「屍舞図」 恐るべき二つの地獄絵図
京の貴族の屋敷に厄介になっていた一休は、貴族の息子から、恋の仲立ちを頼まれる。その息子が見初めたのは、明国渡りの道士の美しい娘だったが、とんとん拍子に話はまとまり、二人は婚礼を挙げることとなる。しかし、一休は娘にまつわる奇怪な噂を耳にすのだった…
お馴染み「異形コレクション」の朝松室町伝奇の最新作、今回のお題は「Fの肖像」――Fとはすなわち、フランケンシュタインであります。
とある出来事から名僧との評判が一気に高まった43歳の一休。
しかし彼にとってはその評判はむしろありがた迷惑、平穏を求めてとある貴族の館に厄介になります。
そんなある日、その貴族の内気な息子から恋の仲立ちを頼まれた一休は、居候という身分もあって、それを引き受ける羽目に。
(この辺り、義理でつきあわされる一休のぼやきぶりが実に愉快。年をとって少しだけ落ち着きが出てきた…かな?)。
貴族の息子が一目惚れしたのは、六代将軍足利義教が「ある目的」のために明国から招いたという道士の二人の娘の、姉の方。
幸い、娘の方も一目で息子の方を気に入り、親の側の思惑も相まって、あっという間にめでたく二人は婚約を交わすこととなります。
しかし、そんな最中に一休が耳にしたのは、娘たちにまつわる奇怪な噂。
実は娘のどちらかが、以前暴れ馬に踏まれて命を落とし、しかしその父の術で甦ったと――
明の道士が義教により招かれ、我が国で研究を続けるその内容は何か。
道士の家で祀られる華陀とホウ都大帝、菅原道真の意味するものは。
その謎を探るために堺に向かった一休は、おぞましい真実を掴んで帰ってくるのですが…
と、お話的にはかなりシンプルな本作。
一休が耳にした奇怪な噂の内容が描かれる時点で、ほぼ結末は見えてしまうのですが、その結末の地獄絵図に、もう一つ、姉妹――屍舞!――の間の想いが絡み、いわば魂の地獄絵図が重なって見えてくるのが面白い。
ただ、もう少しこの辺りはねっちりと掘り下げても良かったようにも思われることもあり、全体的にあっさり目の味わいに感じられる点は否めません。
とはいえ、結末のショッカーには、朝松室町伝奇の隠れた特徴の一つである舞台劇、伝統芸能めいた味わいが横溢していて、その残酷美はやはり印象に残るものであります。
それにしても…この道士の研究が他所で用いられていたら? などと想像するのは実に楽しいことではないでしょうか?
「屍舞図」(朝松健 光文社文庫「異形コレクション Fの肖像 フランケンシュタインの幻想たち」所収) Amazon
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