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2010.11.30

「あやかしがたり 4」 最後の力、最高の力

 異国から「神の子」が日本にやってきた。ふくろうが、己の命に代えて呪い、侵入を防ごうとした存在を倒すため、大久保新之助はましろ、くろえとともに旅立つ。その存在により次々とあやかしが消滅していく中、故郷・山手藩でついに神の子と出会う新之助。しかしその素顔は意外なものだった…

 見鬼の力を持つが故に数奇な運命に翻弄される少年剣士・大久保新之助の生き様を描く時代ライトノベル「あやかしがたり」の第4巻にして最終巻であります。

 前作にて、親友にして最大の強敵・拝み屋ふくろうを倒し、その宿命から解き放った新之助。
 しかし、ふくろうが恐れ、己の死を持って呪いをかけようとしていた異国からの敵が、本作において遂にその姿を見せることになります。

 その敵の名は「神の子」。
 狙う相手国に送り込まれ、その国に存在するあやかしの存在を消しさり、人の心を染め上げる恐るべき敵を倒すべく、新之助はこれがと覚悟の旅に出ます。

 しかし、恐るべき敵の力は、周囲のあやかしを狂わせ、冒し、消滅させるほどのものであり、大妖たるましろとくろえまでもが衰弱していく中、故郷・山手藩領内の小村の寺にひとまず身を寄せる新之助。
 その寺の僧・東鶏と、寺で暮らす少女・神夕に歓待され、一時の安らぎを得ながらも、新之助はある種の違和感を感じます。それもそのはず、その寺こそは…


 と、この辺りまでで物語は中盤、物語としては非常にシンプルな構造の本作は、ここから一気にクライマックスに突入していきます。

 小さな違和感が一気に膨らみ、ついに姿を現す神の子と、その背後の狂気の企て。
 そして公儀隠密妖異改の介入が小村に地獄を――肉体・精神両方の意味で!――生み、その絶望が、神の子を暴走させる…

 新之助もまた、己の全身全霊を賭けて最大最強の敵に挑むのですが…しかし、神の前に、人が力で挑んでも勝てるはずもない。
 愛刀を砕かれ、自らも深手を負い、もはや打つ手なし――

 しかし、この最大級の絶望の中から、本作の、いや本シリーズの本当のクライマックスが始まります。
 己の力を使い果たし、全てを喪ったかに見えた新之助。
 しかし、たとえ彼自身の力は喪われようとも、彼がこれまで歩いて来た道のりまでが喪われるわけではありません。

 新之助のこれまでの、短くも険しい人生の中で出会った人々、彼らとの触れあい、そしてその中で新之助が感じたもの、得たもの、――すなわち人との関わりこそが、彼にとって最高の力と成り得る。
 そしてそれは、強大な力を持ちつつも、絶望的な孤独の中に在り、それ故に己自身という存在を喪いつつある神の子と、まさしく対局にある姿であります。

 この両者が、これまでシリーズの中で描かれてきた要素が、まるでパズルのピースのように一つ一つ美しくはまっていく中――そして最高のタイミングで登場するあの男…!――対峙する姿は、まさしくシリーズの集大成と言うことができるでしょう。


 人と異なる能力を持つが故に、人と異なる存在、あやかしと関わることとなった新之助。
 しかし、人は皆一人一人、それぞれ異なる存在。そうであれば、人とあやかしにどれほどの差があるのか――

 振り返ってみれば、あやかしを消し、人の心を塗りつぶす存在に抗する新之助の姿を語る本作の題名が「あやかしがたり」であるのは必然なのでしょう。
 そして、さらに言えば、「あやかしがたり」が描くものは、ひとり彼のみの物語でもないのだと…そう感じるのは、いささか綺麗すぎるまとめでしょうか。


 最後に触れておくべきは、本シリーズを通じての、作者の成長でしょう。

 本当に正直に言ってしまえば、第一作を読んだ際にはさまで面白いと思えなかった作品が、グイグイと面白くなっていくのは、作中の新之助の成長と歩調を合わせるように、作者が(テクニック面も含めて)成長していったということなのでしょう。

 その一つの頂点とも言うべき本作では、これまでいささか肩に力が入りすぎの感があった文章も、それなりに抑制の利いたものとなっていたのには、まさに本作の新之助の姿を見る思いです。

 そして、物語が終わっても新之助の旅が続くのと同様に、作者の旅もまた続くのでしょう。
 その旅の実り多いことを祈りつつ…

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2010.11.29

「快傑ライオン丸」 第05話「地獄から来た死神オボ」

 隣国との和平のための密使を殺し、密書を奪おうとするオボ、ドキ、ツララの三怪人。密使と出会った獅子丸一行は密使と同行する。怪しい虚無僧を目撃して一人後を追った獅子丸は捕らわれて岩雪崩で殺されかけるが、駆けつけた蒲生城太郎に救われる。その間に密使はオボらに襲われ、深手を負う。ライオン丸に変身してオボらを倒した獅子丸は、密使の遺志を継ぎ、密書を届けるのだった。

 今回は何と怪人が三人登場する豪華編…といっても、うちドキとツララのは虚無僧装束に顔だけという倹約デザインなのですが…
 残る一人、今回のタイトルにもなっているオボは、彼らのリーダー格らしく全身新造(?)であります。
 三人の得意技は、三方から杖を投げつけて相手の動きを封じてしまうという、ちょっと地味な技なのですが…

 にしても土偶っぽい顔のドキと氷柱を武器にするツララはよくわかるのですが、オボは一体…オボという妖怪はいるものの、あまり今回の内容に関係なさそうなのですが。

 それはさておき、今回のメインとなるのは、隣国へ平和のために旅立つ密使となった侍(EDの役名が「密使」)。
 結局どこの国からどこの国への使者だったのかはわからずじまいだったのですが、ゴースンがわざわざ三人も怪人を送って妨害しようとしたのですから、それなりの国だったのでしょう。

 しかし巻き添えを食ったのは、他の旅の侍や周囲の農民。
 冒頭では密使と間違えられた侍が殺された上に、それを目撃していた農民も殺される羽目に…(この農民の死体が変化していく様がほとんど精神的ブラクラ)

 密使も旅に出てすぐに般若忍者(たぶんドクロ忍者のバリエーション)に襲われるのですが、そこで獅子丸たちが登場。
 密使を助けることにする獅子丸たちですが、まず獅子丸が般若忍者を追って離れ、その後を追う沙織と小助はあっさり罠にはまることに…(ああ、前回は頑張ったのに)

 文字通り網にかかった二人を助けたのは、第3話に登場したさすらいの忍者(?)蒲生城太郎。
 怪しい虚無僧を目撃してその後をつけ、オボが「あの山で獅子丸を殺す!」と宣言しているのを耳にして、助けに来たのでした。
 しかし「助けたお礼の金は、またいずれもらうぞ」とか言ってるところは相変わらずのキャラクターです。

 さてその獅子丸はといえば、般若忍者、実はドキを追って岩場まで来たものの(ここで鳥に変じたドキを手裏剣で打ち落とすシーンがちょっと面白い)、ドキの放つ蜘蛛の糸と、おそらくは彼が操る蔓に絡みつかれ、動きを封じられることに。

 そして導火線に火がつけられ、岩雪崩で獅子丸がまさに殺されそうになったときに駆けつける城太郎! いやはや、相変わらず彼の前では獅子丸はまだまだ…

 しかし久々登場のヒカリ丸で空を飛んで密使を追った獅子丸は、オボたちの杖に捕らわれたところに駆けつけます。
 獅子丸も杖で捕らえんとするオボたちですが、「風よ!」で杖を吹き飛ばした獅子丸は、馬上にすっくと立って獅子変化!

 ツララの槍もドキの蜘蛛の糸もものともせず、忍法たてがみ吹雪で二人を巻き上げ、金砂地一閃、密書を取り返します。そしてオボもあっさりライオン飛行斬りで倒すのでした。

 しかし密使は既に虫の息。獅子丸は彼の意志を継ぎ、密書を届けて平和をもたらすのでありました。

 怪人が三人もいたり、城太郎が再び登場するなど趣向は面白い回ではあるのですが、それがお話に有機的に絡んでいなかったのがもったいない回でありました。


今回のゴースン怪人
ドキ
 オボの配下の土偶のような顔をした怪人。狼牙棒状の得物を持ち、指から蜘蛛の糸を放つ。また、蔓を操ることもできるらしい。

ツララ
 オボの配下の仏像のような顔をした怪人。先が氷柱のようになった槍を持ち、指先から氷柱を打ち出す。

オボ
 トカゲのような顔にむき出しとなった肋骨を持つ怪人。先にハサミがついた杖を得物とし、口から炎を吐く。ドキ・ツララと共に杖を投げ、相手の動きを封じる。
 和平のための密使を狙うが、ライオン丸に阻まれ、飛行斬りであっさりと倒された。


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2010.11.28

12月の時代伝奇アイテム発売スケジュール

 何だか毎月「早いもので」と言っていたような気もしますが、それでも早いもので今年も残りわずか。今年最後の時代伝奇アイテム発売スケジュールですが――これがまたなかなかの充実ぶり。今年は最後まで笑顔で終えられそうです。(敬称略)

 さて、文庫小説の方では、新作は残念ながら少なめ。しかし今年大活躍の上田秀人のシリーズ最新作「隠密 奥右筆秘帳」と、これまた大活躍だった風野真知雄の同じくシリーズ最新作「妻は、くノ一 9 国境の南」と、両作品とも楽しみです。
 また、どうやら角川文庫も文庫書き下ろし時代小説に力を入れるらしく、多数作品が刊行される中で、一挙二作刊行の楠木誠一郎「武蔵三十六番勝負」に伝奇の臭いを感じます。

 一方、文庫化の方は、これがかなりの充実ぶり。以前新潮文庫から出ていた宮本昌孝「ふたり道三」、お馴染みシリーズの中でも特に人気の高いエピソードを挿絵つき小説とした夢枕獏「陰陽師 鉄輪」、高橋版出雲神話というべき高橋克彦「えびす聖子」、舟橋聖一文学賞を受賞してしまった荒山徹の怪作「柳生大戦争」などなど、古代から江戸時代まで(一作であちこち飛ぶ作品もあって)かなりバラエティに富んだ顔ぶれです。
 また、好調の角川文庫山田風太郎ベストコレクションからは、「忍びの卍」と「忍法八犬伝」が登場です。

 また、中国ものでは、武侠小説ファンの間でも話題となった「もろこし銀侠伝」の続編「もろこし紅游録」が文庫で登場します。

 もしても一つ、タイトル的には剣豪ものかと思いますが、いま一番気になる作家の一人である謎の覆面作家・片倉出雲の「鬼かげろう 孤剣街道」は、やはり見逃せないでしょう。


 漫画の方は、どうも戦国時代が人気の様子。
 新登場の金田達也「サムライ・ラガッツィ 戦国少年西方見聞録」1をはじめとして、小林裕和「戦国八咫烏」2、大和和紀「イシュタルの娘 小野於通伝」2、そしてガンガン系からは浅岡しゅく「御指名武将真田幸村かげろひ KAGEROI」2、宮永龍「伊達人間」1辺りが要チェックでしょうか。まだまだ戦国人気は収まらない様子です。

 おっと、そんな中でも孤軍奮闘中(?)の幕末もの、篠原花那の「ICHI」はついに5巻目が刊行です。

 そして中国ものの方では、白井三二朗「射雕英雄伝EAGLET」5、中道裕大「月の蛇」4と、名作を背景にしたユニークな作品たちの続刊が登場。
 また、舞台が中国ものということで東冬の「嵐ノ花叢ノ歌」3も挙げておきましょう。

 最後に、ソノラマコミックスから登場の「千波万波」は、時代ものでもしばしば佳品を発表している波津彬子を特集した企画本とのこと。「うるわしの英国」シリーズと「雨柳堂夢咄」シリーズのコラボもあるそうで、楽しみですね(ちなみに「雨柳堂夢咄」の新刊は1月とのこと!)



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2010.11.27

「伴天連XX」第2巻 神話の枠をブチ破って

 左手にないとごぉんとを、右手に宝刀獅子王を持つ男・無命獅子緒と、禁断の知識と聖釘を武器とするフランシスコ・ザビエルX世が、江戸を覆うクトゥルーの影に立ち向かう「伴天連XX」の第2巻の登場です。

 今回、獅子緒とザビエル、そして読売屋の番太郎が巻き込まれたのは、かの葛飾北斎を巡る事件を描く「弘法の筆」編であります。

 北斎といえば、もちろんあの浮世絵の北斎ですが、本作の北斎は、なんと色っぽい姉御肌の女性。
 番太郎と同じ長屋に住んでいた北斎が新たに引っ越した先(この辺り、史実の北斎が引っ越し魔だったことを思い出してニヤリ)が、あろうことかあの平賀源内の旧宅だったことから、思いもよらぬ大騒動が巻き起こることになります。

 …いや、これが本当に思いもよらぬ展開。様々な魔道書や呪具が残された源内邸で北斎が見つけたもの、「弘法の筆」なる銘が付けられた筆のその正体が、まさか○○○○だったとは――!

 いやはや、第1巻の感想で独創性が云々などと生意気を申しましたが、私が間違っていました。
 色々とクトゥルー神話作品を読んできましたが、○○○○をこのように使った作品は(私の知る限りでは)初めてです。

 北斎ありきの設定であって、○○○○である必然性はさほどないような気はするのですが、しかし高い可塑性と変幻自在な点を墨絵に組み合わせ、描いたものを実体化する筆の怪異として成立させているのには大いに感心した次第です。

 そしてこの巻の後半に収録されているのは「肉人」編。
 江戸時代の怪奇事件好きであればよくご存じと思われる、駿府城で徳川家康が目撃した謎の生物・肉人をサブタイトルに冠したエピソードですが…

 これがまた、予想もつかない展開の数々なのです。
 肉人を求める将軍に遣わされた御庭番とともに、肉人≒ぬつぺふほふが現れたという駿府国は府中に向かうこととなった獅子緒一行(河童が深きものどもだったんだから、ぬつぺふほふが旧支配者に関わっていてもおかしくない! というヒドイ論理)

 そこで彼らが見たものは、突然の温泉噴出で沸き立つ府中の人々。そこであらゆる傷を治すというぬつぺふほふが住まうという井戸を見つけた一行ですが、当然(?)ぬつぺふほふが世のため人のためになる存在であるわけもなく、さらにその背後にはとてつもない神格が!

