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2010.12.31

一月の時代伝奇アイテム発売スケジュール

 なんだか本当にあっという間に平成22年も暮れ、はや平成23年の幕開け――平成22年最後の更新は、平成23年最初の時代伝奇アイテム発売スケジュールであります。
 今月はそれほど数は多くないかな? と思いましたが、いやいやなかなかの点数です。

 文庫小説の方は、残念ながらほとんど復刊がメイン。しかしそれがなかなかの充実ぶりなのです。
 藤沢周平の数少ない伝奇「闇の傀儡師」新装版、森美夏の表紙絵も印象的な宮本昌孝「ふたり道三」中巻、既にお馴染み山田風太郎ベストコレクションからは「妖説太閤記」、出版社を新潮社に移して刊行開始の佐伯泰英「古着屋総兵衛影始末」…

 このうち、「古着屋総兵衛影始末」は新シリーズも同時に刊行開始とのことで、これはちょっと嬉しい驚きです。

 そしてもう一冊、えとう乱星の「化龍の剣」なる作品が…
 化龍といえば、作者のデビュー作にして剣豪伝奇小説の佳品「蛍丸伝奇」の主人公ですが、すわその続編か…と思いきや改題しての再刊とのことで、一寸残念ではありますが、これを期に一人でも多くの方に読んでいただきたいものです。

 おっと、光文社文庫の異形コレクション、1月の新刊は「江戸迷宮」とのこと。
 詳しい内容は不明ですが、江戸ですよ、江戸!


 さて、漫画の方はなかなかの充実ぶり。
 福田宏の「ムシブギョー」は3巻、大野ツトムによる漫画版「夕ばえ作戦」は4巻、神宮寺一の「幕末めだか組」は5巻で、残念ながらそれぞれ完結。
 その他続刊では、本宮ひろ志「猛き黄金の国 柳生宗矩」2、沙村広明「無限の住人」27、霜月かいり「BRAVE 10」8、小山ゆう「AZUMI」7(あの竜馬は反則でしょう…)などが刊行されます。

 新登場では、以前発売予告がされたものの延期となっていた「黒鷺死体宅配便」のスピンオフ「松岡國男妖怪退治」がようやく登場。
 その他、一巻本では矢口岳「鬼姫」の単行本化も嬉しいところ。
 また、プチブレイク中の永尾まる「ななし奇聞」の復刊も嬉しいところです(ただし本作、BL部分もありますのでご注意)

 もう一冊、実に三年ぶりの新刊として「雨柳堂夢咄」13が刊行されます。いつ読んでも変わらぬ味わいの作品ですが、やはり新刊は嬉しいですね。


 映像の方は相変わらずBASARAと薄桜鬼だらけですな…



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2010.12.30

「天主信長 我こそ天下なり」 人と権力と信長と

 天正十年六月二日未明、明智光秀は本能寺に信長を襲い、信長は炎の中に消えた。しかしその直後、光秀は「まさにあのお方のもとに、天下は統一されるのだ」と呟いていた。果たして光秀は何故信長を攻めたのか? その陰には信長の恐るべき意図が働いていた…

 上田秀人といえば、江戸時代を舞台とした時代活劇が印象に残りますが、戦国時代を舞台とした歴史小説もコンスタントに発表しています。
 その中でも本作は、本能寺の変と、そこに至るまでの信長の生涯、そして彼の周囲の人々の人間模様を描いたなかなかユニークな作品です。

 信長が光秀に討たれた本能寺の変については、衝撃的な内容の反面、その原因が今なお明確でないことから、様々なフィクションの題材となってきました。
 もちろん本作もその一つであり、まず冒頭で、光秀が信長を本能寺に襲うお馴染みの(?)場面が描かれることとなります。…が、しかしその直後、光秀が謎めいた言葉を呟くことで、俄然興味を引かれることになります。


 そこから時代は遡り、描かれるのは、信長の比叡山焼き討ちの場面から、本能寺に至るまでの信長の生涯。
 本作における信長は、身内を含めた周囲の裏切りと、宗教勢力の反発に生涯手を焼いた人物と描かれます。

 若き日に弟と対立し、その後も配下や周囲の裏切りに手を焼いた信長の前に立ち塞がるのは、戦国武将のみならず、延暦寺や本願寺といった宗教勢力なのですが…
 本作においてその信長を見つめ、特異な人物像を浮かび上がらせるのが、二人の軍師――竹中半兵衛と黒田官兵衛の両兵衛である点に本作の特色があります。

 本作の終盤近くまで、信長を見つめる竹中半兵衛は自らに武将としての器量(人望)がないことを自覚し、そして何よりも自らの余命が幾ばくもないことから、名利には興味を持たず、ただ信長の進める天下布武の行方を知りたいとのみ願う人物として描かれるのが面白い。
 そしてそんな半兵衛であるからこそ、信長は彼に心を許し、そして半兵衛も信長の唯一の理解者となるのですが――それが、彼に信長の狂気とその行き着く先を見抜かせることとなります。

 一方、官兵衛は、死にゆく半兵衛が唯一後事を――信長の狂気の行方も含めて――託すに足ると認めた人物。
 しかし、裏切りを嫌う信長の猜疑心の強さもたらした仕打ちが、官兵衛にある想いを抱かせることになり…


 その両兵衛を通じて描かれる信長が究極的に目指したもの――それは、一族を配下を、いや天下万民に裏切られぬ存在。現世利益のみならず来世の栄光を求める者にも等しく仰ぎ見られる存在。

 信長が実は自らその存在たらんとしていた、というアイディア自体は、正直なところ本作が初めてではありません。
 が、そこに至るまでの信長の想いを――第三者の視点を用いつつ――描いた上で、その理想が歪み、歪められていく様を、一種伝奇的手法をもって浮かび上がらせる様は、実に読み応えがあります。

 デビュー以来、ほとんど一貫して、権力の持つ魔力と、それに対して人がいかに身を処すべきかを――伝奇風味を濃厚に――描いてきた上田秀人。
 信長と、彼を巡るドラマを描いた本作もまた、その系譜に連なるものであることは言うまでもありません。

 人が権力を生み、権力に人が操られる――我々はその軛から逃れることができるのか。本作のタイトルを見れば、その問いが、皮肉な想いとともに浮かび上がるのです。

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天主信長 我こそ天下なり (100周年書き下ろし)

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2010.12.29

「無限の住人」 第十一幕「羽根」

 アニメ版「無限の住人」も気がつけば残すところあと3話。今回は川上新夜編の後編「羽根」であります。

 冒頭で描かれるのは、幼い頃の凛と祖父の姿。
 破門された天津の祖父のことを思い出しながら、仮に自分や親に何かあっても相手を恨むな、復讐を行えば今度は相手の子孫が恨みを持つだろうと、凛の祖父は語ります。

 その復讐を戒める祖父の言葉も空しく、いま凛が万次とともに歩むのは両親の復讐行。
 しかし、ついに母を汚した張本人・川上新夜と出会ってみれば、新夜は父の所業を知らぬ息子・錬造と暮らしていたという皮肉――

