「THE 八犬伝」 第五話「夜叉囃子」
「THE八犬伝」正編も残すところあと二話。第五話の今回登場するのは、第五の犬士、心優しき巨漢・犬田小文吾であります。
しかし、これまで登場した犬士がそうであったように、彼にもまた、悲劇的な運命が待ち受けることに…
行徳(いきなりローカル)で古那屋という宿屋を営む小文吾が、漁の最中に拾ったのは、前回芳流閣から豪快に転落した信乃と現八。小文吾と現八が旧知の仲であったこともあり、二人は古那屋に匿われる匿われることになります。
この現八と小文吾、昔は結構やんちゃしていたようですが、今は小文吾は己の刀を紙縒で封じ、ごろつきに絡まれて袋叩きにされても反撃一つしないのは、いささか不思議であります。
そんな古那屋に顔を出したのは、小文吾の妹・ぬいと、夫の房八、そして子の大八(あ、第六の…)。房八は、古河城下を騒がせた罪人、すなわち信乃を突き出すよう薦めるのですが…
その信乃は前回、主筋から自分の、そして父の忠義を否定されたことがよほどショックだったのか、一時的に気が触れたような状態になってしまうのですが、彼の精神世界の描写がなかなかコワイ。
古河城の大広間を思わせる場で、信乃が村雨から水を出そうと振り回しているうちに、刃から流れる水。「水でございます!」と狂喜している間にその色は赤く変わって…実はその水の正体は切腹した父から流れる血! というのは、お約束的ではありますが、悪夢の理不尽さが良く現れていて実に恐ろしい。
その後も続く悪夢の中、次々と追い詰められた信乃は、ついに幼児に退行し、百鬼夜行に追われた末に、その中に飲み込まれてしまいます。
悪夢の中で信乃が苦しむ最中、現実世界では、古河公方の追っ手がついに古那屋を包囲、信乃の首のみを差し出せばよしと、小文吾たちの前に現れたのは房八――
しかし、もちろん、これを素直に飲む小文吾と現八ではありません。
現八は古那屋の屋根の上で、捕り手を向こうに回して縄術の腕を存分に発揮しての大立ち回り。そして小文吾は、封印していた刃をついに引き抜いて、房八と切り結びます。
実はこの封印、かつて小文吾が酒に酔って大暴れした際に、それを止めようと割って入った父が巻き添えで斬られて以来のもの。
肉親との縁が薄い八犬士の中でも、原作ではほとんど唯一、父と共に長い間暮らしていた小文吾ですが、本作ではこのような形で父を失っていたとは…
と、驚く間もなく、乱闘の果てに房八の刃をぬいを斬り、その血は信乃と大八に…それに怒った小文吾の刃は房八の首を断ち、捕り手たちはそれを信乃の首と思い込んで、退散していくこととなります。
…結果としてみればこの辺りは原作とほぼ同じですが、しかし大きく異なるのは、このぬいと房八の死に、房八の意図がどこまで働いていたか、という点。
原作では、破傷風で瀕死の信乃を癒し、そして自らが身代わりとなるため、ぬいを斬ってあえて小文吾の刃を受けた房八ですが、本作ではそのような彼の意志は見られず、全ては過失であったようにも見えます。
そして強く印象に残るのは、現実世界で信乃がぬいの血を浴びた途端、悪夢世界で妖怪たち、そして網干も苦しみ、退散していった点であります。
それまでの悪夢が嘘のように、晴れ渡った青空すら見せた信乃の内面ですが、しかし、それをもたらしたのが人の血というのは…
原作ではこの辺りは、破傷風を癒すのに男女の生き血が必要という設定で、さすがにそれは無理がある故の改変かもしれません。
しかしそんなこと以上に――これまで本作の感想で幾度か触れてきたように――周囲の人々が、傷つき、血を流すことによって生かされる、一種呪われた存在としての犬士が、ここでも描かれてるように感じるのです。
さて今回のラストでは、そんな彼らの因縁を知る可能性のある唯一の人物、丶大法師が信乃・現八・小文吾そして大八の前に現れます(しかし丶大に従うもう一人の僧は…?)
残すところあと一話、その中でどこまでが物語られるのか、見届けましょう。
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