「THE 八犬伝 新章」 第五話「犬士冥合」
上総で勢力を伸ばす蟇田素藤の軍勢に苦しめられる里見義実。そんな中、安房に集結した七犬士と丶大の前に網干が現れる。しかし丶大の知るその顔は、かつての安房の領主・神余光弘を謀殺し、自分も里見義実らに討たれた山下定包のそれだった。そこに浜路と素藤が現れるが、浜路の身から現れる魔物が犬士たちを苦しめる。しかしそこに現れた少年が魔物を蹴散らし、さらに素藤をも一蹴する。彼こそは八番目の犬士・親兵衛だった。
さて、「THE八犬伝 新章」も残すところあと三話。いよいよ今回で八犬士が集結しますが、同時にあまりにも意外な過去の因縁と敵の正体が語られることとなります。
急速に勢力を伸ばす蟇田素藤――あの、新章第一話に登場した少年の後身であります――に攻められ、苦戦する里見義実。
素藤軍には、かつての安西軍を思わせる魔物が味方に付き、里見義成をはじめとする多くの者が犠牲となります。
(ちなみに冒頭で素藤が行者めいた姿をしているのは、原作で、素藤が疫病で苦しむ人々に神水を配って信頼を得たことを示しているのでしょう)
ここで敗戦に悩んだ果てに、こんな時に八房がいれば…などと呟いてしまう義実には度し難いものを感じますが、それに応えるように、彼の前に現れた影は犬――いや少年?
一方、ようやく集結した七犬士(集結シーンはすっ飛ばされているのが何とも残念!)と丶大法師の前に現れたのは宿敵・網干。しかし丶大は彼の顔に、ある男を思い出します。
ここから展開されるのは、意外、南総里見八犬伝の冒頭――伏姫と八房の物語よりもさらに以前の物語。
かつて安房を支配した神余光弘は、佞臣・山下定包に惑わされた末に丶大の父・金碗八郎を追放、自らも定包に暗殺されます。
しかしその定包も、結城合戦から落ち延びて安房に現れた里見義実を迎えた八郎らに討たれることになるのでした。
そして、網干の顔は、定包のそれ――そう、幾度となく八犬士に仇なしてきた妖人・網干左母次郎の正体こそは、かつて里見義実に敗れた山下定包の怨霊!
…いやはや、こればかりは予想ができませんでした。
しかし、考えてみれば定包の傍らにあり、定包が討たれた後に処刑された玉梓の怨霊――その場面も今回描かれますが原作とほぼ同様の内容――が八犬伝の因縁を形作ったとすれば、定包の方も怨霊となって里見に祟っても何の不思議もないお話。
特に本作においては、義実を仁君などではなく、むしろ権力の魔に取り憑かれた者として描いていることを考えれば、その義実に討たれ、「武士の面目と称して己の野心を満たそうというさもしい下郎」と義実に対して呪いの言葉を残した定包が、物語において重要な位置を占めるのもそれなりに肯くことができます。
そして、その玉梓と網干に見込まれて、安房を攻める素藤は、一見、八房に討たれた安西景連のようでいて、しかしむしろ、義実に重なる存在であることは、既に新章第一話でも暗示されていましたが、今回のエピソードを見れば、さらに明確になっていると言えるでしょう(その辺り、原作でも素藤が自分を義実になぞらえている部分はあるのですが…)。
この素藤というキャラクター、リライト版の八犬伝では後半のキャラクター・エピソードがほとんどオミットされる中で、親兵衛の実質デビュー戦の相手となったことや浜路姫を狙ったこと、八百比丘尼との関係などから、生き残る(?)ことが多い数少ないキャラクターですが、本作でも実に面白い位置を占めることとなったものです。
さて、その素藤、さらった浜路姫を媒介としたものか、無印第一話を思わせる奇怪な犬頭の兵士や犬の魔物を味方につけて八犬士をも圧倒するのですが…そこに現れたのは義実の前に姿を見せたあの少年、言うまでもなく最後の八犬士・犬江親兵衛であります。
魔物たちを一蹴した親兵衛は、村雨を借りて素藤に肉迫、無邪気に笑いながら素藤を圧倒し、その片手を奪ってしまうのでありました。
この辺り、原作でもチートキャラクターだった親兵衛の面目躍如たるものがありますが、しかし本作の親兵衛は、そう無邪気に受け止められる存在ではありません。
呪われた子らとして描かれる八犬士の中でも、ある意味最も純粋な存在であり――あの、おそらくは人と魔を分かつであろう赤い橋の上に立つ者なのですから…
それはさておき、ついに揃った八犬士。本作ならではの落としどころも見えてきたところではありますが、それはおそらくは原作とは異なる地平にあるもの。
それがどのように描かれるのか…これは大いに気になるところではありませんか。
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