 もちろん新夜も、凛が浅野道場の遺児であることは先刻承知。
 その自分をどうするかと訪ねる新夜に、錬造のただ一人の肉親である新夜を斬ることはできないと凛は答えるのですが…

 しかし、殺さない代わりに詫びろというのは、これはいかに世間知らずの娘の言葉といえいかがなものか。
 案の定、この世に人の命を購えるものがあるとすればそれは人の命のみだと、凛を嘲笑う新夜は、手を突いて詫びるふりをして凛に襲いかかり、(それを予期していたにも関わらず)凛は意識を失う羽目になってしまいます。

 ここで「この面だけは剥がされるわけにはいかない」とうまいこと言いながら、しかしすぐに凛を始末せず、凛の体に血化粧を加え、その出来映えを満足げに寛賞する新夜もまた、ずいぶんとおかしな行動をするものですが…(芸術家気質とはいえ、ねえ)

 ちなみにこの場面、明らかに凛の母がされたことと同様に「体を蹂躙すること」の暗喩。
 その少し前、凛との会話中に、新夜が凛の体にメイクするところを想像するというシーンもあって、こういう形で描いてみせるというのには、感心いたします。

 閑話休題、そんなことをしているうちに万次は窓から新夜の家に入り込み、凛を救出――
 するのですが、ここで突然万次を前に部屋の箪笥を動かし始める新夜と、それを手伝わされる万次というよくわからない展開になってしまいます。

 どうやら新夜は狭い空間での戦いを得意とするらしく、燭台で固定された箪笥によって分断された部屋の中で、万次は新夜に翻弄され、次々と武器を奪われた末に新夜に押さえつけられ、また新夜は血化粧を始める始末であります。

 この場面、新夜も万次の弱さに呆れるのですが、それは見ているこちらの台詞。
 凛といい新夜といい万次といい、今回の登場人物はどこか変で、復讐/償いと家族という重たいテーマが、正直台無しになっている感は否めません。

 結局、万次が窓から入る時に使って外に刺しっぱなしになっていた刃によって新夜は敗れ、凛の制止むなしく万次によってとどめを刺されることとなります。
 そしてその場に帰ってきてしまった錬造は、万次を刺し…万次が死んだと錬造が信じたところで、このエピソードは終わります。


 原作ではちょうどこの辺りからストーリー志向と言いましょうか、派手な剣戟よりもドラマ性を重視する過渡期にあったかと思いますが、上記の通り内容的には疑問符が付く内容。
 原作では「ちょっとおかしいな」と思いつつ、絵の力で読まされましたが、このアニメでは「だいぶおかしい」になってしまったのは、これは何のためなのか…さて。


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2010.12.28

「もろこし紅游録」(その二) 結末と再びの始まりと

 昨日に続き、秋梨惟喬の武侠ミステリ「もろこし紅游録」の紹介、今回は後半の二編であります。

「鉄鞭一閃」

 蘇州の饅頭屋が殺され、首を奪われた。時を同じくして剣術の達人・馬崇年が殺される。風変わりな鉄鞭遣い・幻陽が暴く二つの殺人のからくりとは。

 作者もあとがきで述べている通り、本書に収録された作品の中では、最もオーソドックスな武侠ものに近い作品でしょう。
 口が悪くてちょっと風変わりですが、義に厚い好漢幻陽こと呼延雲が、父親を殺された饅頭屋の息子の願いを受けて、不可解な謎の解決に乗り出すこととなります。

 本作で描かれるのは、殺害され首を奪われた饅頭屋と、厳重に警戒された屋敷の中で殺害された剣術の達人と、二つの殺人事件の謎。
 実は、武術の達人が不可解な状況下で殺され、それに巻き込まれた子供を助けて謎の達人が活躍するというストーリー展開は、記念すべきシリーズ第一作「殺三狼」とほとんど同じパターンではあります。

 しかし、本作では幻陽の文字通り陽性のキャラクターと(作者曰くcvは関俊彦)、彼が解き明かす事件のからくりのユニークさが相まって、二番煎じという印象はありません。
 内容的には、本作が武侠ミステリという言葉に最も相応しい作品であります。

 ちなみに、今更ながら感心したのは、武侠ヒーローとミステリ(というより名探偵)の親和性。
 困っている人や奇怪な事件を見たら放っておけない(おいてはいけない)武侠ヒーローは、事件に首を突っ込ませるには無理のない存在ではないか…と感じました。


「風刃水撃」

 江南の城市・江仙に出没する謎の風水師たち。そんな中、土地の元締はイギリス資本と手を結ぼうとしていた。売れない風水師・関維は、一見無関係の両者に意外な繋がりを見出す。

 ラストの本作は、時代的にも内容的にも、本シリーズの最後に位置付けられるであろう作品。
 なんと時代は辛亥革命の頃、二十世紀に入ってからの物語であります。

 江南の城市で弟子(?)の甜甜と二人、町で売れない風水師を営む関維。流しの風水師により庭の神木を爆破されたという婦人に依頼され、調査に当たった彼は、ほかにも謎の風水師が出没し、ついには殺人まで起こったことを知ります。
 時同じくして、彼は街の元締から、街を訪れるイギリス資本のVIPを守るために、風水師としての腕を振るうよう依頼されます。
 そして彼は、数年ぶりに自分の前に現れた弟弟子が、一連の事件の背後にいることを知るのですが…

 本作の舞台となるのは、清朝が崩壊し、列強が次々と大陸に侵出して中華秩序が崩壊した時代――それはすなわち、武侠ものを成立させてきた世界が崩壊したということでもあります。
 本シリーズの世界観を貫く中華世界の勢(システム)が既に成立しなくなった世界で、その勢を守る銀牌侠は如何に生きるのか? 勢を守る銀牌侠は、同時に勢を体現する者なのですから…

 正直なところ、本作はミステリとしては色々な意味で乱暴にすぎる、作中の人物にすら無茶と言われてしまう(…しかし本書はそういう事件ばかりの気が)ものなのですが――しかしこの視点があるが故に、一級のドラマとして成立していると感じさせられるのです。

 そう、本作は武侠なき世界に最後の武侠を貫こうとする男たちを描く中華ハードボイルド。様々なものを失い、それでも立ち上がる主人公の姿は、まさに「侠」男泣きものであります。

 そして、その底流にある作者のボンクラ魂にもある意味感心してしまうのですが…

 それはさておき、冒頭に述べたとおり、シリーズの最後に位置するであろう本作ですが、しかしそれはシリーズの終焉を意味するものでは、もちろんありません。
 万物には始まりと終わりがあり――それだからこそ世界は安定して存在できる。
 締めくくりを描くことにより、本作の世界観はかえって安定するのであり、つまり本作はターンエー銀牌侠である、と言ってはすべて台無しでしょうか。


 冗談はさておき、結末を迎えたことで再びの始まりを予感させる本作。武侠ミステリという新しいジャンルを作った前作に対し、その世界をさらに広げ、和製武侠小説の可能性を見せてくれた感があります。
 その可能性がどこまで広がっていくのか、シリーズの今後の展開が、そして作者の今後の作品が、大いに楽しみなのです。

