「THE 八犬伝」 第一話「万華鏡」
今から約二十年前に第一話が発売され、足かけ五年に渡り展開されたOVA「THE八犬伝」を、今回から一話ずつ紹介していきましょう。
かの滝沢馬琴の「南総里見八犬伝」を原作とした本作、第一話「万華鏡」は、その原作の冒頭、伏姫の死までが描かれるのですが…
恥ずかしながら私、今回初めてこの作品を見たのですが、いやはや、これほど感想が書きにくい作品であったとは、と驚かされました。
さて、あらすじ的にはこの第一話、ダイジェストされているとはいえ、ほとんど原作の冒頭部分に忠実な内容であります。
長禄元年(1457年)秋、房州里見家は安西景連の裏切りにより窮地に陥ってた。里見義実の娘・伏姫の許婚である金碗大輔も戦場に消え、風前の灯火となった里見家では、義実が飼い犬の八房と戯れにある約束を交わす。
その言葉を耳にした八房は景連の首を取り、里見家は奇跡的に救われたのだが――義実と景連の約束とは、伏姫と八房を沿わせるというものだった。
その約束を守り、八房と二人暮らす伏姫。生きていた大輔が八房を狙った銃弾は伏姫をも貫き、伏姫の数珠は仁義礼智信忠孝悌の文字を浮かび上がらせ、宙に消えた――
と、これは原作読者であればおなじみの展開(ただし、それ以外の方はどれだけついていけたのか…?)
原作と異なる点と言えば――うろおぼえではりますが――安西景連が明らかに妖魔の力を得ていた点と、金碗大輔が景連に憑いた妖魔により深手を追わされた点、そして伏姫を撃ってしまった大輔に死を禁じるのが伏姫自身である点くらいでしょうか。
しかし――もちろん、本作が、原作がベタにアニメ化しただけの作品であるわけでは、もちろんありません。
実は、この第一話では、長禄元年の物語と平行して、文明十年(1478年)五月初旬の物語が描かれることになります。
そこで描かれるのは、おそらくは八犬士+丶大法師と、傀儡のような兵たちや、犬の姿の怪物たち――不気味な妖魔たちの群れとの戦い。
八犬士たちの誕生の物語とめまぐるしく交錯しつつ、集結した八犬士たちの姿が描かれる…それは、原作通りの冒頭の展開のみではあまりに地味すぎるということなのかもしれませんが、しかし、それに収まらないものをも感じさせます。
(ちなみにこの時期、原作では序盤、信乃がまだ大塚家で暮らしている頃なのですが…この違いにはどのような意味があるのでしょう?)
そう感じさせるのは、もう一つ、この二つの時代の物語を結ぶように現れる象徴めいた存在――真っ赤な風車を持った少女の存在であります。
冒頭から幾度となく現れる赤い風車と、それを手にして泣く少女…
それはおそらく――少なくとも現時点では――伏姫の、伏姫の中の少女性の象徴であることは想像がつきますし、そしてその少女が橋を渡って向こう側に行こうとする姿と、八房と伏姫が沿うて暮らす姿が平行して描かれるのも、また実に象徴的であります。
そして、ここで今更ながらに気づかされるのは、八犬伝という物語のゆがみ、ねじれというものであります。
里見家に仇なす妖霊の力を持つ犬と、里見家の姫の間に霊的に生まれた八犬士――忌まわしい生まれを持つはずの八人が、人間の八つの徳目を象徴として戦い、里見家を守る。
一見、至極まっとうな英雄譚であり、そこで描かれる人物模様もまた明確ではありますが、しかしその根本には善と悪、聖と邪が結びつき、入れ替わり、そして昇華されていく様があるのではないか…まさに万華鏡のように。
八犬士は生まれついての善なる存在ではなく呪われた存在、里見家と、人間と相対する存在ではないか――特にこの第一話の終盤、八犬士と、巨大な犬の妖魔が戦うシーンを見て、それを強く感じさせられた次第です。
もちろんそれはこの第一話の時点での私の勝手な印象、果たして、その印象が正しいのかどうか、そして本作が八犬伝をどのように解釈するのか――これは楽しみであります。
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