「裏宗家四代目服部半蔵花録」第6巻 男・柳生十兵衛吼える!
太平の世を迎えた江戸を舞台に、密かに暮らす忍びたちと、彼らを狙う謎の敵とのとの対決を描く「裏宗家四代目服部半蔵花録」の最新巻であります。
隅田川の川開きを訪れた将軍家光を狙って動き出した謎の敵。その中に、服部半蔵花録ことお花は、父の仇を見つけるのですが…
というわけで、この巻の前半は、前の巻に引き続き、隅田川の花火の賑わいの中で繰り広げられる忍法対剣法、忍法対忍法の死闘を描く「花火」の章。
慎吾は親友を守るために、そしてお花は父の仇を取るために、それぞれの戦いを繰り広げるのですが――しかし、その戦いは、肉体以上に彼らの心を傷めるものでした。
慎吾は、親友が、己の最も憎む忍の一人であったこと、そして彼の心中を知ることに。
そしてお花は、仇を追いつめながらも敗れ去った上に、真の仇が別にいると知らされることになります。
(このくだり、敵の責めが本作にしてはきわどすぎる絵だったのが個人的にはちょっと…)
かろうじて十兵衛に救い出されたものの、心身に深刻なダメージを負ったお花は――
と、唸らされたのはこの後の展開であります。
お花の敗北を目撃し、彼女の後見人である弥文と黒岩に噛みついた十兵衛の言葉(普段飄々とした男が牙を剥いた時の迫力!)
そして、自棄になったお花がその身を差しだそうとした時に、彼女に十兵衛がかけた言葉――
こればかりは、実際の作品でご覧いただきたいのですが、これらの場面で見せた十兵衛の優しさと想いの熱さは、これぞ男・柳生十兵衛! と唸らされたほどのものでありました。
いや、又十郎もブラコンになるわけです。
しかし、その十兵衛の格好良さに痺れると同時に、読者である自分もまた、お花の復讐を所与のものとして受け入れ、彼女がそのために傷つくことを表面的にしか気にせず――そして彼女の笑顔と言葉の裏にあったものを、わかったつもりになって見過ごしにしてきたことを今更ながらに突きつけられたことには、愕然とさせられた次第。
(そして、この辺りのお花に対する視線は、男性作家にはなかなか描けないものでは…とも感じます)
単行本の新刊を読むたび感じさせられますが、派手な忍法・剣法アクションやサスペンスフルなストーリーもさることながら、本作の最大の魅力は、三人の若者の心の動きを瑞々しく描き出す点にあるのではないかと感じます。
さて、まことに残念なことに、本作も残すところあと一巻。
お花たちを襲った過去の惨劇の詳細と、「裏宗家」の名の由来がついに語られたものの、敵の正体とその真の目的――どちらもその一端がこの巻で語られましたが――は未だ謎のまま。
そして何より、お花は再び立ち上がることができるのか? 慎吾は忍への怨みを捨てることができるのか? そして十兵衛の想いの行方は?
この、三人の若者の想いの行方を描ききることができるのか?
…いや、ここまで読んできた人間であれば、そんな心配は無用であるとよくご存じでしょう。
今はただ、ラストに待つ最高の盛り上がりを楽しみに、じっと待つのみ、であります。
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