「もろこし紅游録」(秋梨惟喬 創元推理文庫) Amazon
もろこし紅游録 (創元推理文庫)


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2010.12.27

「もろこし紅游録」(その一) 銀牌、歴史を撃つ

 武侠+ミステリという非常にユニークな設定で武侠ファンの間で話題となった秋梨惟喬の「もろこし銀侠伝」に続く待望のシリーズ第二弾「もろこし紅游録」が登場であります。
 今回も前作同様、全四篇からなる短編集ですが、舞台となるのは春秋戦国時代から民国時代まで、実に二千年ほどの隔たりのある時代。黄帝が造ったという天下御免の銀牌――この銀牌を持ち、この世の勢(システム)を維持するために戦う銀牌侠も、作品によって様々な姿で登場し、活躍することとなります。
 今回も、各作品毎に紹介していきましょう。

「子不語」

 斉国の都で続発する殺人事件。被害者はいずれも体に無数の傷を付けられ、顔を潰されていた。事件の背後には恐るべき怨念が…

 舞台となるのはシリーズの中で最も古く、春秋戦国時代の斉(田斉)。仕官や栄達を求めて大陸中から秀才が集まるこの国で起きた連続殺人の謎に、思想家・慎到が挑みます。

 本シリーズを貫く勢(システム)の理論――国を、世界を、いや万物の秩序を支配し、理論立てるこの理論は、後に「韓非子」に取り入れられ、その柱の一つとなるものですが、本作においては、冒頭に述べたように、銀牌侠によって守られるべき中華世界の秩序を示したものとして描かれます。

 そしてその勢の理論を生み出したのが、この慎到。
 いわば銀牌侠の生みの親である彼が登場する本作は、時系列的にも内容的にも、(現時点では)シリーズで最初に位置する作品であります。

 そのような性格の作品のためか、内容的には武侠度は薄いのですが、ミステリとしては、一見、単なる辻斬りと思われた連続殺人が、ある共通点から解き明かされていく様がなかなか面白い。
 顔を潰された死体というのは、ミステリにしばしば登場するシチュエーションですが、本作でのその理由には驚かされました。

 もっとも、事件の背後にある動機はある意味アンフェアの極みであり、現代の我々から見ればありえないものと映るのですが、しかしそのギャップこそが、ある意味事件の起きた理由であり、その時代ならではのものという点で、ユニークな歴史ミステリと言うべきでしょう。


「殷帝之宝剣」

 武林を震撼させた達人殺しの犯人を倒し、伝説の殷帝之宝剣を手にしたという破剣道人。しかし今度は道人が密室で殺害される…

 時代はぐっと下って明代、前作に収録された「北斗南斗」と同じ時期の物語です。

 武林で達人が次々と殺され…というのは、武侠小説(特に古龍あたり)の定番パターンの一つ。
 旅の途中、謎めいた主従と出会い、雨宿りのため人里離れた道観に赴いた主人公。そこに集っていたのは武林の超一流の達人たち…
 というシチュエーションだけで嬉しくなりますが、そこで主人公が、中華世界を震撼させた連続暗殺魔を倒したという破剣道人が何者かに殺害される場面を目撃することで、一気に密室ミステリとしての色彩を強めていくことtなります。

 密室殺人のトリックは、連続殺人は終息したのではなかったか、そして道人が手に入れたという伝説の宝剣の正体は…
 短編ながら、様々な要素が盛り込まれて、なかなか豪華な作品です。

 しかし本作の真の見所は、一連のトリックが明かされた先に浮かび上がる、「真犯人」の意図でしょう。
 その意図は、壮大で、そして作中でも言われるように、あまりにも無理があるものではありますが、しかし歴史を振り返れば決してあり得ないものではなく…そして、武侠ものならではのものなのです(更に言えば、シリーズの展開を受けているのも心憎い)。

 武侠ものの定番を踏まえつつ、その背後の歴史を撃つ――くせもの揃いの本シリーズらしい作品です。


 後半二作は次回取り上げます。

「もろこし紅游録」(秋梨惟喬 創元推理文庫) Amazon
もろこし紅游録 (創元推理文庫)


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2010.12.26

「快傑ライオン丸」 第09話「死を呼ぶ吸血怪人ゾンビー」

 人々を襲う吸血怪人ゾンビーを追う獅子丸たち。村娘を殺し、その死体を奪ったゾンビーを追った獅子丸たちは、迷い込んだ廃屋でゾンビーとミイラ忍者たちに襲われる。異次元に誘い込まれ、不死身のゾンビーに苦戦するライオン丸だが、ライオン飛行斬りで勝利。殺された娘たちも息を吹き返すのだった。

 これまで基本的に和風の怪人が登場してきた「快傑ライオン丸」ですが、今回の怪人はゾンビー。
 以前、ゾンビ時代小説特集をこのブログでやり、ゾンビが登場する時代小説はほとんど押さえてきたつもりですが、映像作品で時代劇にゾンビが登場したのは、これが嚆矢ではないでしょうか。

 そのゾンビー、コスチューム的には顔だけマスクで体は赤い忍者服というシンプルなものですが、それが逆に妙な現実感を漂わせるユニークなデザイン(変身すると青黒い水死体チックな気持ち悪さなのもよろしい)。
 配下も普段のドクロ忍者ではなく、茶色の顔をしたミイラ忍者と、なかなか雰囲気が出ています。
 作中では獅子丸たちから「吸血怪人」と呼ばれるだけあって、次々と人々を襲い、血を吸って殺すゾンビー。その犠牲者の死体を持ち去るのは、配下のミイラ忍者を増やすためでしょうか?

 さて、お話的には、ひたすらゾンビーの追撃戦という印象の今回。
 ゾンビーを追ってきた獅子丸たち三人が、夜、雷鳴の中でゾンビーたちと切り結ぶ場面から始まります。

 形勢不利とみて逃げ出し、次に旅人や村娘を襲って殺すゾンビー。
 ゾンビーを追いかけてきて娘の死体を見つけた獅子丸たちは彼女を弔おうとするのですが、ここで村人たちが、村に葬るとゾンビーが死体を取りに来るだろうから許すわけにはいかない、とうち捨てておこうとするのが、妙に土俗的で良いのです。

 その不安は的中し、死体を奪って逃げるゾンビーを追って行った獅子丸は、敵の本拠と思しい荒れ果てた屋敷に踏み込むのですが…この辺りから展開・演出が微妙な感じに。

 このゾンビー、斬られても突かれても死なない不死身の体の持ち主ですが、実は二つの弱点があります。
 その一つは銀の簪。偶然、殺された娘が持っていた(…そんな娘をよく襲ったな)のを沙織が拾って持ってくるので、これが逆転の鍵となるのかと思いきや、老婆に化けたデボノバに奪われてしまいます(これはこれで面白い展開)

