「書家」 画仙道術が描いたものは
江戸の町を騒がせる怪物・画獣。江戸を守る画仙道術使いの頭領・十文字は、これに抗するため「書家」墨屋紙朗らを呼び寄せる。旅の途中、謎の敵に襲われた紙朗は、敵を追っていった先で同じ書家の紙巻巻平、絵名と合流する。そこに出現した巨大な鬼の画獣を倒した三人だが、画獣たちを操る書家・黒染源との戦いはまだ始まったばかりだった…
2002年から、「明日のアニメ界で活躍する人材の発掘」を主旨としてシナリオを募集しているアニマックス大賞。その第七回大賞受賞作が本作「書家」であります。
舞台は江戸時代、漢字を書いて力を引き出す能力者が江戸を守るという設定を耳にしたときは、これはどう考えても「天保異聞 妖奇士」だろ…と、色々な意味で興味を持ちましたが、実際に見てみれば、当然のことながら、あちらとは全く異なる味わいの作品でした。
本作の中心になるアイディア・画仙道術とは、書く/描くという行為や、そのための道具を用いた術の総称。その術の効力の対象となるのは、文字のみならず絵画、いやそれらを記すための紙までも含まれるというのが実に面白い。
自ら書いたものが効果を発揮するというのは、対象を象徴する漢字の力を引き出す「妖奇士」の漢神よりも、むしろ「侍戦隊シンケンジャー」のモヂカラに近いものがありますが、己の属性が定められているモヂカラに比べると、描いてしまえば何でもありな本作の方が、より自由なイメージがあります。
その画仙道術の力を描いて出色だったのは、書家の一人・巻平と、カラクリダルマの対決シーンでしょう。
いわゆる巨大ロボとして無茶な攻撃を繰り出すダルマに対し、紙使いである巻平は、紙をハリセンやドリル(!)に変えて対抗。形を作れさえすれば何でもあり、と言わんばかりのアクションには、本作の魅力を最もよく表していたかと感じます。
が、その一方で、主人公である紙朗の能力は、空間が文字が浮かび上がる程度のエフェクトで、彼ならではの面白みが感じられなかったのが正直なところ。
(声を当てた中尾明慶はかなり頑張っていて、これは拾いものだったのですが…)
その意味では、画獣の絵を町中に貼っておいて後で実体化させるという、敵側のテロ行為の方が、うまく能力の特性を描いていたと感じます。
その辺りを考えると、結局のところ、よくまとまったOVA第一話もしくはパイロット版という印象となるのですが、しかしそれはそれで一つの立派な成果であることは言うまでもありません。
個人的には、よくまとまっていただけに、そこに時代ものとしてのフックを入れ込むことも可能だったのでは…と感じてしまうのも正直なところではありますが、しかし、本作は、元々時代ものをやりたかったというより、やろうとしていたことを表現するのに時代ものが適していたということなのでしょう。
こうした、手段としての時代ものというのも、それはそれでアリなのではないでしょうか。
なお本作では、「書く」ということから連想してか、手書きタッチの描線となっているのも特徴の一つ。
特に人物のビジュアルに関してはこうした場だからこそできる実験的な作風であったかと思います。しかしそれだけに、よりアニメーションとしての「動き」を意識させる描写となっていたのも興味深いところでありました。
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