「THE 八犬伝」 第三話「婆娑羅舞」
「THE八犬伝」第三話は「婆裟羅舞」。舞うは第三の犬士・犬山道節――
原作でも序盤の名場面である、道節・浜路・網干左母次郎の三人の物語が描かれることになりますが…ここでも本作は、原作を忠実になぞりつつも、思いも寄らぬところでアレンジを加えた変化球を投じてきます。
前回のラスト、小舟の上でぶつかり合った拍子に、共に玉を持つ身であることを知った信乃と荘助(額蔵)。
さすがに一時休戦し、荘助は己の身の上を信乃に語るのですが、実は、この辺りの二人の会話シーンが個人的にはお気に入り。
原作ではかなり真面目な印象のある信乃ですが、本作ではいかにも年相応の少年らしく荘助と語り、荘助もほとんどタメ口で返している様が、実に自然で生き生きとして見えて良いのです。
そして、意外にさばけた(?)信乃に対し、荘助はあくまでも律儀なのも彼らしい。
過去話を終えた後、「(刀を)抜いて下さい!」と、あくまでも戦おうとするのはギャグ寸止めですが、ああ、荘助さんらしいや…と、八犬伝ファンであれば思わず納得してしまいそうです。
結局思いとどまった荘助は、しかし共に行こうという信乃の誘いは断り、大塚に帰って行くのですが…
しかし大塚では、信乃の居ぬ間に、陣代との婚礼を強いられた浜路は、一人家を抜け出し、首を吊ろうといたします(ここで裾をきちんと縛る浜路のたしなみに感心)。
しかしその瞬間、いずこからか現れ、彼女をさらったのは網干左母次郎!
…さて、それらの出来事と平行して描かれるのは円塚山での出来事。
そこで火定の儀式を行う寂寞道人なる人物――歌舞伎の連獅子めいた姿で舞う、あまりに傾いた姿の修験者は、冒頭で述べたとおり、犬山道節その人であります。
そこで太田資朝と騒動を起こし、巨大に燃え上がった炎の中に身を投じて道節が姿を消したその後…静けさを取り戻したその場に現れたのは、浜路を駕籠に乗せて拉致してきた左母次郎。
彼女を「目的の地」に連れてきたと語る彼は、逃げようとする浜路をなぶるように追いかけますが、「浜路」の名を聞いて、土中から飛び出してきたのは道節であります。
実は浜路は道節の生き別れの妹、その彼女が目の前で危難に遭っていることを知り飛び出してきたのですが…しかし、道節を翻弄した左母次郎(ここでの殺陣の流れるような動きは印象的!)は忽然と姿を消し、追っていった道節が見たものは、赤い橋の上に立つ左母次郎――そう、第一話で伏姫が見たあの橋であります。
人とそれ以外の境界を否応なしに連想させるこの橋の上に立つということは、左母次郎はやはりこの世の者ではないということでしょうか?
そして、その左母次郎を薙いだかに見えた道節の村雨が斬っていたのは、しかし左母次郎にあらず浜路…さらに、折悪しくそこに現れた荘助は、浜路の亡骸に激高して道節に切りかかり、ここで奇しくも、二人がそれぞれ持っていた玉が入れ替わったところで、次回に続くこととなります。
さて、前二回同様、アレンジは交えつつも可能な限り丹念に原作序盤の展開を再現している今回。そんな中で、一人原作とはみ出して動くのは網干左母次郎であります。
原作ではここで退場の彼ですが、きっちり生き残った…どころか、浜路を道節に斬らせるという役目まで果たしてしまいました。この辺りは「新八犬伝」の影響も見て取れますが、しかしトリックスターというにはあまりに凶悪な存在ではありませんか。
これは考えすぎかもしれませんが、今回の彼の役目は、道節に浜路を斬らせることにこそあったのではとすら感じてしまいます。
実は八犬士は、自らの手で己の大事な者を斬ってしまう者が多いのですが、道節にもその業を背負わせるために左母次郎は動いたのでは…と。
道節だけでなく、他の登場人物も彼に舞わされている感のある本作。絢爛にして怪奇な舞の行方は…
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