 しかしもう一つは「本当の勇気」というのがよくわからない。
 しかも、この二つの弱点、ナレーションで語られるのみというのがひどい。
 結局劇中で獅子丸たちがこの弱点を知ることはなく、何となくゾンビーを倒してしまうのには悪い意味で驚かされます。…まあ、獅子丸は「本当の勇気」を持っていてもおかしくないですが。

 その他、変身した獅子丸に小柄を投げつけたらあっさり受け止められた上に投げ返され、すごすご逃げ帰ったらデボノバに一喝されていやいや戻るというゾンビーというのも雰囲気台無し(ゾンビーが戻ってきた時に主題歌が流れ出す呼吸はもうコメディかと)
 ラストの戦いは、異次元(らしい)真っ暗な空間の中でライオン丸とゾンビーの斬り合いとなるのですが、ここでかかるスローモーションのエフェクトにまたイライラ…

 上述の通り、普通にライオン丸がゾンビーを倒してしまうのも含めて、雰囲気は良かったのに演出が台無しにしてしまうという、非常に勿体ない回でした。


 そして最後のサプライズ、EDクレジットで老婆と旅人とゾンビー(のスーアク)のキャストにぼかしが!
 一体何事かと驚いたのですが、これはこの回のみED映像が残っていなかったため、他の回の素材を用いて作ったためとのこと。
 今回だけ出演の役者だったか、あるいは役者名が不明だったか…いずれにしても珍しいケースですね。


今回のゴースン怪人
ゾンビー

 ザンバラ髪に赤い忍者服の怪人。両脇に刃のついた剣と、口から吐き出し自在に飛び回る火の玉を武器とする。目からの光線で相手の体の自由を奪い、血を吸って殺す。全身青黒い姿の第二形態に変身することも可能。
 銀の簪と本当の勇気が弱点で、それ以外の攻撃は効かないが、あまり関係なくライオン飛行斬りに倒された。


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2010.12.25

「元禄百妖箱」 善玉なき忠臣蔵世界

 生類憐れみの令を発布し、人々を苦しめる徳川綱吉の母・桂昌院の正体は、九尾の狐だった。綱吉と柳沢吉保とともに日本を滅ぼそうとする彼らの正体に気付いた神官・羽倉斎は、異国の狐を滅ぼさんとする。しかしその争いの中に吉良上野介と浅野内匠頭が巻き込まれたことから、事態は思わぬ方向へ…

 10日ほど遅れましたが、12月14日は赤穂浪士討ち入りの日というわけで、伝奇な忠臣蔵を。
 忠臣蔵といえば元禄時代、元禄時代といえば徳川綱吉と生類憐れみの令…その生類憐れみの令を出したのが、実は殺生石の封印から解かれた金毛九尾の狐だった、という大変なお話であります。

 玉藻前に化けた九尾の狐が変じ、玄翁和尚に打ち砕かれたという殺生石。その殺生石を、ある武士が破壊したことから、物語は始まります。
 封印を解かれた九尾の狐は、二匹の眷属を連れて世に現れ、桂昌院と徳川綱吉、柳沢吉保に変じて、人々を苦しめるために生類憐れみの令を発布します。

 その企てに気付いたのが、伏見稲荷の神官・羽倉斎(後の荷田春満!)。彼は持てる秘力を用いて、勅使饗応の機に乗じて異国の狐たちを討たんとするのですが…
 しかしその企ては失敗――どころか、吉良と浅野がそれに巻き込まれて刃傷沙汰を起こし、浅野家がお取りつぶしになる羽目に。
 さらに唯一九尾の狐を封じる力を持つモノが、吉良の手に渡ったことから、羽倉斎は浪士討ち入りを焚きつけることになります。

 そう、本作においては、忠臣蔵の物語は九尾の狐と羽倉斎の争いに巻き込まれ、いわばついでに生まれたものに過ぎません。
 当然、そこには忠義という美徳が入り込む余地はなく、ただ運命に翻弄される人々の阿鼻叫喚があるのみ…

 例えば大石内蔵助は、本作においては正真正銘の昼行灯。仕事に対する熱意はさらさらなく、家のお取り潰しの際にも、一刻も早く逃げだそうとばかり考えている人物として描かれます。
 その大石が討ち入りの先頭に立つこととなったのには、羽倉の陰謀(としか言いようがない)があるのですが…

 その羽倉も決してヒーローではなく、むしろ非常識な一種の怪人として描かれている点なども合わせて、悪役はいるが善玉はおらず、ただ振り回され、死んでいく者がいるのみというのが本作の構造。
 この辺り、声高に忠臣蔵の偽善性を訴えるよりもさらにキツい、いかにも作者らしい意地の悪さであると感心いたします。

 もっとも、趣向の面白さはあるものの、物語としてこの内容が楽しいかといえば、個人的には疑問であります。
 人は運命に、巨大な力の前にはただ動かされるしかないのか? という想いに、力一杯「Yes」と答えられてしまうと――本作のメインキャラの一人、未来視の力を持ってしまった堀部安兵衛などはまさにそれを体現しているのですが――、正直なところ、寂しい想いしか残らないのですが…
(それが作者の作品だよ、と言われたらそれまでではあります)

 もっとも、そんな物語が、後世にどう語り継がれているかを考えれば、それ自体が痛烈な皮肉であり――その点も含めて、本作の味と解すべきなのかもしれませんが。

「元禄百妖箱」(田中啓文 講談社) Amazon
元禄百妖箱

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2010.12.24

「隠密 奥右筆秘帳」 権力に挑む決意の二人

 旗本の息子が、併右衛門の娘・瑞紀を誘拐した。衛悟とともに娘を救出した併右衛門は、ある決意を固める。その頃、家斉がかつて暗殺されかけたことを知った定信は、併右衛門にその真相究明を命じる。探索を進める併右衛門たちに伊賀者の魔手が迫る。一方、朝廷側から、定信に対して恐るべき誘いが…

 今年も大活躍だった上田秀人の年の締めくくりは、「奥右筆秘帳」シリーズの最新巻であります。

 幕政の闇に巻き込まれた老練の奥右筆・立花併右衛門と、彼の警護役として雇われた旗本の次男坊・柊衛悟の戦いも、早いものでもう七巻目。
 前作「秘闘」で、徳川将軍家の根幹に関わる恐るべき秘密に接してしまった二人は、これまで同盟関係にあった松平定信とも決別し、いよいよ抜き差しならぬ状況に陥るのですが――

 その座を退いたとはいえ、前老中の定信と対立して、一旗本がただですむわけではない…はずなのですが、しかし、面白いのはそこに働く政治的力学。
 定信と将軍家斉、そしてその父・一橋治済という三人の権力者が互いの出方を牽制する中、不思議なバランスで併右衛門は再び定信から命を受けることとなります。

 江戸城内で幾度となく家斉が命を狙われたという衝撃的な事実。それを知った定信が、併右衛門に探索を命じたのです。
(一見、無茶な命に見えますが、江戸城内で何か行動を起こすには、たとえ暗殺に繋がるものであっても書類に依らなければならないという点からたぐっていくのが面白い)

