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2010.12.14

「月の蛇 水滸伝異聞」第4巻 明かされる因縁、そして

 黒い蛇矛を持つ男・趙飛虎と梁山泊の豪傑たちとの戦いを描く水滸伝異聞「月の蛇」の第4巻が発売されました。
 前の巻で描かれたヒロイン・翠華の過去に続き、今回は飛虎自身の過去の物語が描かれることとなります。

 虎殺しの好漢・武松を死闘の末に退け、彼の口からもう一人の蛇矛を持つ男・林冲の強さを聞かされた飛虎。
 それをきっかけに、飛虎は自分の過去を翠華に語ります。

 かつて賊に家族を殺され、少年兵として戦いを叩き込まれた飛虎。
 生きるためには人より強くなければならない世界で、ひたすら殺人のための術を磨いてきた彼を、その境遇から救い出したのは、かつての八十万禁軍の教頭にして、今は辺境軍の将を務める壮漢――そう、水滸伝ファンであればお馴染みの王進なのでした。

 飛虎の属していた賊を殲滅した王進に敗れながらもただ一人許され、王進の部下となった飛虎は、王進の強さに迫るため、ひたすらと手合わせを繰り返しているうちに、次第に人間性を取り戻していくことになります。
 しかし、そこで訪れる王進との別れ…やはりここでも(?)お尋ね者となっていた王進は、己の持つ黒い蛇矛を飛虎に託し、いずこかへ去っていきます。

 その黒い蛇矛こそは、武林の伝説に残る二つの蛇矛の一つ…
 かつてその武を競った二人の達人が、それぞれ手にしていたという蛇矛。時は流れ、その蛇矛は人から人に伝えられつつも、二つ出会うとき激しい戦いを繰り返していたのであります。

 そう、当代その一本は飛虎に、そしてもう一本は林冲に…ここに、蛇矛は再び出会ったのです。

 なるほど、正直なところ興味の薄かった飛虎の過去編ですが、ここでこのような形で「水滸伝」の物語と関わってくるとは…と感心すると同時に、いかにも武侠ものに登場しそうな蛇矛の伝説の「らしさ」にもニンマリであります。


 そして、蛇矛と飛虎の因縁は、さらなる敵を彼の前にもたらします。
 梁山泊の次なる刺客の一人――それこそは、かつて王進に手ずから武術を教えられた好漢・九紋竜史進。
 彼は、梁山泊の敵である以上に、かつて自分が授けられなかった黒い蛇矛を授けられた飛虎に対し、激しい敵愾心を燃やしぶつかってきますが、これもまた実に心憎いシチュエーション。

 王進を挟んでの男と男の対決…であると同時に、そこで飛虎と史進の生き様の違い、飛虎という男のキャラクターを浮き彫りにするのが、なかなかに面白い。
 正直なところ、キャラが立ちすぎている梁山泊勢に比べ、いささか心許ないところもあった飛虎ですが、やはり本作の主人公として、なかなかの存在感を持ってきたと感じます。

 さて、実は今回、梁山泊の刺客はもう一人、これまたメジャーなキャラである青面獣楊志が登場するのですが…
 これがまた悪い方向にキャラの立った男。
 何故か関西弁を操り、自分の半面を覆った火傷(本作ではそういう設定のようです)にコンプレックスを持ったサディストという設定で…

 いやはや、本作に登場する好漢たちは、皆悪役ではありつつも、原典ファンにも納得の造形だったのですが、今回はちょっと…と文句も言いたくなります。

 しかしこれはその時点で作者の術中にはまっているということなのでしょう。早くも、飛虎とこの楊志との対決が楽しみになっているのですから…

「月の蛇 水滸伝異聞」第4巻(中道裕大 小学館ゲッサン少年サンデーコミックス) Amazon


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コメント

ようやく読めました。王進さんのイメージはお母さんを連れて逃亡生活を行う親孝行な君子でしたが・・・まあ梁山泊の連中がああですから(苦笑)。確か梁山泊が悪人で出てくる中国の水滸伝ものには王進さんが盗賊になった九紋竜史進を叱るシーンがあると聞きましたが、この漫画ではなさそうですね。

今回、蛇矛の由来が明らかになりましたが、授けた武神って? 中国で蛇矛の使い手はなんと言っても三国史の張飛ですが、あの方は義兄さんと違って、間違っても神様にはなれんでしょうから(苦笑)。

投稿: ジャラル | 2011.01.16 11:55

言われてみれば原典の王進からはまたちょっと(だいぶ?)違うイメージですが、史進・林冲との因縁付けという意味ではうまい設定だと思います。
しかしそんな張飛さんをいじめなくても(笑)

投稿: 三田主水 | 2011.01.17 00:46

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