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2010.06.30

「デアマンテ 天領華闘牌」第4巻 そして金剛石は輝き続ける

 長崎を舞台に、父を無実の罪で失った少女・かなと、長崎奉行の密偵・金剛太夫を主人公とした時代サスペンス「デアマンテ 天領華闘牌」も、この第四巻でめでたく完結であります。
 自分の兄であり、主でもある長崎奉行に逆らい、かなとの愛を選んだ金剛太夫の運命は…

 自分の父を死に追いやった事件の真相を暴いたものの、時既に遅く父の名誉回復はなされなかった、かな。
 それでも表面上は穏やかな生活を取り戻すかに見えた彼女ですが、しかしそれよりも、金剛太夫の傍にいるため、丸山遊郭に戻ることを選び、太夫もそれを受け容れます。

 しかしそれは長崎奉行の意に逆らうことであり、長崎奉行の密偵という傘あってこその太夫にとって、命取りとなりかねない選択。
 どう考えても暗いかなと太夫の将来は…という、実に気になるところで第三巻は終わったわけですが、この最終巻においても、まだまだ重い展開は続きます。

 武士の子でありながら、妾腹であったため悲惨な生活を送っていたところを、兄に救われ、男でありながら花魁に扮してその密偵となった金剛太夫。
 その仲間であり、隠密集団「闘牌」のメンバーである弥十、鋤、心臓もまた、それぞれに悲しく重い過去を持ち、半ば心ならずも、今の境遇に身を置く者であったことが、語られていきます。

 そして、その過去の因縁に引きずられるように、一人、また一人と姿を消していく仲間たち。
 太夫は、彼らの想いを背負い、長崎で行われてきた大規模な抜け荷組織の正体を知るのですが――


 これから先は、物語の根幹に関することゆえ、細かくは述べられませんが、太夫はここで、自らの人生を、いや自らの魂を賭けた選択を強いられることとなります。

 自らの正義を信じ、そこに命を賭するべきか、はたまた、自らの意志を殺しても、安寧な暮らしを得るべきか?

 この選択を太夫に突きつけた者は、こう語ります。
「自らの正義に囚われる人間は、それに殉じて滅ぶのみ」と…
 その言葉の通り、本作で倒れていった幾多の人々。果たして、太夫は、かなは、その中に加わることとなるのか――

 その選択の果ての結末は少々甘めではありますが、しかし、一つのお話としては納得のいくものでしょう。


 たとえ自由と尊厳を奪われたとしても、己の信ずるものは捨てない――そんな誇り高き精神は、まさにデアマンテ(金剛石)と呼ぶべきもの。
 その輝きは、江戸時代と現代と、時代を異にしても変わるものではありません。

 「デアマンテ 天領華闘牌」、決して派手ではありませんが、美しく輝く良い漫画でありました。

「デアマンテ 天領華闘牌」(碧也ぴんく 幻冬舎バーズコミックスガールズコレクション) Amazon
デアマンテ~天領華闘牌 4 (バーズコミックス ガールズコレクション)


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 「デアマンテ 天領華闘牌」第1巻 二つの「もう一つの国」で
 「デアマンテ 天領華闘牌」第2巻 ユニークな世界の中で
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2010.06.29

「怪談累ヶ淵」 人間の悪を見つめて

 柴田錬三郎先生といえば、やはり剣豪小説・伝奇小説の印象が強くありますが、怪奇小説に属する作品も、何編も残しています。
 本書は、怪談短編集「地獄の館」に収録された時代ものを中心としつつ、その他の作品集からも怪談・奇談を収めた短編集であります。

 本書には、柴錬先生自身の体験談である「わが体験」をはじめとして、以下の作品が収められています。

 美男の座頭が尼寺で夜な夜な死霊の訪ないを受ける「座頭国市」
 ある旗本と鍼医、二つの一族が、悪意にまみれた数奇な運命の果てに滅び去る因縁譚「怪談累ヶ淵」
 御様御用、そして罪人の首斬り役を務めた山田浅右衛門が狂気のうちに自滅する様を描く「首斬り浅右衛門」
 四谷怪談の物語を、愛欲に溺れる男女の地獄めいた姿から捉え直した「四谷怪談・お岩」
 毒婦として知られる女の辿ってきた運命を描く「高橋お伝」
 昭和天皇に仕えた侍従と侍女の悲恋が、異常な形で結実する「天皇屋敷」
 古武士の風格を湛えた老軍人と彼の信仰した観音像の関わりを描く奇譚「君子非命譚」

 ストレートな幽霊譚あり、陰惨極まりない因縁譚あり、変格の剣豪小説あり、近現代を舞台とした奇譚あり――このバラエティに富んだ短編集に共通して描かれているものを――作者自身の物語である「我が体験」、他の作品とは趣向が異なって感じられる「天皇屋敷」「君子非命譚」をとりあえず除いて――探すとすれば、それは、人間の持つ「悪」の側面でしょう。

 本書に収められた怪談奇談の大半に共通するのは、人間の持つ様々な悪と、それが生み出す罪、そしてその報い。その中には超常現象が介在することも皆無ではありませんが、しかし、物語の中心にあるのは、あくまでも人間の、人間自身の悪なのであります。

 そんな本書を代表する作品は、やはり表題作である「怪談 累ヶ淵」でしょう。
 本作の冒頭には、極めて印象的な作者の言葉が付されています。「これから語る物語の登場人物は、一人のこらず悪人だ。」と。そして、その言葉に偽りはありません。

 本作は、小普請組の旗本・深谷新左衛門が、高利貸しの鍼医・宗順への借金に窮したことから始まる因縁譚であります。
 自分の目の前で妻を抱かせるという醜悪な方法で返済しようとするも、逆上して宗順を殺し、そして妻を、自分自身をも殺した新左衛門。家を出奔していた彼の嫡男・新一郎は、宗順の次女を誤って殺し、流浪の果てに盗賊に身を落とした末に無様に捕らわれ、処刑されることになります。
 そして新左衛門の妾腹の子・新三は、宗順の長女から金を奪って情婦お久と蓄電するも、累ヶ淵で長女の幻を見た末にお久を殺害。そして乞食となった己の母から、お久が生き別れの妹であったことを聞かされ、処刑された新一郎の首の前で絶望の果てに彼が取った行動は…と、一片の救いもない、陰惨極まりない物語であります。


 …それにしても、柴錬作品といえば、やはり冒頭に述べた如く、剣豪小説・伝奇小説の印象が強くあります。
 そこに描かれた登場人物には、全くの悪人というものは存外少なく、悪を行う者であっても、ある種の心意気を持った者が多いと感じられます。

 しかし、「怪談累ヶ淵」をはじめとする、これら人間の「悪」と直面した作品群を読めば、それが柴錬作品の一面に過ぎなかったと、今更ながらに感じさせられます。

 思えば、柴錬ヒーローの代表である眠狂四郎は、悪業にまみれた陰惨な生まれを背負い、そして自らもそれに引かれるように様々な罪を重ね、その重みに喘ぎつつも歩む者でありました。
 その彼に、「悪」の存在が――彼自身は、誰よりも深く自覚していながら――感じられぬのは、その悪を単なる無法にさせず、最後の最後で己を律する「無頼」の魂があったがゆえでしょう。

 とすれば、狂四郎たち柴錬ヒーローはそれぞれ、己の「悪」を認識しつつも、それを「無頼」の精神で昇華していたのであり――そしてそれは、人間の様々な悪の存在を知っていた作者が、それを乗り越えるために求めた、人間の在り方ではなかったか…そんなことすら感じさせられます。


 ちなみに「怪談累ヶ淵」は、「怪談残酷物語」のタイトルで映画化されています。
 その中で新一郎を演じたのが、後に眠狂四郎を演じることとなる田村正和であったことを、単なる偶然と解すべきでしょうか…

「怪談累ヶ淵」(柴田錬三郎 光文社文庫) Amazon

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2010.06.28

「軒猿」第4巻 封印された過去を超えて

 長尾景虎(上杉謙信)に仕える忍び衆・軒猿の一人・旭の戦いを描く戦国アクション「軒猿」の第四巻であります。
 この巻で描かれるのは、前の巻に引き続き景虎の関東侵攻、そして旭の封印された過去の物語であります。

 関東三国志の戦乱の最中、激突する長尾景虎と北条氏康。そして北条と結びつつも、その背後で不気味な沈黙を保つ武田信玄…
 その三者に仕える忍び衆――軒猿・風魔・三ツ者――も、それぞれの主のために暗闘を繰り広げます。

 この巻の前半で描かれるのは、その関東での戦いの行方。多くの血を流し、旭たちも、その身を、心をすり減らして戦い抜いた、その結果がいかなるものであったか…
 それは、歴史が証明するところではありますが、本作の中々にユニークな景虎像――どちらかといえば寡黙で生真面目な人物というイメージのある景虎ですが、本作ではむしろ正反対の人物像なのが面白い――を通してみれば、また別の意味に見えてくるのが面白いところです。

 しかしこのままでは普通の歴史漫画になってしまうのでは…という心配も、後半で解消されます。
 そこで描かれるのは、旭と景虎の結びつきを語る物語、旭の封印された過去であります。

 常人を遙かに上回る聴力“耳疾し”の力を持つが故に、幼少時から自由を奪われ、虐待され、利用されてきた旭。
 その境遇から彼を解き放ってくれたのが景虎であり、その恩愛の情から、旭は軒猿として戦うことを決意したのですが…

 しかし、本作の冒頭では、旭はただ一人、山中で生活を送っていました。彼が景虎に救われてから、果たして何があったのか、そして何故彼がそれを忘れていたのか――それが語られるのは、景虎が修行に向かった飯綱山においてであります。

 飯綱山に潜むのは、己に苛烈な修行を課す修験者たち。しかし彼らの中には、何故か旭に強烈な敵意を向ける者たちが…
 かつて旭と彼らを襲った惨劇――そしてその引き金となったのは、一つの意外な因縁。なるほど、全てを知るはずの景虎が口を閉ざし、そして自ら救った旭を結果として野に放ったのはこういうわけであったか、と納得であります。

 自らの過去に、景虎と自分の関係をそのまま断ち切りかねない因縁の存在を知ってしまった旭ですが、しかし、軒猿での戦いが彼に与えたのは、それに押しつぶされることのない心の強さ。
 それはあるいは、軒猿という忍びにとっては無用の、いやむしろマイナスなものであるかもしれません。
 しかしそれが旭の場合には決して当てはまらないことを、我々は知っています。


 果たして旭が、己の背負った因縁をいかに乗り越えていくのか、期待しましょう。

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 「軒猿」第3巻 三つ巴の戦いの中で

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2010.06.27

「機巧奇傳ヒヲウ戦記」 第25話「舞え! 俺たちの祭」

 高杉の計らいで、攘夷派から身を守るため牢屋敷に入れられたヒヲウ。しかし高杉は軍を率いてフランス艦迎撃に出る。ヒヲウは、同じ牢屋敷の婦人が、音曲を好んだことが理由で軟禁されていると知り、百助と共に機巧芝居を演じる。自分が機の民としてやるべきことを悟ったヒヲウたちは、フランス海軍と長州軍、そして風陣の残党が激突する中に現れ、武器を捨てて舞う。いつしか戦いを止め、人々はその姿に見入るのだった。

 今回のアバンは吉田松陰先生登場。
 松下村塾でナポレオンのことを語る松陰は、その強さの由来を「ふれいへいど」――自由と語ります。
(ちなみに本作の時代考証担当は、名著「江戸のナポレオン伝説」の著者であります)
 そして、牢屋敷に向かって高杉に三味線を弾かせる松陰ですが…

 さて、前回海鬼を沈め、戦いを未然に防ぐことが出来たかに見えたヒヲウですが、しかし最大の戦力を失ったとはいえ、人々が戦う意志を持つ限り、戦いは続きます。
 前々回、前回と、炎という大きすぎる力に対してヒヲウがどのように向き合うかが描かれましたが、今回は、第一部の締めくくりとして、ヒヲウたちが機の民として何を為すかが描かれることになります。

 高杉の計らいで保護のために牢屋敷に入れられたヒヲウ一行。そこでヒヲウは、次の戦いが始まろうとしていることを知り、落胆するのですが…
 そんな中、ヒヲウたちが出会ったのは、同じ牢屋敷に入れられていた由緒ありげな婦人…実はこの婦人こそ、アバンで松陰が三味線を聞かせていた人物であります。
 EDクレジットには名前しか出ませんでしたが、この婦人の名は高須久子。松陰の恋人とも後世に伝えられる女性です。

 同じく牢に入れられた百助から、久子の素性を聞くヒヲウ――彼女は武家の娘でありつつも歌舞音曲を好み、町の芸人たちを呼んで、屋敷で演奏させていました。
 武家の子女が、被差別民である芸人を家に招くとは何ごとか!――という史実での彼女が牢に入れられた理由は、さすがに本作では描けなかったのか、音曲を楽しむのは外聞が悪いから、という理由に変えられています
 しかし、いずれにせよ、彼女が、現代の我々から見れば理不尽な理由で自由を奪われていたことは間違いありません。

 さて、そんな久子の身の上を知ったヒヲウは、牢の中で材料を集めて、皆で久子のために機巧芝居を演じます。この物語の冒頭から、彼らが演じていた機巧芝居を――
 そんな彼らの行動が理解できないミヤに対し、ヒヲウは笑顔で「俺たちはまつりのためにいるんだもん」と語った時、卒然と自分が、機の民が為すべきことを悟るのでありました。
(この時、テツがいつになくはっきりと「機巧は、まつりのために用うべし!」と言うのが、魂の継承を感じさせてイイのです)

 折しも、海岸ではフランス海軍と高杉率いる長州軍がにらみ合い、さらにそこにクロガネたち風陣の残党が乱入。
 今にも血で血を洗う、おそらくは一方が滅びるまで終わらぬ戦いが始まろうとした時… そこに現れた炎は、天狗の剣を投げ捨て、ただ無心に、舞いを見せるのでした。
 これが自分たち機の民の答えだと…

 その炎の舞いは、ヒヲウたちの心は、フランス軍の…そして高杉の心をも動かし(かつて機巧人形に気分を害して演奏をやめた高杉が、自ら三味線を持ち出して演奏を始めるほどに!)、ついに戦いを終わらせます。