 しかしその探索の行き着く先にあったのは、かつて隠密(まさに今回のタイトルであります)として幕政の闇の一端を担った伊賀者。
 御庭番にその任を奪われ、復権に燃える伊賀者の刃は、併右衛門と衛悟を襲うこととなります。

 しかし、物語の流れを大きく変えかねない陰謀がその一方で動き始めます。物語の当初から暗躍を続けていた(というかほとんど毎回顔だけ出していた)公澄法親王方が、この混乱を機に動き始めたのです。
 公澄法親王方が誘いをかけた先は、松平定信――これまで、冷徹ではあっても私心なき人物であった定信の心は、ここにおいて変貌を見せることとなります。

 その一方で、権力者としての孤独な顔を見せる家斉、そして治済。家斉はともかく、これまで幾度となく併右衛門と衛悟を苦しめてきた陰謀家・治済ですら、権力の重みに苦しむ姿は意外であり――そして、それでいてなお権力を、権力を求めることを放棄できない姿には、個人を飲み込む権力の魔の恐ろしさと、それに逆らうことのできない人の業というものをまざまざと見せつけられた思いがします。

 しかし、それでは権力に対して個人が全く無力なのかといえば、そうではないこともまた、言うまでもありません。
 巨大な権力を向こうに回して、自分の経験と知恵を武器に戦う併右衛門。そして、己よりも遙かに強い相手に対しても背を向けず、孤剣を持って立ち向かう衛悟。
 我らが二人の主人公の姿は、権力に対して個人が如何にあるべきかということを、教えてくれるのです。

 特に衛悟は、今回伊賀者との死闘の中で傷を負い、これまでの剣が振るえなくなるという大ピンチに見舞われながらも、しかし、目の前に示された安逸な道をあえて捨て、人として守るべき信義のため、困難な道を選ぶ姿がやはり良い。

 結末でついに形として示された併右衛門の決意も、単なる打算のみではなく、そんな衛悟の人として、武士として好ましい心を買ってのこともあるのでしょう。
 先は未だ険しい道のりですが、二人の決意が次の困難を如何に乗り越えるのか、見届けましょう。

「隠密 奥右筆秘帳」(上田秀人 講談社文庫) Amazon
隠密 奥右筆秘帳 (講談社文庫)


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2010.12.23

「サムライ・ラガッツィ 戦国少年西方見聞録」第1巻 少年は西方を目指す

 九州の小国・播磨家でうつけと呼ばれる当主・晴信には、この世のすべてを記述した万國大百科を完成させたいという夢があった。他家が四人の少年を羅馬に派遣することを知った晴信は、己を暗殺しに来た凄腕の忍び・朧夜叉の桃十郎を供にして、世界を見るために自ら使節団の船に乗り込む。

 天正10年(1582年)、四人の少年――伊東マンショ・千々石ミゲル・原マルチノ・中浦ジュリアンが、大友宗麟らにより、羅馬(ローマ)に派遣されました。
 このいわゆる天正遣欧少年使節については、若桑みどりの「クアトロ・ラガッツィ 天正少年使節と世界帝国」に取り上げられていますが、今回紹介する「サムライ・ラガッツィ 戦国少年西方見聞録」は、その天正遣欧少年使節異聞というべきユニークな作品です。

 舞台は本能寺の変で信長が死に、まだ世情混沌とした時代。しかし本作の主人公、九州の小国の当主・播磨晴信は、城を飛び出しては周囲の事物を観察する毎日…
 そんなある日届いたのが天正遣欧少年使節を送るとの知らせ。播磨家も人を――ただし正規の使節ではなく雑役を行う者を――出すことを求められた晴信は、あろうことか晴信は自分がローマに向かうと言い出します。

 しかしそんな動きとは無関係に、彼を亡き者とし、より優秀な弟を当主とせんとする者たちに雇われた忍びに襲われる晴信。
 が、自分を襲った凄腕の忍び・朧夜叉の桃十郎を、逆に雇い入た晴信は、彼をローマ行きの供に加えてしまうのでありました。
 かくて家を捨て、桃十郎と二人、遣欧使節の船に乗り込んだ晴信の冒険が始まることとなります。


 そんな本作の第一話を読んだときには、あからさまに有馬晴信(の名前)をモデルにしたキャラクターが、自ら欧州に向かうという設定に驚いたものですが、しかし、読み進めてみると、これが意外と悪くない。

 当時の世界情勢や、旅の途中に立ち寄る土地や晴信たちが乗る船の描写など、本作を時代ものとして成り立たせている背景設定のディテールが描き込まれているため、突飛なはずの物語が、無理なく受け止められるのです。

 そして何よりも、晴信の人物造形がユニークであります。
 武士の家に生まれながら戦いを好まず、夢はこの世のすべてを記述した万國大百科を完成させること――そんな学者肌のキャラクターでありながら、しかし内に籠もることなく、どこまでも明るく外向きに、夢と理想を求めていく晴信。

 明るさ前向きさを全面的にアピールしていくそのキャラクターは、師匠の藤田和日郎とは似て非なる熱血描写であって、(僕を認めてアピールが強すぎる気がして)個人的にはちょっと苦手なのですが、そこに、実は晴信が戦で親兄弟を失っているという、戦国ならではの背景を絡めてくる辺りのドラマ性に、素直に感心させられました。

 バトル面でも、力はからっきしでも、様々なものを観察しているうちに、完璧な計測術を身につけ、それが間合いの見切りに繋がるというのも面白い。
 なりゆきから(?)彼に仕えることとなった桃十郎が、彼と触れ合ううちに人間性を得ていくという辺りも、お約束ではありますがやはり良い展開です。


 この第1巻では澳門までの旅が描かれましたが、まだまだ羅馬への道は遠いですし、少年使節たちとの距離もまだ離れています。
 しかしそれは、これからのお楽しみ。使節の晩年は不遇でしたが、さて、晴信の将来は…楽しみにしましょう。

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2010.12.22

「無限の住人」 第十幕「變面」

 アニメ版「無限の住人」もいよいよ終盤。第十幕「變面」は、川上新夜編の前編、運命の皮肉か、凛が思わぬところで怨敵と出会うこととなります。

 万次と二人、縁日を訪れ、年頃の娘らしく振る舞う凛が並んでいた屋台に割り込んできた少年・錬蔵。

 一方、年頃のおっさんらしく全く女の子の心のわからない万次(一見ギャグシーンのようでいて、縁日の光景を、自分にとっては水の中の景色のようだと呟くのが興味深い)は、独特のセンスを持った面作りの男・川上新夜と出会います。

 この新夜、実は逸刀流の一員。
 万次とここで対面したのは偶然ではありますが、しかし逸刀流にとって万次と凛は既に無視できぬ敵、出会えば即斬るべき間柄、というわけでまさに一触即発となったその瞬間――そこに錬蔵が現れたことから、新夜は刀を引きます。

 実は錬蔵は新夜の息子、妻に先立たれた(それ以前に一度逃げられた)新夜は、親一人子一人の暮らしを続けていたのでありました。
 が、その新夜の顔を見た凛は、これまでにない憎悪の表情を浮かべるのですが…

