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2010.09.07

「ムシブギョー」第2巻 自分だけの武士道、自分だけの熱血

 時は江戸時代、人々を襲う巨大な蟲たちの群れに挑む新中町奉行所、通称蟲奉行所の猛者たちの活躍を描くアクション漫画の第二巻であります。
 主人公の熱血少年剣士・月島仁兵衛が、この蟲奉行所にスカウトされてやってくるところから始まった本作。
 第一巻では、仁兵衛の先輩である奉行所の市中見廻り組のメンバーのうち、爆弾くノ一の火鉢、元人斬りの春菊をクローズアップして、仁兵衛との絡みで物語を展開していきましたが、この巻では残る二人がクローズアップされることになります。

 その一人は少年陰陽師の一乃谷天間。お役目大事で凝り固まった生真面目なキャラが、熱血バカの勢いに押されて…というのは定番パターンではありますが、天間が背負うとんでもない弱点の存在が面白く、これはこれで楽しめます。
(ただ、肌をはだけた天間に抱きつかれるというのは誰得展開なのだ)

 そして最後の一人は、蟲奉行所の同心たちのリーダー格にして蟲狩りのプロ・無涯。本作では初の前後編で描かれるこのエピソードは、屋敷内に巨大蟲が出現した大名家に請われて、無涯と仁兵衛が出向するという内容で、なかなか面白い。

 それには、登場する巨大蚤の実に不気味なキャラクターと、生態系に沿った設定付けが面白いということもあります。
 しかし、何よりも、無涯と仁兵衛の間に、実力的にも精神的にも、絶対超えることのできない壁・溝が存在することをはっきりと描いた上で、それを乗り越えるために仁兵衛が取ったラストの行動が、実に熱血ものとして良いのです。

 正直なところ、第一巻の時点では、仁兵衛の熱血ぶり…というよりも猪突猛進な勢いにノることができなかったのですが、その辺りはやはり計算の上の描写だったのでしょう。
 この無涯との回と、幕間的エピソードを挟んでの仁兵衛単独回での、彼の言動を見れば、作者が、良い形で師・藤田和日郎の熱血ぶりを継ごうとしていることがうかがえます。

 もちろん、仁兵衛自身がそうであるように、本作自体がまだまだその途上にあるのも間違いのないところではあります。
 仁兵衛が自分自身にとっての、自分だけの武士道を掴み取っていくための道のりは、同時に、作者自身にとっての、作者だけの熱血漫画を描いていく道のりにほかならないのでしょう。


 この巻では、いかにも謎めいた存在の蟲奉行も登場、さらに、仁兵衛たち市中見廻り組とは別の、さらに上位とおぼしきものとして武家見廻り組、寺社見廻り組の存在も描かれます。

 熱血少年漫画として、異形の蟲と江戸時代人の戦いを描く時代漫画として――仁兵衛と本作がどこまで伸びていくのか、見せていただきましょう。


 しかし、「町奉行所」に武家掛と寺社掛がいるのはやっぱり違和感が…いや、あくまでも超イレギュラーであろう蟲奉行の設置に伴う特例的措置ということで、あれこれ言うだけ野暮だと思うのですが。
(無涯回で、武家廻りがいるのに市中廻りに蟲退治を依頼したのは…大事にしたくなかったのだな、と脳内補完します)

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