 というわけで、いやさすがにこれは飛ばしすぎでは――いくらこの次元に偏在できる神といっても、駿府にいるのはどうなのかしら?――と思いつつも、しかしここまでやってくれば、もう後はひたすら面白がるしかありません。

 ラストには再び平賀源内(その正体はあの有名神!)が登場し、ますます先が読めなくなったこの「肉人」編。
(ガマンできずに連載分も読んでしまいましたが、いやはやこの先はもっともっと大変なことになっておりました…)

 このエピソードが、いやこの作品がこの先どうなるのか、どこまで行ってしまうのか…
 もはやクトゥルー神話という枠さえブチ破りかねない勢いの本作、こうなったらとことんまで楽しませていただきたいと思います。

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 「伴天連XX」第1巻 キャラクターは良し、あとは…

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2010.11.26

「抜け荷の宴 浪花の江戸っ子与力事件帳」 謎の教団、大坂に蠢く

 抜け荷の疑いがある船の探索にあたった伊吹伝四郎だが、船が出火し、荷物は全て失われてしまう。その荷が、薩摩藩が近衛家に収めるものであったことをきっかけに、伝四郎は思わぬ罠にはまることに。一方、大坂の町では、大秦寺党なる教団が勢力を伸ばしていた。抜け荷と大秦寺党の繋がりとは…

 快調に巻を重ねる「浪花の江戸っ子与力事件帳」シリーズ第三弾であります。

 タイトルにあるように、江戸っ子でありながら大坂西町奉行所の与力を勤める変わり者(?)・伊吹伝四郎の活躍を描く本シリーズ。
 「○○の宴」と続くサブタイトル、今回は「抜け荷の宴」――謎の教団が暗躍する大坂で抜け荷事件に巻き込まれた伝四郎が、姿なき敵の奸計の前に、シリーズ始まって以来の危機を迎えることとなります。

 抜け荷の密告を受けて、大坂は安治川の河口に停泊した船に手入れに入った伝四郎。
 そこでご禁制の鉄砲を発見するものの、船が出火したために証拠は全て失われ、事実を知るはずの船の人間も命を落とす始末であります。

 しかも積み荷の朝鮮人参は薩摩藩から京の近衛家に収められるはずのもの。
 薩摩藩の用人や問屋の商人に促され、京まで事情の説明に赴いた伝四郎は、人殺しの濡れ衣を着せられ、あろうことかおたずね者にされてしまうのでした。

 一方、伝四郎の友人の赤穂浪人・工藤京太郎は、子供を失った心の痛手から、最近大坂で評判の大秦寺党なる教団に身を寄せることになります。
 諸人の平等を説き、まもなく救い主が現れると喧伝する大秦寺党は、京太郎はますます教団にのめり込んでいきます。

 全く無関係に見える抜け荷と伝四郎の濡れ衣、そして大秦寺党。
 さらに、伝四郎のひいきの飲み屋の女将・おきぬが拾った口のきけぬ子供に、何者かに殺された身元不明の浪人、大坂に潜伏するという切支丹――
 混沌とした状況の中で、事件は思わぬ真実を現すこととなります。

 と、あらすじだけ見ると、一見普通の奉行所ものにも見える本作ですが、それにとどまらないのが、本シリーズ定番の伝奇的ガジェットであります。

 今回のそれは、秦幻灯斎なる人物が主催する謎の教団・大秦寺党。名前からして何とも胸躍る響きでありますが、弘法大師の教えを汲むという教団の正体が実は――と、本作に彩りを添えてくれます。

 その正体というのは、正直なところ、わかる人間には一発でわかるものではあるのですが、しかし作中でその謎を解くのが、あの有名人というのが――その人物の経歴を考えれば――なかなかうまいわいとニッコリ。

 さらにいえば、この人物とあともう一人の有名人が、伝四郎の窮地を救うという展開もなかなか面白いのです。
(ただしこの二人、シリーズ第零弾と言うべき幻の作品「びーどろの宴」からの登場なのが、この作品を読んでない身には何とも悔しい。ぜひ復刊を!)


 もっとも、もう一歩キャラの扱いに踏み込めば面白くなるのに…という、ある意味これも本シリーズ恒例の部分が今回もあるのは、やはり残念であります。
 伝四郎の矍鑠たる母と、教団幹部の思わぬロマンスが何だか中途半端な扱いですし、謎の子供と、子供を失った京太郎に関わりが生まれるものと思っていたら…。

 前回同様厳しいことも書いてしまいましたが、伝奇風味を巧みに取り込んだ奉行所ものとして、本作、本シリーズが珍重すべきものであるのは間違いのないところでありますし、ストーリー展開的には、これまでのシリーズでも最も盛り上がったかと思います。
 これからの作品にもやはり期待してしまうのです。

「抜け荷の宴 浪花の江戸っ子与力事件帳」(早見俊 光文社文庫) Amazon
抜け荷の宴―浪花の江戸っ子与力事件帳〈3〉 (光文社時代小説文庫)


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2010.11.25

「仮面の忍者赤影」アニメ版 第22話「対決!! 赤影VS魔童子」

 湖を泳いで幻魔城に接近する赤影たちに襲いかかる怪獣・岩龍。変わり身の術で辛うじて逃れた赤影は、城への潜入に成功する。一方、城の中を彷徨う子供たちはついに下忍たちに見つかってしまうが、そこに赤影たちが駆けつける。さらに魔童子が現れ、赤影は一人残って仲間たちを先に行かせる。互いに死力を尽くした戦いの果て、わずかな差で赤影は魔童子を倒すのだった。

 いよいよラスト一話前。お話の方も怪獣ありロマンスあり強敵との一騎打ちありと否応なしに盛り上がります。

 まず登場するのは、幻魔城で飼われていた巨大な怪物・岩龍。
 文字通り岩のような堅い肌に巨大な目と牙だらけの口、細い手足と、恐竜の生き残りのようでいてやはり違う、もう怪獣としか言いようのない怪物であります。

 頭頂禿に長髪、異様に爪の長い上にちょっとピエロめいたアイラインを引いた、かなりビジュアルインパクトのある怪忍者(しかし名前は出ず)の鈴に操られて水中から襲いかかる岩龍はかなりの強敵。
 火薬玉も刀も通じないこの怪物に対し、両目を潰す赤影ですが、しかしその手に捕まれて岩に叩き付けられてしまいます。

 そこで赤影の死を確かめようと水蜘蛛で湖上に現れた名無しの怪忍者ですが、そこで見たものは、赤影の死体に見せかけた切り株…まんまとひっかかったところを岩龍に襲われて飲み込まれてしまうのでした。
 その隙に赤影たちはついに城に潜入…

 一方、幻妖斎のもとに連行された千姫は、ペドロの花嫁となることを宣告されますが、恋する乙女は実に強い。
 城に幽閉されながらも、千姫は、自分にとって霞丸は優しく照らしてくれる月のような方と語ります。
 それに対して霞丸は、かつて自分を慕ってくれながらもそれに応えることができず、命を落としたやまぶきのことを語ることで応えるのですが――(ってやまぶき忘れられたのかと思ってたよ!)
 それでもやまぶきは霞丸を愛することができて幸せだっただろうと、同じ方を愛した自分ならわかると千姫は断言…いやもう好きにして下さい。

 と、ロマンスパートと前後して、城の中で迷子となったお子様たち。
 もう本当にイライラするようなスニーキングっぷりですが(特に、最年少のおきくのKYっぷりにはいい加減殺意が…)、ついに見つかって下忍たちに襲われたところに赤影参上! ほかの三人も参上!

 しかしその場に現れた魔童子に対し、赤影はただ一人残り、三人に子供たちを任せて先に行かせます。

 そして始まる宿敵同士の最後の一騎打ちですが、やはり魔童子は強敵。
 その強固な鎧の前には爆弾も刀も通じず、飛騨忍法「真空つむじ風」からの一刀も受け止められてしまいます。
 …が、そこでどんでん返しとなった壁に呑まれて二人の戦いは次の間へ。

 真っ暗なその部屋に漂う異臭に気付く赤影ですが、そこに襲いかかるのは何倍ものサイズに巨大化した魔童子。これが幻覚だと悟った赤影は自分の足を刺すという古典的手段で脱出、魔童子に一矢報いるのですが…

 怒った魔童子は屋内だというのに雷を呼び、己の剣に雷を落とした幻魔雷撃剣――いつぞや闇天竺のテントを焼き払ったレーザーもどき――で赤影の右肩に傷を負わせます。
 しかし外れた一撃が部屋の壁のパイプを破壊、噴き出した蒸気にひるんだ隙に最後の勝負を賭ける赤影…!

 が、先に倒れたのは赤影。勝ち誇る魔童子ですが…その仮面が割れ、魔童子は己の敗北が信じられないというような顔で倒れ伏すのでした。

 この辺りの攻防はこうして文章にすると古典的なパターンの連続ではあるのですが、しかし西洋鎧に身を包んだ見るからに強そうな魔童子のビジュアルと破天荒な攻撃力の前に、なかなか迫力のあるシーンでした。
 決着シーンも、定番のオチながら、直前までの魔童子の強さがあって、見ていて素で驚いてしまったり…

 さて、その一方でチェス部屋に迷い込んだりして大変な他の三人と子供たちですが、何者かにおきくがさらわれてしまいます(もうそのままどこかにやって欲しい)

 そして月を見上げる信長が思うのは、娘の面影…

 いよいよ次回完結であります。


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2010.11.24

「裏宗家四代目服部半蔵花録」第7巻 そして新たなる一歩を

 江戸を蝕む奇怪な忍びたちと江戸を護る者との戦いを描いてきた青春忍者伝奇活劇時代漫画「裏宗家四代目服部半蔵」の第7巻、最終巻であります。
 顔を持たぬ「敵」の陰謀が遂に江戸城を襲う中、お花の、慎吾の、十兵衛の最後の戦いが始まります。

 川開きで将軍家光の御座船を謎の忍びが襲撃したことから、一気に不穏な雲行きとなった江戸城内。
 その際の責を問われ、ほとんど濡れ衣のような形で京極忠高と加藤忠広が切腹を申しつけられ、さらに他の大名も疑心暗鬼に陥る中、家光の言葉は堀田正盛のみを通じて語られるようになります。

 しかしその堀田正盛は、出会った者に顔を記憶させないという奇怪な人物。
 全ては正盛の手の中にあるように事態は動く中、幕閣で正盛の策謀に気づいていたのはただ一人、柳生宗矩のみ。
 そして宗矩を支えるのは十兵衛や慎吾、柳生剣士たち、そして正盛こそ先代裏宗家の仇と目する弥文と黒岩――
(ちなみにこの巻の陰のMVPは紛れもなく宗矩。最近の時代ものでは悪役の多い宗矩ですが、本作の宗矩は実に格好良かった)

 そして玄猪(亥の子)の祝の日、ついに江戸城で発動する家光暗殺計画。
 その混乱の中、宗矩が、十兵衛が、慎吾が、黒岩が、弥文が、かつて忍び狩りで暗躍した奇怪な忍びたち、そして正盛と最後の決戦を繰り広げることとなります。

 …いやもう、この決戦が始まってからの展開は、まさにクライマックスに相応しい盛り上がり。
 これまでの因果因縁が一つところに集まり、一気に爆発する様は、江戸城という舞台といい、戦いに賭けられたものの重さといい、忍法対忍法、剣法対忍法を描いてきた本作の総決算として楽しませていただきました。

 特に敵の拳銃使いを向こうに回しての十兵衛の発言は、十兵衛のキャラクターの格好良さを存分に見せつつも、同時にそれが平時における「強さ」――それは、敵の求めるものと正反対にあるものであります――を語るものとして大いに感心しました。


 と――激化するその戦いの輪から一人外されていたのが、ほかでもないお花。
 十兵衛の、そして弥文の計らいにより、もはや復讐のために戦う必要は、戦いを強いられる必要はないと、彼女のみは、江戸城での戦いを知らされず、残されていたのです。

 しかし、もちろん彼女を抜きにしてこの戦いが、この物語が終わるはずがありません。
 戦いの存在を知った彼女は、自らの意志で、最後の敵――父・裏宗家三代目服部半蔵を殺した敵に、対峙することになるのですが…
(この敵の正体が、何故今まで気づかなかったのか! と思わず納得の人物なのがまたニクイ)

 そこで彼女が知った敵の目的――それは、これまで彼女が戦ってきた忍者たち、戦国から取り残され、己の力を振るう先を喪った者たちと、実は変わらないもの。
 そしてさらに言えばそれは、これまでのお花の戦いの目的とも、大きく異なるものでもありませんでした。

 それを知ったお花が踏み出す新たなる一歩がどのようなものであるか――それを全てここに記してしまうのは、野暮というものでしょう。
 ただ私は、クライマックスのお花の姿に、本作の題名を今一度見返して、深く頷いた、とだけ記しておきましょう。

 そしてまた…本作を彩ってきた、お花と慎吾、十兵衛の関係も、一つの結末を迎えることとなります。
 ラスト数ページ、本当にわずかなページに描かれた慎吾の言葉は、ある意味なんの変哲もない、ありふれた言葉ではあります。
 しかしそれがどれほどの重みを持つものか、ここまで読んだ方ならばよくわかるでしょう。


 物語に散りばめられた全ての要素が、全て描き尽くされたわけではないでしょう。
 しかしながら、クライマックスのお花の姿とラストの慎吾の言葉――それだけで、描かれるべきものは全て、それも素晴らしい形で描かれたと、私は言い切ることができます。

 「裏宗家四代目服部半蔵花録」、良い作品でした。

「裏宗家四代目服部半蔵花録」第7巻(かねた丸 講談社DXKC) Amazon
裏宗家四代目服部半蔵花録(7) <完> (KCデラックス)


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2010.11.23

「PEACE MAKER鐵」第6巻 歴史への絶望と希望

 世の中、あきらめないで待っていて良かった、と思うことが時々ありますが、これもその一つでしょう。
 五年の長きにわたって連載が中断されていた「PEACE MAKER鐵」が復活し、この第6巻で油小路編が完結したのですから。

 と、第6巻の内容を語る前に触れたいのが、第5巻を読んだ時の絶望感であります。

 油小路編の前編ともいうべき第5巻では、遂に新撰組と御陵衛士の対立が決定的なものとなり、史実通り新撰組側が油小路で伊東を暗殺――と思いきや、謀略では伊東の方が一枚上手。
 暗殺から逃れるや、逆に油小路に張っていた原田・永倉の隊を包囲し、さらには新撰組屯所を逆に襲撃するという挙に出ます。

 その乱戦の中で沖田はさらに吐血、土方は乏しい戦力で伊東を迎え撃つことに。
 そして、主人公である市村鉄之助は、彼に対してほとんど一方的に恨みを持つ北村鈴によって坂本龍馬暗殺の濡れ衣を着せられ、乱戦の中に乱入してきた海援隊に命を狙われることになります。
 一方、斎藤一はその混乱の中で鈴の側に付き…

 と、主人公側に希望の光がほとんど全くない状態で第5巻は終わり――それだけならまだしも、作者からの連載中絶発言があったため、当時は本当に絶望的な気持ちでページを閉じたものです。

