「THE 八犬伝」 第二話「闇神楽」
さて、色々な意味でなかなか感想の書きにくい「THE八犬伝」の第二話「闇神楽」であります。
今回は、第一話以上に原作の流れに忠実に、物語が描かれることになるのですが…
今回展開されるのは、本編の序盤、犬塚信乃の物語であります。
早くに母を亡くし、父・番作の手で育てられた信乃。
赤子の頃から共にいる犬の与四郎とともに成長した信乃ですが、叔父・蟇六夫婦は番作が持つ足利家の重宝・村雨丸を執拗に狙います。
かつては許嫁だった蟇六の養女・浜路との仲も裂かれた上、与四郎が陣代の使者・網干左母二郎を襲ったと因縁をつけられ、その代償に村雨を奪われそうになったところで番作が切腹。
己の命を以て信乃の身分と浜路との仲、そして村雨丸の帰属を保証させることになります。
父を喪った信乃が、痛めつけられ瀕死の与四郎に止めを刺してやると、その傷口からは不思議な玉が…
父の四十九日も過ぎ、いよいよ村雨丸を古河公方に献上するために旅立つ信乃ですが、その前に現れたのは左母二郎。
意外な強さで信乃を瞬く間に追い詰めた左母二郎は、しかし、その命を奪うことなく、何故か去っていきます。
しかし信乃の受難は終わりません。大塚家からの独立をエサに刺客に仕立て上げられていた額蔵は、渡し船の上で信乃に襲いかかるのですが、その時二人の袂からそれぞれ玉が転がり出て――
と、すみません、最初にこのエピソードを見た時には、「今更原作をそのままやられても…」などと思ってしまったのですが、こうして整理してみると、原作の枝葉を整理して(例えば、信乃と額蔵が互いに玉を持つことを知るのは、原作では古河行きよりももっと早い段階です)、短い時間内にきっちり必要なエピソードを収めていることに、感心させられます。
また、例えば額蔵が信乃に密かに嫉妬している描写があるなど、キャラクターも、原作の延長線上にありつつも、より肉付けしたものとして描かれているのも巧みなところ。
こうして見てみると、本作のスタンスというのは、原作を、現代の技術で――矛盾点は解消し、不足は補いながらも――忠実に映像化する試みなのかな、という印象を受けます。
かなり意外なことではありますが、(少なくともこの時点で)原作に忠実な映像化は、本作とあと幾つあるかどうか、という状況を考えれば、これは大きな意義があることでしょう。
…が、それほど単純な構造でもない、と感じさせるのは、今回の物語の中で原作から半歩踏み出した感のある網干左母二郎の存在であります。
原作では単なる色悪の浪人という印象ですが、本作では陣代の関係者と設定が変更され――もっともこれは、当時の大塚に歌舞音曲の師匠がいるか、という原作の穴をフォローしたもののように思いますが――番作の切腹も、彼が仕掛けたものとアレンジされた左母二郎。
そして何よりも、今回の後半、釣り竿一本で信乃を翻弄し、簡単に殺せるところまで追い詰めながらも、彼の命を奪わず去っていく姿からは、時折見せる蛇めいた表情も相まって、彼が単なる見かけ通りの人間でないことを強く感じさせます。
八犬伝リライト、八犬伝アレンジでも人気のある左母二郎でありますが、本作では彼がどのような役割を果たすのか――
それはあるいは、本作の方向性をも示すものではないかと感じた次第です。
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