 そして翌日、錬蔵が破落戸に絡まれる場に居合わせた凛は、己が嘲られるのも構わず錬蔵をかばい、その場を収めることに。
(この時、凛の着物の裾が、破落戸の足にまさぐられるシーンが無駄にエロい。アニメ化の成果?)
 礼をするという錬蔵について、凛は一人、敵の一人である新夜のもとに赴くことになります。

 凛がかつて自分たちが襲撃した浅野道場の一人娘と知ってか知らずしてか、己の身の上を語る新夜。
 かつては散々剣士としてやんちゃもしたけれど、逃げた妻が病で死んで錬蔵一人残ったことから、新夜は剣士を引退したとのことですが――「親が危ない橋を渡っていると、子供もいずれ似たような道に踏み込む」という言葉が、その後の錬蔵の運命を考えれば皮肉どころではないのですが、それはさておき。
 そして凛の両親のことを聞く新夜に、淡々と凛が両親のことを語り始めたところ(そして凛を追って万次がヘンなBGMと共にずんずん歩くところ)で、今回は幕となります。

 と、実はほとんどアクションらしいアクションのなかった今回。
 万次の刀が抜かれたのも、面を加工する新夜に刀を貸した時と、凛の行方を聞き出すため、屋台をブチ壊した時のみという地味な回であります。

 実のところ、原作でもこの新夜編辺りから、どんどん人間ドラマ主体の展開となっていくので(見開き解体シーンがなくなるのもこの辺りから)、原作に忠実な展開ではあるのですが、しかし今回はその分、キャラクター描写と声優の芝居に集中することができたかと思います。

 まだ後編があるため、ここであまり語るのも難しいですが、新夜の初登場シーンは、同じ面を欲しがる幼い兄妹に柔らかく語りかけてその場を収めるという、不思議な人間味を感じさせるもの。
 錬蔵のために逸刀流から足を洗おうという点も合わせて、穏やかな人物にも見えますが…

 そしてその新夜を激しく憎む凛(その因縁を語り始めたところで終わるのもうまい)が、彼を前に淡々と語り始める辺りの佐藤利奈の語りもなかなかよろしく、次回の爆発が期待できそうです。


 と、声といえば、途中に出てきた妙に陰気な声の風車売り、原作者だったんですね…


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2010.12.21

「射雕英雄伝EAGLET」第5巻 ついに両雄並び立つ!

 もう一つの射雕英雄伝、「射雕英雄伝EAGLET」もこの第5巻でついに完結。郭靖と黄蓉の旅も、ここで幕となります。
 西毒・欧陽鋒の邪術により、己の意志を奪われた洪七公。意志を失う寸前の洪七公から、最後の降龍十八掌の伝授を受けた郭靖は、死地と承知で、洪七公と欧陽鋒の待つ趙王府へ向かうことになります。

 その戦いに同行するのは、洪七公の配下の丐幇の者たちと、黄蓉、そして穆念慈。
 その前に立ち塞がるのは、完顔康――
 かくて、全ての役者が揃い、ここに最後の戦いの幕が開くこととなります。

 これまでも何度も書いてきましたが、本作の展開は完全に原作を離れたもの、噴飯もの! と怒る原作ファンの方もいらっしゃることでしょう。
 …しかし、個人的にはこれが(これまで同様)面白かったのです。

 襲撃者の中に穆念慈の姿を見て動揺する完顔康と、かつて自分を救った男の正体が完顔康であると知った穆念慈の想い。
 洪七公を救うために敵陣深く入り込んだ郭靖の前に立ち塞がる、量産型(?)降龍十八掌使いとの対決(字で書くと馬鹿馬鹿しく見えるかもしれませんが、この展開はなかなか燃える!)

 そして最強の敵となった洪七公に対し、郭靖と完顔康が背中を合わせて挑む! というシチュエーションは、これまで郭靖と完顔康の対決に絞って物語を描いてきた本作だけに、最大の盛り上がりと言って良いでしょう。


 もちろん、原作と比べれば不満は尽きません。
 原作で極めて印象的だった東邪は結局シルエットのみの登場、他の五絶である南帝と中神通は全く登場せずと、原作の魅力の一つを構成していたキャラクターたちの多くが登場しないのはやはり勿体ない。

 何よりもストーリーがほとんど武功比べに終始してしまい、原作にあった権力との距離感の持ち方、身の処し方――これは金庸作品においてはしばしば重要な要素となるものですが――にまで及ばなかったのは、「射雕英雄伝」を冠する作品として残念でなりません。

 とはいえ、そうした点があることを割り引いても、私は最後までこの作品を楽しませていただきました。


 既に原作の忠実な漫画化が存在する以上、ここでもう一つ忠実な漫画化を行っても仕方がない。
 むしろ、現代の日本の漫画としてアレンジを加え、一種武侠入門編的な作品にして見せるというのは、これはこれで正しいアプローチであったと思います。

 いや、それに金庸を使うな、というのもごもっともな意見ですが、基本的に他メディア化には原作と異なる味付けを求めてしまう私としては、なかなかに楽しませていただきました。

 色々と大変なことも多かったとは思いますが、作者には今後も武侠漫画にチャレンジしていただきたいものです。
 推理ものが好きということですが、次は古龍ネタで行ってくれたら、私が大喜びします。


「射雕英雄伝EAGLET」第5巻(白井三二朗&金庸 講談社シリウスKC) Amazon
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2010.12.20

「黒衣忍び人」 敵は柳生十兵衛!?

 極秘で城の改築計画を進めていた越後九十九藩主の母・小牧御前。しかしそれは、諸藩取り潰しに暗躍する柳生十兵衛と隠密たちに漏れていた。武田透破の末裔・狼火隼人は小牧に雇われ、城の絵図を守るために活動を始める。しかしそこに第三の忍びたちが出現、三つ巴の激しい戦いが始まるのだった。

 これだけ毎月多くの作品が刊行されている文庫書き下ろし時代小説ですが、しかしその中でも見かけるのが稀な感のある忍者もの。
 本作「黒衣忍び人」は、そんな稀な忍者ものの活劇であります。

 物語の始まりは、かの荒木又右衛門の鍵屋の辻の仇討ちから。
 長年の苦節の末、ついに目指す仇・河合又五郎を見つけた又右衛門の晴れ姿を見届けるために現れた柳生十兵衛は、又五郎の供の中に、百姓姿ながら気になる男を見つけます。

 実はその男こそが本作の主人公・狼火隼人、そして彼の正体は、かつて武田信玄に仕えた透破の末裔。
 戦国の世では大活躍した透破ですが、しかし時は流れ、今は徳川三代将軍家光の世、既に主家もない透破がその腕を活かす機会などありません。
 それであれば、自分で売り込むしかない! と、隼人は三人の配下と共に里を出て、裏の何でも屋とも言うべき稼業を始めた、という寸法です。

