「THE 八犬伝 新章」 第四話「浜路再臨」
浜路の幻影に出会い、悔恨あるいは恋慕の念に狂乱する道節と荘助。信乃も浜路の姿を追ううちに誤って深手を負うが、木工作老人に助けられる。そこで名前も姿も同じ浜路と出会う信乃だが、浜路に懸想する泡雪奈四郎は木工作を殺し、彼に濡れ衣を着せる。逃げる二人の前に現れた道節は浜路に、荘助は信乃に刃を向けるが、すんでのところで思いとどまる。その前に現れた網干は浜路をさらい、安房で待つと言い残して消えるのだった。
さて、「THE八犬伝 新章」第四話は、一部で伝説として知られるエピソード。放浪を続ける信乃・道節・荘助の前に、彼らそれぞれと因縁を持つ浜路が現れます。
原作でも恋人同士だった信乃と浜路。そして道節は浜路の兄であり、荘助は浜路の養父母に仕える身でした。しかしこの「THE八犬伝」では、それに加えて、荘助と道節に、浜路と新たな関係性を用意しています。
荘助にとってそれは、浜路への恋情。
彼にとって浜路は主の娘、そして彼女には信乃という許嫁が…決して許されぬ彼の恋情ですが、それだけにその想いは深く、静かに隠れていたのでしょう。
物語の冒頭でさりげなく描かれていたこの感情が、浜路(の顔をしたモノ)の幻影の出現により、一気にバランスを欠いて狂気とも言える想いに転じていきます。
そして道節の方は、激しい悔恨と罪の意識として発露します。
生き別れの妹と偶然であったかと思えば、その直後に――網干の術中に陥ったとはいえ――妹を自らの手にかけてしまった道節。
この、一種浄瑠璃もの的悲劇が、やはり浜路の幻影の出現により彼の心中に蘇り、彼は幾度となく浜路の姿に刃を振るうことに…
原作では基本的に品行方正極まりない者たちであった八犬士…その彼らに、より人間的側面を与えることによりドラマを構築してきた「THE八犬伝」ですが、ここにきて浜路の死をこのように活かしてくるとは…
そして信乃の前にも現れるもう一人の浜路。こちらは悪意ある幻影などではなく、彼女と同じ姿と同じ名前を持つ、しかし彼女とは異なる人物であります。
それ故か――あるいは、彼の元々の浜路への接し方であったか――他の二人に比べれば平静を保ったままの信乃ではありますが、しかし運命はかつてと同じような試練を二人に下します。
浜路に懸想した土地の権力者・泡雪奈四郎が、浜路の養父を惨殺。その罪を信乃に着せたことにより、信乃と浜路は泡雪たちに追われることとなります。
道節の助けにより、泡雪たちを返り討ちにした二人ですが、しかし、今度は狂気に囚われた道節の、荘助の刃が二人に襲いかかることに…
いやはや、原作の浜路再臨のエピソードにはいささか釈然としない想いを味合わされましたが、ここでこのエピソードをこのように料理して、信乃・荘助・道節がそれぞれの過去に直面し、乗り越える(折り合いをつける)物語にしてみせるとは、大いに感心しました。
特に物語開始時点からあまりいいところのなかった荘助にとって、今回ラストの振り絞るような告白は、一世一代の名場面であり、そして八犬士を――ある側面においては――生きた一個の人間として描いてきた本作の面目躍如たるものがあるでしょう。
しかしこの第四話が伝説となっているのは、むしろその内容ではなく、大胆なビジュアルのためでしょう。
これまでのキャラクターデザインをばっさりとデフォルメ――というよりほとんどリライト――してみせた絵は、確かに他の話と同一人物とは思えない描き方で、当時の視聴者が大いに混乱したというのもよくわかります(正直なところ、私も声を聞くまで誰だかわからないキャラがいました)。
しかしその一方で、そのビジュアルが、アニメとして――その色彩や動き、画面構成として――非常によくできているのもまた事実。
ほとんど最初から最後まで動きっぱなしの画面構成の巧みさ、時に写実的に時に極めてデフォルメして描かれる、メリハリの利いた情景描写の美しさ…
上述のキャラ作画も含めて、一つの計算の上で画面が成り立っていることを納得させられる、そんな魅力的なアニメーションであります。
(さらに言ってしまえば、今回の物語の大半が幻影と悪夢の中にあったことを思えば、デフォルメされた絵柄もそれを示すためのものではないか…というのは牽強付会に過ぎるでしょうか)
何はともあれ、この新章もいよいよ折り返し地点。次回、ついに八犬士が集結するようですが…
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