勝麟太郎まで(そしてもう一人!)飛び出しての――正直なところ、おかげで平次郎が食われた感はあるのですが――逆転また逆転の展開は、いかにも本作らしい人を食った驚きと楽しさに溢れていて、大いに興奮させられた、ということだけは断言できます。
(そして、なまず講が平次郎たちを救うことになるラストの皮肉さもまたよろしいのです)


 さて、この大事件も何とか解決――というよりまたもや「幕末都市伝説」となったところで――本作の「地の巻」もめでたく完結。

 三部作構成の本作、残るは「人の巻」とのことですが、さてどのように平次郎の物語をまとめてくれるのか。
 一刻も早い連載再開を期待する次第です。

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なまずランプ(3) (モーニング KC)


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2010.04.01

「陰陽ノ京」巻ノ五 命を隔てるものと陰陽の道

 安倍晴明が留守の間に、天狗を引き連れた盗賊団が京を襲った。愛宕山の天狗とともに盗賊団を追う保胤だが、その間に盗賊団は安倍邸を襲い、晴明の妻・梨花と息子の吉昌、そして時継がさらわれてしまう。盗賊団を操る謎の外法師・鶴楽斎とと対峙する時継だが、その時思いも寄らぬことが…

 第四巻から約三年ぶりに刊行された「陰陽ノ京」シリーズ第五巻は――これまでの巻がそうであったように――また実にユニークな内容の作品。
 妖と化し、奇怪な術を操る外法師との対決を描きつつも、単なる術合戦には決して終わらず、意外な方向に物語は展開していきます。

 旅の外法師に封じられていた謎の妖…それは、鶴楽斎を名乗る元・人間の外法師。己の体を捨て、妖と化した鶴楽斎は、封印が解けたのを機に、はぐれ天狗と盗賊の一団を配下に収め、行動を開始します。
 その目的は、強き力を持つ陰陽師――安倍晴明の体を奪うこと。
 一種の精神生命体と化した鶴楽斎は、更なる力を振るうために、肉体を必要としていたのであります。

 ここで鶴楽斎と、主人公・慶滋保胤をはじめとする陰陽師たちの死闘が…始まりそうに見えて、ちょっとかわしてくるのが何とも面白い。
 鶴楽斎に捕らえられた晴明の妻・梨花のあまりにも意外な側面が飛び出したことから、とんでもない事態が発生してしまうのですが…
(この辺り、梨花のベタなキャラクターから、一転思いも寄らぬ状況にスイッチしてみせるのは見事)


 その詳細は措くとして、この騒動を通じて描かれていくのは、しかし、全く意外なテーマ――「生命とは何か」「生きるとは何か」という問いかけであります。

 騒動の中心たる鶴楽斎は、上で述べたように、かつては人間でありながら――つまり、生ある者でありながら――その生を捨て、妖となった存在。
 己の意識はある。自律性はある。しかし、彼は「生きて」はいない(かといって死んでいるわけでもない)。

 そして彼と対照的なのが、本作で初登場の晴明の息子・吉昌であります。
 ある事情から己の意志を表せず、自分に閉じこもったままの吉昌は、自分で動くこともままならず、また動こうともしません。しかし、彼は「生きて」いるのです。

 果たして彼らを明確に隔てるものは何なのか――その答えを示してくれるのは、生きるもの、生命を産み出す力を持つ女性たち。
 陰陽の力を持たぬ彼女たちがこの事件を解決するというのは、一見皮肉なことかもしれません。
 しかし本シリーズが、陰陽道を通じて自然を、人間というものを描いてきたことを考えれば、これはこれで、一種当然の帰結なのかもしれません。

 最後は母の愛というものに物語が収斂するあたり、作者の家庭環境の変化を想像してしまう…というのはこれは邪推ですが、しかしいかにもこのシリーズらしい、優しい結末であったと思います。

「陰陽ノ京」巻ノ五(渡瀬草一郎 メディアワークス電撃文庫) Amazon
陰陽ノ京〈巻の5〉 (電撃文庫)


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