「猫絵十兵衛 御伽草紙」第3巻 猫そのものを描く魅力
猫好き、時代もの好き必読の時代漫画「猫絵十兵衛 御伽草紙」の最新巻であります。
前の巻から今まで、作者のコンビニ増刊号(手元にあるのは再版でちょっとびっくり)で餓えを凌いできましたが、ようやく第三巻を手にすることができました。
本書に収められているのは、冬から春になり、そして初夏を経て夏にかけて季節を舞台とした全七話。
これまで同様、鼠除けの猫絵師・十兵衛と、その相棒で元猫仙人のニタを狂言回しにした、人間と猫と猫又(たまに犬)の触れあいを描いた物語が、収められています。
もう単行本も三巻を数えると、すっかり物語の方も安定した感がありますが、泣かせあり笑いありと、個々のエピソードのバラエティの豊かさは、相変わらず。
個人的には、怪談・奇談系のエピソードが少なめ(ニタの藤見の一シーンくらい?)なのがちょっと残念ではありますが、まあそんなことは小さい小さい。
それだけ、本作で描かれる、人と猫又と猫と――そのそれぞれの目を通じて描かれる江戸の風景と、そこに生きるものの情の有り様は魅力的なのであります。
殊に、本作に登場する猫――猫又でなしに――たちが、実に表情豊かに、それらを物語っているのには、つくづく感心させられました。
…と書くと、何を今更と怒られそうですが、例えば本書に収められた「母者猫の巻」は、それだけ印象的なエピソードであります。
本作の、十兵衛の長屋に棲む猫の一匹・耳丸が、捨て犬の子を拾ってきたことから起きるドタバタ騒動という内容自体はさほど珍しいものではありません。
しかし、終盤、ひたすら耳丸の表情と鳴き声、そして江戸の風景のみを描く数ページはまさに圧巻。
賑やかに喋る猫又たちのみならず、ごく普通の猫の、声なき声がここまで胸を打つとは! …いや、無言であればこそ通じる訴えかけというものが確かにあると、本作を見れば信じられるのです。
賑やかな猫又たちの方に目がいってしまうこともありますが、本作の魅力の源は、気まぐれで不思議な、そして我々人間たちと同じ世界で暮らす隣人である「猫」そのものであり――
そしてそれを見事に紙面に描き留める作者の筆であると、今更ながらに(遅いよ!)感じ入った次第です。
さて、本書で通算十九話まで単行本化された本作ですが、雑誌掲載の方では既に四十話を超えている勘定であります。
ということは、今まで楽しんだのと同じくらい、いやそれ以上の物語に会えるということ。
おそらくは次の巻までまた半年以上は待つことになるかとは思いますが、それだけの価値は間違いなくある作品であります。
ちなみに今回、ニタが四代目岩井半四郎の真似をしたのに対し、十兵衛が俺の生まれる前だから知らねえ、と突っ込む場面があるのですが、これからすると、舞台は江戸時代後期、19世紀に入ってからのお話のようですね。
…って、十兵衛の師匠のモデルが歌川国芳なんですから、言わずもがなですな。
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