 戦いが、戦いを望む心がある限り終わらないのであれば、その心をなくしてしまえばいい。もっともっと楽しく、素敵なことで。
 たとえ周囲から呆れられ、時に蔑まれようとも、歌舞音曲の、芸術の力でもって、戦いを止めさせるために行動する――それがヒヲウたちが、そしておそらくはかつての機の民が選んだ「まつり」なのでしょう。
 実に、炎が人の姿をしている理由は、ここにあったのではないかとすら感じさせられます。

 この展開に――ベタな話で恐縮ですが――本作の監督・アミノテツロー氏の代表作「マクロス7」を思い出す人は多いでしょう。
 あの作品もまた、戦いなぞよりももっともっと楽しいことが世界にはあることを教えるために大暴れする者の物語でありました。その精神は、本作においても継承されているということでしょうか。


 と、ここで物語は美しく一つの結末を迎えるのでありますが、実はちょっとすっきりしなかったのが風陣の扱い。

 前作ラストで重傷を負ったイシは、特にドラマもないまま(それがドラマだったのかもしれませんが)息を引き取り、クロガネたちは、炎が戦場に割って入ったのに気を取られた隙に、フランス軍の攻撃に倒されてしまうという有り様で…
 特に、クロガネたちはどうみても炎のせいで死んだ(?)ように見えてしまうのが、ちょっと後味の悪さに繋がってしまったのが残念であります。そこまで計算していたのかもしれませんが…


 さて、何はともあれ時は流れて四年後。復興した機の民で暮らすヒヲウたちは、皆それぞれに成長した姿を見せます。
(ヒヲウが「ハナ」と名付けた象型機巧に乗ってくるのがおかしい)

 さて、残すところあと一回で待っているものは…「みんなも、ちょっぴり歴史を変える、かもな」という予告の言葉が、印象に残ります。

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 「機巧奇傳ヒヲウ戦記」 放映リスト&キャラクター紹介

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2010.06.26

「仮面の忍者赤影」アニメ版 第02話「怪奇! ガマ法師」

 堺の明世寺に到着した青影は、そこで孤児たちの面倒をみる青年・赤垣源之介と出会う。その頃、金目教入信を拒む岩谷村は、巨大なガマに襲われていた。村に向かった青影は、そこでガマ法師と一剣に襲われる村長を助けるが、法師に追いつめられる。そこに現れた赤影は、苦戦しながらも巨大ガマを倒し、法師は一剣を生贄に逃げ延びる。一剣は赤影に倒されたと報告する法師だが、霞丸に嘘を見破られ、斬られるのだった。

 アニメ版赤影第2話は「怪奇!ガマ法師」。ガマ法師とその相棒・千年ガマは、元祖特撮版にも登場した由緒ある(?)キャラクターであります。

 と、目的地の明世寺にたどり着いた青影がそこでであったのは、たくさんの子供たちと、彼らと遊ぶ…いや遊ばれる赤垣源之介という背年。
 イケメンではありますが、大らかというか天然というか…どうにも頼りないこの源之介、赤影と声が同じですがきっと偶然でしょう(棒)

 さて、寺を起点に金目教の探索を行うことになった青影が聞きつけたのは、金目教への帰依を拒んでいる岩谷村に起きる怪事。
 畑を襲う無数のガマ、そして地を割って出現し、人を丸飲みする巨大な千年ガマ――相次ぐ凶事に、村人たちは金目教に走ってしまいます。

 …もちろんガマを操るのは幻妖斎配下のガマ法師、ベテラン忍者の一剣とともに、だめ押しとばかりに村長を襲います。
 ちなみにこのガマ法師、特撮版ではものすごくむさい老人でしたが、アニメ版ではまた可哀想なくらいのキモメンで…ガマというのはどうにもネガティブなイメージがつきまとうようです。


 閑話休題、ガマと鎌をかけたのか、鎖鎌を操るガマ法師から村長を助けた青影ですが、自分も窮地に。そこに颯爽と参上した赤影によって形勢逆転!

 …と思いきや、そこにガマ法師のお友達の千年ガマが出現、その巨体にはさしもの赤影も大苦戦。
 その分厚い皮膚は手裏剣を跳ね返し、全体中をかけて叩き込んだ刃で、ようやくダメージを与えられる程度という怪物であります。
 こういう相手は目を狙うのがセオリーですが、きっちり目蓋を閉じてガードするという動物離れしたアクションにはちょっとびっくりです。

 とはいえやっぱり畜生の悲しさ、赤影を飲み込もうと大口を開けたところに火薬玉を投げ込まれて慌てて沼に逃げ帰るのでありました。

 さて、奥の手を失ったガマ法師は一剣とともに逃げ出します。傷を負った法師を逃がすために一人残るという一剣ですが、ここで法師はいきなり背後から一剣を斬殺!
 何故!? と見ているこちらも驚きましたが、一剣の腕では赤影への足止めにもならないと判断したガマ法師、一剣の死体に火薬を仕掛けて赤影を爆殺しようと考えたのでした。

 それもやっぱり赤影に見破られたのですが、無事に本拠に逃れた法師。しかし悪いことはできないもので、火薬術を使わない一剣が自爆したことに不審を抱いた美剣士・霞丸を口封じしようとして、返り討ちにされてしまうのでした。


 …と、よく考えてみると、シチュエーションといい展開といい、実は前回とほとんど内容だった今回。
 さすがにそれはいかがなものかという気もしますが、ラストのガマ法師の一剣殺しと、それがために自らも制裁に等しい死を遂げる展開は、なかなかのインパクトでした。
 この辺りは、やっぱり脚本の井上敏樹氏の味…なのかなあ。

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2010.06.25

「真田十勇士」第2巻 大海を駆ける勇士たち

 本宮ひろ志と柴田錬三郎の夢のコラボレーション、漫画版「真田十勇士」の第二巻であります。
 全四巻構成の本作もこれで前半終了、いよいよ漫画完全オリジナルの展開へと突入していくことになります。

 この第二巻の前半で描かれるのは、第一巻ラストから引き続いての、穴山小助率いる風盗族と、地獄百鬼率いる木曽谷の忍者の死闘。
 真田幸村から助力を求められた穴山小助と、己に組みしない忍者を滅ぼそうという家康配下の服部半蔵の依頼を受けた地獄百鬼と、それぞれを頭に戴く忍者集団の激突は、すなわち幸村と家康の代理戦争であります。

 …と、実はこのエピソード、幸村絡みの部分と、木曽忍者の頭が地獄百鬼であることを除けば、あの名作「赤い影法師」の冒頭部分そのままのシチュエーションです。

 木曽忍者を率いる忍者「子影」が実は女性というのは、どちらも共通。
 しかし、「赤い影法師」の方は、子影と服部半蔵が…というのに対し、本作の方では、佐助に素肌を見られて、愛憎半ばする感情を抱いてしまうのが、面白い趣向であります。


 さて、後半部分はいよいよ本作オリジナルの展開。着々と勢力を増していく家康に対抗するため、秀吉の隠し財宝を探す幸村が知ったその在処とは――八丈島の宇喜多秀家の元!

 かくて、八丈島に向かわんとする幸村と(現時点では)九勇士ですが…大海を超えていく手段も技術も持たない彼らは、苦戦の末、瀬戸内海の海賊・岩見重太郎(!)の協力を取り付けるのですが…

 ようやく海に出た彼らを襲うのは、大嵐に大渦巻(ほとんど「パイレーツ・オブ・カリビアン」級)、飢えに乾きに船酔いに…いや、さしもの豪傑たちもお手上げの、大自然の脅威をいかにして乗り越えるか?
 このあたりの描写は、漫画ならではの、漫画のみ可能なものではないでしょうか。

 そしてもう一つ、本作ならではの部分は、勇士たちの豪快なキャラクター描写でしょう。
 柴錬先生の原作ではどこかクールさを漂わせるキャラクターたちですが、本作では皆、とにかく熱い。
 いかにも本宮作品、と言えばそれまでかもしれませんが、漫画においてはこのくらいの熱さがちょうど良い。

 戦闘・合戦シーンのみならず、日常シーンも、普段は稚気溢れる、とすら言いたくなるような脳天気なやりとりを見せるのも、また楽しいのです。


 さて、苦闘の果てに財宝を手にし、本州に戻る幸村と勇士たちですが、それを迎え撃つのは徳川の大船団。果たして、戦いの行方は…というところで、物語は次の巻に続きます。

「真田十勇士」第2巻(本宮ひろ志&柴田錬三郎 集英社文庫コミック版) Amazon
真田十勇士  2 (集英社文庫―コミック版) (集英社文庫 も 8-82)


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2010.06.24

「乙女絵巻水滸伝」 これも一つの水滸伝解釈!

 発売前から、そして発売後も色々な意味でネットを騒がせている「乙女絵巻水滸伝」が発売されました。梁山泊百八星+αのキャラクターを全員女体化したイラスト集であります。
 萌えといったものは正直苦手な私ですが、水滸伝と聞いては黙っておれず、早速手に取ったのですが…これがなかなか面白い試みです。

 武将や豪傑を、女体化――それも萌え絵系の――する流れとしては、既に主に漫画やアニメ、ゲームの世界で、戦国武将や三国志のキャラたちを対象に行われていることは、ご存じの方も多いかと思います。
 個人的にはちょっと…と思ってきましたが、ここで「水滸伝」まで女体化とは、ちょっと虚を突かれた思いでした。

 もっとも、水滸伝女体化は、かの馬琴先生の「傾城水滸伝」まで遡るまでもなく、たなかかなこの漫画「女水滸伝 がんばれ晁蓋」や、アイレムのエイプリルフール用ゲーム企画(ややこしい)「どきどきすいこでん」などがあったわけですが、それにしてもよくもまあこんなニッチな世界を…と少々感心すらしてしまった次第です。

 さて、いざ手に取った実物は、冒頭に述べたとおり、梁山泊百八星+晁蓋や王進といった梁山泊関連人物に潘金蓮ら女性陣、高キュウら四奸に方臘をはじめとする四寇ら42人、計150人人というボリューム。
 当然のことながら、全員女性として描かれているわけですが(最初から女性なキャラは男の娘になってるんではとドキドキしましたが大丈夫でした)

 まず感心したのは、このキャラクターの顔ぶれで、百八星の他はせいぜいメジャーどころ数人が収録されている程度かと思えば、単独イラスト化はかなり珍しいと思われる四寇勢も収録されているのが嬉しい。
 特に、比較的マイナー勢力である(と個人的に思っている)王慶軍も登場しているのには驚かされました。
(それだけに、「李助(りじょ)」に「りすけ」という読みがふられてしまっているのが残念…)

 この辺りは、本書がカードゲーム連動企画であり、そのために枚数(人数)が必要だったということもあるのではと想像しますが、女体化とはいえ、こうしたキャラクターに光があたるのは嬉しいことです。

 また、イラスト以外の企画記事も、あらすじや用語集、年表など、一通りのものがそろって初心者にも優しい印象。
 年表など、簡易版といいつつ、かなり細かく記載されているのに驚かされます。


 そして、肝心のイラストの方は、カードゲームで普通に行われているように、数十名のイラストレーターが担当しています。
 これだけバラエティに富んだ原典のキャラクターをビジュアライズするのに、これは一つのアプローチと言うべきでしょう。

 さて、そのイラストの内容ですが――これはやはり千差万別。
 これも冒頭に述べたように個人的に「萌え」苦手なこともあり、あどけない顔と不釣り合いなプロポーションとか、やたらに露出度の高い衣装など、「うーん…」と思わされる部分が多いのは事実です。

 しかし、そうした部分を超えて、キャラクター解釈としてなるほど! と思わされる部分が多いのもまた事実。
 女体化という大前提はありますが、原典の描写を踏まえつつ、それをデフォルメして描くことにより、そのキャラクター性をより引き出してみせるという、良きビジュアライズを達成しているものも少なくありません。

 また、どう考えても女性化は色々と苦しいだろうというキャラクター(具体的には醜郡馬宣贊と鬼臉児杜興)を、なるほど! と思わず膝を打ちたくなるような解釈で描いているものもあり、なかなか楽しいのです。


 考えてみれば、原典のある要素を取り出して、より極端な形でビジュアル化、キャラクター化をしてみせるのは、女体化に限ったことではありません。例えば昨今の戦国武将のイケメンキャラ化も、同様の流れと言えるでしょう。
(さらに遡れば、そうした現代に伝わる武将や豪傑像自体、これまでの大衆文化の歴史の中でキャラクター化された部分が大変多いのですから…)

 そう考えると、一つの水滸伝解釈として、これはこれで、大いに面白い試みであり、水滸伝ファンとして評価したいと、素直に感じます。
 先に述べたように企画ページの充実もあり、本書は結構真面目に「水滸伝」という作品を、若い層に広げようとしているのでは…とも感じた次第です。


 ――と、ネット上からはすぐ消えてしまいましたが、何やらトラブルがあった様子。確かに、花栄の妹の名前って原典になかったような? とは思いましたが…水滸伝ファンとして、双方にとって良い結果に向かうよう祈っております。

「乙女絵巻水滸伝」(乙女絵巻製作委員会 ハーヴェスト出版) Amazon
乙女絵巻『水滸伝』

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2010.06.23

「うろつき夜太」 柴錬&横尾、奇蹟のコラボレーション

 右足の裏に観世音菩薩、左足の裏にはキリスト磔刑図の刺青を持つ素浪人・夜太。莫連のお妻にそそのかされ、千両箱を強奪した夜太は、それをきっかけに幕末の動乱に巻き込まれていく。眠狂四郎、鼠小僧次郎吉、地獄人こと六木神三郎…様々な怪人傑物と出会いつつ、夜太の運命は意外な変転を見せる。

 柴錬作品数ある中で、最もブッ飛んだ作品、はっちゃけた作品は何かと問われれば、私は――いや、ファンの大半も同様ではないかと思いますが――この作品の名を挙げます。
 上に記したあらすじこそ、通常の時代小説していますが、しかし、これはあくまでも基本設定。
 ここからほとんど文字通りのライブ感覚で描かれた波瀾万丈に過ぎる作品内外の展開が、本作の真骨頂であります。

 当時かなりのスランプだった柴錬先生が、あの横尾忠則とがっぷり四つに組んで執筆された本作、一年間高輪プリンスホテルで共同生活を送るという破格の条件で連載開始にこぎつけたということなのですが…

 何となく予感できるように、やはりそこで展開されたのは波瀾万丈の綱渡り。時事ネタパロディは序の口、眠狂四郎も飛び出して夜太そっちのけで活躍すれば、夜太はあっしが主人公なのにと柴錬先生に文句を言い…
 そのうちに、何故か柴錬先生の海外でのギャンブル経験のお話になったりと、虚実(虚虚?)入り乱れて、物語は展開します。

 そしてそんな中でも屈指の超展開は、ついに書けなくなった柴錬先生が、延々と書けない理由を書いた上に、イラストの横尾忠則に丸投げする回で…
 「読者諸君!」で始まるこの書けない理由の告白は、後に朝松健の「その後の私闘学園」でもパロディにされていましたが、まあとにかく、それだけ印象に残る、柴錬史上に残る怪エピソードであるかと思います。
(このエピソード、竹熊健太郎氏のブログで紹介されているので、ご覧になった方も多いかもしれません)


 このように、良く言えばライブ感覚溢れる、悪く言えば行き当たりばったりの面が多い本作ではありますが、もちろんそれだけでは終わらないのが柴錬先生の柴錬先生たるゆえん。
 江戸時代後期世界を舞台に、八方破れの活躍を見せた夜太が最後に現れたのは、なんとフランス革命当時のパリ!

