「ころころろ」(その一) 若だんなの光を追いかけて
ある朝、突然見えなくなっていた若だんなの目。その原因が、思わぬことからある神様のとばっちりを受けたらしいと知った妖怪たちは、若だんなのために東奔西走することに。しかし仁吉も佐助も、行く先々で事件に巻き込まれ…果たして若だんなの目に光りは戻るのか!?
刊行からずいぶん遅れての紹介で恐縮ですが、「しゃばけ」シリーズ第八弾「ころころろ」であります。
これまで同様、長崎屋の若だんなと、手代の仁吉と佐助をはじめとする妖怪たちが巻き込まれた事件が描かれる短編集ですが、今回は少しばかり趣向が異なります。
それは、本書に収録された短編が、それぞれ独立しつつも、内容的には繋がりを持つこと。
本書では、突然若だんなの目から光りが奪われた謎と、若だんなを救うために奔走する妖たちの騒動が描かれているのです。
これまで散々その病弱ぶりが描かれてきた若だんなですが、しかし失明は初めて。
しかもそれが、何者かの祟りによるものとくれば…と、いうわけで妖怪たちの犯人と治療法探しが始まるわけですが、それがもちろんこちらの期待(?)を裏切らず、更なるドタバタ騒動に繋がっていくという寸法です。
本書に収録された作品は全五編。まず最初の「はじめての」は、少し時間を遡って、若だんながまだ十二歳の時分の話であります。
目の神様・生目神の社再建のために奔走する少女を助けるため、若だんなが一肌脱ぐお話ですが、実はこれが若だんなの初恋物語。
社再建に関する詐欺事件を解決する若だんなですが、しかし初恋は実らないもの、という言葉通り…な結末が切ないお話です。
そして次の「ほねぬすびと」では現在に戻り、ここで若だんな失明事件が起きることになります。
折しも、長崎屋ではさる大名家から輸送を依頼された贈答用の干物が、店の倉から消え失せたという大事件が発生。
このままでは店の先行きが危ういという中、若だんなはこの一件の始末と、己の目から光りを奪った者探しという二つの難題に挑むのですが…
一見全く関係ないこの二つが意外なところで繋がるのがなかなか面白いのですが、しかし若だんなの目は治らずに物語は続くことになります。
さて、続く二編では、仁吉と佐助、若だんなを守る二人の兄やが、若だんなの目を治すため、仕事そっちのけで江戸中を駆けめぐる中で巻き込まれた事件が描かれることになります。
まず表題作の「ころころろ」で描かれるのは、一連の件に関係のある河童を求めて江戸の町をゆく仁吉が巻き込まれるどたばた騒動であります。
河童を追っていたはずが、少女の霊が宿った生き人形に妖を見る目を持つ少年、おまけにろくろっ首に骨傘と、おかしな面子の守り役を勤める羽目になってしまう仁吉。
普段はクールな印象の強い仁吉が、勝手の違う相手に振り回される姿が実におかしく、物語展開も先の読めない賑やかな一編です。
思ったより長くなってしまったので、明日に続きます。
「ころころろ」(畠中恵 新潮社) Amazon
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