 それが(おそらくはTVドラマ化の影響もあって)連載再開し、こうして単行本の続巻が登場…というだけでも嬉しいのですが、その内容の方も素晴らしかったのです。

 一度は袂を分かっても、やはり心の奥底では繋がり続けていた永倉・原田・藤堂の新撰組三馬鹿の復活と別れ。
 遂に一対一でぶつかり合う土方と伊東。
 初めて龍馬の死を知り、その嘆きが海援隊を動かす鉄之助。
 そして斎藤の決意…

 確かに史実通りに悲しい別れを告げることとなった者はおりますが、しかし前巻の絶望的状況がここまで鮮やかに、そして美しく転じていくとは…と、舌を巻きました。

 特に素晴らしいのは、この巻のもう一人の主人公というべき斎藤の描写でしょう。
 本作においては一種の超能力者的な存在である斎藤。その瞳には、未来の事実が――非常に端的に言ってしまえば年表が――映ります。

 しかし、彼にとってそれは、自分が歴史の傍観者に過ぎない――すなわち、自分は歴史の結果に影響を与えることがない無力な存在であることを認識させる意味しかありません。
 その絶望から、彼は鈴と行動を共にすることになります。

 しかし、そんな斎藤の凍てついた心を、海援隊に捕らわれ、死を待つばかりの鉄之助の言葉が動かします。
 それは、彼にも歴史においてできることがあると告げる言葉。
 歴史の結果は変わらない。しかしそれはその過程までを定めるものではなく…そして、その中で自分にも出来ることがある。

 自分が傍観者ではないと知った斎藤の強さは、鈴の復讐心という、この物語を縛る強大な鎖をも揺り動かすほどの強大なもの。
 皮肉にも、歴史に絶望していた男が、歴史に一つの希望をもたらすという構造の妙に感じ入った次第です。


 そして物語は北上編へ――連載はまた休止とのことですが、その復活の日が遠くないことを、希望しています。


 それにしても平助の死のシーンは、ドラマ的にも、一部読者へのサービス的にも素晴らしいインパクトがありました…
 三馬鹿の体格差は、このシーンのためにあったのではないかと考えたくなるほどに。

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2010.11.22

「遊郭のはなし」 人を鬼にする場の物語

 吉原の遊郭・百燈楼で語られる数々の怪異のうち、最も恐ろしいという「赤い櫛」。拾った者は皆死ぬというその櫛のことを聞いた怪談好きの若旦那は、吉原に出向き、遊郭で暮らし、集う様々な職業の人々から怪談話を聞かされるのだが…

 第2回『幽』怪談文学賞・長編部門特別賞賞受賞作であり、最近第二弾とも言うべき「色町のはなし 両国妖恋草紙」も刊行された長島槇子の連作短編怪談集であります。

 ふとしたことから「赤い櫛」の怪異を調べることになった男が、遊郭で生きる様々な職業の人々に物語を聞いていくという構成の本作、収録されているのは以下の十編です。
 赤い櫛―女中のはなし
 死化粧―妓夫のはなし
 八幡の鏡―女将のはなし
 紙縒の犬―内芸者のはなし
 幽霊の身請け―幇間のはなし
 遣手猫―客のはなし
 無常桜―遣手のはなし
 紅葉狩り―禿のはなし
 木魂太夫―花魁のはなし
 手鞠―地回りのはなし

 各話の題名の後の「○○のはなし」の○○は、言うまでもなく各話の語り手のこと。
 吉原と言えば真っ先に花魁の存在が浮かぶわけですが、なるほど言われてみれば、彼女たちだけで吉原が回るわけではありません。

 吉原で妓楼に上がって花魁と対面するまでには様々なしきたりがあることは、時代ものファンであればよくご存じかと思いますが、その妓楼という空間、吉原という世界には、これだけ様々な人々が存在したことに、今更ながら気付かされます。

 そして、同じ空間に在っても、その依って立つところが異なれば、見えるものが異なるのは言うまでもありません。
 本作は、そんな人々による、変形の怪談会とも言える作品であります。

 とはいえ、本作が、単純に十編の怪談が集められたものというわけでは、もちろんありません。
 本書では中盤辺りまではほとんど独立した作品が続きますが(なお、個人的には、「幽霊の身請け」が、吉原でなければ起きえない奇怪でどこかもの悲しいシチュエーションを描いていて一番印象に残っています)、後ろに行くに従って、全ては「赤い櫛」にまつわる恐るべき物語に収斂していきます。

 手にしたものは皆死を遂げるという赤い櫛――その由来と、それが真にもたらすものを語る物語の展開はまさに圧巻。いかにも江戸を舞台にした怪談らしく静かに進んでいた物語が加速度をつけて変容し、ついに凄惨なカタストロフを迎える様には、ただただ呆然とさせられました。

 しかし…本作が真に恐ろしいのは、その恐怖と惨劇を生み出したものが、実のところ、吉原という場とそこに集う人々を動かすシステムであるということでしょう。
 本作の終盤で何度か記される言葉、「鬼」。人の欲望を満たすための場が、人を鬼にする…ある種の地獄が、そこにはあります。


 と、本作の内容自体には大いに満足しているのですが、しかし非常に残念なのは、各エピソードの途中で三人称が混じることであります。
 この構造には、本作の冒頭から違和感を感じていましたが、終盤のあの展開を考えれば、やはり一人称で通すべきだったのでは…と、それだけが残念に感じられた次第です。

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2010.11.21

「快傑ライオン丸」 第04話「ムササビアン 爆破作戦!!」

 果心居士の弟子・久兵衛は、強力な火薬の製法を獅子丸に伝えようとするが、ムササビアンに製法を奪われ、深手を負わされる。久兵衛の子・五郎太に仇と誤解された獅子丸は、五郎太に襲われた隙にムササビアンに捕らえられ、新型火薬による大砲の的にされてしまう。誤解の解けた五郎太は沙織・小助と協力して獅子丸を救出。獅子丸はライオン丸に変身してムササビアンを倒し、火薬の製法は五郎太の希望で焼却されるのだった。

 「快傑ライオン丸」第4話は、ヒーローものの定番、強力な兵器の発明話と、これも定番の主人公が仇と勘違いされるエピソードを
組み合わせた内容であります。

 冒頭に登場するのは、大村千吉演じる果心居士の弟子で忍者の久兵衛。これがまた絶妙な面構えで、白土作品の忍者的佇まいなのですが、それはさておき、彼の発明した新型火薬が今回の物語の中心となります。

 この火薬を獅子丸に託そうとする久兵衛ですが、しかしいち早くそれを嗅ぎつけたのは怪人ムササビアン。
 さすがに忍者だけあって身のこなしも素早く渡り合う久兵衛ですが、善戦むなしくムササビアンに深手を負わされ、火薬の製法を奪われるのでした。

 そこに駆けつけて短縮版ポーズでライオン丸に変身、ムササビアンと戦うも逃げられた獅子丸は、久兵衛からいまわの言葉を聞くのですが…
 そこに折悪しく帰ってきたのは、食料を調達して帰ってきた久兵衛の子・五郎太。彼は獅子丸が久兵衛を殺したと誤解してしまいます。

 ここで獅子丸が五郎太をはじめ周囲から責められたらある意味らしい鬱展開ですが、しかしさすがにそうはならず、獅子丸は五郎太を沙織小助に任せてムササビアンを追跡。
 しかし五郎太は二人の隙をついて逃走、怪しげな男たちに煽られたこともあって、獅子丸に襲いかかります。

 しかし男たちの正体はドクロ忍者。五郎太を人質に取られ、獅子丸は囚われの身に。そして五郎太は谷底に突き落とされて…
(ここで緑の衣装のドクロ仮面が出てくるのですが、前回の生き残り? そういえば死んだシーンはなかったような…)

 そしてムササビアンは、都を背に張り付けにした獅子丸に対し、件の新型火薬を使った大砲を発射し、獅子丸もろとも都を木っ端微塵(!)にしようという、合理的なような無茶苦茶なような処刑計画を立てます。

 さて、突き落とされた五郎太がそのまま死んでいたらもの凄い鬱話ですが、川にでも落ちたのか、傷だらけとはいえ何とか沙織たちのもとに助けを求めに行きます。

 そして軽快なBGMに乗って獅子丸救出に向かう三人。
 これまで沙織がよく捕まっていたために足手まといの印象が強いのですが、しかし沙織も小助も戦闘力自体は結構なもの、ドクロ忍者程度であれば十分相手にできます。

 そこで小助はムササビアンの秘密基地を発見、ドクロ忍者を翻弄して金沙地の太刀を取り返します。
 一方沙織はドクロ忍者に化けて一味に近づきますが、一瞬でバレた!?

 とはいえこれも陽動、この隙に五郎太が投じた刀で縄を切り、獅子丸は自由に!
 しかしそれでも平然と大砲の発射準備を進めるムササビアン。なるほど、獅子丸に逃げられても、そのまま大砲を撃てば都は破壊できるわけです。

 さあどうする獅子丸!? と、太刀を受け取った獅子丸、変身ポーズから「風よーっ」で巻き起こした強風で、ついに発射された砲弾を巻き戻し…じゃなくて吹き戻した!
 あまりに豪快な返しに驚きましたが、変身ポーズがそのまま逆転に繋がるあたりの展開は実に痛快であります。

 さて、最後の戦いではムササビらしく空を舞って空中から攻撃するムササビアンに翻弄されるライオン丸。
 と、あらかじめ「正義の忍法」と断ったライオン丸、光を刀で反射させて相手の目を眩ます太陽剣!
 いや、正義って言ってるけどこれは卑怯だろう…

 その隙にムササビアンの土手っ腹に刀を突き刺すライオン丸、そのままフィニッシュに入ってムササビアンを爆破であります(この時、口に久兵衛の火薬の巻物をくわえているのが格好良い)

 さて、久兵衛の墓に詣でた一行。五郎太は火薬の製法を焼却することを望み、獅子丸も快くそれを受け入れるのでした。
 さすがに正義の時代劇ヒーローが大砲ドカンはまずいでしょうしね。

 それにしてもムササビアン、ものすごい着ぐるみ感満点の造形で暖かそう…


<今回のゴースン怪人>
ムササビアン
 自由に空を滑空するムササビの怪人。脇に翼のような二つの刃を生やした銛と、同型の手裏剣を武器とする。
 久兵衛が開発した新型火薬の製法を奪い、捕らえた獅子丸もろとも都を爆破しようとしたが、ライオン丸の太陽剣に目が眩み、倒される。

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2010.11.20

「三ツ目の夢二」第2巻 現実と虚構、ネガとポジ

 美しい外見に隠された醜いものを見る力を持つ第三の目を与えられてしまった竹久夢二が出会う奇妙な事件の数々を描く「三ツ目の夢二」の第二巻であります。

 最愛の恋人・彦乃を失った末、地獄に赴いて彼女に再会した夢二。
 しかし伊弉諾尊の黄泉国訪問よろしく、醜く変貌した彦乃の姿を目撃した夢二は必死に逃げるのですが、彦乃の呪いは彼の右掌に椿の刺青の姿をした第三の目を与えます。かくて、百八の醜いものを見る運命を与えられた夢二は…
 というのが本作の基本設定ですが、この第二巻では三つのエピソードが収録されています。

 友人の川端康成が寄席芸人の少女に一目惚れしたことから、寄席芸人を追う赤色防止団の騒動に巻き込まれる「チョーク・トーク」。
 ラジオで人気の美人アナウンサーの写真を撮ることとなった夢二が、帝都を騒がせる女性ばかりの眠り病と彼女の意外な関わりを知る「重出立証法」。
 そして大杉栄が知ったこの帝都の真実を垣間見ることになる「パノラマ」。

 今回も、寄席芸アニメと川端康成と赤化防止団、モンタージュ写真と眠り病と田○○泡、そしてパノラマと大杉栄と関東大震災と、伝奇三題噺といった趣の奇想天外な物語を楽しませていただきました。

 そんな本書の隠しテーマというべきものは――作者があとがきで述べているのですが一種の仮想まんが史ともいうべきもの。
 アニメーションに漫画といった、現代の日本文化において欠くべからざるものの萌芽が、この大正時代に生まれていた…というのは、恥ずかしながら初めて知ったのですが、それをこの物語の枠組みの中で展開してみせたというのが実に面白いのです。
(特に「チョーク・トーク」の、物語の世界観までがアニメーションに浸食されていくシュールさには驚かされます)

 なるほど、ジャンルはいささか異なるものの、漫画やアニメーションも、夢二が携わる絵画や写真と同じく、現実を写し、切り取って、もう一つの現実を生み出す技。
 その意味で、この出会いはむしろ必然なのかもしれません。


 さて、その物語・物語世界も、「パノラマ」において、また異なる様相を――その真実の姿を垣間見せることとなります。

 あの無政府主義者・大杉栄が知ってしまった「終わらない大正」の帝都の秘密。
 その正体とその仕掛け人を知った時、我々はこの世界を支えるものが、根底から崩れ去る音を聴くことになります。

 「終わらない昭和」を題材にした作品を数多く手がけてきた大塚氏ですが、本作の舞台となるのは「終わらない大正」――関東大震災が起こらなかった世界。

 この点については、第1巻のあとがきで既に触れられていたのですが、しかし、実感としてよくわからなかったというのが正直なところでした。
 それが、このように鮮やかな形で突きつけられることとなるとは思いもよりませんでした。

 そして、大杉栄と甘粕正彦を写した夢二の第三の目に映った「醜いもの」の衝撃たるや――
 ここにおいて、第三の目が写し出すもの、現実と虚構、美しさと醜さは鮮やかに、そして恐るべき形でその位置を逆転することになります。あたかも写真のネガとポジのように。

 作品としては、この巻をもっていわゆる「第一部完」となった本作ですが、しかしこの結末には、満足というほかないのであります。

「三ツ目の夢二」第2巻(ひらりん&大塚英志 徳間書店リュウコミックススペシャル) Amazon
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2010.11.19

「若さま同心徳川竜之助 双竜伝説」 対決、大物ゲスト!?