 波瀾万丈にもほどがあるというべきか、革命の嵐吹き荒れるパリを舞台とした夜太最後の大暴れの末に迎えるのは――しかし、何とも言えぬ哀切さすら感じさせる結末。
 これも勢いに任せた果てかもしれません(というか柴錬先生ご自身がそう言っている)が、しかしこの「うろつき夜太」という作品、そして魂の自由人たる柴錬主人公にはまことにふさわしい、実に味わい深い結末であります。


 と、私が書こう書こうと思いつつ書けないでいた本作の感想をついに書くことができたのは、本作の単行本を手に入れることができたからであります。

 集英社文庫版では横尾画伯のイラストは削除されておりますが、これがいかに不完全なものであるか、雑誌連載時に近い形で刊行された単行本を見れば、一目瞭然。
 私は先に、集英社文庫版で本作を読んだのですが、その時に感じたライブ感が、実は全く序の口であったことを、つくづくと思い知りました。

 単にイラストのみならず、横尾先生お得意のコラージュを多用したページ構成まで含めて――全てが、本文の爆発力を何倍にも高めるために機能している、というよりも、相乗効果で大変なことになっているというのが正直なところ。もはやロックというよりパンクの域に達している、としか言いようがありません。
(このイラストは、別途「絵草紙 うろつき夜太」として集英社文庫で刊行されていますが、小説の方と合わせたからと言って、元の味わいが戻るとは言い難く…)

 今まで、「面白いんだけど…」だった本作を、「とんでもなく面白い!」という評価に変えたのは、この相乗効果あってこそ。
 今ごろ気付くのもお恥ずかしいお話ですが、この奇蹟のコラボレーションに出会えたことを感謝する次第です。

「うろつき夜太」(柴田錬三郎&横尾忠則 集英社) Amazon

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2010.06.22

「秘闘 奥右筆秘帳」 最大のタブーに挑む相棒

 松平定信の命で、十代将軍の嫡男・家基急死の謎を探ることとなった立花併右衛門。しかし探れば探るほど不可解さを増す事件に、併右衛門は戸惑いを覚える。幕政を巡る暗闘が激化する中、家基の死に秘められた巨大な秘密に近づく併右衛門と衛悟を狙う様々な勢力。果たして、家基急死の真の理由とは…

 気がつけばもう六巻というべきか、まだ六巻と言うべきか…
 奥右筆筆頭の立花併右衛門と、その用心棒役の旗本の次男坊・柊衛吾のコンビが、幕政の陰に潜む権力の魔に挑む、「奥右筆秘帳」シリーズの最新巻の登場であります。

 前作はちょっとおとなしめの内容で個人的には残念だったのですが、今回はそんな気持ちを吹き飛ばすような快作。幾つもの勢力が対峙し、その走狗が暗躍する中、文と武、二つの力を代表する二人が、徳川十代将軍家治の嫡男・家基の死に秘められた謎に挑むことになります。

 幼い頃から英名を謳われ、将来を期待されながらも、鷹狩りの帰りに急な体の不調を訴え、急逝した家基。
 この家基の死は、状況があまりに不自然であったことから、田沼意次、あるいは一橋治済といった権力者による暗殺説も流れ、しばしば時代小説の題材ともなっています。

 本シリーズにおいては、第一弾「密封」がまさにこれを扱っており、我々読者にとっては、その首謀者も、実行者も明らかになっているのですが、しかしそれが何故、本作で再び取り上げられることになるのか?
 実にその点に、本作の、いや本シリーズ最大の謎が秘められているのです。

 この先の内容に触れるには神経を使うのですが、差し障りがない程度にいえば、この謎は実は二重底。
 既に語られた家基暗殺の動機の陰に、実はもう一つ…真の動機というべきものが存在しているのです。

 その動機の内容たるや、比喩でなく、こちらの想像を絶する、とんでもないもの。色々と時代伝奇小説を読んできた私ですが、ここまでとんでもない内容には、ほとんどお目にかかったことはありません。
 その意外性には、驚きを通り越して、恐ろしさを感じたほど…というのが決してオーバーな表現でないのは、本作を一読すれば、納得いただけるかと思います。

 もちろん――作中でその秘密を知った定信が必死に反論するように――細かいことを言えばかなり無理はあります。
 しかし、その衝撃の内容が、本シリーズのテーマともいえる、家の、血筋の継承というものに密接不可分に関わっていることを考えれば、決して鬼面人を驚かす体のものではないとわかるでしょう。

 その、徳川家最大のタブーに近づくことになってしまった併右衛門と衛悟を狙うのは、これまで幾度となく死闘を繰り広げてきた御前――一橋治済のみではありません。
 決して徳川家以外の者が知ってはならないその秘密に近づいた二人に、将軍が、そして利害の上とはいえ庇護者であった定信が、牙を剥くことになります。

 四面楚歌は上田作品の常とはいえ、ここまで窮地に陥る主人公たちというのも珍しい。最高権力者たちを敵に回して、衛悟たちの命も風前の灯火…
 ではあるのですが、しかし、これまでの死闘を潜り抜けた二人は、おめおめと死を待つだけの弱い存在ではありません。

 老練極まりない官僚である併右衛門は言うまでもなく、衛悟もまた、その剣の腕はもちろんのこと、その見識、そして政治的な嗅覚において、格段の成長を遂げているのですから――
(その成長ぶりを、併右衛門との会話の中でさりげなく、しかし明確に見せてくれるのがまた嬉しい)

 シリーズ第一作以来、養子先と、日々の日当という、極めて即物的な関係で繋がってきた併右衛門と衛悟。
 しかし、これまでの戦いの数々は、二人の間に、打算を超えた「相棒」としての絆を生みました。

 ラストに仄めかされる、併右衛門のある決断は、その一つの表れと言えるでしょう。
 ほとんど幕府全体を敵に回して、二人がいかに戦い抜くのか? やはり、いま最も注目のシリーズの一つであります。

「秘闘 奥右筆秘帳」(上田秀人 講談社文庫) Amazon
秘闘 奥右筆秘帳 (講談社文庫)


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2010.06.21

「壇ノ浦の決戦 紅無威おとめ組」 大決戦は破天荒に!

 館山藩を狙った紀伊国屋幻之介の企みを辛うじて粉砕したおとめ組。だが萩乃が幻之介に攫われてしまい、後を追う桔梗と小蝶は、途中、鰐に船底を突き破られたという難破船を発見する。さらに江戸周辺では海賊が出没。海を舞台とした怪事件の真相は、そして紅無威おとめ組と幻之介の決戦の行方は…

 かるわざの達人の元気少女・小蝶、男装の剣士にして松平定信の妹・桔梗、発明の天才でお色気過剰のビッチ萩乃、この個性豊かな三人娘が悪を斬る「紅無威おとめ組」のシリーズ第三弾にして、宿敵・紀伊国屋幻之介との決着編であります。

 松平定信を追い落とし、幕府を混乱に陥れようという野望の男・紀伊国屋幻之介(今回、紀伊国屋を名乗る者と幕府の因縁が、名作「紀文大尽舞」に始まることが明示されるのもニヤリ)。彼はシリーズ第一弾の「かるわざ小蝶」では、田沼意次の隠し財産を狙い江戸で暗躍。そして第二弾の「南総里見白珠伝」では、母の玉梓(!)とともに、館山藩乗っ取りの陰謀を展開してきました。

 このどちらもおとめ組の活躍で粉砕されましたが、実は幻之介には第三の企みがありました。
 藤原純友を名乗る海賊の跳梁、そして海中から船を襲う謎の「鰐」――そう、今回の幻之介の野望の舞台、そしておとめ組と幻之介の決戦の地は、大いなる海。
 前作ラストで萩乃をさらった幻之介は、彼女の才を利用して無敵の鉄甲船、さらには水流ジェットを利用した潜水艦を建造、海からの徳川幕府攻撃を目論んでいたのです!

 …と、この時点でとんでもないのですが、こんなのはほんの序の口、基本設定にすぎません。
 小蝶の師匠の軽業師・新左の意外にもほどがある正体とは!?
 小蝶を守り、青龍に変身させる(そう、前作から彼女は変身少女に)白珠の正体は?
 そしてさらなる力を得んとした幻之介が、壇ノ浦へ向かった理由とは…

 こんな調子で次から次へと登場するとんでもないアイディア、ガジェットの連続に、真面目な方は怒り出すかもしれません。
 だが、この無茶苦茶さが、おとめ組の破天荒な暴れっぷりと相まって、実に気持ち良いのです。

 さすがに、まだ真っ当な時代小説していた第一作を読んだ時には、この次元に達するとは思いませんでしたが、しかし第一作の感想で書いたように、本作は言ってみれば大人のライトノベル。

 確かに、ここまでくると、設定のための設定(さすがに幻之介が壇ノ浦に向かう理由は豪快すぎる)と感じる部分もあるのですが、最後には○○○の××様が登場する作品に、小さなことを言うのも野暮ってもの。
 多少の瑕疵よりも勢いが求められる作品というものが、世の中には確かにあるのですから…。俺は線香花火より六尺玉を目指すぜ! という本作のノリ、私は大好きです。


と、西海を血に染める大決戦の果て(勢いのことばかり書いてしまいましたが、本作は、近年では珍しい海洋冒険小説でもあります。いや、終盤の海戦の燃えること!)、ついに悪の首魁を倒した紅無威おとめ組。

 ここで彼女たちの活躍が見納めになるか否かは、読者の応援次第とのことですが――もちろん私は、心のそこから本シリーズの継続を祈って応援するところであります。

「壇ノ浦の決戦 紅無威おとめ組」(米村圭伍 幻冬舎) Amazon
壇ノ浦の決戦―紅無威おとめ組 (幻冬舎時代小説文庫)


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2010.06.20

「仮面の忍者赤影」アニメ版 第01話「赤影と山ザル小太郎」

 山中で暮らす野生児・小太郎は、何者かに追われる男を助けた。男の末期の言葉を聞いた祖父は、小太郎に「青影」の名を与え、堺に向かわせる。途中、金目教に家族を殺された少女・あかねと出会った青影は、金目教の行者に扮したむささび小六と対峙。そこに仮面の謎の忍者・赤影が登場し、小六を一蹴、生け捕りにしてしまう。だが、小六は口を割る前に自決し、赤影も何処かへ去る。青影はあかねたちと共に堺に向かうのだった。

 しばらく特撮時代ヒーローものを紹介してきましたが、今回からしばらく、特撮ではないのですがそちらに縁のある作品として、アニメ版「仮面の忍者赤影」の紹介をしたいと思います。
 赤影といえば、東映の特撮版や横山光輝先生の原作漫画が有名ですが、このアニメ版は、今から約20年前に放映された作品(これに合わせて、横山先生は「新仮面の忍者赤影」を連載)です。
 しかし今まで一度もソフト化されておらず、赤影数ある中でも月曜ドラマランド版の次にマイナーであろう作品であります。

 さて、その第一話は「赤影と山ザル小太郎」。いきなり気の抜けるサブタイトルですが、この小太郎こそ青影であり、今回は青影の視点から物語が展開されます。

 この小太郎少年、サブタイトルで察せられるように山育ちの野生児。
 猿に勝るとも劣らない体術の持ち主ですが、声が野沢雅子で一人称が「オラ」なので、もう孫悟空以外の何者にも聞こえません(実際、ほぼ同時期に演じられてるんですが)。

 というのはさておき、紫色の忍者軍団に追われる水色の忍者という、ニンジャ映画みたいなシチュエーションに出くわした小太郎は、義侠心から水色忍者・ソウスケを救うのですが、これが実は小太郎のじっちゃん(ああ、ますます…)の配下。
 ソウスケはすぐに息を引き取りますが、その際に、幻妖斎なる男と金目教に何らかの関係があることを語ります。

 時あたかも戦国時代、「堺を征するものは天下を征する」とまで言われた堺を取り囲むように勢力を伸ばす金目教。
 その背後関係を探っていたじっちゃんは、これまで仕込んできた小太郎の腕前を確かめると、彼に青い忍者衣装(…)と「青影」の名、そして「影にあって人知を尽くし、世を乱さんとする者を討つ」影の忍者としての使命を与え、堺に送り出すのでありました。

 と、その旅の途中で立ち寄った村は、既に金目教の支配下。唯一、金目教に帰依していなかった家も、巨大な火の玉に襲われて焼失してしまい、青影は残された少女・あかねと弟に出会います。

 彼女たちのために、金目教の行者と対峙した青影ですが、その行者こそはソウスケを倒した怪忍者のリーダー・むささび小六。
 非常にどうでもいい感じに悪役顔の小六の操るのは、いわゆるむささびの術。一枚の布の四隅を両手両足で掴んで滑空する、あの、ハットリくんがよくやるアレであります。

 その小六の奇怪な術に早速危機に陥る青影ですが、そこに謎の助っ人が――そう、ここで赤影参上!