 残念ながら初仕事の又五郎警護は、十兵衛が目を光らせていたために失敗に終わりましたが、その際に十兵衛の配下を殺したため、隼人と十兵衛の因縁が始まることとなります。

 この隼人、上忍という立場にありながら(あるからこそ?)、どこか人の良さのある若者。血で血を争うような裏の戦いの中でも、明るさを失わない不思議なキャラクターであります。
 自らの初仕事を潰した十兵衛に対しても、妙にウマの合うものを感じてしまうのがおかしいのです。

 一方の十兵衛も、父のような生き方が気に入らず、家光を剣術指南の際にブチのめしてしまうような奔放児。
 今は諸藩の落ち度を探して旅する汚れ仕事ですが、しかしそれでも暗さを感じさせない陽性…というか剛性の男で、こちらも隼人に不思議な魅力を感じることになります。

 本作では、とある小藩を巡ってこの二人がぶつかり合うことになるのですが、ここにさらに第三の忍び集団が加わり、自体はさらにややこしいことに。
 藩を守ろうとする隼人、藩を取り潰そうとする十兵衛、さらにまた藩を狙う謎の集団…それぞれの背後にいる者の思惑も絡んで、まずはこの辺りが本作の見せ場というところでしょう。


 …が、本作がその特異な物語設定を十分に活かしていると言い難いのが残念なところ。
 事件のスケールが微妙に小さいのもそうですが、事件のきっかけを作った藩主の母・小牧御前が持つという秘密、徳川将軍ですら逆らえない秘密というのが、存外に寂しく…
 こんな程度のことで藩を傾けていたのか!? と正直呆れました。

 また、個人的には文章にも垢抜けていないものを感じてしまい、そもそも作品に乗れなかったのも寂しいお話であります。

 しかしそれでも貴重な忍者もの。先日発売された続編では、隼人と十兵衛が共闘するらしく、こちらもはやり読まねば…と思っているところではあります。

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2010.12.19

「快傑ライオン丸」 第08話「分身魔王デボノバと怪人イワゲバ」

 ゴースンは自らの分身・デボノバを生み出し、ライオン丸抹殺を命じる。デボノバはイワゲバに命じ、とある村に娘を差し出すよう脅迫させる。生け贄役を買って出た沙織に襲いかかるデボノバを前に獅子丸が変身しようとした時、イワゲバの銃が獅子丸を撃つ。攫われた沙織を追う獅子丸だが、傷が元で変身できない。しかし果心居士の幻影に叱咤された獅子丸は痛みをこらえて変身。イワゲバを倒し、間一髪で沙織を救うのだった。

 冒頭、今まで現場の怪人に好きにさせていたのがいけないと思ったのか、口から分身魔王デボノバを生み出すゴースン。
(そういえば怪人たちは「デボー」「ノバー」と鳴いていましたが…これなに?)

 仮面をかぶっているような生身の顔のような、今であればスタンドっぽい不思議なデザインのデボノバ、さっそくそこらで好き勝手に人を襲っていたイワゲバと配下を屈服させ、命令を下します。
(この時、デボノバがドクロ忍者に襲われるのがおかしい。まあ生まれたばかりだから知らないんでしょうけども)

 それは、獅子丸たちが厄介になっていた村に、娘を一人生贄に差し出せと矢文を打ち込ませること。
 あっさり言うことを聞いた村長がくじ引きで選ぼうとする中、生贄役を買って出たのはもちろん沙織なのですが…もう捕まるフラグが立ちまくっています。

 長持に入れられ指定の場所に向かう沙織さんを襲撃するデボノバとドクロ忍者。沙織を攫って(やっぱり…)逃げるデボノバを、獅子丸が変身して追おうとしたとき…その背後に隠れていたイワゲバの短銃が火を噴く!

 辛うじてその時は変身できたものの、肩に弾丸を受けたライオン丸は精彩を欠き、岩を転がり落とす岩つぶて(その1)に苦しみ、その場から逃れます。

 ちなみにこの短銃、デボノバに与えられたものですが、怪人が自分の能力ではなく短銃で襲ってくるというのが妙なリアリティ…と言うべきでしょうか。

 さて、弾丸は小助が取り去ってくれたものの(本当に立派な子や…)、獅子丸は肩を撃たれたため腕が動かせず、獅子変化のポーズが取れないという大ピンチ。
 沙織は、牢に入れられ、なんかいやらしい感じでイワゲバにいたぶられ…そうになったのはデボノバに止められますが、(またもや)処刑執行を宣言されます。

 そんな沙織を捜す獅子丸ですが、ドクロ忍者に襲われて変身しようにも腕が動かせず、珍しくも「お師匠さまーっ」と泣き言が出てしまいますが、そこに律儀に登場するお師匠・果心居士の幻影。
 冷静に考えれば魂がヒカリ丸に宿っているからアリなんですが、それはさておき、お師匠様は獅子丸を叱咤激励、獅子丸もあっさりと立ち直ります。

 そして、痛みをこらえつつ、片手変身を見せる獅子丸が、先ほどの泣き言が嘘のように格好いいのです。
 主題歌をバックにヒカリ丸で肉薄するライオン丸を狙撃せんとするデボノバですが、ライオン丸はさっとヒカリ丸の馬腹に隠れてこれを躱し、いよいよイワゲバと一騎打ち!

 しかし、イワゲバもドクロ忍者を岩に変え、そこに手槍を突き刺し、そこから弾丸のように岩の欠片を撃ち出すイワゲバ忍法岩つぶて(その2)で反撃。
 意外と身が軽いイワゲバとライオン丸が戦うその背後から再び短銃を放つデボノバですが、しかし弾丸はイワゲバに誤爆!

 イワゲバはなおもイワゲバ忍法岩石で岩に変じ、太刀を吹き飛ばしますが、しかし組み合いの末、再び太刀を手にしたライオン丸に目を抉られ、岩に戻って(?)大爆発!

 処刑台に縛り付けられ(ほとんど首輪みたいな緊縛のされ方がマズい)、頭上から吊り天井式に竹槍を落とされかかった沙織も間一髪で救われたのでした。

 そしてデボノバは、ライオン剣法の極意を確かに見せてもらったとなにげに凄い言葉を残して姿を消すのでした。

 幹部怪人の登場回でしたが、むしろどう見ても脳筋なイワゲバの言動が印象に残ってしまった今回。
 中間管理職は大変だな…とヘンなところで感心しつつ、やっぱり怪人が短銃というのはどうなのかな、と思ってしまうのでした(いやこの後出てくるガンマン連中はいいんですけどね)


今回のゴースン怪人
イワゲバ

 岩のような硬い体を持つ鬼のような姿の怪人。手槍状の得物を持ち、イワゲバ忍法「岩つぶて」「岩石」といった岩を操る。
 好き勝手に暴れていたところをデボノバの指揮下に入り、短銃でライオン丸を負傷させたが、一騎打ちで目を突かれて敗れた。


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2010.12.18

文庫版「柳生大戦争」 十兵衛封印

 第2回舟橋聖一文学賞を受賞した荒山徹「柳生大戦争」が文庫化されました。
 本作については、既に連載中にこのブログで取り上げており、単なる文庫化であれば改めて取り上げることはないと思っていたのですが…いやはや巻末に大変な爆弾が仕掛けられていたとは。

 その爆弾とは、巻末に付された文庫版あとがきと、書き下ろしの掌編であります。

 愛読者であればよくご存じかと思いますが、荒山徹は自作について語ることが極めて少ない作家。
 これまで結構な数の作品をものしている中で、あとがきが付された作品は数えるほどしかありません。

 そのあとがきが、しかも文庫のために新たに付されたとあれば、これは見逃せないものですが――
 豈図らんや、それが柳生十兵衛との決別、柳生サーガの終結宣言だったとは!


