「鬼舞 見習い陰陽師と御所の鬼」 ネクストジェネレーションの陰陽師たち
陰陽師となることを夢見て播磨から京に出てきた少年・宇原道冬。しかし京の屋敷は荒れ放題で亡霊や付喪神が出没。陰陽寮に行けば、安倍晴明の子・吉昌に何故か妙に気に入られ、周囲の嫉視を受けたりとトラブル続き。その上、吉昌や兄の吉平とともに、衛門佐を悩ませる物の怪と対決する羽目になって…
「暗夜鬼譚」「地獄の花嫁がやってきた」と、これまでもユニークな平安ファンタジーを発表してきた瀬川貴次先生の最新作「鬼舞 見習い陰陽師と御所の鬼」が登場です。
サブタイトルにあるように、今回の主人公は見習い陰陽師の少年・宇原道冬。
播磨(作中でも説明されていますが、播磨といえば陰陽師の産地? ですね)から青雲の志を抱いてきた道冬君ですが…言うまでもなく無事に済むわけがありません。
京で住む屋敷の大家さんが年上バツイチの美女なのはまあいいとして、その屋敷というのが、かつての河原院(と、ここでニヤリと出来る方は平安好きだと思います)なのが最初の不幸であります。
屋敷の中には大量の付喪神が住み着き、それが妙に道冬に懐く始末。さらに、河原院の主である左大臣・源融の亡霊が現れ、大家さんとの仲を取り持つように泣きついてきます。
しかしこんなのは序の口。陰陽寮に行ってみれば、新人いびりにあった上に、学生たちの憧れの的である安倍晴明の次男・吉昌に妙に気に入られてしまいます。
この吉昌、外見は超美形ですが性格は傲岸不遜で超俺様。ああ、父親似ですね…というのは後述するとして、どうやら周囲から特別視される自分に素直に接した道冬のピュアっぷりを気に入ってしまった模様。
この辺りの吉昌の道冬かわいがりっぷりは、どうも男としてむずかゆいものを感じるのですが、それはまあ、さておき。
それが元でさらに周囲にいびられることになった道冬は、鬼が出ると評判の部屋に閉じ込められ、あわや鬼の餌食にされかけたり、衛門佐の奥方を悩ませる物の怪退治に付き合わされる羽目になったりと、上京早々、波瀾万丈の毎日を送る羽目になる…というのが本作のあらすじであります。
今回はシリーズ開幕編ということで、どちらかと言えばキャラクター紹介の側面が強く、お話的にはそんなに入り組んだものではないのですが、しかしそれでも物語運びの確かさや、何よりもキャラクター造形の面白さで読ませてくれるのは、さすが瀬川先生かと思います。
特に、先に述べた付喪神(自分に座れ座れと無言でせがむ畳が可愛くてねえ)や、源融の亡霊といった異界の存在の、はた迷惑ながら妙に愛嬌のあるキャラクター性は、これはもう瀬川節としか言いようがありません。
(そもそも、ここで河原院を持ってくるセンスはやはりうまい)
そして何より、瀬川ファンとして見逃せないのは、吉昌とその兄の吉平(この美形兄弟の描き分けもまた面白いのですが)の父としてちらりと顔を見せる安倍晴明の存在でしょう。
瀬川先生の平安ものと言えば「暗夜鬼譚」、その主人公・一条こそは後の…
というわけで、その辺りのつながりを期待してみると、関係は明確には示されないものの、その美形ぶりと傲岸不遜でイイ性格をしているところは「彼」そのまま。
ファンとしては旧友に再会したような、なんとも懐かしい気分になった次第です。
さて、過去のことはさておき、シリーズは始まったばかり。
道冬の身に宿るという謎の力の正体は何か、妙に安倍家を敵視する道冬の守り役・行近の思惑とは何なのか。
道冬君の成長と、彼を含めたネクストジェネレーションの陰陽師たちの活躍に期待しましょう。
「鬼舞 見習い陰陽師と御所の鬼」(瀬川貴次 集英社コバルト文庫) Amazon
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