 本作の赤影は、現時点では本当に謎の人。どんな顔だか知りませんが、キラリと光る涼しい目の正義の忍者であることは間違いありません。
(しかし青影よ、そこで赤影に「大丈夫か?」と聞かれて素でVサインはないだろう…山を旅立つ時、見送るじっちゃんと猿には「だいじょーぶ」したのに…)

 ザコどもはきみに任せる! という感じに単身小六に挑んだ赤影は、生身でありながら小六のむささびの術に全く劣らぬ体術を披露。
 かつてソウスケを倒した小六の必殺技「むささび飛翔剣」(相手の頭上から布を落として、そこに隠れて斬りかかるという…冷静に考えるとせこいですね)もあっさり破り、逆に飛騨忍法「乱れ髪」で小六の自由を奪います。

 しかし敵もさるもの、金目教の秘密を吐くのであればと自爆。
 結構大きなチョンボをやらかした赤影さんはどこかへ去り、青影は身よりをなくしたあかねと弟を連れて、堺に向かうのでした。


 というわけで第一話はここまですが、まあ、第一話としては正直なところ今ひとつかなあ…
 絵的なものは時代柄として仕方ないとして、青影視点――おそらくは視聴者に近づけたかったのだと思いますが――にしたことが、物語の緊張感を削いでいる印象です。
 赤影本格始動以降でこの印象が変わるか!? 

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2010.06.19

「機巧奇傳ヒヲウ戦記」 第24話「燃えよ! 父ちゃんの機巧」

 アメリカ船との戦いの中、浮上してきた海鬼に挑む炎だが、海鬼の戦闘力は想像以上だった。苦戦の中、華からの伝言通りに炎が放ったエレキテルの電気は、海鬼の中に華が仕掛けた機巧を作動させ、海鬼のスチームインジンを暴走させる。さらに命も炎に協力、二つの機巧の力を合わせた攻撃に、海鬼はついに沈むのだった。しかし今度はヒヲウに戦いを挑むアラシ。が、既に傷ついていた命は戦いの中で爆発を起こし、華はようやくヒヲウの元に戻るのだった。

 アバンタイトルは元祖鳥人間の幸吉さん。ひたすら空を飛ぶ機巧を作り続けた幸吉を突き動かしていたのは、ただ飛んでみたかったからという想い…道理が通っていないようですが、その気持ちはわかる気がします。
 と、本編には直接は関係ないのですが…

 さて今回は海鬼との決着編。全編機巧アクションで、お話としてはかなりシンプルなものにも見えますが、さて、それで終わらないのが本作であります。

 海鬼、命と連携して外国船迎撃に出撃した炎。しかしもちろんヒヲウたちに戦いの意志はなく、真の狙いは攘夷の主戦力たる海鬼を破壊すること。
 しかしさすがにマスラヲの生涯をかけた作品たる海鬼、飛翔弾の連発に、木造の機巧には天敵とも言うべき火炎放射器まで装備されている強敵であります。
(その気になればネオ・アトランティスとも良い勝負できそうな…そういえば時代背景はほとんど同じですな)

 そこで前回の伏線、華がマチに残した、「エレキテルを使え」というメッセージが生きてくることに。
 炎のエレキテル斬り(仮)で海鬼を流れた電流。微弱なものに見えたその電流が、華が海鬼の船内に仕掛けた機巧人形を作動させます。
 何だかピタゴラスイッチみたいな経路を経て、スチームインジンを冷却するパイプに仕掛けられた爆弾を作動させた人形。
 これぞスチームインジンの弱点、暴走を始めたインジンは火を噴き、無敵に見えた海鬼も、内側から崩壊していきます。
 …すごいな華ちゃん、破壊工作員になれるぞ。

 と、最後の力で外国船に特攻せんとする海鬼にとどめをさすべく天狗剣を振るう炎。その前に現れたアラシの命は、炎を止めるかと思いきや、驚くべし、炎に手を貸して海鬼を攻撃し始めます。

 今回のエピソードの冒頭から、不機嫌さを隠そうともしなかったアラシ。それは、己の好敵手であったヒヲウの炎が友軍となってしまった(=戦うことができない)ということもあったでしょう。
 しかしそれ以上に彼の心を苛立たせていたのは、そんな構図の中に自分を、ヒヲウを否応なしに組み込んで、動かしてしまう攘夷という戦いそのものではないでしょうか。

 そして海鬼はその戦いの、そして自分を縛り、動かそうとする父・クロガネの象徴であり、アラシにとっては自分が自由になるために破壊しなければならないものだったのでしょう。
 今回のサブタイトル「燃えよ! 父ちゃんの機巧」は、もちろんヒヲウの、父・マスラヲの造った海鬼に対しての言葉ではありますが、しかし同時に、アラシの、父・クロガネの操る海鬼に対する言葉でもあったと、気付いた次第です。


 さて、そんな彼らの心中はさておき、主人公メカとライバルメカの共闘というのはやはり非常に燃えるもの。互いに支え合い、同じ武器を手にしてのフィニッシュという最高のシチュエーションで海鬼はついに滅び去るのですが…

 そこで次は炎に矛先を向ける命。戦いを止めるために戦っていたヒヲウにとっては、理解の範疇外でしょうが、自分自身の戦いを始めるために戦っていたアラシにとっては、これはむしろ必然。
 機巧は楽しいと、自分の作った機巧で誰にも命令されず戦うのは何よりも楽しいというアラシの想いは理解できるのですが…

 しかしすでに傷つき作動限界に達していた命は戦いの中で爆発、イシはアラシを救い出すために深手を負って…
 一つの悲劇の予感の中、ようやく華がヒヲウのもとに戻ってきたところで、次回に続きます。

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2010.06.18

「太夫の夢 風の忍び六代目小太郎」 風の上忍vs水の怪忍

 十兵衛の回復祝いで吉原を訪れた風間伊織は、風巻太夫に無体を働く河内屋を叩き出す。逆恨みした河内屋は、凄腕の殺し屋・<節季流れ>の徳蔵と獣王に伊織と風巻を殺害を依頼。湯殿忍法最後の生き残りの徳蔵が操る奇怪な忍法は、伊織を、吉原を追い込んでいく。獣王の毒牙にかかった伊織を救う者は…

 江戸を密かに守護する風間伊織こと六代目風魔小太郎と風魔忍者たちが、戦国生き残りの怪忍者たちと激突する「風の忍び 六代目小太郎」シリーズ、待望の最新巻であります。

 今回の舞台となるのは、華の吉原。本シリーズにおいては、江戸風魔の一方の拠点(もう一方は鳶沢町の古着屋街)となる吉原において、大胆不敵にも吉原の太夫、そして伊織を襲う怪忍者の魔手が描かれます。

 前作で重傷を負いながらも、復活した柳生十兵衛の快気祝いで、客として吉原を訪れることとなった伊織。
 そこで偶然、吉原で一、二を争う太夫・風巻に、新興商人の河内屋が野暮な無体を働こうとしているのを見た伊織は、河内屋を叩き出すのですが――これが事件の始まり。

 実は裏の顔では吉原の乗っ取りを狙っていた河内屋は、己に恥をかかせた風巻と伊織を抹殺するために、<節季流れ>の徳蔵と、相棒の獣王という凄腕の殺し屋を呼び、かくて吉原を舞台に、忍者同士の死闘が繰り広げられることとなります。

 毎回登場する敵忍者の奇怪な能力が魅力の一つである本作ですが、今回登場する徳蔵と獣王は、これまでシリーズに登場した中でも屈指の強敵です。
 湯殿忍びの最後の生き残り・徳蔵は、水・水分を自在に操り、己の体組織すら変貌させる忍法の遣い手、そしてその相棒・獣王は神出鬼没の魔犬――周囲の犬を自分の分身のように操り、ついに吉原を封鎖するという快挙(?)を成し遂げた怪物であります。
(ちなみに、何故湯殿忍びが水を操る忍法を極めたかというロジックや、獣王の壮絶な出自など、実にオリジナリティがあって良いのです)

 この一人と一匹の猛攻には、さしもの伊織も手を焼き、ついには、獣王の操る想毒――相手を狂気に追いやる猛毒から身を守るために、己の心を閉ざすほかなくなります。

 と、そこで伊織を救い出すのは、風魔の中でも特異な術を操る風巻太夫の役割。
 ここではその詳細には触れませんが、一見ベタに見えるシチュエーションながら、その中で風巻の運命が語られ、そして彼女の背負ってきたものの、そして本作のタイトルである「太夫の夢」の、その重みが明らかになるという構成は、実によくできていると感じます。
(そしてまた、風巻と、敵方で実は設定的に対になっているのがまたうまい)

 唯一残念に感じられたのは、河内屋があまりに小物すぎる点ですが、ここは、その小物に徳蔵ほどの者が使われなければならない、という悲しさを読みとるべきでしょう。


 忍者もの――それも単なる隠密ではなく、人外の忍法を操る者が登場する小説がほとんど絶滅しかかっている中、そのような忍者たちを縦横無尽に活躍させる本シリーズ。
 伊織たちのキャラクター描写もノリに乗っていることでもあり、これからも、彼ら忍者たちの活躍を見せていただきたいものです。
(しかし、そのような忍者たちが、作中世界ではほとんど滅びかけていることを思えば、一種メタな繋がりを感じなくもないのですが…)


 と、次の巻の予告では何と…これほど次の巻が楽しみなシリーズは久しぶりであります。

「太夫の夢 風の忍び六代目小太郎」(柳蒼二郎 学研M文庫) Amazon
太夫の夢―風の忍び六代目小太郎 (学研M文庫)


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2010.06.17

「燃える川 爺いとひよこの捕物帳」 青年の成長と幕府の転覆と

 伝説の忍び・和五郎に助けられながら成長していく新米下っ引き・喬太の姿を描く、「爺いとひよこの捕物帖」の、待望の第三弾が登場であります。
 今回も、和五郎のアドバイスで怪事件に挑む喬太ですが、彼ら二人の運命を変えかねない大事件がこの巻では発生いたします。

 江戸を襲った大火で死んだと思われていた喬太の父・源太。実は生き延びていた源太は、その銃の腕前から強引に将軍暗殺を狙う一味に引き込まれ、心ならずも狙撃の場に向かい、将軍に銃口を向けることに…というのが前作のラストでした。

 ここで終わるなんて! と驚かされたこの場面から一年(長かった!)、このシリーズ第三巻の冒頭で、将軍警護についていた和五郎らの働きで、陰謀は失敗、源太も、結局は銃を撃たずにすんだのですが、しかし一味の奸計は、彼を下手人に仕立てあげ…と、結局彼は追われる身になるのでした。
 果たして彼の運命は、そして幕府転覆を狙う一味の次なる陰謀は…

 と、この幕府転覆を狙う企みと、追われる源太の姿を縦糸として、そして喬太が挑む事件の数々を横糸として、本書は構成されています。
 このスタイルは風野作品としてはお馴染みのもの。そういう意味では新味はあまりないかもしれませんが、しかし、本シリーズのタイトルともなっている「爺い」と「ひよこ」のコンビは、三巻目になっても、新鮮で面白いのです。

 毎回、不可能犯罪や事件とも言えないような珍事に巻き込まれた喬太が、己の足と勘を頼りに操作した手がかりを、和五郎がいながらにして推理する――
 そんな、一種安楽椅子探偵的趣に加えて、和五郎が全て解決してしまうのではなく、そこからひとひねり加えて喬太が推理してみせるという二人の立ち位置の妙が、心地よいテンポを生んでいます。

 思えば、風野先生は、デビュー当初から、老人や弱者の逆襲、ともいうべき内容の作品を多く描いてきました。。
 もちろん、老人だからといって、世間からリタイアしたままでは終わらない、弱者だからといって、弱いままでは終わらない――
 そんな彼らが、歴史の陰で自分たちの意地を見せるところに、ドラマとしての楽しさ、カタルシスがあるのですが、本シリーズは、爺い(老人)とひよこ(弱者)という両極端の二人を主人公にすることにより、その魅力を最大限に引き出していると感じます。

 ちなみに本シリーズ、喬太へのアドバイスの際に和五郎が語る過去話もまた、楽しみの一つ。かつては家康の近くに使えたほどの伝説の忍びである和五郎ならではの、含蓄と意外性に富んだエピソードも、よいアクセントとなっています(特に今回は、和五郎と家康の目に映る石田三成像が実に興味深い)。
 そうかと思えば和五郎爺さん、とんだやんちゃを毎回やらかすところも実にいいのですが…

 そんな和五郎に比べると、さすがに喬太の方はまだまだといったところで、毎回毎回、和五郎の元に助言を請いに行ってしまうのには歯がゆさも感じます。
 もっとも、本書のラストの事件では、ある理由で和五郎も、自分の親分である岡っ引きも不在の状態から、見事に容疑者を追い詰め、しっかりとした成長の証を見せてくれるのも、シリーズ当初から読んでいる身としては、何とも嬉しく感じられることです。


 …が、好事魔多し、と言うべきでしょうか。その「ある理由」――潜伏していた源太が役人たちに見つかったこと――が、彼の運命を大きく動かすことになります。

 青年の小さな成長を描く物語は、思わぬところから幕府転覆を巡る巨大な陰謀に結びつき――その中で喬太は、和五郎はどのような役割を果たすことになるのか?
 老人と弱者の大活躍を期待すると同時に、次は一年間は待たせないで欲しいと切に願う次第です。

「燃える川 爺いとひよこの捕物帳」(風野真知雄 幻冬舎文庫) Amazon
燃える川―爺いとひよこの捕物帳 (幻冬舎時代小説文庫)


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2010.06.16

「姫武将政宗伝 ぼんたん!!」第4巻 撫で斬りという陰の中に

 第三巻の時も似たようなことを書きましたが、前の巻が出てからずいぶんと待ちました。「姫武将政宗伝 ぼんたん!!」の第四巻がようやく登場です。

 伊達政宗は実は女だった、というセンセーショナルな、しかし最近では何となく珍しくないシチュエーションの本作。
 しかし、単に萌え狙いで女体化してみました、的な安直さのない、(ギャグはふんだんに含まれているものの)歴史ものとして真っ向勝負な内容が、本作の魅力であることは、言うまでもありません。

 この巻ではそれを証明するように、小手森城での大内定綱の軍に対する撫で斬り、そして政宗の父・輝宗の…と、政宗の経歴の、そして戦国史の陰とも言うべきエピソードが、描かれていきます。