 巻数二桁の大台を超えてまだまだ頑張る「若さま同心徳川竜之助」シリーズ最新巻であります。
 今回はゲストキャラに大河ドラマでお馴染みのあの大物が登場、竜之助と対峙することになります。

 己を縛ってきた因縁を断つため、前作のラストで師・柳生清四郎に挑んだ竜之助。
 その目的は、葵新陰流の秘剣・風鳴の剣を封じること…
 と、いきなり盛り上がったところから始まる本作ですが、師弟対決はあっさり終了。

 師の剣を封じることに成功したいま、風鳴
の剣を使えるのは竜之助一人であり、彼に秘剣を使う意志がない以上、これで秘剣は絶えたはずなのですが、しかし時代の流れがそれを許しません。

 倒幕のために暗躍する薩摩の西郷隆盛は、中村半次郎が入手した二つの秘剣の因縁(前作の感想にも書きましたが、これが本当に面白ひどい。どうすればこんなアイディアが思いつくのか)を利用して、江戸と尾張の両徳川家を相争わせようと企むのでありました。
(それにしてもこの西郷と半次郎が、後に「西郷盗撮」で描かれたようになるのか…と思うのは色々な意味で間違っていますが、これはこれでファンの楽しみであります)

 かくて江戸に送り込まれた謎の刺客。風鳴の剣と雷光の剣、両秘剣に襲いかかるその正体は…

 という部分だけを書くと、どう見ても剣豪もののあらすじですが、もちろん本作は同心ものでもあります。
 今回もこれまで同様、竜之助が四つの怪事件・珍事件――非常に色っぽい姿で殺された芸者、屋根の上の獅子頭を巡る職人殺し、いつも蕎麦を切らしている蕎麦屋の謎、当たりすぎたのが災いして殺された占い師――に挑むことになります。

 個々のエピソードの内容はともかく、ワンパターンといえばまさにその通りではあるのですが、しかしそれでも毎回それなりに読ませてくれるのは、これはもうさすがと言うべきでしょう。
 毎回書いておりますが、ストーリー展開もさることながら、ほんのわずかな量でキャラを立ててしまう文章と、それを可能とする作者の観察眼の確かさに、感心したところです。


 そして、冒頭に述べた大物ゲストですが…本の帯や紹介に大きく出ているので書いてしまって良いでしょう。
 双竜のもう一方――坂本竜馬であります。

 謎の刺客が北辰一刀流であったこともあり、たまたま江戸を訪れ、奉行所にマークされていた竜馬と剣を交えることとなった竜之助。
 二人の竜の対決の行方は…もちろんここでは書きませんが、竜馬との出会いが竜之助にとって大きな転機となるとだけは書いても良いでしょう。

 そしてそれ以上に個人的に興味深かったのは、竜馬が語る、ある言葉です。
 少し長いですが、引用しましょう――

「そんな荒唐無稽な話を信じられるか、というやつもいた。だが、わしは信じた。荒唐無稽だから信じた。ちっぽけな世界にしか住もうとしないやつは、荒唐無稽を信じない。だから、この世を変えようともしない。この世がいかに柔らかくて、いかようにも変えていけるってことを」

 いかにも竜馬らしい台詞であると同時に、
作者の小説観、フィクション観とも言うべきものが見えるではありませんか。


 さて、紆余曲折を経てついに復活した竜之助の剣。
 真の敵の姿もほぼ見えたところですし、そろそろ決着…といって欲しいところです。

「若さま同心徳川竜之助 双竜伝説」(風野真知雄 双葉文庫) Amazon
双竜伝説-若さま同心徳川竜之助(12) (双葉文庫)


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 「若さま同心徳川竜之助 幽霊剣士」 時代の闇に飲まれた幽霊
 「若さま同心徳川竜之助 弥勒の手」 若さま、最大の窮地!?
 「若さま同心徳川竜之助 風神雷神」 真の敵、その剣の正体は
 「若さま同心徳川竜之助 片手斬り」 恐るべき因縁の秘剣

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2010.11.18

「蝶獣戯譚」第2巻 かけ違う心、狂いゆく関係

 「コミックバンチ」誌に連載されていた異色の時代漫画「蝶獣戯譚」の第2巻であります。
 戦国の世が終わり、行き場をなくして凶賊と化した「はぐれ忍び」を討つ狩人にして吉原の花魁・胡蝶こと於蝶の姿を描く本作、この2巻に入り、非常に面白くなった感があります。

 御免色里としての吉原を脅かす存在として勢力を伸ばしてきた湯女風呂の湯女。
 元々は風呂での垢掻きや髪梳きを行っていたものが、風呂屋の二階などで色を売るようになった一種の隠し売女が、この第2巻に収録された長編エピソードの題材となります。

 この湯女への潜入捜査を行うこととなった、里で於蝶が妹のように可愛がってきた少女・かがり。
 しかし湯女として勤めた先ではぐれ忍びたちの頭目格であり、そして於蝶のかつての恋人・一眞に無理矢理抱かれてしまったかがりは、やがて意外な選択をすることになるのですが…


 このエピソードを動かしていくのは、忍びと遊女という二つの顔を持つ、この於蝶とかがりというキャラクターの情念であります。

 早くから里で頭角を現し、忍びとして活躍していた於蝶と、忍びとしても女としても及ばないながらも於蝶を一心に慕ってきたかがり――
 かつては姉妹のように仲むつまじい間柄であった二人が、江戸で、任務の中で出会ったとき…その関係性が静かに崩れ、狂っていく。その様が、静かに、しかし圧倒的に胸に迫ってくるのです。

 二人の女の間に一人の男が入ることにより、二人の関係性が変質していくというのは、これは非常によくあるパターンですが、しかし本作で描かれるのが、単なる嫉妬の念ではないというのが良い。

 里で孤立していたかがりにとって、於蝶は憧れであり、安らぎをもたらしてくれる存在。しかしある日於蝶は任務で里を出て行き、再び彼女は孤独に――
 そんな中で彼女が求めたものは、自分がかがりに近づき…いや、自分がかがりになること。
(この辺りのかがりの感情は、男性作家であれば簡単に同性愛的なものとして描いてしまうところですが、そこをきちんと切り分けて描いてみせることが出来たのは、作者が女性だから…というのは、あながちうがった見方ではないでしょう)

 一眞に抱かれたことは任務上の成り行きとはいえ、かつての於蝶の男を結果的に奪ったことで、彼女のその念に火がつき、それはやがて吉原を滅ぼしかねぬもの――その現れがまた、彼女の屈折した想いと見事に結びついているのが心憎い――にまで育つことになります。

 そして一方の於蝶にとってもまた、かがりは――かがりにとっての於蝶とは全く異なる形で――かけがえのない存在であったのですが、それがまた二人の運命を狂わせていくという皮肉さにも唸らされます。

 そんな、互いの居場所を求める心がかけ違い、転がり落ちるように破局に向かっていく二人の姿が、一つの史実に収斂していくのもまた見事なのです。
(さらに、その二人の背後に、ある意志の存在が示される結末にも戦慄!)

 まさにこの舞台、この設定ならではの、それでいてどこか普遍性を持ったドラマに感心いたしました。


 正直なところ本作の第1巻を読んだときには、主人公のキャラクター像はそれなりに興味深いと思ったものの、さまで面白いとは思いませんでした。
 それは、まだ第1巻が設定紹介編的色彩が強い短編の連続であったことがあるかと思いますが、それがここまでの物語となるとは…。

 雑誌休刊で惜しくもこの巻で終了となった本作ですが、それを心から勿体ないと感じます。
 作者としてもこの扱いは不満の様子、なればこそ、いつかまた、於蝶の物語を…と心から願う次第です。

「蝶獣戯譚」第2巻(ながてゆか 新潮社バンチコミックス)


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2010.11.17

「仮面の忍者赤影」アニメ版 第21話「雷神砲炸裂!! 幻魔城へ」

 幻魔城に設置された雷神砲により、安土を砲撃する幻妖斎。その威力に驚く信長に、幻妖斎は千姫の引渡しを命じる。霞丸により千姫が奪われ、幻妖斎はさらに安土城明け渡しを通告。信長は、赤影に最後の希望を託す。幻魔城入り口を守る新型砲を破壊して、いよいよ幻魔城に臨む赤影たち。しかしその頃、寺子屋の子供たちが城内に迷い込んでいた…

 いよいよ本作も残すところ三話、クライマックスであります。

 幻妖斎が追い求めてきた平賀一族の黄金は、前回(夜叉王の自爆で)失われてしまいましたが、それが彼の心に火を付けました。
 幻妖斎が切り札とするのは、幻魔城で開発していた巨大な大筒・雷神砲――巨大な鳥の姿をした幻魔城の、その口から突き出す形で砲身を覗かせる巨砲であります。

 そして雷神砲は超々遠距離射撃(ペドロ曰く「目標距離1万2千」とのことですが、これはフィートかしらん)により、安土城の城下町を砲撃。
 その威力たるや、城下町にクレーターを作るほど…さしもの信長も愕然とするほどであります。
(ちなみに雷神砲の発射の際、幻妖斎は遮光のためにサングラスをかけるのですが…それが笑っちゃうほど格好イイのはさておき、おそらく火薬を用いる大砲で遮光とは…?)

 そしてそれとほぼ同時に信長の元に届けられる幻妖斎からの矢文は、内容こそ、自分と手を組めと書いていますが、実質それは脅迫状…その証拠に、信長の娘・千姫を自分の養女にしたいと書かれておりました。

 その千姫の行列を襲撃するのは霞丸。龍幻の妖気に当てられたか、彼らしくもない荒々しい表情で警護の兵たちに襲いかかる霞丸ですが、そのバックには何とキャラソンが!
 これがまたスローテンポで場面に似合わないのですがそれはさておき、初めてお互いの身分を知った霞丸と千姫、運命の出会いであります。

 何はともあれ千姫を手に入れた幻妖斎ですが、これは単なる嫌がらせだったらしく、ペドロにくれてやるなどと言い出します(それを聞いて「たんと可愛がってやる」などと言い出すペドロ)。
 そんな連中はさておき、監禁先で語りあう霞丸と千姫ですが…

 千姫の父・信長に一族が殺された際のことを語る霞丸に対し、千姫は、その気持ちはよくわかると答えてしまいます。
 これはさすがに霞丸も激昂! と思いきや、彼女の口から出たのは意外な言葉。
 彼女にとって、父は戦に明け暮れ、親子語らうこともない間柄。自分も戦に父を奪われ、一人ぼっちのようなものだと――

 なるほど、とこれには思わず納得。仇同士の間柄の二人を結ぶのは、戦国という時代が生み出した孤独だったと…実にうまいドラマ展開であります。
(にしてもこの二人、柴錬作品に出てきても違和感ないですね)

 囚われの娘がそんないい感じになっている一方で、信長の方には幻妖斎の次なる脅迫――安土城明け渡しが通告されます。
 以前幻妖斎と通じていた光秀は、しきりと一時退去を進めますが、それに対し柳生宗厳が招いたのは、もちろん赤影。

 赤影は、信長のためではなく、幻妖斎により苦しめられるであろう罪もない人々のために戦うと宣言して戦いに向かいます。

 折しも、前回偶然幻魔城を発見してしまった子供たちは、近くの湖に舫われていた舟の上で疲れて眠っているうちに幻魔城に漂着。
 子供たちを追ってきた青影と繭姫も、幻魔城を発見します。
(ちなみにいまだに二人が源之介の正体に気付いてないのには真剣に吃驚)

 しかし城の入り口で彼らを待ち受けていたのは、ペドロの南蛮式新型銃――というかガトリング砲。
 何でもあり時代劇でお馴染みアイテムの火力たるやすさまじいものですが、そこに駆けつけた赤影は、体に炎をまとい、刀の一閃とともに発射する飛騨忍法「大火炎放射の術」でガトリング砲を破壊!

 いよいよ四人揃って幻魔城に突入せんとし、幻妖斎が「来い赤影、この幻魔城をお前の墓場としてくれるわ!」と気張ったところで続く…

 かと思いきや、幻妖斎の後ろをちょこちょこ走っていく子供たち。緊張感とかそういうものが…幻妖斎も気づけよ!


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2010.11.16

「勝負鷹 金座破り」 心に掟を持つ男!

 江戸に現れた勝負鷹に、大仕事の声がかかった。標的は幕府が貨幣改鋳のために集めた古小判三千両。金座改役・後藤三右衛門に復讐せんとするその息子から情報を得た鷹は、昔なじみの腕利きたちを集め、金座破りに挑む。火盗改らの厳重な警戒をかいくぐり、鷹は見事三千両を奪うことができるか!?

 「勝負鷹 強奪二千両」で、痛快かつ鮮烈なデビューを飾った勝負鷹が帰ってきました。
 関東の名だたる親分衆の前から二千両を奪ってのけた鷹の次なる獲物は、江戸のど真ん中、金座に集められた三千両の小判。挑むは鷹と四人の仲間たちであります。

 その三千両というのもただの代物ではなく、水野三羽烏とも言われ権勢を誇った金座改役・後藤三右衛門が、貨幣改鋳のために集めた古小判。
 当然、幕府の威信を賭けた事情であるからして警備は厳重――鷹たち白波にとっては天敵とも言える火付盗賊改、さらには甲府から鷹を追ってきたが関八州取締出役が守る金座に、鷹は挑むことになります。そこで鷹が選んだのは、
 百化けの早乙女
 土手の道哲
 一つ目橋の龍蔵
 力士崩れ砲盛
と、二つ名を見ているだけでゾクゾクするようなプロフェッショナルたち。
 引き込み役の早乙女を除けば、今回はいずれも荒事のプロばかり、いずれも一癖も二癖もある面々が現れる場面には、大いに胸躍らせていただきました。

 しかしもちろん、鷹がどれだけ綿密な計画を立て、どれだけ頼もしい仲間を集めようとも、作戦がすんなりいっては話になりません。
 一見順調に進んでいるように見える計画の背後で密かに進むもう一つの計画…今回も、裏切りと罠に満ちたスリリングな冒険が展開されることになるのでありました。


 正直なところ、前作に比べるとミステリ色は薄いのですが――前作のクライマックスが豪快すぎるという気も――しかし、序盤で感じた小さな違和感が後々の伏線となる構成はやはりお見事。
 前作同様鷹同様、謎の覆面作家・片倉出雲は今回も大仕事をやり遂げた、と言ってよいでしょう。

 そして個人的にしびれたのは、勝負鷹のキャラクターであります。
 鷹の稼業は白波(盗賊)。どう転んでも善人にはなれず、むしろ目的のための障害は、誰であれ冷徹に排除していくであろう人物です。

 しかし、鷹は単なる悪党としては描かれません。
 己の悪に溺れて非道を働くのでもなく、かといって己の稼業を恥じるでもなく、また社会の落伍者面をしていじけるでもなく――

 ただ己のなすべきことを一心に行う、それが鷹の心意気であり、そして彼が己に課した掟なのでしょう。
 だからこそ、鷹が憎み、怒るのは、その掟に外れた裏切りなのです。
(シリーズ全体のキャッチフレーズに使ってよいほどの鷹のラストの台詞の格好良さ!)

