「石影妖漫画譚」第1巻 変人絵師、妖を描く
江戸の闇で次々と起こる怪事件。その影には妖怪たちの姿があった。妖怪専門の変人絵師・烏山石影は、妖怪たちの絵姿を残すため、事件に首を突っ込む。石影の持つ毛羽毛現の筆が、今日も奇跡を起こす…
時代伝奇もの、なかんずく漫画やアニメにおいては、結構な確率で、絵や文字など、筆で描いたものを実体化させる能力者が登場することがあります。
これは、いかにも時代劇らしい筆で描くという行為と、実体化というビジュアル的・能力的な面白さによるものではないかと想像しますが、ここに、その系譜に新たに加わるキャラクターが登場しました。
その名を烏山石影、江戸の裏長屋に籠もっては、日がな一日奇怪な妖怪の絵ばかり描いているという、一種の変人・風狂人であります。
…と、妖怪ファンであればすぐにおわかりのように、この石影の名は、江戸中期に「画図百鬼夜行」等で妖怪絵師として知られた鳥山石燕のもじり。
ご丁寧に本作の舞台も、石燕の活動時期とほぼ重なる時期も設定されており、まずは石燕をモデルにして作られたキャラクターと言ってよいでしょう。
(ここまでするのであれば、石燕本人にしてもいいのに…というのは素人考えかもしれませんが)
さて、それはさておき、本作は、この石影が挑む妖怪絡みの怪事件を描いた連作短編集といったところ。
「濡れ女」「二口女」「送り狗」「墓場の怪」「火車」…物語の構成上、どうしても仕方のない第四話を除き、いずれも登場する妖怪をサブタイトルに冠したエピソードが並びます。
江戸の闇に蠢く妖怪たち…奇怪な姿で人を驚かせ、その能力で人を害する妖怪たちに石影は挑むわけですが、しかしその理由が、使命感でも正義感でもなく、ただ「妖怪を実物を見て描きたい」というのがなかなか面白い。
基本的には変人…というより性格破綻者な石影が、周囲を翻弄しつつ、成り行きから妖怪に立ち向かうのが一つの見せ場なのですが、もちろん、単なる絵師であれば、妖怪に対抗できるわけがない。
そこで登場するのが、石影の持つ、毛羽毛現の筆なるアイテム。描いたものを実体化させるこの筆で、石影が描くのは――なんとオリジナル妖怪。
様々な能力を持った石影版妖怪と、人の恨み辛みが生み出した妖怪の対決が、本作の最大の目玉であります。
しかし――妖怪ものとしてみた場合、正直なところ、本作はまだまだ…といった印象があります。
上でちらりと触れたように、本作に(少なくともこの巻で)登場する妖怪は、基本的に人間の負の感情によるもの。
そのため、事件の解決策としては、単純に妖怪を倒すだけでなく、その元となった人物の怨念を解くというのが毎回のパターンなのですが、キャラの掘り下げが浅いため、感動できるかといえば…であります。
また、妖怪に対するのに、絵に描いた妖怪で、というのは実に独自色があって面白いのですが、それが石影オリジナルの存在というのが、今ひとつ面白みに欠けるように思います。
妖怪は単なるキャラクターではなく、それなりに生み出される根拠が――本作では上記の通りそれが人間の心に偏っているのですが、それはさておき――あるはず。
それが全く無視されているのは、妖怪ものとして物足りません。
( そもそも妖怪をこき使って妖怪をブッ飛ばすというのは、妖怪好きとしてどうなの…というのが、妖怪馬鹿としての私の正直な感想なのですが)
と、妖怪ものとしてはついつい点が辛くなりますが、アイディアとしてはそれなりに面白い本作。
色々と転がしようのある設定だけに、これから作品世界がどのように展開していくのか、その中で石影が何を描いていくのか…もう少し付き合ってみましょう。
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