 一度は伊達家の傘下に入ったものの、政宗に反旗を翻した定綱(本作ではその理由を、政宗が女性であると知ったためと設定)。 奥州一帯はおろか、伊達家家中ですら一枚岩とは到底言えない中、政宗はついに定綱の勢力下にある小手森城への撫で斬り――虐殺、いや鏖殺――を行うこととなります。

 如何に戦国時代だからといえ、それを行うなりの理由があったとはいえ、しかし現代の我々から見て、やはり撫で斬りという行為の正当化は難しいもの。
 本作ではそれをもとより正当化することなく、(ある程度のオブラートには包んでいるとはいえ)正面から描くというアプローチを選んでいます。

 それ自体、ある種好感の持てるものではありますが、しかしそれ以上に感心させられるのは、それを政宗が断行した背景に、彼女の一種女性的な感性――それもネガティヴなものではなく!――の働きを示すのがまた良い。
 しかも、それを政宗本人に語らせるのではなく、子供の頃から彼女を見守ってきたくノ一を通して語らせるというのが、実に心憎い限りです。
(もう一人、戦国時代の奥州における撫で斬りの意味と、それを行った政宗の革命性を、奥州を外部から眺める秀吉に指摘させるというのもまたうまい)

 ただ、この撫で斬り(そしてラストのあの事件)の陰に、一人の人物の悪意があった、という展開は、誰かを悪役に仕立てて、主人公の「罪」を軽くしようとする、歴史ものによくある展開に見えて残念なのですが…

 それはさておき、どれほどフォローが入ったとしても、もちろん、撫で斬りを行ったという事実は消えません。
 しかし、政宗はその重みを自ら認識し、背負う覚悟を――小十郎の「正しいやり方」という言葉を、「効率の良いやり方」と言い換えたのは、その現れでしょう――決めました。
 前途多難ではありますが、その行く道を見守りたいと思います。


 …と、まとめに入ろうかと思いきや、この巻のラストで伊達輝宗を襲うあの悲劇。
 果たしてそれを政宗はどのように受け入れ、乗り越えていくのか。物語始まって以来の重い展開ですが…さて。

「姫武将政宗伝 ぼんたん!!」第4巻(阿部川キネコ 幻冬舎バーズコミックス) Amazon
姫武将政宗伝ぼんたん!! 4 (バーズコミックス)


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2010.06.15

「蛮社始末 闕所物奉行 裏帳合」 権力の狭間で己の意を貫け

 蛮社の獄により闕所となった高野長英。目付・鳥居耀蔵の命により長英の屋敷を探った闕所物奉行・榊扇太郎は、そこで一通の書付を発見する。そこに記されていたのは、異国の力を借りて幕府を倒すという驚くべき計画だった。果たして書付の真偽は? 鳥居らの思惑に翻弄されながら、扇太郎は真相を探る。

 上田秀人先生の期待のシリーズ「闕所物奉行 裏帳合」の第二巻であります。
 今回の物語の背景となるのは――タイトルで察しがつくかと思いますが――あの蛮社の獄。蛮社の獄で捕らわれた一人、高野長英宅から発見された書付を巡り、主人公・扇太郎は、またも苦闘を強いられることとなります。

 町奉行所による蛮社の獄の手入れに際し、上司である鳥居耀蔵から、長英宅の闕所手続きを命じられた扇太郎。
 長英宅から、いかにも発見してみせよと言わんばかりの書付を発見した扇太郎は、蘭学派の重鎮であり、かつて海岸測量を巡って鳥居に恥をかかせたことから鳥居に一方的に怨みを買っている江川太郎左衛門追い落としの策略に、自分が巻き込まれていることに気付きます。

 鳥居に逆らえば自分の身が危うい、さりとて一個の人物である江川に濡れ衣を着せる手助けはしかねると、板挟みになった扇太郎は、前作で交誼を結んだ吉原の顔役たちの手を借りて、事態の収拾を図ろうとするのですが、しかし、その背後には更なる陰謀が――というのが本作の物語であります。

 蛮社の獄という歴史的事件の背景には、実は…という伝奇的アイディアを用いることによって物語にスケール感を出す手法、そして複雑な権力構造の中で己の意志(信念、良心)を如何に貫くかという、個人と権力との関係性という、上田作品の魅力は本作でも健在。
 いや、それどころか、扇太郎の上司――すなわち扇太郎にとって己の上にのしかかる権力の象徴――を、あの鳥居耀蔵に設定することで、主人公の戦いのスリリングさ、困難さは、いつにも増して感じられます。

 前作の感想でも触れましたが、扇太郎は、上田主人公の中ではかなり擦れた人物、時に利己主義的とも見える現実主義のキャラクターですが、しかし鳥居を相手にするのであればこれもやむなし。
 むしろ、権力の横暴に対し、その権力の内側からレジスタンスする扇太郎の行動は、痛快ですらあります。


 そして、そんな彼の傍らにあるヒロイン・朱鷺の存在感が実に面白い。

 旗本の家に生まれながらも、窮乏した親に岡場所に売り飛ばされた朱鷺。その岡場所が闕所となり、闕所を扱った商人・天満屋により、扇太郎への賄賂兼監視役として送り込まれることになります。
 しかも、彼女は本来であれば闕所で没収された「財産」。それを家に置くことは、厳密に言えば幕府の財産を私することであり――鳥居はそれを(も)盾に、扇太郎を操らんとします。

 いわば、扇太郎にとっては二重の意味で枷となる朱鷺ですが…しかし、彼女が自分の傍らより他に寄る辺ないのもまた事実。
 自分が命を落とす、いや役目を追われることは、同時に、彼女を死よりも辛い運命に――闕所となった岡場所の女は、吉原で終生女郎として働かされる――追いやるのですから。

 それまでは、己の立場のみのために戦っていた扇太郎に、初めて生まれた守るべき他者。それが彼女なのです。

 これまで上田作品のヒロインは、時代小説的には「普通の」キャラがほとんどだったのですが、設定的にも位置付け的にも異彩を放つ朱鷺のキャラクターの面白さには、上田ファンとしても感心させられた次第です。


 さて、何とか今回の事件を丸く収めた扇太郎ですが、鳥居が上司である限り――鳥居が昇進して町奉行となってしまえば、鳥居の手から逃れられるという条件づけが面白い――まだまだ苦境は続くでしょう。

 小物かと思いきや、意外な伝奇的背景を持つ敵も顔を見せたりと、まだまだ油断できない本シリーズ。作者の一つの到達点になるのでは、と期待しているところです。

「蛮社始末 闕所物奉行 裏帳合」(上田秀人 中公文庫) Amazon
蛮社始末―闕所物奉行裏帳合〈2〉 (中公文庫)


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2010.06.14

「山彦ハヤテ」 孤独を超えてゆく力

 陸奥国折笠藩の水ノ目山で一人暮らす少年ハヤテ。ある日、山で行き倒れた男を助けたハヤテだが、それはなんと若き藩主・三代川正春だった。藩の御家騒動で命を狙われたマサ(正春)、野生児ハヤテ、マサに懐いた狼の尾ナシ、二人と一匹は、次々と事件に巻き込まれる。

 陸奥の小藩を舞台に、山育ちの野生児と、お人好しでちょっと頼りない藩主が活躍する全四話の短編連作集であります。

 タイトルロールのハヤテは、藩のお留め山で暮らす野生児。妻を失って荒みきった生活を送り、ついには人を殺して逃げ出した父に捨てられ、以来、ただ一人山で暮らしてきたバイタリティの固まりのような少年です。
 そのハヤテと、身分と年齢を超えた友人となるのが、もう一人の主人公とも言うべきマサこと三代川正春。
 善良なのはいいのですが、お坊ちゃん育ちでどうにも頼りない若き藩主であります。

 物語は、正春の初めてのお国入りから始まります。初めて見る領国への期待に胸膨らませる正春ですが、しかし、藩は真っ二つに割れての御家騒動の真っ最中でありました。
 先代藩主の側室の子(つまり正春の異母弟)を藩主に据えようとする一派に狙われ、信頼していた守り役にまで裏切られた正春は、ただ一人、這々の体でお留め山に逃れるのですが…そこで彼を拾ったのがハヤテ。

 まさか藩主がこんなところにいるとは思わないハヤテは、正春をマサと呼んで、おかしな共同生活を始めるのですが、暗殺の魔手はなおもマサに迫って…というのが第一話のあらすじであります。


 ですます調の呑気な味わいの語りと、個性的なキャラクターの活躍、そしてど派手な伝奇的アイディアが魅力の米村作品ですが、実は本作には伝奇要素はありません。
 それで本作がつまらないか、といえば、もちろんそんなことはありません。
 これはいつもどおりの賑やかなキャラたちがドタバタ活劇を繰り広げる中で、孤独に疲れ、自分の生き方に迷う者たちが、手を取り合って明日への一歩を踏み出していく様が、本作では温かく描かれているのです。

 父親に捨てられ、人との関わりも最小限に山の中で暮らしてきたハヤテ。
 一見何不自由ない暮らしのようでいて、周囲の者は皆打算ばかり、心から信じられる者を持たないマサ。
 そんな孤独の中で出会った二人が、貧しく素朴な、しかし打算抜きの暮らしを送るうちに、真に胸襟を開ける仲となり、相手のために己の命を賭けても惜しくない真の友となっていく――その過程が実に良い。
(特に、マサと出会ったことで己の「孤独」を認識してしまったハヤテの姿が、ほほえましくも切ないのです)

 もちろん、そんな友が出来たからといって、二人を取り巻く環境が一変するわけでもなく、それぞれの力も、たかがしれたものではあります。
 そして、米村作品の多くがそうであるように、本作においても、普段の脳天気な展開に比べれば驚くほどシビアな形で――特に第四話の展開は、ある種人情もののお約束をひっくり返すような良い意味の身も蓋もなさ――人生の裏側、醜い部分が描かれ、二人に突きつけられることになります。

 しかし、自分がこの世界にたった一人でないと知ること、そして自分が手をさしのべれば、向こうからも手をさしのべてくれるかもしれないということを知ることは、人間にとって、何よりも強い支えとなり得ます。

 本作の中で、幾度となく窮地に追い込まれながらも(第二・三話でマサが陥った窮地は、実に米村作品らしくて可笑しいというか何というか)が、それでも絶望せず、自分の未来を切り開いていく二人の姿は、そんなささやかで、それでいて尊いことを教えてくれます。

 他の米村作品に比べると地味めではありますが、しかし読後感の良さは屈指の、愛すべき作品であります。

「山彦ハヤテ」(米村圭伍 講談社) Amazon
山彦ハヤテ

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2010.06.13

「もののけ本所深川事件帖 オサキ江戸へ」 一人と一匹、闇を駆ける

 本所深川の献残屋・鵙屋の手代・周吉は、狐の姿をした魔物・オサキに憑かれたオサキモチ。主人夫婦や一人娘のお琴に気に入られて充実した毎日を送る周吉だが、ある日、店に出入りする医者が惨殺され、お琴が行方不明となる。さらに周吉に襲いかかる何者かの刃。周吉とオサキは、お琴を探し江戸の闇を駆ける。

 第8回『このミステリーがすごい!』大賞の隠し玉――惜しくも入賞は逃したものの、その輝きを見込まれて出版された作品――それが本作であります。
 作品のタイトル、そして舞台は「深川」、主人公も商家の手代と、一見、市井もの・人情ものの定番作品に見えますが、しかしその内容は人間と魔物のバディものという嬉しい変化球、これを見逃す手はありません。

 さて、本作に登場するオサキとは、御先狐とも尾裂狐ともいい、人に憑き、あるいは使役される妖怪の一種。九尾の狐の金毛が変じたとも、殺生石の破片が変じたともいいますから、なかなか由緒ある妖怪です。

 主人公・周吉は、そのオサキに憑かれたオサキモチ。憑きものの家系に生まれ、それ故に忌避・差別され、ついには両親を失い、故郷を追われるに至った青年であります。
 しかし周吉の魅力は、そんな悲惨な境遇にもかかわらず、本人はいたって生真面目で、鈍感とすらいえるほどの純真な好青年。役者のような顔立ちということもあって、奉公する鵙屋の一人娘・お琴に惚れられて逆玉一歩手前状態という幸せ者です。

 そしてその相棒のオサキは、様々な妖力を持つ魔物でありながら、普段は周吉の懐に潜り込んで、「ケケケッ」と周吉の言動をからかうのが日課。
 ブランドものの油揚げしか口にしない俗っぽさもありますが、しかし根本的なメンタリティはやはり魔物、時と場合によっては、平気で人をかじる(殺す)剣呑なやつでもあります。

 さて、本作の最大の魅力は、この周吉とオサキのやりとりにあることは、言うまでもありません。
 性格や生まれ育ちどころか、種族まで根本的に異なるこの一人と一匹が、平穏な日常の中で、そして奇怪な事件の中で見せてくれる、コンビネーションが、何とも楽しいのです。
 ことに、オサキの「ケケケッ」という鳴き声(口ぐせ?)は、オサキの性悪で生意気な、それでいてマスコットチックな可愛らしさを象徴するような、名フレーズではないでしょうか。


 と、大森望氏の選評にもあるように、キャラ立ちの点ではかなりのレベルにある本作。彼ら一人と一匹のほかにも、団子好きで凄腕の謎の老剣士、オサキも恐れるくらいのご面相ながら根は優しい岡っ引き兼テキ屋の親分、そしてもちろん周吉を温かく見守る鵙屋一家と、今すぐシリーズ化してもやっていけそうな顔ぶれであります。

 しかしながら、その一方で、ストーリー、特に構成面にいささかの粗さが感じられるのも正直なところであります。

 特に、周吉とオサキの過去が小出しにされていく点と、(それと密接に結びつく点でありますが)作中の時間軸が場面場面で前後するという構成は、正直なところ、物語へのスムーズな没入を妨げているように感じられます。

 何よりもクライマックスは、周吉の過去の一部をぼかしたことであるキャラクターとの因縁がぼやけてしまったために、些か唐突な印象を受けてしまうのが何とも残念なのです。


 もちろん、これが作者のデビュー作ということを考えれば、そして先に述べたキャラ立ちの魅力と合わせて考えれば、及第点を充分以上に超えているとは思います。

 巻末の大森氏の解説に触発されて色々と調べてみたのですが、実は人間と魔物のバディもの時代劇というのは、意外にもかなり希少な存在(本作と何かと比べられるであろう「しゃばけ」は、人と妖との触れあいはありますが、相棒という関係ではないですしね)。

