「ドリフターズ」第1巻 死をも超えた豪傑たちの激突
関ヶ原の戦で、本隊を逃すべく捨てがまりとなって敵将の首を狙う島津豊久。死闘の末に、無数の傷を負い戦場を彷徨う彼は、いつの間にかどことも知れぬ世界にいた。そこで彼を待っていたのは、織田信長と那須与一…彼ら漂流物(ドリフターズ)と呼ばれる者たちの異世界での戦いが始まる。
このブログで取り上げるのは反則かもしれませんが、まあいいじゃないですか。死んだはずの歴史上の有名人・豪傑たちが、異世界で激突を繰り広げる平野耕太の新作「ドリフターズ」第一巻であります。
私は基本的に雑誌連載作品は単行本派なので、第一話のみ読んで楽しみに待っておりましたが、期待通りこれはとんでもない物語。
関ヶ原の戦で、井伊直政相手に捨てがまりを敢行して命を落としたかに見えた島津豊久――しかし彼は死の直前、謎の男の手により、何処とも知れぬファンタジー世界に送り込まれていたのであった!
という冒頭部分、わざわざ島津豊久をチョイスしてくるセンスに驚かされたわけですが(ビジュアル的にえらく現代的に見えるのは、うーんこの時代の薩摩の文化ってよく知らないしなぁ…)、しかしそれからの展開はそれに輪をかけてとんでもない。
瀕死の重傷を負った彼を拾い、助けたのは、本能寺の炎に消えたはずの織田信長と、女とも見まごう美青年・那須与一。
見たこともない世界に出現した「漂流物」(ドリフターズ)と呼ばれる豊久たち三人は、戸惑いながらも成り行きからエルフの村を解放…と、ここまでで、それぞれが(ヒラコー的ギャグを交えながらも)持ち味を出していて、もうニヤニヤするほかないのですが、ここからがむしろ本番、であります。
時同じくして、北方では「漂流物」と対峙する「廃棄物」を率いる、黒王なる存在が侵略を開始。
その配下の廃棄物の面々は、土方歳三、ジャンヌダルク、皇女アナスタシア、そして九郎判官義経――
一方、その場に集った漂流物は、ハンニバルとスキピオ、ワイルドバンチ強盗団(おそらくはブッチ・キャシディとサンダンス・キッド)、さらに紫電改のエースパイロット・菅野直まで乱入して、もう一体どうしたらよいのかわからないようなテンションであります。
…正直なところ、歴史上の有名人たちが死から復活して一同に会する、あるいはこの世界の人間が超越的存在のコマとして異世界で戦わされる、という物語は、本作が初めてではありません。
SFファンであれば、その先駆となる作品を幾つか挙げることができるでしょう。
しかしそんなこととは関係なしに本作が素晴らしく面白いのは、平野耕太以外であれば思いつかないであろう漂流物・廃棄物双方の顔ぶれと、その彼らを違和感なく動かし、存在させてみせる描写力にあることは、言うまでもないでしょう。
ドリームチームが必ずしも強いとも、その試合が面白いとも限りませんが、しかしメンバー一人一人の力に監督の采配がきっちりと噛み合えば、それはもう無敵に決まっています。
そしてそれ以上に、個人的に嬉しいのは、本作においても、前作「ヘルシング」同様、平野耕太流人間賛歌と言うべきものが、節々に感じられる点であります。
どれほど人の命が、尊厳が軽んじられる世界にあろうとも、それでもなお、己の身命を賭して、その理不尽に抗う、人間の好もしい戦いの姿――
それは、本作でも、エルフを虐げる者に怒る豊久の姿に、砦を蹂躙する黒王軍に激高する菅野直の姿に、見て取ることができます。(それにしても、菅野の「てめえ…この野郎 この野郎手前ェ!!」から、ハンニバルの「ゼロじゃないさ」に続く場面の熱さは尋常ではない)
もちろん、人間がそれほど善き面だけで構成されているわけでは、もちろんありません。廃棄物はともかく、漂流物の中にも、容易に暴走しそうな面々は含まれています。
それも含めて――この、死をも超えてしまった一種の極限状況下でどのような人間模様が描き出されるのか、その点にも大いに期待しているのです。
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コメント
こんな連中に来られたこの世界の連中は災難では(笑)。個人的には島津豊久VS土方歳三の対決が楽しみです。まあ土方が最後に突撃しようとした相手が、「薩摩軍」ですから。
平野先生恒例?のカバー裏には今後の漂流物+廃棄物候補が書かれていますがNo3以降はともかく(笑)、No1とNo2は来てもおかしくないですね。
投稿: ジャラル | 2010.07.17 21:43
タイトルだけ見れば、昭和最大のお笑い5人組ユニットですね。私でなくても、1000人中999人までがきっと思い浮かべた筈です。「8時だよ!全員集合」はもはや伝説ですね。
いかりや長介さん亡き後も、ケーズ電気のCMで今でもちゃんと全員集合するというのが何か凄いですよね。
ブログ主さんも、余りにも有名な例のドリフについて、一言くらいは触れて欲しかったですね。
投稿: 特撮コメンテーター | 2010.08.03 19:21
お返事が大変遅くなってすみません。
ジャラル様:
むしろNo3のチョイスに唸りました。確かに条件に合ってる! 合ってるけどあの世界じゃ語り部役くらいにしかなれない!
…あれ、いいかも。
特撮コメンテーター様:
いやー、絶対巻末のおまけ漫画で作者ご自身が触れると思ったんですが、あんまりみんなが予想したんであえて避けたような気がします。
というわけで私もあえて避けてみました。本当です。
投稿: 三田主水 | 2010.08.09 00:15