 そしてそれだからこそ、その氏素性はほとんど不要なものとして描かれず(文庫書き下ろし時代小説としてはこれは実は破格のことであります)、我々読者と縁遠いところにいながらも、勝負鷹はこれだけ魅力的に映るのでしょう。

 心に掟を持つ男、勝負鷹。
 彼の更なる活躍に、今から胸躍らせて期待しているところです。

「勝負鷹 金座破り」(片倉出雲 光文社文庫) Amazon
勝負鷹 金座破り (光文社時代小説文庫)


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2010.11.15

「幕末めだか組」第4巻 阻め、将軍暗殺

 連載の方は惜しくも先日終了した「幕末めだか組」の第4巻であります。
 第3巻の後半で描かれた水戸脱藩浪士の陰謀がついにその牙を剥き、その中に海軍操練所・癸組、通称「めだか組」の面々も否応なしに巻き込まれることとなります。

 海軍操練所周辺で連続する怪事件。その背後で暗躍する水戸脱藩浪士の真の狙いは、操練所の視察に訪れる将軍・家茂の暗殺でありました。
 視察の際に礼砲を放つ予定の砲台を占拠し、礼砲の代わりに実弾でもって家茂や海舟の乗る蒸気船を砲撃する――一見乱暴ではありますが、しかし、一種盲点をついたこの暗殺計画に巻き込まれたのが、主人公をはじめとするめだか組…という展開であります。

 砲台に火薬を運ぶことになったものの、偶然砲台の役人(実は入れ替わった浪士たち)が偽者であることに気付いてしまったことから、浪士たちに捕らわれてしまっためだか組。
 もちろんこのままでは口封じに殺されることは必定、いや、彼らだけでなく、家定の命も…
 この二重の危機を如何に切り抜けるかが第一の山場ですが、しかし真のクライマックスはこの後から。

 辛うじて暗殺は阻んだものの、浪士一味は逃走のため、あろうことか操練所の帆船を奪い、その人質兼運転役に選ばれてしまったのがめだか組…
 安全な土地まで行けば解放するという約束であっても、もちろん浪士たちがそれを守るという保証はなく、さらに後ろから、浪士たちに恨みを持つ土佐の軍船が追ってくる中、めだか組の生き残りを賭けた戦いが始まることとなります。

 正直なところ、この辺りの展開は、海上に逃げた浪士組を、めだか組が(性能の劣る帆船で)追うような展開になるのかな…と予想していたため、かなり意外かつ、いささか不満――二連続で人質というのは正直あまり格好良くないわけで――ではありました。

 とはいえ、フィクションの世界でもそれほど多くないシージャックネタを、それも時代ものでやってしまおうというアイディアは、実に面白いですし、大いに評価するべきでしょう。
 そして、追いつかれても逃げ切っても死が待つという状況下で、彼らなりのやり方で逆転に持ち込むめだか組の活躍には、やはり読んでいてテンションが上がりました。

 しかし、悪人の陰謀を阻んでバンザイ、とはならないのは、やはり幕末ものらしいところ。
 事件の中、幾度となく繰り返されるめだか組と浪士たちの対話の中で浮かび上がる、どうしようもないすれ違いと不寛容の姿は、極端なものとはいえ、この時代というものの一面を、確かに切り出したものなのでしょう…

 そして、物語冒頭から主人公のトラウマとして語られてきた鴨池丸事件の名が、ここで浪士の口からも語られることとなります。

 果たしていかなる事件なのか――それはまだまだ最終巻である次巻まで引っ張られることとなりますが…さて。


 ちなみに第3巻の感想で、その存在感がめだか組にとってはマイナスに働くのではと心配した龍馬ですが、今回の事件の中では、めだか組を助ける兄貴分として、目立ちすぎず埋没しすぎず…
 と、助演男優ぶりを遺憾なく発揮。こういう使い方は良いですね。

「幕末めだか組」第4巻(神宮寺一&遠藤明範 講談社KCデラックス) Amazon
幕末めだか組(4) (KCデラックス)


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2010.11.14

「快傑ライオン丸」 第03話「魔の森 わくらんば」

 山焼きで行く手を塞がれた獅子丸たち。そこに浪人たちが襲いかかるが、その中の一人・蒲生城太郎が仲間を裏切り、獅子丸たちを助ける。ドクロ仮面がこの先の森で何かを企んでいることをを知った獅子丸たちは、城太郎の制止も聞かず森に踏み込む。が、獅子丸は現れた怪人わくらんばの前に敗北、城太郎に救われる。それでも城太郎を置いて再戦に臨んだ獅子丸。今度は変身に成功し、わくらんばの企てを打ち砕くのだった。

 「快傑ライオン丸」第3話に登場するのは、なかなか珍しい木の葉の怪人・わくらんば(病葉…)。
 アバンで禁忌の森に踏み込んだ村人を襲って惨殺するというのは前回と同じパターンですが、犠牲者に貼り付いているのがやけに明るい色の木の葉なのでまだましです。
 ちなみにこのわくらんば、目の部分は人間の目がそのまま見えるデザインで、これが妙に生身感(?)を感じさせてくれます。

 その配下のドクロ忍者は、自分に合わせてか衣装の色は緑。これが巨大な蓑虫の蓑に入って、上から落ちてくる(下から刃が突き出す)という攻撃は、かなりのインパクトであります。
 まあ、つり下がってる糸を切られると終わりなのですが…

 そのわくらんばの企みは、浪人を集めて砦を作り、これを足がかりに日本を戦火に包むという遠大なもの。
 まずはその邪魔者である獅子丸を抹殺するため、浪人たちを使って森におびき寄せようとするのですが、そこに意外な妨害が!

 それが今回の実質的な主役とも言える謎の男・蒲生城太郎。演じるは惜しくも本年の元旦に亡くなった成川哲夫氏ですが…いやこれはある意味反則なキャラクター。
 ご存じない方のために解説すれば、本作の前に放映されていたのは、同じピー・プロダクション制作の「スペクトルマン」。その主人公は、成川哲夫氏が演じる蒲生譲二――
 つまり、この蒲生城太郎は蒲生譲二のセルフカバー的キャラクターなのであります。

 もちろんこれは一種のお遊びではありますが、第3話にして強力な援軍登場! というよりは、あまりにキャラが立ちすぎていてほとんど獅子丸たちを食ってしまった状態。

 獅子丸のキャラクターがまだ視聴者に馴染んでいない(しかも基本的に彼は生真面目)一方で、直前まで一年以上活躍していた、しかも飄々ととして明るい、垢抜けたキャラクターが登場しては…

 実際、城太郎は人間臭くて実に魅力的な人物です。
 かなりの体術の使い手ながら、基本的に呑気な酒好きの楽天家。
 獅子丸たちと絡むのは、わくらんばに金で雇われたのがそもそもの理由ですが、「子供を斬れと言われた覚えはない」と言い放ってあっさり鞍替えするスマートさも格好良いのです(この時、「銭は十分に渡してあるはずだ」と言われて「殺しをやるほどもらってない」と答えるのもいい!)

 何だかんだで獅子丸たちと行動を共にした際には「この世の中で大事なものは命と金」と断言し、正義のために戦うという獅子丸の行動を半ば呆れたように見守りつつも、獅子丸たちの危機には、一文にもならないにもかかわらず駆けつける…
 というのはまあお約束ですが、やはり実にいいではありませんか。

 対するに今回の獅子丸は、城太郎が止めるのも聞かずにわくらんばの森に向かうも、ファーストコンタクトでは何故か(全く理由は語られず…わくらんばの起こした風に邪魔されたというわけでもなく、本当に謎)金砂地の太刀の封印が解けず変身に失敗。

 わくらんばの木の葉攻撃の餌食となって、城太郎に救われるという有様で、先輩ヒーロー(?)が相手とはいえ、ちょっとかわいそうな役回りでした。
 もっとも、二度目の対決では、高い木の上に立って風を呼び、わくらんばの風を相殺。きっちりと変身して、空中戦を制した上でライオン丸飛行斬りで、しっかりと決めてくれるのですけれどもね。
(この時、勢い余ってわくらんばもろとも倒れ込むのが、文字通り体当たりアクションで素敵ではありました)


<今回のゴースン怪人>
わくらんば
 全身を木の葉で覆われた怪人。青竜刀に似た得物を持つ。頭から強風とともに木の葉を打ち出し、相手を窒息させてしまう。
 浪人たちを集めて森に砦を作り、日本侵略の足がかりにせんとするも、獅子丸や城太郎に阻まれ、ライオン丸飛行斬りに敗れる。

「快傑ライオン丸」(アミューズソフトエンタテインメント DVDソフト) Amazon

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2010.11.13

「鏡の偽乙女 薄紅雪華紋様」 死者と生者、近代と現代の間に

 画家を志して家を飛び出した青年「私」こと槇島風波は、穂村江雪華と名乗る不思議な美青年に出会う。絵の才能もさることながら、この世ならざるものと交感する力を持つ雪華に興味を抱いた風波は、雪華の住む根津の下宿に転がり込む。そこで出会うことになるのは、亡霊や未練者の悲しい魂たちだった。

 朱川湊人先生が大正を舞台としたホラー連作を書いた…とのことで気になっていた「鏡の偽乙女 薄紅雪華紋様」を遅ればせながら読みました。
 画家志望の青年「私」・槇島風波と不思議な力を持つ美青年画家・雪華が出会う、生者と死者にまつわる奇妙で切ない事件を描いた五編からなる連作短編集であります。

 語り手である風波は直情径行で人情家、肉体派の凡人。対するその親友・雪華は、常人離れした才能を持つ天才肌の、しかし一種の変人――
 この組み合わせは、やはりシャーロック・ホームズものを思い出させるものであり、本作も一種の怪奇探偵もの、ゴーストハンターものかと読み始める前は思いました。
 しかし、事件性があるエピソードは第四話くらいのもので、作中に登場する生者にあらざる者の悲しみ、鎮魂を描くのに重点が置かれているのは、これは作者の味というものでしょう。

 さて、先に述べた通り、本作は大正を舞台とした作品ですが、読み始めた当初は――風波と雪華の不思議な出会いを描く第一話「墓場の傘」、雪華の下宿の隣の部屋に住むことになった風波が、部屋に憑いた青年を解き放つために奔走する第二話「鏡の中の偽乙女」あたりまでは、あまりパッとした印象を受けませんでした。

 確かに、大正の事物は様々に描かれている。しかし、大正である必然性は…という点が、正直なところ不満に感じられたのですが、その印象は、第三話以降、良い方向に転じていくことになります。

 実際、本作は雪華の友人である奇人画家・平河惣多(明らかに村山槐多なのですが、何故実名でないのか不思議に感じます)の近所の一家にまつわる綺譚である第三話「畸譚みれいじゃ」で転機を迎えます。

 このエピソードに掲げられている「みれいじゃ」とは、「未練者」と書き、本作独自の概念である生ける死人であります。
 みれいじゃが単なる(と言っては失礼かもしれませんが…)死霊と異なるのは、確かな実体を持ち、生者の中に入り交じって生活をしている点。
 その命を失う際に強烈な現世への未練を持ち、それがために生者と死者の間で現世に在り続ける――場合によっては己がみれいじゃであることも気付かずに。

 そんなみれいじゃをそのある意味呪われた軛から解放すべく、その後の第四話・第五話も雪華・風波は奔走するわけですが…
 そのみれいじゃという存在に、私は大正という時代を感じました。


 …大正という時代は、現代の我々から見れば、いささか印象の薄く感じられるように思います。
 それは、前後の長きに渡った時代に比してごく短い時代であることや、その中途であの大破壊が起きたこともあります。
 しかしそれ以上に、近代と現代の間にあって、どちらでもあり、どちらでもない、そんな時代であったためではないかと――そう感じるのです。

 そのあちらこちらに近代の(ところによってはそれ以前の)事物を残しつつ、政治も社会も文化も、現代の新たな息吹を感じていた――そしてそれ故の矛盾、混乱が生まれていた時代。
 そんな大正という時代の在り方に目を向ければ、それがみれいじゃという、生者でなければ死者でもない、そんな存在に重なり合って見えるのです。


 そう考えてみれば、風波と雪華がみれいじゃと対峙し、その真の姿を捉えようとするのは、同時に、大正という時代そのものを捉えようとする試みではないかと――いささか牽強付会ではありますが――感じられます。

 作中で、彼らの下宿の風変わりな女中・お欣がその見えぬ片目で幻視するように、あと数年で破滅を――そしてそれによって近代以前の姿が一掃されたことは、多くの人々が指摘しているところであります――迎えんとする帝都。
 その帝都で、風波と雪華が何を見るのか…おそらくはいずれ登場するであろう続編に期待しています。

「鏡の偽乙女 薄紅雪華紋様」(朱川湊人 集英社) Amazon
鏡の偽乙女 ─薄紅雪華紋様─

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2010.11.12

「機巧奇傳ヒヲウ戦記」(漫画版)第4巻 そして新しいPageへ

 もう一つの「機巧奇傳ヒヲウ戦記」、漫画版の最終巻、第4巻であります。
 アニメ版では三剣藩を経て、下関での戦いで結末をみた風陣との戦いですが、この漫画版では、三剣藩で決着がつき、その後に漫画のみの、もう一つの結末が描かれることとなります。

 三剣藩主の座を狙い風陣と結んだ叔父の元に自ら戻った華と雪。二人を追って三剣藩に入ったヒヲウを待ち受けていたアラシは、合体機巧・命でヒヲウの炎と激闘を繰り広げます。
 しかし命のパワーの前に苦しめられる炎。さらに、ヒヲウたちの前に現れたのは、風陣のために働いていた父・マスラヲ…
 この辺りのストーリーは、アニメ版とほぼ同じですが、大きく異なるのはここからであります。

 アニメの三剣編で描かれるのは、ヒヲウたちとマスラヲの別れまでであり、風陣との決着は、その後の長州編まで持ち越されました。
 しかし、この漫画版では、長州まで行かず、三剣藩で全ての決着がつくことになります。

 なるほど、アニメ版の構成自体は――馬関「戦争」の中でヒヲウが自分の成すべき道を見出す件など――良くできていたと思いますが、史実や実在の人物が多く絡み、その描写を漫画で行うのは難しいでしょう。
 そう考えると、ここでマスラヲとの別れと風陣との決着、二つの山をまとめてしまうのは、大いにアリかと思います。

 そして始まるのは、漫画版オリジナルの大決戦。アニメでは途中でフェードアウトしたアカがクロガネに叛旗を翻して海鬼を強奪し、登場人物の全てを巻き込んだ大乱戦が展開されます。

 この海鬼、アニメ版では水中と海上とで暴れ回りましたが、この漫画版ではついに空まで飛ぶ万能戦艦ぶりを発揮。
 空から全てを制圧しようとするアカに対し、ヒヲウが、才谷が、アラシが、半蔵が、力を合わせ挑む――
 これはこれで活劇しすぎていて、アニメで描かれたヒヲウの悩みがオミットされているという批判もできるかもしれませんが、しかし、その中で親と子の絆はしっかりと――アニメとはまた異なる形で――描かれていきます。

 そして戦いの果て、マスラヲはアニメとはまた異なる形でヒヲウたちと別れを告げて文久篇は終わるのですが――


 その先に迎える最終回のタイトルは「明治篇」。なんとなんと、アニメでは描かれることのなかった明治時代のヒヲウたちの姿が描かれることとなります。

 ヒヲウ(前髪は普通)はシシ、マチ、ジョウブらと機巧郵便を営み、サイやテツは岩崎弥太郎を後見人に学問に励んでいる様子(マユは医者に嫁いで子持ちに)。
 それぞれに平和に暮らしている中、開通間近の鉄道と競うように線路を走る、炎に似た謎の機巧が出現。さらに華が何者かに誘拐され、ヒヲウのもとに挑戦状が届けられます。