 そんな点も含めて、この先が実に楽しみな一冊であることは間違いないところ。これからも描かれるであろう周吉とオサキの活躍を、心から期待しているところなのです。

「もののけ本所深川事件帖 オサキ江戸へ」(高橋由太 宝島社文庫) Amazon
もののけ本所深川事件帖 オサキ江戸へ (宝島社文庫)

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2010.06.12

「機巧奇傳ヒヲウ戦記」 第23話「聞こえるか? 炎の声が」

 炎の大きすぎる力が戦を起こすのではないかと恐れを抱き、無気力となったヒヲウ。そんな彼に、拳骨和尚は素手で炎を倒し、力が戦を起こすのではない、心が起こすのだと説く。悩みながらも久坂に対し、戦を止めて見せると宣言するヒヲウ。攘夷の流れが、既に自分の力では止められないほどになっていたことに悩む久坂は、ヒヲウに対し海鬼破壊を依頼する。ヒヲウは、父の遺した海鬼を破壊する決意を固め、出撃するのだった。

 アバンは、いきなり池田屋事件。池田屋事件と言えば、アカが転じた新選組隊士・奥沢栄助はここで死ぬはずだったのですが、本作では死を偽装して、新選組の影の戦力たる機巧部隊になったとの設定に。
 この池田屋でアカが使用したのは、これまでの機巧とは異なる、パワードスーツ型の新型機巧だったようですが…。

 さて、それはさておき、前回、華たちを救うためとはいえ、炎の天狗剣で外国船を破壊してしまったことに悩むヒヲウ。
 炎の強すぎる力が、戦を起こしてしまうのではないか。そして、自分はその炎の力を使うことを欲しているのではないか?
 ヒヲウは悩み、炎に語りかけますが、もちろん炎が答えることはなく――

 ここでヒヲウが直面した悩みは、いわゆるロボットものの主人公の多くが経験するもの。
 神にも悪魔にもなれる力を持つ巨大ロボット――炎もまた、その系譜に連なるものであることは言うまでもありませんが、その操り手であっても、明確な敵を、戦う意志を持たないヒヲウにとって、その問いがどれだけ重く、酷なものであるかは、想像に難くありません。

 この問いと悩みは、おそらくはかつての機の民も直面したものであるはずですが…しかし、ここでヒヲウに道を示すのは意外な人物。長州編冒頭からさりげなく登場していた寺の和尚――その名は物外…って!?

 なんと自分は炎より強いと言い出した和尚に、勢いで炎を持ち出したヒヲウですが、さすがに戦うわけにもいかず立ち往生したところに…
 和尚は豪拳一閃、境内の大木をへし折るや、その大木を抱え上げて炎の脚に向けて一投! たまらずダウンする炎――本当に勝っちゃった!

 この武田物外、またの名を拳骨和尚。本編のナレーションでも語られる通り数々の逸話でその怪力が伝えられる人物。なるほど、「…でもちょっと強すぎですよね」とメタなツッコミは入りましたが、この人物ならば炎に勝っても納得であります。

 強すぎる力が戦に直結するわけではないことを、身を以て示した和尚は、力が戦を起こすのではない、心が起こすと、力は使いよう、そのためには心を強くしなければならないとヒヲウに語ります。
 もちろん(異常な説得力とはいえ)これは考えてみれば当たり前の言葉、それだけでヒヲウの悩みが晴れるわけはありません。
 その後に和尚が語った、「子供は子供でおれ」という言葉の方が、むしろ素直に聞こえますが、しかし、全く行くべき道を失ったヒヲウにとって、これはこれで一条の光。
 兄の支えもあり、立ち直った久坂の元に向かったヒヲウは、「戦を止めさせる」と宣言します。

 そんなヒヲウに対し、久坂も正直に心中の恐れと不安を語ります。自分たちの始めた攘夷は、加速度的に勢いを得て、自分たちの手では止められなくなってしまったと…

 自分たちの正義を行うための手段であったはずの戦(攘夷)が、いつしかそれ自体が目的となってしまう…それこそが、戦の、力の行使の恐ろしさでしょう。
 しかし、そんな久坂に対して、ヒヲウは明るい表情で「戦を止めてやる!」と語ります。
 ヒヲウに炎という力があるとしても、もちろんこれは容易ではないこと。大人であれば、この言葉を子供の安請け負いと見てしまうかもしれません。

 しかし、それでいいのです。子供は子供らしく、ヒヲウはヒヲウらしく――自分にできることをするための一歩を踏み出したのですから。
 そしてきっと、そんな一歩が歴史をちょっぴり変えるのでしょうから…

 久坂の提案により、攘夷の主戦力たる風陣の海鬼を破壊することとなったヒヲウ。
 言うまでもなく海鬼はマスラヲが最後に作った機巧、父の形見であります。
 しかしヒヲウの心に迷いはありません。

 「俺の名前はヒヲウなんだ!」という言葉とともに、最高のヒキで今回は幕となります。

「機巧奇傳ヒヲウ戦記」下巻(バップ DVD-BOX) Amazon
機巧奇傳ヒヲウ戦記 DVD-BOX(下)


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2010.06.11

「BRAVE10」第7巻 決戦、五番勝負!

 ついに十勇士が集結! と思いきや、その十勇士の一人であるはずのアナスタシアが裏切るという非常事態となった「BRAVE10」。十勇士と強敵との総力戦も始まり、いよいよ佳境の最新第七巻であります。

 真田幸村の下に十勇士が集結し、伊佐那海の持つ力――物語の根幹に関わる秘密が語られるという、おそらくは物語の大きな山場の興奮も冷めやらぬうちに、裏切りを見せたアナ。
 十勇士がいきなり欠員!? と驚く間もなく、この巻開始早々登場するのは、宿敵・服部半蔵。神速・剛力・幻惑・妖術・冷酷、五つの忍技を操る、忍を抹殺する忍――伊賀異形五人衆の登場であります。

 かくて、実は五人衆の一人であったアナと、人気投票第一位のくせに片目を奪われ戦線離脱の海野六郎を除いた八人の勇士と、五人衆の全面対決――清海・弁丸vs剛力の白群、鎌之介vs妖術の朽葉、甚八vs冷酷のアナスタシア、佐助・十蔵・伊佐那海vs幻惑の灰桜、そして才蔵vs神速の服部半蔵の五番勝負が始まることと相成ります。
(五人衆の能力と名前の対応は、この巻では明示されていないため想像ですが――)

 言うまでもなく、この展開は忍者ものの王道とも言うべきもの。前の巻の感想で、忍術合戦描写への不満をブチブチ書きましたが、それぞれの能力を活かした今回のバトル展開はその辺りがかなり解消されていたと思います。
(もう一つ不満だった敵の存在も、今回描かれたものが全てではないでしょうが、それなりに示されて納得)

 しかし今回のハイライトは、何と言っても朽葉の幻術空間に囚われた鎌之介が見たもの、でしょう。
 術に囚われた者の心中の願望を映し出すと思しきその空間の中で描かれたものは――いや、これはあまりにあり得なさすぎて逆に感心。果たしてこれが純粋に願望なのか、過去のある部分を切り取っているのかはわかりませんが、いずれにせよ、素晴らしく意外な展開で、大いに楽しませていただきました。

 そしてその厄介な術を打ち破ったのが、鎌之介の並はずれたヤンデレ(?)っぷりというのにも脱帽。登場当時は好きになれないタイプのキャラクターでしたが、いやいやどうして、ここまで貫いてくれれば文句はありません。

 その一方で、個人的に今まで好きになれないままだったアナですが――いよいよ、彼女の秘められた過去が明らかになる様子。鎌之介同様、アナも好きなキャラになれるような掘り下げを期待しています。


 しかし、弁丸が作った清海のアレは、どう考えても清海の方が必殺されそうで怖いんですが…

「BRAVE10」第7巻(霜月かいり メディアファクトリーMFコミックス) Amazon
BRAVE10 7 (MFコミックス) (MFコミックス フラッパーシリーズ)


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2010.06.10

「真田十勇士」第1巻 復活の柴錬大戦

 35年前にNHKで放送された人形劇「真田十勇士」のコミカライズである、本宮ひろ志の漫画版「真田十勇士」が久しぶりに復刊されました。
 元の人形劇はほとんど幻と化している作品だけに、コミカライズといえど復刊はまことにありがたいお話です。

 元の人形劇は、「新八犬伝」の後番組として、1975年から二年間放送された作品。よく知られているように、この時代のNHKは放送後にマスターテープを上書きしてしまうため、現存する話数は全445話中、3,4話にすぎないという幻の作品であります。
 本作は柴錬先生の手によるノベライズ版も刊行されていますが(当ブログでも以前紹介しております)が、こちらも絶版で、復刊は未だなされておりません。

 しかし本作、幻の作品としておくにはあまりにも惜しい作品。なんとなれば――ノベライズ版の紹介の際にも触れましたが――本作は一言でいえば「スーパー柴錬大戦」。柴錬先生の先行する複数の作品を、アレンジし、繋ぎ合わせて、新たに一つの作品としているのです。

 つまり本作は、「柴錬立川文庫」の大部分を占める猿飛佐助・真田幸村を主役としたエピソードを中心に、「忍者からす」「赤い影法師」(人形劇・小説版では「木乃伊館」まで!)といった名作の登場人物・設定を取り入れて再構成された作品。元々オールスターキャスト的だった「柴錬立川文庫」を、更に豪華にしたものなのです。


 と、前置きばかり長くなってしまいましたが、今回復刊された漫画版は、人形劇・小説版をベースに本宮ひろ志先生が描いたもの。 全四巻で刊行されるその第一巻目である本書では、真田幸村が天命を知り、猿飛佐助が誕生する冒頭の場面から始まり、関ヶ原の合戦を経て、徳川方が豊臣潰しのために暗躍する姿が描かれます。

 そんな物語の中登場し、幸村の下に馳せ参じる十勇士は、猿飛佐助、高野小天狗、三好清海、筧十蔵、呉羽自然坊といった面々。
 その他にも、まだこの時点では仲間入りしていないものの、霧隠才蔵に為三、穴山小助、由利鎌之助が登場し、十勇士はこの時点でほとんど顔を見せていることとなります。

 面白いのは、本作の十勇士のメンバーに、高野小天狗や呉羽自然坊といったオリジナルキャラが混じっている点でしょうか。
 他の十勇士メンバーに比べれば、知名度の点でハンデが…などということもなく、どちらも大昔から十勇士のような顔で大暴れを見せてくれるのが何とも楽しい(特に小天狗は、あの「鴉」の当主という設定!)。

 いや、本作のオリジナリティは、既存の(?)十勇士メンバーにおいても無縁ではありません。
 荒武者のイメージがある三好清海は、本作では長髪の美形キャラですし、何よりも霧隠才蔵はカンボジアからやって来たイギリス人剣士なのですから面白いではありませんか(才蔵の場合、言動がモロに本宮キャラなのがさらに…)。

 と、題材は古典的でありながら、オリジナリティの固まりのような本作。
 人形劇版・小説版からはかなりアレンジは加えられているものの、作品そのものの雰囲気は十分感じ取れますし、何よりも荒削りなテンションの高さが、本宮漫画とうまくマッチしていると思います。

 これを期に、小説版も復刊してくれれば…と願いつつ、まずはこの漫画版を存分に楽しませていただくこととしましょう。

「真田十勇士」第1巻(本宮ひろ志&柴田錬三郎 集英社文庫コミック版) Amazon
真田十勇士 1 (集英社文庫―コミック版) (集英社文庫 も 8-81)


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 真田十勇士(NHK人形劇原作版)

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2010.06.09

「謎斬り右近」 秘宝争奪戦という王道の中で

 豊臣家滅亡から十年後、天海僧正は配下の山王御供衆を動かし、謎の「豊国神宝」を求めていた。その争いに巻き込まれ、愛する人を奪われた木下右近は、己の剣のみを頼りに、豊国神宝を求めて旅立つ。天海、家光、忠長、政宗、武蔵…権力に憑かれた者たちとの戦いの果て、右近が知った神宝の正体は。

 「火の児の剣」「裏切り涼山」など、ここ数年イキの良い時代小説を次々と発表している中路啓太氏の新作は、時代伝奇小説の王道を往く作品。
 江戸時代初期を舞台に、豊臣家が残したと、幕府を転覆させるほどの力を持つという「豊国神宝」を巡る争奪戦の中で孤剣を振るう青年・右近の姿が描かれます。

 豊臣家を滅ぼし、天下を掌中に収めた徳川家――しかし、神君家康亡き後は、三代将軍家光が、大御所・秀忠と、そして弟・忠長と内輪で激しい権力争いを演じ、さらに、伊達政宗も未だ天下を窺って暗躍する有り様。そんな中、天下の趨勢を決定づけると伝えられる、豊臣家が残したという在処も姿もわからない謎の神宝の存在が明らかとなります。

 秀吉の正室である高台院の甥・木下延俊の子である右近は、師がこの争いに巻き込まれて命を落とし、さらに愛する娘・豪が何者かにさらわれたことから、自らを修羅の道に置き、この神宝の謎を求めて戦うことになります。
 彼の前に立ちふさがるのは、将軍家指南役の座に釣られ、天海の走狗となった宮本武蔵。さらに柳生宗矩や木村助九郎なども顔を見せ、三つ巴、四つ巴の暗闘が繰り広げられる中、右近の戦いは、幕府はおろか朝廷を巻き込んで繰り広げられることになります。。
(ちなみに、右近の後見的立場として、武蔵の父・新免無二斎が登場するのも面白い)


 …が、そんな本作が無条件に面白いかと言えば――まことに残念ながら――私個人としては、首を傾げざるを得ません。
 本作を手に取ってから、読み終えるまで、実のところ、隔靴掻痒の想いがずっとつきまとっておりました。

 その理由は幾つかあるように思いますが、その最大のものは、主人公たる右近のキャラクターに魅力が乏しいことでしょう。

 突然神宝を巡る争いに巻き込まれ、親しい者・愛する者を奪われた彼が、血気に逸るのはよくわかる、むしろ当然ではあります。
 しかし、そんな悲しみを味わい、そして敵とはいえ人の命を奪うことの重みから、彼が何を得て、そしてそこから彼がどのように成長したかというものが、あまり感じられないのです。
(修羅の道を行く、という彼の決意も、むしろ短慮の表れに見えてしまうのが何とも)

 本作で右近の敵として登場するのは、権力の座を巡り、他人の命を踏みつけにして醜い争いを繰り広げる者たち。右近は、おそらくはその対極として存在すべきキャラクターであるはずなのですが…

 もちろん、時代伝奇小説においては、主人公のキャラクターがある程度薄くても成立する作品もあります。
 しかし、本作をご覧になった方であればよくおわかりかと思いますが、本作の秘宝争奪戦の中で、彼の存在は、単に主人公である以上に重いもの。
 そこが明確に描かれていなければ、本作の中心がぼやけてしまうのではないでしょうか。


 非常に厳しいことを書いてしまいましたが、神宝の正体と、それが徳川幕府、そして天海にとって持つ意味など、非常に面白かっただけに――そして、何よりも作者の力に期待しているからこそ、敢えてここに記す次第です。

「謎斬り右近」(中路啓太 新潮社) Amazon
謎斬り右近

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2010.06.08

「変身忍者嵐」 第47話「さらば嵐! 妖怪城に死す!!」(その二)

 前代未聞、番組感想なのに二回に分かれてしまいまってごめんなさい、の続きであります
 さて、妖怪城に行く道は円盤のみと見抜き、自分の身を餌にしてサタンをおびき寄せんとしたハヤテ。その策に、サタンも道人もまんまとはまり、ついに嵐は宿敵サタンを目の前に迎えたわけであります。
 道人も、タツマキたちを操っているのにわざわざ嵐の目の前に突っ立ってガンビームをくらって爆死し、残すはサタンのみ!

 そして、ついに円盤の中で対峙した嵐とサタンですが…さすがに敵は大魔王、ガンビームが全く効かない上に、嵐はサタンの地獄独楽の術でグルグル回されてしまいます。
 「このままでは殺されてしまう。バトンを刀に変えるんだ!」と唐突な言葉と共に、久々に登場したのは…嵐の愛刀・速風。
 新生・嵐になってからどこに行ったかと思えば、こんなことになっていたのか…と思う間もなく、今回幾度目かのサプライズ!
「この大刀には魔術避けの秘法が備わっているんだ!」ってもう知らないよ!

 という嘆息をよそに、一気に形勢逆転した嵐は、これまた久々の嵐旋風起こしでサタンを圧倒。そしてこちらも久々の秘剣影写し!
 いや、色々とツッコミましたが、最後の最後にこの展開はやっぱり燃えます。元々は刀身に相手の姿を写し、光を反射させて目眩ましをかける技だったはずなので、狭い円盤の中の接近戦では無意味では…なんて野暮は言いっこなし!
 最後の最後に、嵐を代表する必殺技を決めてくれたのはやはり嬉しいではありませんか。

 しかし首を落とされてもサタンは死なない。実はサタンの本体は妖原子球だったのだ! って今回何回目の新事実にひるむことなく、嵐は己の命を賭ける決心をします。
 それに動揺したサタン様、妖原子球のエネルギーと嵐の超能力がぶつかれば、円盤と妖怪城も爆発するとついつい白状。
 「母上、嵐は死にます!」…ってそういえばシノブさんどこ行った!?

 サタン編の最重要キャラだというのに、本当にこの瞬間まで存在を忘れ去られていた母上。もしかして円盤の中にいたんじゃ…と思う間もなく円盤は大爆発!

 それを地上で見ていたタツマキやツムジたちは悲しみに暮れ…る間もなく、辺りに響くハヤテの声。
 もう本当にもの凄い勢いでシノブに駆け寄るハヤテと、どこにいたのかハヤテに駆け寄るシノブ。
 潰れた目も、白くなった髪も元に戻ってるけどもうOK。みんなサタンが悪かった!

 しかし、自爆したはずの嵐/ハヤテが何故生きていたのか?
 そう、変身忍者の全能力だけがサタンと消え、そしてハヤテは人間として甦ったのだ…うーん、ナレーターにそう断言されては、信じるしかありません。

 もう、最初から最後まで唐突な設定に振り回された感のある最終回ですが、考えてみればハヤテも父を、生き別れの兄も失ったわけですから(ついでに言えば血車党もたぶんほとんど全滅)、これくらいの幸せがあってもよいでしょう。
 「変身忍者嵐」、ここに大団円であります。

今回の悪魔
大魔王サタン
 魔神斎や悪魔道人を操る黒幕。妖怪城に潜み、妖怪城上部から分離した空飛ぶ円盤で世界中を飛び回り、妖原子球の力で悪魔を復活させ、配下とする。
 杖から発する地獄の炎、相手を死ぬまで回転さらせる地獄独楽の術などで嵐を苦しめ、ガンビームも効かなかった。
 秘剣影写しで首を断たれ、本体であった妖原子球と一体化したところに、嵐の全超能力をぶつけられ、妖怪城もろとも滅び去った。

再生悪魔道人
 サタンの魔法陣から復活した悪魔道人。ガンビームを食らっていなかったため、ただ一人復活できた。魔弾を打ち込んだタツマキたちを操ってハヤテを捕らえたが、変身した嵐に至近距離でガンビームを受けて爆死。


「変身忍者嵐」第4巻(東映ビデオ DVDソフト) Amazon
変身忍者 嵐 VOL.4 [DVD]


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 「変身忍者嵐」 放映リストほか

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2010.06.07

「変身忍者嵐」 第47話「さらば嵐! 妖怪城に死す!!」(その一)

 助っ人に現れたタツマキの導きで妖怪城に向かうハヤテたち。だが、タツマキは悪魔道人に操られていた。捕らえられ、生け贄としてサタンの手で火あぶりにされるハヤテ。しかしハヤテは変身して道人を倒し、サタンを追って円盤に突入する。サタンを影写しで倒す嵐だが、サタンの本体は妖原子球だった。サタンを道連れに自爆する嵐――しかし、変身能力と引き替えにハヤテは生き延びた。呪いの解けた母と、ハヤテは固く抱き合うのだった(おわり)

 さあ、「変身忍者嵐」もついに最終回、嵐とサタンとの決戦が描かれることになるのですが…
 ここに来て新設定新事実の連発。決戦のカタルシスよりも後付け設定のインパクトに心を持って行かれるという恐ろしいことになってしまいました。

 前回ついに七つの鈴を揃え、妖怪城の場所を知ったハヤテたち。しかしさすがに敵の本拠だけあって、そこに至るには数々の罠が…
 空間が歪められ、同じ場所にループしてしまう道を避けて、頭上にかかった吊り橋を行けば、炎に包まれて橋が落ちる「火の橋」。
 次々と天から絵に描いたような稲妻が落ちてくる「雷の砦」(別に砦があるわけでもないのに砦というセンスは買います)。

 いずれもなかなかの難所ですが、空に投じたサイに雷を落としたら円盤までビリビリきてしまった(らしい)サタンさまったら…

 さて、一時退散したサタンは
、「我はサタン、大魔王。地の悪、空の呪い、全てはサタン。永遠の呪い、不滅の悪の下に、開けよ魔法陣。眠りし悪に命の炎を! サタンの名の下に、再び出でよ!」
と、えらく格好良い呪文で、魔法陣から再生妖怪軍団を作り出そうとするのですが…出てきたのは悪魔道人のみ。
 道人が語るに、魔法陣の中で五体健全だったのは自分のみ、ガンビームを喰らった妖怪は復活できなくなるらしいと…ってここでそんな大事な設定が!

 これはこれでなかなか面白い設定ですが、そんなことは早く言ってくれとサタン様は思っただろうなあ…

 さて、再生妖怪軍団の夢を砕かれたサタン様(俺も砕かれたよ!)が、道人に命じたのは、折良く/悪しく助っ人に駆けつけたタツマキと伊賀五人衆を配下にすること。
 その前に現れた棺の中から登場した悪魔道人は、いきなりハモニカ砲チックな怪兵器を乱射! もう妖術使いでも何でもないな…というのはさておき、忍びたちは一瞬にして倒れ、タツマキも腹が血だらけというショッキング映像。
 でも大丈夫、道人の魔弾を受けた者は道人の手足となる…というわけで、殺すための弾丸ではなかったようです。

 というわけで、最終回までこんな役のタツマキにハヤテが捕らえられ、ツムジやイタチたちは役立たずだからやっぱり捕らえられ、ハヤテは悪魔の祭りの生け贄に。
 いかにも怪人を再生させそうなネーミングですが、カミキリキッドの方は生け贄一人につき五体だったのに、こちらは全世界の妖怪が復活ともうやけくそなスケール。
 そんなありがたい祭りだったら早くやっておけば良かったのに…

 というツッコミはさておき、サタンの悪魔の祭りの生け贄とされ、ああハヤテ、サタンの放った地獄の炎の中で一巻の終わりか!?
 と、あっさり嵐に変身して脱出するハヤテ。「俺の体の中には兄・月の輪の命の炎が燃えているのだ!」って、また唐突な上によくわからない理屈です。
(そういえば火をつけられる前にハヤテが密教の呪文を唱えていたんですが、あれは意味があったのかしら)

 と、これから逆襲開始というところなのに、長くなりすぎたので続きます。


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2010.06.06

「新・水滸伝」 再生の場としての梁山泊

 日頃水滸伝ファンを喧伝しておきながら、どうにも悔しかったのは、二年前に上演された二十一世紀歌舞伎組の「新・水滸伝」を見逃していたことでした。
 が、嬉しいことに今月五日、NHKBSでこの「新・水滸伝」が放映されました。もちろんこの機を逃さず見たのですが、これが意外かつ納得の切り口のユニークな舞台で、大いに嬉しくなった次第です。

 本作の舞台となるのは、原典(七十回)の中盤あたりの独竜岡戦。官軍と結び、梁山泊壊滅を目論む独竜岡の祝家と、林冲をはじめとする梁山泊の好漢の戦いが描かれるのですが、本作の主人公・林冲のキャラクターが非常に面白いのです。

 林冲は、原典でも初期から登場する好漢であり、また禁軍師範から山賊へと過酷な運命の変転に巻き込まれるという、ドラマチックな半生から、様々な水滸伝で主人公(格)として描かれるキャラクターであり、それ自体は珍しいことではありません。
 しかし、本作では、この林冲が当初、酒浸りで、かつ梁山泊に全く馴染めない人物として描かれているのです。
 晁蓋により梁山泊に迎えられながらも、周囲の好漢をならず者と見下し、そしてそんな中にいる自分の運命を受け入れられず酒に逃げる…これまでの「悲運の英雄」というイメージをひっくり返すようなキャラ立てなのです。

 しかし一見突飛に見えるこの設定も、林冲が高キュウにより無実の罪を着せられ、潔白を証明しようとするも果たせず、生きるために罪のない者を手にかけるまで追いつめられた(そしてそれを嘆いた妻が自ら命を絶ったと知らされた)という背景事情を知れば、それなりに納得がいきます。
 原典の林冲は、親友に裏切られた途端に山賊化して百姓の酒を奪ったりしますが、本作はその唐突な変化の途中をピックアップして、丹念に描いて見せたといえなくもありません。

 この林冲が再び戦う意志を取り戻し、そして梁山泊の好漢たちも彼を仲間として受け入れていく、いわば林冲が梁山泊で再生していく様が本作のテーマと言えるでしょう。

 そしてその一方で、もう一人、再生を遂げるキャラクターが存在します。それは青華、原典の扈三娘です。

 天性の美貌、海棠の花の如しと謳われつつも、戦場では日月両刀を手にして活躍する彼女は、水滸伝ものではほとんど必ず登場するヒロイン格ですが、本作では、彼女が何故武器を手にしたか、という掘り下げが実に面白い。

 良家の子女として生まれつつも、ある理由から纏足を施されなかったがために、己の婚約者をはじめとする周囲から真っ当な女性と認められず、その孤独を癒すために、戦士として振る舞うことで己の心を鎧った…
 考証として正しいのかはわかりませんが、青華の戦う理由の遠因として纏足を持ってきたのは、非常に(ドラマ的な意味で)説得力がありますし、また、私の知る限り他に類似のない独創的な設定ではないでしょうか。

 そして、原典では、納得いかない展開の上位に入る王英との結婚も、青華を一個の人間として認め、一人の女性として真っ正面から受け入れる王英の姿を描くことで、感動的なものに再構築してみせたのにも、また感心。
 生真面目女戦士キャラから、ほんの少しずつ自分らしさを見せていく青華がえらく可愛らしかったこともあり、扈三娘史上に残るアレンジ…と言っても良いのではないでしょうか。
 扈三娘という、冷静に考えれば個性の欠片もない名前ではなく、青華という名前がつけられているのも、彼女を一個の人間として描くためなのではないでしょうか。


 …と、キャラクター面では非常に魅力的な本作なのですが、独竜岡との合戦が二幕早々に終わってしまい、以降は林冲(と青華)が立ち直る姿が延々と描かれるという構成面は、首を傾げざるを得ません。
 終盤の、本作のテーマらしきものを台詞として全て喋ってしまう林冲も含めて、歌舞伎、あるいは舞台エンターテイメントとして見た場合には、どうかな…と、正直なところ感じます。

 しかし、人がかつての自分の殻を脱ぎ捨て、より自分らしく再生していく――そんな場としての梁山泊、物語としての水滸伝を提示して見せたのには、水滸伝ファンとしては大いに満足できたことであります。

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2010.06.05

「機巧奇傳ヒヲウ戦記」 第22話「行くな華! 子どもたちの戦場」

 長州は緒戦に気をよくして攘夷続行を決定し、久坂らはヒヲウにも協力を求める。炎の中で華と再会したヒヲウだが、華は頑なに同行を拒み、ヒヲウは混乱してしまう。。そんな中、外国船攻撃に出撃した命は、命は砲弾の直撃を受けて海に転落。それを救おうとしたヒヲウは、誤って炎の天狗剣で外国船を薙ぎ払ってしまう。ショックを受けたヒヲウは、華のことよりも船員の救助を優先するが、ヒヲウは長州勢に英雄扱いされるのだった。

 アバンは清河劇場最終回。浪士隊を率いてノリノリの清河さんですが、獅子身中の虫と化していた奥沢栄助のアカに色々と裏切られた挙げ句、佐々木只三郎らに討たれてしまうのでした。
(浪士隊が暴れ回るシーンでタンドリーさんとハナが難癖付けられるのには、可哀想でしたが笑ってしまいました)
 鉄扇が二丁拳銃に変形するセンスとか最高だったのですが…合掌。