 …とくれば犯人は予想通りアラシ。漫画版では三剣での決戦で行方不明になっていた彼は、世界中を巡って腕を磨き、ヒヲウと雌雄を決すべく、新たな巨大機巧をひっさげて日本に帰ってきたのですが――

 ヒヲウがそのアラシの想いにどのように応えるかは伏せておきますが、ああ、やっぱりヒヲウはヒヲウだと納得できること間違いなしの結末を物語は迎えることになります。


 もっとも明治篇はこの一話のみ、ここに至るまでのヒヲウの、アラシの物語はほとんど語られず、想像するほかありません。
 しかしアニメで冒頭が描かれたのみの第二部(漫画流に言えば「慶応篇」ということになるでしょうか)どころか、さらにその先のヒヲウの物語を見ることが出来たのは、ファンとして本当に嬉しいお話。

 そして、アニメED映像を思わせる美しい結末を見るに至り、本当に読んで良かったなあと、しみじみと感じさせられます。


 アニメと漫画というメディアの違いというものはやはり非常に大きいと思いますが、しかしその制約の中で、見事にもう一つの「機巧奇傳ヒヲウ戦記」結末を迎えた本作。
 アニメと続けて読み直すことにより、改めて、その面白さを再確認いたしました。

「機巧奇傳ヒヲウ戦記」第4巻(神宮寺一&會川昇&BONES 講談社マガジンZKC) Amazon
機巧奇傳ヒヲウ戦記 4 (マガジンZコミックス)


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2010.11.11

「鬼舞 見習い陰陽師と御所の鬼」 ネクストジェネレーションの陰陽師たち

 陰陽師となることを夢見て播磨から京に出てきた少年・宇原道冬。しかし京の屋敷は荒れ放題で亡霊や付喪神が出没。陰陽寮に行けば、安倍晴明の子・吉昌に何故か妙に気に入られ、周囲の嫉視を受けたりとトラブル続き。その上、吉昌や兄の吉平とともに、衛門佐を悩ませる物の怪と対決する羽目になって…

 「暗夜鬼譚」「地獄の花嫁がやってきた」と、これまでもユニークな平安ファンタジーを発表してきた瀬川貴次先生の最新作「鬼舞 見習い陰陽師と御所の鬼」が登場です。

 サブタイトルにあるように、今回の主人公は見習い陰陽師の少年・宇原道冬。
 播磨(作中でも説明されていますが、播磨といえば陰陽師の産地? ですね)から青雲の志を抱いてきた道冬君ですが…言うまでもなく無事に済むわけがありません。

 京で住む屋敷の大家さんが年上バツイチの美女なのはまあいいとして、その屋敷というのが、かつての河原院(と、ここでニヤリと出来る方は平安好きだと思います)なのが最初の不幸であります。
 屋敷の中には大量の付喪神が住み着き、それが妙に道冬に懐く始末。さらに、河原院の主である左大臣・源融の亡霊が現れ、大家さんとの仲を取り持つように泣きついてきます。

 しかしこんなのは序の口。陰陽寮に行ってみれば、新人いびりにあった上に、学生たちの憧れの的である安倍晴明の次男・吉昌に妙に気に入られてしまいます。
 この吉昌、外見は超美形ですが性格は傲岸不遜で超俺様。ああ、父親似ですね…というのは後述するとして、どうやら周囲から特別視される自分に素直に接した道冬のピュアっぷりを気に入ってしまった模様。

 この辺りの吉昌の道冬かわいがりっぷりは、どうも男としてむずかゆいものを感じるのですが、それはまあ、さておき。

 それが元でさらに周囲にいびられることになった道冬は、鬼が出ると評判の部屋に閉じ込められ、あわや鬼の餌食にされかけたり、衛門佐の奥方を悩ませる物の怪退治に付き合わされる羽目になったりと、上京早々、波瀾万丈の毎日を送る羽目になる…というのが本作のあらすじであります。


 今回はシリーズ開幕編ということで、どちらかと言えばキャラクター紹介の側面が強く、お話的にはそんなに入り組んだものではないのですが、しかしそれでも物語運びの確かさや、何よりもキャラクター造形の面白さで読ませてくれるのは、さすが瀬川先生かと思います。

 特に、先に述べた付喪神(自分に座れ座れと無言でせがむ畳が可愛くてねえ)や、源融の亡霊といった異界の存在の、はた迷惑ながら妙に愛嬌のあるキャラクター性は、これはもう瀬川節としか言いようがありません。
(そもそも、ここで河原院を持ってくるセンスはやはりうまい)

 そして何より、瀬川ファンとして見逃せないのは、吉昌とその兄の吉平(この美形兄弟の描き分けもまた面白いのですが)の父としてちらりと顔を見せる安倍晴明の存在でしょう。

 瀬川先生の平安ものと言えば「暗夜鬼譚」、その主人公・一条こそは後の…
 というわけで、その辺りのつながりを期待してみると、関係は明確には示されないものの、その美形ぶりと傲岸不遜でイイ性格をしているところは「彼」そのまま。
 ファンとしては旧友に再会したような、なんとも懐かしい気分になった次第です。


 さて、過去のことはさておき、シリーズは始まったばかり。
 道冬の身に宿るという謎の力の正体は何か、妙に安倍家を敵視する道冬の守り役・行近の思惑とは何なのか。

 道冬君の成長と、彼を含めたネクストジェネレーションの陰陽師たちの活躍に期待しましょう。

「鬼舞 見習い陰陽師と御所の鬼」(瀬川貴次 集英社コバルト文庫) Amazon
鬼舞 見習い陰陽師と御所の鬼 (コバルト文庫)

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2010.11.10

「仮面の忍者赤影」アニメ版 第20話「秘宝発見!! 赤影VS夜叉王」

 谷底に転落した赤影のことを悲しむ間もなく、繭姫たちは剣山に向かう。一方、夜叉王は目的地の龍神の滝に到着したものの、洞窟に仕掛けられた罠に苦しめられていた。追いついた繭姫一行は、偶然の助けもあってついに財宝の間の扉を開くが、夜叉王に捕らわれてしまう。しかしその時、夜叉王の配下の中に潜んでいた赤影が参上。夜叉王の攻撃の余波で洞窟が崩れる中、夜叉王は赤影に敗れ、財宝は地の底に埋もれるのだった。

 平賀一族の財宝争奪戦もついに大詰め、前回ラストから完全に続きものになっている今回のエピソードであります。

 前回ラストで霞丸に敗れ、深い谷底に転落した赤影。
 青影は繭姫とともに赤影を必死に捜しますが、白影はそんな青影に、目的を越えるためにはたとえ親兄弟の屍を乗り越えていくのが忍びだと語ります。
(こう言われて初めて、そういえば彼らも忍びだったんだ…と思い出してしまうのも何ですが)

 さて、功を急ぐ夜叉王のは、もう助勢は不要と霞丸を帰し、幾本もの滝が横に並ぶ目的地の龍神の滝に到着するのですが…
 夜叉王の命で潜入した下忍たちは次々と罠にはまり死亡、もうちょっと考えましょうよという下忍の言葉にも耳を貸さない脳筋ぶりを発揮であります。

 が、そんな夜叉王も、紅秘帖の「紅しずむとき」の文言から、夕陽が沈む時に剣山の頂が影を落とす洞窟こそが宝のありかと推理、今度は自分も中に突入します。
 それに遅れて到着した白影たちも、何者かが残した目印を頼りに夜叉王を追います。

 そして洞窟内部で彼らにも牙をむく罠の数々、どこかで見たような大岩に潰されかかったり(うーん「レイダース」から6年後の作品なのに…)、何故か洞窟内にあった溶岩の池に落とされかかったり…
 しかし、彼らを見つけた夜叉王が後ろから三叉矛を投げつけたとき、運良く落とし穴の罠が発動して躱した三人。
 そしてさらにラッキーなことに、落ちた先はどうみても人工の洞窟、そして行き止まりには巨大な龍の顎が現れます。

 ここで紅秘帖の「龍より出し黄金の剣」との文言を思い出した(先の滝の仕掛けといい、紅秘帖の文言が何回もリピートされて鍵になるのは、らしくていいですねえ)繭姫が、一族に代々伝わる太刀・黄金丸を行き止まりのスリットに差し込むと――
 開いた先には黄金で出来た寺院(みたいな建物)をはじめ、莫大な財宝が!

 しかしそこに現れたのは夜叉王、青影も白影も全く敵わず、網に捕らえられた三人の命は風前の灯火に…
 が、そこで下忍の一人が網を切り、他の下忍たちを次々に倒していきます。
 その正体こそは――もちろん赤影。前回ラストで谷底に落とされかかった際に下忍を捕まえ、すり替わっていたのであります。

 驚きと怒りにまかせて襲いかかる夜叉王は、お得意のヨーヨー式盾で赤影たちに襲いかかりますが、その攻撃は洞窟の柱を次々と破壊して…だんだんイヤな予感がしてきましたよ。
 そして以前に戦った時と同様、その盾の上に飛び乗った赤影。
 しかし夜叉王も、盾の上の赤影を串刺しにすべく、矛を構えるのですが――
 しかしそれを予期していた赤影は盾を繋ぐ鎖を切断、盾はそのまま飛んで夜叉王を直撃!

 あまりに脳筋なダメージを受けた夜叉王はそのまま吹っ飛んで黄金寺院に直撃。それがとどめとなって洞窟は崩壊、財宝は全て地の底へ…
 当然夜叉王も絶命したと思われますが、いやはや、あまりの脳筋ぶりにびっくりの結末でありました。

 こうして財宝は消えてしまったわけですが、繭姫たちにとっては争いの種がなくなり、むしろめでたしめでたし。
 しかし、幻魔城編の中心であった財宝争奪戦が終わってしまったこの後は…あと残り三話あるのですが。

 と思えば、怒りに燃える幻妖斎は力尽くで信長を倒すことを宣言。それを可能とさせるのは、ペドロがついに完成させたという雷神砲――

 と、折しも犬の源太の鼻を頼りに青影たちを追ってきた寺の子供たちが見つけたのは幻魔城。
 果たしてここから何が起こるのか…いよいよ本作もクライマックスであります。


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2010.11.09

「亜智一郎」シリーズ(漫画版) 幕末名探偵ふたたび!?

 人間、一念の極まるところ奇跡を起こす…というのはもちろん大袈裟ですが、刊行されているかわからない作品でも、探し続ければ出会うこともあるもの。
 この池田恵先生による漫画版「亜智一郎」シリーズとの出会いは、私にとってはまさにそれであります。

 この「亜智一郎」シリーズは、元々は故・淡坂妻夫先生の連作時代ミステリ小説(そして同時に、現代を舞台とした連作ミステリ「亜愛一郎」シリーズのスピンオフ、時代小説版であります)。
 幕末の江戸を舞台に、タイトルロールの亜智一郎ら雲見番四名が、将軍直属の隠密として、様々な怪事件に挑むという趣向の作品です。

 そもそも雲見番とは何か? と言えば、これが江戸城の雲見櫓から日がな一日空を眺めて、天変を感知するというお役目。
 ずいぶん太平楽な役目もあったものですが、その頭の亜智一郎は、実は人並み外れた推理力の持ち主、安政の大地震をきっかけに、江戸城に乱入しようという一党の陰謀を未然に察知し、将軍の命を救ったことをきっかけに、既に往時の力を失った御庭番に代わり、将軍直属の隠密を拝命することになります。

 彼の部下となるのは、ただ一人幕末まで甲賀流忍法を継承する藻湖猛蔵、怪力で総身に刺青を入れた古山奈津之助、そして武士ながら大の芝居マニアで武張ったことは大の苦手の(にもかかわらず、件の地震で建物に挟まれた片腕を自分で切り落としたと――実は猛蔵に斬ってもらったのですが――緋熊重太郎の三名。

 この個性的な四名が、およそ事件とも思えぬようなささいな出来事をきっかけに、次々と陰謀を暴いていく、というのがシリーズの基本スタイルであります。


 さて、原作の紹介が長くなってしまいましたが、今回出会うことができた漫画版は、「無敵のビーナス」などの池田恵先生が、秋田書店の「サスペリアミステリー」誌に連載したもの。
 女性向け漫画における時代ものには密かに強い出版社らしく、同誌には時代ミステリの漫画化作品が結構な数掲載されているのですが、その一つが本シリーズなのです。

 実は本シリーズ、雑誌掲載時に読みのがしてしまったものの、単行本化されておらず、何とか読んでみたいものと非常に残念な思いをしておりました。
 それでも何らかの形でまとめられているはず…例えば、オリジナル編集のコンビニコミックの形式で、と考えておりましたが、その予想は見事当たり、同誌掲載の時代ミステリ集の中に収録されていたのを今回発見した次第です。

 さて、今回収録されているのは、将軍に献上された時計に秘められた陰謀を智一郎が暴く「南蛮時計」、大地震と雲見番誕生を描く「雲見番拝命」、老人を往生させる秘儀の背後に意外な惨劇が潜む「補陀落往生」、将軍の御落胤探しが思わぬ形で落着する「女形の胸」、そして猟奇的な儀式殺人の末に思わぬ歴史的事件が浮かび上がる「薩摩の尼僧」の全五編。

 内容的には、原作をかなり忠実に漫画化しているため、正直なところ良くも悪くも言うことなしなのですが――ただし、「女形の胸」のトリック(?)は、漫画にすると一層――やはり池田先生の絵が良いのです。

 池田先生の絵柄は、丸みがかった線で、ある意味いかにも漫画的(?)なのですが、それが、智一郎をはじめとして非常にキャラが立った雲見番衆を描くのに、よくマッチしているという印象。
 特に智一郎の、優男で知的なんだけどどこかすっとぼけてちょっとずるそうなキャラクターがイメージ通りで実に良いのです。

 さすがに新作は難しいかとは思いますので、今この時期にこうして出会えただけでも感謝するべきなのかもしれませんね。

「亜智一郎」シリーズ(池田恵&泡坂妻夫 秋田書店トップコミックスWIDE「大江戸捕物ミステリー」所収) Amazon


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2010.11.08

「早雲の軍配者」 関東三国志前夜の青春群像

 北条早雲に仕える風間一族の少年・小太郎は、その非凡な学問の才を見いだされ、将来を担う軍配者となるため、足利学校に送られる。足利学校で山本勘助、曾我冬之助ら才能ある若者たちと友情を結ぶ小太郎だが、北条家と上杉家の開戦を期に呼び戻される。それは、友との戦場での再会を意味していた…