 さて、本編の方は、前回に比べるとストーリー展開も落ち着いて、じっくりと描かれている印象。

 久々に再会しながらも、無言を貫いたままヒヲウの前から去ってしまった華(その一方でウキウキとヒヲウを攘夷に誘うアラシのツンデレっぷりが面白い)。
 そんなヒヲウと華の関係を縦糸に、調子に乗って攘夷を続行する長州勢の姿を横糸に、お話は展開していきます。

 表立ってではないものの、風陣の協力を受けていた久坂や真木和泉(ダジャレは言わない)。久坂たちは戦力を求め、お尋ね者になった風陣は朝廷に攘夷の許可を得た長州の後ろ盾を求め…と、持ちつ持たれつの関係であります。
(しかしクロガネさんはこと後ろ盾については読みが甘いからなあ…)

 そんな中、炎の中で偶然華と出会ったヒヲウは、再び華に戻ってくるように言うのですが、華はこれを拒みます。
 やはり新月藩での戦いの中で、海に落ちたところをアラシ(と三バカ)に救われた華。それ以来、彼らに守られてきた華は、外国船に戦いを挑もうというアラシたちを見捨てるわけにはいかないと語るのです。

 この辺り、冷静に考えるとあまり理屈が通っていないようにも思えるのですが――華たちがもう少し年上だったら色々と変に説得力があったかも――、しかしこの年頃の女の子は、男の子よりも妙に大人びているしなあ。

 …というのは、大人の目線。
 男の子のヒヲウにとっては納得も理解もできない――ここでいじけていたヒヲウが、八つ当たりしたテツに「泣かない!」「お兄ちゃんみたいに泣かないもん」と逆襲されてる間に泣いちゃう姿が実にかわいい――わけですが、ここでフォローに入るのはやっぱり女の子。
 以前、華とは本音をぶつけ合ったこともあるマチの、「本当は来て欲しいと思ってるはず」という言葉に、ようやくヒヲウは立ち上がります。

 しかし、ヒヲウが格好良く華を助け出してめでたしめでたしとはならないのが、皮肉なところ――
 ノリノリで出撃したもののオランダ軍艦の砲弾の直撃を受けた命は海に落ち、向かってくる軍艦から命を救おうとしたヒヲウが無我夢中で振るった天狗剣は、一撃で軍艦を壊滅状態に…


 考えてみれば、これまで炎という力を持ちながらも、それを戦いを止める方向、人を助ける方向に使ってきたヒヲウ。
 しかしそれは意地が悪い言い方をしてしまえば、運が良かっただけなのかもしれません。強すぎる力は、それ自身が諸刃の剣なのですから(と、天狗剣のデザインが両刃なのはこの象徴…というのは単純すぎるかしら)。

 これまでは機巧に無条件に理想を持つことができたヒヲウ。しかし一度その力を自覚してしまった時、彼はこれまでの通りにいられるのか…それは次回で語られます。

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2010.06.04

「御隠居忍法 魔物」 御隠居、魔剣の怪を見届ける

 城下の〆張八幡社の十二年に一度の奉納試合の立会人を務めることとなった鹿間狸斎。しかし、前回対戦相手を殺した斎木源助が今回も出場することから、不穏の気配が漂う。果たして今回も死人が出た上、源助は他道場主の後妻を連れて出奔。狸斎は、源助を追って彼の故郷である山中の十里村に向かうが…

 奥州の片田舎・五合枡村に隠居する元伊賀者・鹿間狸斎の活躍を描く「御隠居忍法」シリーズの最新巻、第七弾であります。
 つい先日、前作に当たる「恨み半蔵」が文庫化されましたが、今回はまた趣向の異なる物語が展開されます。

 狸斎の隠居する藩の城下で、十二年に一度行われる奉納試合――三つの剣術道場が代表を送り込むその試合は、毎回死人が出ることから、「十三回忌」などと陰口を叩かれる代物。
 前回は二人の選手が殺されたというその試合の立会人を引き受けることになった狸斎ですが、当然にというべきか、再び引き起こされた惨劇と、それに引き続く騒動に、狸斎は巻き込まれることになります。

 騒動の中心となるのは、前回も対戦相手を死に至らしめた斎木源助なる剣士。「空飛ぶ剣」なる太刀を操る源助は、今回も対戦相手を死に至らしめた上、ライバル道場の年若い後添えを連れて出奔、狸斎は町奉行の依頼で事件を収めるために、彼の後を追うことになります。

 しかし、事件は三つの道場の確執が絡むもの、源助に親族を殺された剣士たちは仇討ちに逸る上、源助が所属していた道場まで、何故か彼を狙うことに。
 さらに、源助が逃げた先は、周囲の村から魔所と恐れられる、謎深き十里村…村人は、通常の言葉すらしゃべらず、しかも奇怪な術までも操るという、まさに魔所であります。


 …と、いかにも御隠居が活躍するにふさわしい舞台が揃った本作なのですが、実は御隠居自身の活躍は意外と少な目。奉納試合でそうだったように、むしろ立会人的立場から、事件の一部始終を見届けることとなります。

 ストーリーも比較的シンプルなものではあるのですが、しかしそれでも最後までこちらの気を逸らさず、きっちりと楽しませてくれるのはさすがと言うべきでしょうか。

 終盤の展開など、このシチュエーションならこうなるだろうと当初予想していたものを覆しつつも、しかし、冒頭で軽く触れられたのみだったある事実が、大きな意味を持って立ち上がってくるという構成の妙が面白く、ベテランの技というものを感じさせられた次第です。


 毎回手を変え品を変え、こちらを楽しませてくれる本シリーズ。
 隠居した方がかえって忙しいのではと、いささか同情したくもなりますが、しかしまだまだ御隠居は意気軒昂、これからも楽しみなシリーズであることは間違いありません。

「御隠居忍法 魔物」(高橋義夫 中央公論新社) Amazon
魔物―御隠居忍法


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2010.06.03

「お蔭の宴 浪花の江戸っ子与力事件帳」 手段としての伝奇

 織田信長が砦にしていたという今城塚古墳の警備を命じられた伊吹伝四郎は、隠密らしき男の襲撃を受ける。一方、大坂の町では子供の誘拐事件が続発、さらに全身の毛を剃られて殺された男、現場に詫び状を残す盗人など怪事件が連続する。必死の捜査を続ける伝四郎は、やがて伊勢神宮へと導かれるが…

 江戸からやってきた大坂西町奉行所与力を主人公に、捕物帖・奉行所ものに伝奇もののテイストを加えた物語を展開する「浪花の江戸っ子与力事件帳」シリーズ第二弾(他社分も含めれば第三弾)であります。

 今回の物語の鍵を握るのは、かの織田信長。
 信長がかつて砦とした古墳から物語は始まり、そして信長と縁の深い伊勢神宮で、物語はクライマックスを迎えることになります。

 何故信長が古墳を、それも今城塚古墳を砦としたのか? そして信長が伊勢神宮に見出そうとしていたものとは?
 その謎の答えが、それが、元禄期の江戸のある人物の思惑と絡み合って…という趣向が面白いのです。

 もちろん、本作の基本は、あくまでも奉行所もの。前作同様、本作も、伝奇要素はあくまでも事件の発端として使われる、味付け程度の扱いではあります。
 しかし、(例外はもちろんあるものの)一定以上に物語のスケールを広げにくい奉行所ものにおいて、物語にスケール感と意外性を持たせるための手段として、伝奇を用いるという発想は、大いに結構ではありませんか。


 …もっとも、そんな物語面の工夫の一方で、キャラ立ての面が弱いという点は、否めません。

 本シリーズの主人公・伝四郎は、大坂町奉行所の与力でありながら、江戸生まれの江戸育ちというキャラクター。
 その点で意外性はありますが、しかしそれを柱としてキャラクターを描くのはまだまだ…という印象です。
(江戸っ子であることが、捜査中に思わぬ形で彼の足を引っ張るという件は、なかなか面白かったのですが…)

 犯人(の一人)も、この手の作品のパターン通りなので、ほとんど登場した時点でわかってしまうのも、残念ではあります。


 …と、きついことも書いてしまいましたが、これも期待の表れ。
 ほとんど無数に発売される文庫書き下ろし時代小説、その中でも点数の多い奉行所ものの中で、伝奇テイストを取り入れた本シリーズは、一際異彩を放っていると感じられるのです。

 この趣向を武器にして、より充実した作品となることを期待する次第です。


 しかし、この数十年後に、当の信長本人が江戸に出現することになるとは…


「お蔭の宴 浪花の江戸っ子与力事件帳」(早見俊 光文社文庫) Amazon
お蔭の宴―浪花の江戸っ子与力事件帳〈2〉 (光文社時代小説文庫)


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2010.06.02

「裏宗家四代目服部半蔵花録」第6巻 男・柳生十兵衛吼える!

 太平の世を迎えた江戸を舞台に、密かに暮らす忍びたちと、彼らを狙う謎の敵とのとの対決を描く「裏宗家四代目服部半蔵花録」の最新巻であります。
 隅田川の川開きを訪れた将軍家光を狙って動き出した謎の敵。その中に、服部半蔵花録ことお花は、父の仇を見つけるのですが…

 というわけで、この巻の前半は、前の巻に引き続き、隅田川の花火の賑わいの中で繰り広げられる忍法対剣法、忍法対忍法の死闘を描く「花火」の章。

 慎吾は親友を守るために、そしてお花は父の仇を取るために、それぞれの戦いを繰り広げるのですが――しかし、その戦いは、肉体以上に彼らの心を傷めるものでした。
 慎吾は、親友が、己の最も憎む忍の一人であったこと、そして彼の心中を知ることに。
 そしてお花は、仇を追いつめながらも敗れ去った上に、真の仇が別にいると知らされることになります。
(このくだり、敵の責めが本作にしてはきわどすぎる絵だったのが個人的にはちょっと…)
 かろうじて十兵衛に救い出されたものの、心身に深刻なダメージを負ったお花は――


 と、唸らされたのはこの後の展開であります。

 お花の敗北を目撃し、彼女の後見人である弥文と黒岩に噛みついた十兵衛の言葉(普段飄々とした男が牙を剥いた時の迫力!)
 そして、自棄になったお花がその身を差しだそうとした時に、彼女に十兵衛がかけた言葉――

 こればかりは、実際の作品でご覧いただきたいのですが、これらの場面で見せた十兵衛の優しさと想いの熱さは、これぞ男・柳生十兵衛! と唸らされたほどのものでありました。
 いや、又十郎もブラコンになるわけです。

 しかし、その十兵衛の格好良さに痺れると同時に、読者である自分もまた、お花の復讐を所与のものとして受け入れ、彼女がそのために傷つくことを表面的にしか気にせず――そして彼女の笑顔と言葉の裏にあったものを、わかったつもりになって見過ごしにしてきたことを今更ながらに突きつけられたことには、愕然とさせられた次第。
(そして、この辺りのお花に対する視線は、男性作家にはなかなか描けないものでは…とも感じます)

 単行本の新刊を読むたび感じさせられますが、派手な忍法・剣法アクションやサスペンスフルなストーリーもさることながら、本作の最大の魅力は、三人の若者の心の動きを瑞々しく描き出す点にあるのではないかと感じます。


 さて、まことに残念なことに、本作も残すところあと一巻。

 お花たちを襲った過去の惨劇の詳細と、「裏宗家」の名の由来がついに語られたものの、敵の正体とその真の目的――どちらもその一端がこの巻で語られましたが――は未だ謎のまま。

 そして何より、お花は再び立ち上がることができるのか? 慎吾は忍への怨みを捨てることができるのか? そして十兵衛の想いの行方は?
 この、三人の若者の想いの行方を描ききることができるのか?

 …いや、ここまで読んできた人間であれば、そんな心配は無用であるとよくご存じでしょう。
 今はただ、ラストに待つ最高の盛り上がりを楽しみに、じっと待つのみ、であります。

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裏宗家四代目服部半蔵花録(6) (KCデラックス)


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2010.06.01

「無限の住人」第26巻 追撃戦と潰し合いの中で

 最終章もいいよ好調、前の巻で万次と尸良の死闘に決着がつき、本当に久々に万全の体調となった万次ですが――ここで物語は、街道を行く逸刀流残党と、彼らを追う六鬼団との対決へ移ります。

 それぞれの想いを胸に旅立った万次・逸刀流・六鬼団――この三者の戦いは、完全に追撃戦&潰し合いのトーナメントバトルに突入。まさに時代エンターテイメントの王道が繰り広げられることとなります。

 この巻の前半でまず描かれるは、逸刀流・果心居士と六鬼団・花組の伴六&杣燎の、山中を舞台とした死闘であります。
 バトルものは組合せが命…というのは私の密かな持論ですが、今回は、その組合せの妙が十全に発揮された印象。

 山に仕掛けた幾重もの罠で奇襲を仕掛ける果心居士と、時代劇としては規格外のガンアクションを見せる伴、人並み外れた軽捷さの燎――この三者それぞれの戦法が組み合わさった対決は、単に腕比べ術比べに留まらぬレベルの戦いが展開されるのが実によろしい。

 そして後半は、逸刀流重鎮・阿葉山老と逸刀流見習い剣士たちを追う六鬼団との攻防戦。
 こちらは一転して、相手の手札が見えない状況下で、互いの出方を窺いつつの一種の心理戦的要素が加わった展開となるのがまた面白いのです。

 特にここでは、逸刀流の唯一のルールである「一対一で戦うこと」が、ここに来て重要な要素となり、両者の読み合いが展開し、その中で双方のドラマが展開していくのには感心させられました。


 それにしても、物語もここまで進んでくると、どのキャラ、どの陣営にもそれなりの愛着が湧いてくるもの。
 そんな彼らが、一人一人脱落していくのは、トーナメントバトルの宿命とはいえ、何とも悲しく感じられます。
(最終章から登場した六鬼団も、今回の伴のようにいい味を見せてくれるキャラがいるので油断できない)

 アクション描写も、心情描写も定評ある本作ですが、それがトーナメントバトルという王道展開と見事に組み合わさった時の破壊力が、これほどのものとは…と、今更ながら感心している次第です。


 にしても、こんな展開の中で、微妙に微笑ましいラブっぷりを見せる万次と凛ェ…(いや、直前まで大変でしたけどね)

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