 いま書店でなかなかの評判となっている富樫倫太郎先生の「早雲の軍配者」をようやく読むことができました。
 軍配者というのは、単なる軍師の役割に留まらず、気象予測、易学や陰陽道、戦場での作法など、戦争全般に関わるブレーン役。
 本作の主人公・風摩小太郎は、この軍配者となるために、修行を積むこととなります。
 それにしても、風摩(風魔)小太郎と言えば、風魔一族の頭領として知られた人物。
 しかし、本作においては、早雲に仕えて忍び働きを行う風間一族は登場する(そして小太郎はその初代頭領の息子ではある)のですが、しかし小太郎は、忍びとは異なる、軍配者として設定されているのが実に面白い。

 本作は伝奇性は薄い(この他、山本勘助の「正体」が目を引く程度?)のですが、しかし、このキャラ設定のひねりは、かつて極めて個性的な伝奇小説を次々とものしてきた富樫先生らしい…と感じます。

 そして、その本作には、そのほかにも、幾つか他の戦国ものにない、ユニークな特徴を持っています。

 その一つは、舞台設定であります。
 本作の背景となるのは北条早雲(伊勢宗瑞)の晩年から、その子・氏綱の時代まで。
 戦国時代の関東は、後に北条・上杉・武田の三家が鎬を削る、いわば関東三国志の状態となりますが、本作はその前夜ともいうべき時代が舞台となるのです。

 早雲を描いた作品や、その孫・氏康の頃を舞台とするものは少なくありませんが、その間、北条家が関東における地位を確立するこの時期――実にこの時期こそ、滅亡前を除けば北条家が最も揺れ動いた時期なのではないかと思うのですが――の関東を描いた作品は少なく、まずその着眼点に感心します。

 そしてそれ以上にユニークな点は、そこで展開される物語が、青春もの――いやそれどころか、一種学園ものであることであります。
 本作の中盤の舞台となる足利学校は、漢籍仏書を講述する学問所というイメージがありますが、しかしこの時代においては、一口にいえば軍配者の養成所の役割を果たしておりました。
 小太郎はこの「学校」で学び、そこで出会った友と友情を育むこととなります。

 我々にとって、学校とはもっと後世の、(早くとも江戸時代といった)平和な時代に存在するものというイメージがあります。
 当然、そこで展開されるドラマもまた…と思っていたのですが、何と戦国時代で学園ものを展開するとは…と、大いに驚きました。
 そして、そこで展開する小太郎たちのドラマが、そのまま、先に述べた関東三国志の行方に繋がっていくのがまた面白い。
 北条家の小太郎、扇谷上杉家の曾我冬之助、やがて武田家に仕える勘助…図らずも、足利学校で出会い、交誼を結んだ三人の若者が、やがて関東を動かす軍配者に成長していくというのは、たまらないロマンがあるではありませんか。


 しかし、本作においては、小太郎の、三人の物語はまだまだ始まったばかりのところで幕となります。
 この辺り、おそらく読者のほとんど全員――もちろん私も含めて――が不満に感じる点ではないかとは思いますが、おそらくこれだけの人気が出ているのであれば、続編を目にする日は、さほど遠くはありますまい。

 不満と言えばもう一点、小太郎があまりにも良い子に過ぎる、さらに言えば早雲をはじめとして北条家がみな仁君過ぎるという点も、気にかからないでもありません。

 もっともこの辺りは、武ではなく智によって戦いを勝利に導く、軍配者という存在を考えれば、相応しい設定かもしれません。
(史実においても、北条家は戦国大名でほとんど初めて分国法の制定や検地を行った、統治の達者という印象があります)

 何よりも、血で血を洗う戦国時代を舞台としつつも、この設定が、本作をして、実に爽やかで気持ちの良い読後感をもたらしていることは間違いありません。

 単なる北条家に仕える軍配者ではなく、早雲の理想を体現する軍配者、真に「早雲の軍配者」として立つ小太郎の姿を、早く見たいものです。

「早雲の軍配者」(富樫倫太郎 中央公論新社) Amazon
早雲の軍配者

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2010.11.07

「快傑ライオン丸」 第02話「倒せ!! 怪人ヤマワロ童子」

 旅の途中、女から金砂地の太刀を売ってくれと頼まれる獅子丸。女の赤ん坊がヤマワロ童子に攫われたと知った獅子丸はヤマワロ童子を待ち伏せるが、太刀と笛を奪われた上、沙織が攫われてしまう。ヤマワロ童子は沙織の処刑を宣告、太刀は山の洞窟にあると語る。妨害に苦しみながらも洞窟に辿り着いた獅子丸は、厚い氷の中から太刀と笛を取り戻し、ライオン丸に変身。ヤマワロ童子を倒し、間一髪で沙織を救い出すのだった。

 「快傑ライオン丸」第2話は、早くも変身アイテムである金砂地の太刀が奪われる獅子丸一行の大ピンチ編であります。

 冒頭、いきなり巨大な蜘蛛に襲われる村人。プロップ感丸出しなのですが、それが逆に異次元の怖さ…というのは蜘蛛嫌いの感想ですが、吐き出す糸がオレンジ色だったり、村人の服の内側に入り込んでいたり、とにかくイヤな演出です。

 この毒蜘蛛を操るのは、ましら山に潜むヤマワロ童子。
 獅子丸一行が近くを通ることを知ってか、村の女から赤ん坊を攫い、引き替えに金砂地の太刀を差し出させようという実にクレバーかつ嫌らしい作戦です。

 ここでこちらが驚くくらい素直に太刀を差し出した獅子丸。もちろん、単に太刀をヤマワロ童子に引き渡すのではなく、太刀をエサにおびき出そうとするのですが…
 しかし、いつの間にか太刀は偽物にすり替えられた上、小助の笛は奪われ、沙織は攫われるという惨憺たる有様。
 前回の磔に続き、今回は緊縛吊り下げを喰らった沙織さんは、足元には毒蜘蛛の群れが待ち受けるところに、縄が徐々に切れていくというドSにもほどがある責めをくらいことに…

 赤ん坊は帰ってきましたが(意外といい人ヤマワロ童子)、今度は自分たちの太刀と笛を取り返す羽目になった獅子丸と小助は、行った者は帰れないと言い伝えられる山中の洞窟へ向かいますが、毒蜘蛛やら蛭やらドクロ忍者(しかし足手まといの小助を抱え、片腕でチャンバラを繰り広げる獅子丸の強いこと!)やらに襲われ早くもグロッキー。

 ようやく辿り着いた洞窟では、ヤマワロ童子の毒煙責めを喰らい、置くまで逃げてみれば太刀と笛はブ厚い氷の中に!
 いやはや、畳みかけるようなピンチにこちらのテンションも上がります。

 そして小細工なしの根性勝負(もう少し細工が欲しい気もしましたが…)で氷を割り、太刀を取り戻した獅子丸の「風よ-っ!」の叫びで吹き戻される毒煙。いよいよ逆転だ!
 …と、追い詰められて追い詰められてようやく変身したライオン丸とヤマワロ童子の決戦は、ちょっとアップを多用しすぎなのが残念。
 意外と特殊能力がなかったヤマワロ童子は、ライオン丸初披露の必殺技、上空から敵目がけて落下しながら刃を突き刺す「ライオン丸飛行斬り」で爆発するのでした。

 小助の呼んだヒカリ丸で沙織を救い出し、赤ん坊の母親にも感謝されてまずはめでたしめでたしであります。


 しかし今回のヤマワロ童子、妖怪を騙っていたのか本当に妖怪だったのかわからない存在感がちょっと面白い。
 ちなみに前回の予告ではカッパ怪人、ものの本では毒蜘蛛怪人と呼ばれていて混乱するのですが、河童が冬になると山に登って山童になるという言い伝えもあるので、個人的には話のノリ的にも前者を採りたいところです。


<今回のゴースン怪人>
ヤマワロ童子

 ましら山に潜み、毒蜘蛛を操る怪人。軍配のような形の武器を持ち、その先端から毒煙を吹き出す。
 村人を脅して獅子丸から金砂地の太刀を奪った上、沙織を処刑しようとするが、ライオン丸には歯が立たずライオン丸飛行斬りで倒された。

「快傑ライオン丸」(アミューズソフトエンタテインメント DVDソフト) Amazon

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2010.11.06

「隠密姫」 野生の姫君隠密行?

 安房鋸山の寺で育てられた野生の美少女・由璃。実は自分が将軍吉宗の落胤であることを知らされた由璃は、父との対面のために江戸に向かうが、母の形見の金のかんざしを、御庭番・鵜ノ木三四郎に奪われてしまう。そのかんざしを自分の母のものと語る三四郎の正体は。そして江戸で由璃を待つ運命は…。

 思い出したように陣出達朗作品紹介シリーズであります。
 今回は八代将軍吉宗のご落胤が活躍する「隠密姫」。貴種流離譚に宝探しが絡んだ波瀾万丈、いつものことながら先の見えぬ時代活劇です。

 本作の主人公・由璃は、安房の鋸山で育てられた野生児。その彼女が、山に巣くう大ワシと対決する場面から物語が始まります。
 この大ワシ、なんと人の髪の毛で巣を作って子供を育てるという習性で、そのために山道を行く人を襲っては、その首もろとも黒髪を奪っていくという怪物であります。

 この怪物の巣から、母の形見だという金のかんざしを見つけた由璃、さてはこの大ワシに殺されて見つかった首のない婦人こそ母であったかと赫怒し、血塗れの大格闘の末、大ワシを見事に討つ…というインパクト満点の展開なのですが、これはまだ序盤。

 父に対面するため江戸に向かうことになった由璃ですが、その父の言葉を伝えに来た御庭番が、件のかんざしを奪って行ったことから、物語はいよいよ本格的に展開していきます。

 この御庭番こそ、本作のもう一人の主人公・鵜ノ木三四郎。まだ年若いながら将来を嘱望される忍びの名手が、何故このような任務でもない行動に出たか…それが本作の大きな謎の一つ。
 さらに、このかんざしに、実は莫大な財宝の在処が隠されていたことから、怪しげな小悪党カップルや風魔一族の末裔などが絡んで一大争奪戦が繰り広げられることになります。

 ちなみに由璃のお供は、卵の頃から彼女に育てられたもんしろちょうの「おもん」。
 由璃が常に身につけている、母のもう一つの形見である麝香のにおい袋から香りが移ったため、麝香ちょうというあだ名がつけられていますが、これが人語を解し、しばしば彼女の危機を救う、ちょっとスゴい奴です。

 閑話休題、本作のタイトルの由来は、物語も後半に入ってから、由璃が父と対面した際に、子として認めるため、ライバルである尾張宗春の落ち度を見つけてくるよう隠密役を命じられたことから来ています。

 たとえ鋸山で育つ中で忍術の修行をしてきたという設定(というのもスゴいですが、でも彼女は上記の通り麝香の香りがするので忍べないというすっぽ抜け方がまたなんとも)があるにしても、ずいぶんな扱いですが、実は本作の吉宗はかなりの悪人。
 その一方で宗春はやることなすこと間違いなしの名君――これはこれでどうかと思いますが――で、この両者との出会いで、由璃は初めて己の生き方に疑問を持つことになります。

 山では自由に暮らしていたものの、突然己の素性を知らされ、周囲に指示されるままに動いてきた彼女が、その隠密行の中で初めて自分自身で考えることを知るというのは、皮肉ながら面白い展開でしょう。
(そしてそこで経験するのが上記のおもんとの別れというのは、実に象徴的であります)

 尤も、本作はやはり読んでいる間は楽しいけれども後には何も残らない陣出作品。
 終盤数ページで隠し財宝の正体と、由璃と三四郎の出生の秘密がバタバタと語られ、めでたしめでたしと結末に転がり込んでいく慌ただしさはどうかなあ…とは思います。

 しかしやはりこの手の作品で大事なのは読んでいる間の楽しさ。
 本作ではその点では間違いはありませんし、やはりヒロイン像はなかなかに個性的で、積極的におすすめはしないものの、私はそれなりに気に入っている作品なのです。

「隠密姫」(陣出達朗 春陽文庫) Amazon

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2010.11.05

「戦国ゾンビ 百鬼の乱」第5巻 人間とゾンビを分かつもの

 戦国バイオレンスアクションホラー地獄絵図「戦国ゾンビ」もこの第五巻でついに完結。
 武田信勝を守る赤葬兵の戦いもこれでラスト、最後の最後まで気の抜けない文字通りの死闘が繰り広げられます。

 武田勝頼の遺児・信勝を守り、ゾンビと織田・徳川の連合軍が入り乱れる中を駆け抜ける赤葬兵たち。
 しかし、天目山を抜け、唯一の安全地帯である越後の離れ小島へ向かう中で、一騎当千の彼らも一人、また一人と斃れていきます。

 残る赤葬兵は四人…しかし彼らも乱戦の中で引き離された上、信勝も徳川の暗殺部隊・刻怨軍に奪われるという窮地に。
 そして主人公格の土屋昌恒も最強の敵、ゾンビよりも恐ろしい本多忠勝と対峙することに…

 といったところから始まるこの最終巻。実は前の巻の感想で、かなりテンションが落ちた、この先盛り上がるのか、とずいぶん失礼なことを書きましたが、私の目が節穴であることがはっきり証明されました。
 いやもう、物語の掉尾を飾るすさまじい盛り上がりであります。

 物語的にはゾンビの正体と蔓延の理由が明かされ、ほとんど物語上の謎や秘密は語られてしまった感があります(もう一発、もの凄い秘密があるのですが…)。
 こういう状況で果たして何を描くのだろう…と思えば、それはもう戦いのみ!

 この最終巻では、最初から最後までバトルバトルバトルの連続。人間vsゾンビ、人間vs人間、そして…
 赤葬兵が、これまで彼らが出会ってきた者たちが、それぞれの戦場で、それぞれの死闘を繰り広げます。

 そう、それはまさに死闘。
 生ける死者に対するに、自らも死線を越え…命懸けなどという言葉では生ぬるい、己の命そのものをぶつけ、一人また一人散っていく赤葬兵たちの姿は、本作が人の生き死にの描写に全く容赦がないだけに、心に突き刺さります。

 その一方で、このうち続く死闘の中でこちらの頭に浮かぶのは、一つの疑問――戦場で命を奪い、奪われる人間と、ゾンビとどれほどの違いがあるのか…と(この巻の展開を見るとなおさら)。
 しかしその疑問に、本作は、一つの明確な答えを、赤葬兵たちの姿を通して語ってくれます。

 それは、人間には――いや、武者には、戦う理由と意志がある、それに尽きます。
 本作を通して最も成長を遂げた昌恒の弟・正直のクライマックスでの叫びは、まさにその現れと言うべきでしょう。
そしてそこに、本作が、戦国時代を舞台にゾンビを暴れさせた理由もあるように感じるのです。


 さて――ホラー映画にはお馴染みの、エンドマークの後に、ギョッ! というあれが、実は本作にもあります。
 それも、爆弾級のインパクトを持つものが…

 まだまだ戦国の地獄は終わらないのであります。

「戦国ゾンビ」第5巻(横山仁&柴田一成 幻冬舎バーズコミックス) Amazon
戦国ゾンビ-百鬼の乱 5 (バーズコミックス)


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2010.11.04

「シグルイ」第15巻 最後に斬られたもの

 ついにこの日がやってきました。「シグルイ」第15巻に描かれるは、駿河城御前試合第一番、藤木源之助対伊良子清玄の二度目の、最後の真剣勝負であります。

 ようやく第一話の時点に戻ってのこの対決…結論から言えば、原作とその結果は同じでありながら、しかしそこに至るまでの経緯は異なる――それもほとんど正反対ものでした。

 これまで描かれた長い物語の中で、様々なものを喪い、そして互いへの憎しみを育ててきた藤木と伊良子。
 しかし、そんな二人の心にも、それぞれ変化が生じます。

 藤木は、三重の支えにより、己を縛る封建社会の武士という存在の呪縛から、互いへの信頼と愛情を通じてほぼ解き放たれ――
 一方、伊良子は自分と藤木が実は同じ立場にある者であることに気づき、そこから己を縛ってきた封建社会の身分制度の矛盾に対する怒りを自覚します。

 この時点で両者とも、己を縛ってきたもの、己の人生を狂わせ、苦しめてきたものがお互いの存在ではないことに気づいていたと言えるでしょう。
 そして二人は新しい生への希望を抱きます――御前試合で相手を倒すことを区切りとして。

 しかしそれが、あまりに無惨な結末を生むこととなります。
 その内容をここで詳細に述べることは、もちろん控えましょう。

 ここで言えるのは、藤木が最後に斬ったもの、それは彼自身の良心であり、封建社会に己の生を翻弄されてきた三重が希望を見いだした人間性…
 それを武士として、命に従い斬ったことが、全てを打ち砕いたのです。
(そしてその悲劇が、藤木が三重の中の魔を斬らなければ生じなかったであろうという、この皮肉!)

 冒頭に述べたとおり、ここに本作は原作とは異なる過程を経て、しかしある意味原作よりも遙かに痛烈な形でもって、同じ結末を迎えることになります。


 …もちろん本作という物語は、特殊な時代の、その中でも一際特殊な舞台があってこそ成立するもの。
 しかし、たとえそうであったとしても、その影は遠く現代に至るまで揺曳しているのではないか――そして我々はその影の下にあるのではないか。
 そんなうそ寒い思いを抱いた次第です。


 さて、必ずしも首尾一貫した構成だったとは言い難い本作ですが(やはり「がま剣法」のエピソードが浮いているのが惜しい)しかしこの最終巻、最終話を見てみれば、ここに至るまでの長い道のりがあったからこその、この結末であるとすら感じられます。

 しかし藤木の地獄は終わりましたが――いや彼にとっては今始まったのか――まだこれから地獄に赴く者たちが、あと十組いるのです。
 今回で完結したのは「シグルイ 無明逆流れ編」。
 残る残酷無惨も、山口貴由先生の手により、是非描ききっていただきたいものです。

「シグルイ」第15巻(山口貴由&南條範夫 秋田書店チャンピオンREDコミックス) Amazon
シグルイ 15 (チャンピオンREDコミックス)


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 「シグルイ」第八巻 剣戟の醍醐味ここにあり
 「シグルイ」第九巻 区切りの地獄絵図
 「シグルイ」第10巻 正気と狂気の行き来に
 「シグルイ」第11巻 新たなる異形の物語
 「シグルイ」第12巻 悔しいけれど面白い…
 「シグルイ」第13巻 怪物の怪物たる所以
 「シグルイ」第14巻 希望と絶望の御前試合へ

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2010.11.03

「仮面の忍者赤影」アニメ版 第19話「霞丸と妖刀龍幻!!」

 財宝の手がかりを掴むため、一旦平賀の里に戻った繭姫と赤影たち。しかし長老は彼らの眼前で幻妖斎の配下に殺されてしまう。が、長老は最後の息で剣山のことを言い残す。一方、幻妖斎は影一族を相手の財宝争奪戦の戦力として霞丸を呼び寄せ、妖刀・龍幻を与える。剣山に向かう赤影一行の前に現れた夜叉王と霞丸。霞丸の龍幻の力の前に敗れ、赤影は崖から転落してしまうのだった。

 テレビ未放映の前回のことは冒頭でサラッと紹介して、何事もなかったように始まる今回。
 幻魔城編に入ってからちょこちょこ顔を出すだけだった霞丸(と邪鬼)がいよいよ財宝争奪戦に参戦することになります。

 さすがに金目教を壊滅させられたのが痛かったのか、影一族相手には慎重の上にも慎重を期する幻妖斎(前回赤影をスカウトしようとしたのもその表れでしょう)。
 その幻妖斎が助っ人として招いたのが霞丸であります。

 幻魔城編に入ってからは、その辺を彷徨しながら物憂げな表情で笛を吹いているばかりだった霞丸。
 以前、ならず者から助けたどこぞの(今回チラッと出た台詞によれば…)姫・千姫に一方的に熱を上げられつつも相手にしないところがまた姫を悩ませる、イケメンぶりです。

 これは邪鬼でなくても「やってらんねえ」と言いたくなるような展開ですが、この辺りの三者三様の描写、もしかして…と思ったらやっぱり今回は井上脚本でした。
(霞丸・千姫回担当なのかしらん)

 しかしその霞丸も、幻妖斎が信長と戦うと聞いて、俄然テンションアップ。
 その霞丸に「友情の印」と幻妖斎が与えたのは、使う者はあらゆる武芸者に打ち勝つという妖刀・龍幻…と思ったら、幻妖斎は霞丸をいきなり落とし穴に落とします。

 そこで霞丸の前に現れたのは巨大な虎。幻妖斎は「存分に切れ味を試されい」などと無茶なことを言いますが…
 しかし怪しげなオーラに包まれた霞丸は虎の首を一刀両断!

 一方、さすがに落ち込んでいた繭姫ですが、子供たちにせがまれて竹馬の妙技を見せるうちに元気を出します。
 と、そこに、彼女の倍はあろうかという高さの竹馬に乗って源之介参上…

 あまりのバカバカしさに噴きましたが、この辺り、源之介なりの励ましでしょう(繭姫は「趣味があう」と喜んでましたしね)。

 とギャグパートを経て、平賀の里に一旦戻った繭姫と赤影たちですが、その眼前で、村人に化けた下忍により長老は深手を負わされ、かろうじて西の剣の山へとの言葉を残して息を引き取ります。

 悲しむ間もなく剣山に向かう一行の前に現れた夜叉丸と下忍たち。
 久々の「忍法木の葉火輪」で夜叉王たちを一網打尽にしようとする赤影ですが、そこに霞丸が現れます。

 龍幻の妖気に当てられたか、自分の周囲の下忍たちを邪魔だと斬り捨てる霞丸は赤影に肉薄。
 かろうじて刀で受けた赤影ですが、龍幻はその刀をも断ち、赤影は崖から落ちて…次回に続きます。


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2010.11.02

「おたから蜜姫」 正史へのカウンターとしての竹取物語

 蜜姫の嫁入り先である風見藩時羽家に、伊達家から縁談が持ちかけられた。その条件は、竹取物語に登場する宝物を持参すること。竹取物語の謎解きに燃える母・甲府御前を知恵袋に東奔西走する蜜姫だが、解き明かされてゆく謎は、伊達家と徳川家を結ぶ一大秘密に繋がっていた。果たして財宝の行方は…

 米村圭伍先生の蜜姫シリーズ第二弾「おたから蜜姫」が文庫化されました。
 イラストは米村作品ならばこの人! の柴田ゆう先生でまずは一安心…なのですが、内容の方は一筋縄ではいかないくせものなのです。。

 主人公・蜜姫は、豊後温水藩の姫君…ながら、剣術かぶれで退屈が大嫌いのとんだ暴れ姫。
 前作「おんみつ蜜姫」では、尾張徳川家の絡んだ天一坊事件を解決した蜜姫が今回挑むのは、意外にも「竹取物語」の謎であります。

 今日も今日とて貧乏藩同士せこい企みを巡らせる、父と婚約者の風見藩主。そこに突然舞い込んだのは、風見藩主と伊達家の姫の縁談話。
 しかしその姫は自分を月から来たと思いこんでいる変わり者で、伊達家からの条件は、竹取物語に登場する五つの宝物のどれか一つを持参すること――

 かくて、その宝探しを命じられたのが蜜姫。冷静に考えるとヒドい話ですが、蜜姫にとって風見藩への嫁入りは望んだ話でなし、何よりも大冒険の予感!
 と、脳筋気味の姫は二つ返事で承諾し、読書マニア・学問マニアの母・甲府御前こと宇多を知恵袋に探索に乗り出すのですが…

 と、こう書けば、いかにも王道の(コミカルな)時代伝奇小説に見えるのですが、実は本作は、大部分を、甲府御前による竹取物語考に費やす、歴史推理ものとしての側面を非常に濃く持つ作品なのです。

 日本人であれば誰もが子供の頃から親しんでいるであろう竹取物語ですが、なるほど、言われてみれば不思議な部分が多々ある物語。
 その最たるものは、作中で帝の権威がかぐや姫や月人に通じず、むしろ貶められているにもかかわらず、宮中でも読まれていたことであります。

 本作では、かぐや姫の宝物を追う過程の中で、こうした謎の一つ一つに回答を見いだし、かぐや姫とは何者だったのか、そこにまでたどり着くことになります。

 そこに浮かび上がるのは、大げさに言えばもう一つの日本史、時の権威権力に対するまつろわぬ民の物語。
 我々の良く知るおとぎ話から、この陰の日本史が浮かび上がる過程は、なかなかにエキサイティングであります。

 もっとも、本作のこの内容・展開には賛否あるのは間違いないところでしょう。
 作中でも蜜姫が「これでは「おたから蜜姫」じゃなくて「おたから宇多」だわ」とメタな突っ込みを入れていますが、姫の大活劇を期待していたところに、確かに延々とディスカッションドラマが展開されれば、面食らいもします。
(もっとも、米村作品では時々このようなスタイルのものがあるのですが)

 しかし、本作は決して竹取物語考のみで終わるものではありません。
 何故伊達家が竹取物語の秘密を求めたのか――物語のそもそもの発端の源には、江戸時代初期に起きたある事件が関わり…そしてその秘密は、当代の将軍である吉宗をも動かすことになります。

 そしてその中に示されるのは、古代から江戸時代まで変わらぬ、欲望にとらわれた権力者の醜さ傲慢さと、それに振り回されざるを得ない周囲の(在野の)人々の悲しさであります。

 もちろん本作は、その現代にまで通底する構図を、そのままにはしておきません。
 最後には権力者への痛烈で皮肉なしっぺ返しが用意されているのですが、やはりこの点は米村作品と嬉しくなります。

 思えば米村作品では、権力(者)へのカウンターの担い手として、女性たちや冷や飯食いが常に主役となってきましたが、その視点はここでも健在です。
 そして本作ではさらに、、正史へのカウンターとして「竹取物語」を設定することにより、歴史の陰で泣き、そして戦ってきたかぐや姫(たち)の姿を示すことにより、その視点をさらに強調しているやに感じられます。

 かぐや姫から蜜姫へ…姫君も様々ですが、しかし、彼女たちの姿には、作者が歴史の中に見る一つの希望の姿が、感じられるのです。

「おたから蜜姫」(米村圭伍 新潮文庫) Amazon
おたから蜜姫 (新潮文庫)


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2010.11.01

「快傑ライオン丸」 第01話「魔王の使者オロチ」

 時は戦国、大魔王ゴースンが日本侵略を開始したことと己の死期を悟った果心居士は、自分が育てた獅子丸・沙織・小助の三人に後事を託す。そこに襲いかかるゴースンの配下・オロチ。オロチの刃に居士は倒れ、悲しむ間もなく獅子丸たちも襲われる。攫われた沙織を追った獅子丸はオロチに追い詰められるが、忍法獅子変化に開眼。ライオン丸に変身してオロチを倒すのだった。

 不定期に続けてきました特撮ヒーロー時代劇紹介、これからしばらくはピープロの名作「快傑ライオン丸」を紹介していきたいと思います。

 時は戦国――果心居士に育てられた青年・獅子丸が忍法獅子変化で獅子面の正義の剣士ライオン丸に変身し、大魔王ゴースンの野望を阻むために戦う一大ヒーロー活劇であります。

 さて、今回久しぶりに第1話を見直してみたのですが…いやもう、第1話のお手本のような内容。
 強大な敵の侵略が始まり、その攻撃により突然戦いに放り込まれる主人公。そして主人公が敵の力の前に危機に陥った時、ヒーローとしての力を解放し、敵を倒す…

 ご覧の通り、(特撮)ヒーローものの第1話の定番パターンであります。
 もっとも本作の場合、僻地で育てられた主人公が故あって外の世界に旅立って様々な経験をする「山出しもの」(命名:私)の要素もあるのかもしれません。

 それはさておき、良くも悪くも定番過ぎて語るのが難しい今回。
 シンプルな構成だけにツッコミどころも、小助の笛で呼び出される天馬ヒカリ丸の翼の付き方とか、獅子丸が忍法獅子変化にあっさり開眼してしまうのがつまらない、くらいしかないのですが…
(しかしヒカリ丸初登場シーン、オロチとの戦いで谷から転げ落ち、意識を失っていた獅子丸が意識を取り戻すと、その瞳に天馬の姿が映って…という演出が素敵なのです)

 むしろ今回見直してみて感心したのは、敵方であるゴースン側の描写でしょうか。
 ゴースンの本拠内、洞窟のようなところにずらっと並んだ魔道士然とした「地獄の使者たち」(ゴースン談)。
 彼らに指令を下すのが、壁から突き出た巨大な唇というのも、インパクト十分でよろしい。

 そして今回の怪人・オロチも、黒雲に変化して空を飛んだり、一度倒されても脱皮して襲いかかってきたりと、(元)人なのか魔なのかわからない存在感も、これはこれでなかなか面白いと思うのです。


 何はともあれ、獅子丸たちの打倒ゴースンの旅は始まりました。これから約一年間、マイペースで獅子丸の、ライオン丸の戦いを紹介していきましょう。

 ちなみに今回、前半で果心居士を暗殺しようとしたドクロ忍者が織田家の使者に化け、今川家と対立していることを語るのでとりあえずその辺りの時代なのでしょうね。


<今回のゴースン怪人>
オロチ

 ゴースンに果心居士、さらに獅子丸たち三人の殺害を命じられた怪人。黒雲に変化して空を飛び、また土中を自在に動く。ブーメランのように飛ぶ両側に刃の付いた巨大な鎌を武器とし、それで居士の命を奪った。口から火を吐くこともできる。一度倒されても首だけ抜け出して空を飛び回り、さらにより蛇らしい外見の第二形態に変身する。
 変身前の獅子丸を苦しめるが、ライオン丸には全く敵わず、両形態とも一太刀で敗れ去った。

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