 わずか2ページゆえ、詳しい内容はぜひ原文に当たっていただきたいのですが、作者の柳生もの第一作である「十兵衛両断」から始まり、この「柳生大戦争」との関わり、そしてこれまでの十兵衛の活躍を語るこのあとがき。
 その末に待っていたのが打ち止め宣言とは、本当に驚かされます。

 そしてその最後の作品となるのが、書き下ろしの「十兵衛断裁」であります。
 柳生庄に籠もって著作活動を続ける晩年の十兵衛のもとに、これまで付き合いのあった版元から突きつけられたのは、著作の断裁宣言。

 断裁とは要するに、売れ残った本が返品されたために廃棄処分するということ。
 それに対し十兵衛は、最新作が今年度の上泉伊勢守賞にノミネート(って言葉をそのまま使ってる!)されており、受賞間違いなしと主張するのですが…


 …この文章を書いているうちに、真面目に驚いていいものか不安になってきましたが、まあ大変な内容であります。

 この宣言がなされた理由を額面通りに取ってよいものか、そして今後荒山作品がどうなるのか、それは大いに考えさせられる問題ではあります。

 しかし、あくまでもこれからも荒山作品の基本は、伝奇色横溢したエンターテイメントであり、日朝関係史小説。
 柳生という武器をあえて封印した作者の新境地を、一ファンとして期待したいと思います。そしてまた、その封印がいつか解かれることも…


 ちなみに細谷正充氏の解説には別な意味で驚きましたよ。

「柳生大戦争」(荒山徹 講談社文庫) Amazon
柳生大戦争 (講談社文庫)


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2010.12.17

「女陰陽師」 混乱の幕末に立つ少女?

 井伊直弼の懐刀・長野主膳の正体は陰陽師だった。後ろ盾の直弼を失った主膳は、自らが仕込んだ弟子の女陰陽師・八瀬を、和宮のもとに送り込む。自分と瓜二つの和宮のため、江戸降嫁の影武者となって中山道を行く八瀬に、次々と死の罠が襲いかかる。師・主膳のおぞましい真の狙いを知った八瀬は…

 幕末ものを得意とする加野厚志が、十年前に発表した異色作であります。
 十年前といえば、安倍晴明を中心とした陰陽師ブームの時期ですが、幕末を舞台とするのが作者らしい…というに留まらないインパクトのある作品であります。

 何しろ、井伊直弼のブレーンだった国学者・長野主膳が、実は陰陽師だったという設定。
 しかもこの主膳、両性具有めいた怪人物であり、奇怪な霊力をもって幕末の闇に暗躍するからすさまじい。

 この主膳に仕込まれた本作の主人公たる女陰陽師・八瀬もまた、ただの美少女ではありません。
 その名が示すように帝に仕える八瀬童子の出身である八瀬は、幼い頃より主膳に色々と(本当に色々と)仕込まれ、呪殺など物騒な術を操るヒロイン。

 美少女陰陽師というとキャッチーに聞こえますが、むしろそのキャラクターや活躍ぶりは、小池書院やリイド社的というか――何しろ主膳曰く、「女陰陽師」は、「おんな・おんみょうじ」ではなく「にょいん・ようじ」と読むのだそうですから…

 さて、その八瀬が巻き込まれることになるのが、かの和宮降嫁であります。
 直弼の死後、八瀬を和宮の影武者に送り込んだ主膳。実は八瀬は和宮と瓜二つ、この時あるを予知して主膳は八瀬を弟子にしていたというのですが…

 危険が予想される道中の人身御供として八瀬を差し出すことにより、降嫁を仕組んだ岩倉具視に接近することを目論んだかに見えた主膳の真の狙いは、しかし実はあまりにおぞましいもの。
 八瀬の胎に己の胤を仕込み、そのまま大奥に送り込んで、己の血を徳川将軍家に送り込もうというのです。

 幼い頃から師に仕込まれ、その命に忠実に従うばかりであった八瀬も、このおぞましい企みを知り、そして何よりも和宮の清澄な気に触れたことにより、己の意志でもって師に背き、対決することとなります。
 対決の場は、降嫁の行列が京から江戸に道中する中山道――次から次へと襲いかかる刺客、怪異に、必死に八瀬は挑むことになる…というのが本作の中盤以降の展開であります。

 しかし、その展開の内容も、いかにも加野節。
 誰が敵で誰が味方か全くわからず、その両者が瞬時に入れ替わるような状況下で、主人公が孤立しつつも謎に挑むのが加野作品の定番パターンですが、本作もその流れのまま――いや、それ以上の苦闘を、八瀬は強いられることとなります。

 己が女性であるばかりに巻き込まれた戦いと、女性であるばかりに追い込まれた苦境。
 しかしその戦いの中で、八瀬は己自身というものを見つめ、自分自身の信念のために命をかけて戦うことを決意します。
 すなわち、真の「女陰陽師(おんな・おんみょうじ)」の道へ――本作は、混乱の幕末を舞台とした伝奇小説であると同時に、少女の自立を描いた作品なのです。

 …と言いたいところですが、主人公像が、あくまでも「男性から見た強い女性」に留まっているため、それが実感できないのを何と評すべきか。
 いずれにせよ、ユニークな作品であることは間違いないのですが…

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2010.12.16

「闇御庭番 江戸城御駕籠台」 権力に挑む七人と一匹

 公儀御庭番・菅沼外記は、将軍家慶の下命で佞臣・中野石翁追い落としの裏工作を行い、見事成功させる。が、その腕を危険視した水野忠邦と鳥居耀蔵は外記を暗殺せんとする。死を装って身を隠した外記は、配下たちとともに闇御庭番を結成、改革の名の下に庶民を苦しめる水野・鳥居に敢然と立ち向かう。

 早見俊が、以前だいわ文庫で第五作まで発表したシリーズの第一弾、将軍直属の隠密として活躍する闇御庭番チームの誕生編であります。

 主人公・菅沼外記は、五十歳を目前としたベテランの御庭番。若き日から御庭番にその人ありと知られた腕利きであります。
(ちなみに、現在、若き日の外記を主人公にしたシリーズが静山社文庫で展開されています)

 舞台となるのは、十一代将軍家斉が亡くなった直後――それまで大御所として実権を握ってきた家斉が亡くなり、ようやく自らの手で政を行えることとなった家慶ではありますが、その障害となる家斉の寵臣・中野石翁追い落としを、外記は命じられることとなります。

 偽手紙を使って見事この任務に成功する外記ですが、この部分はまだ本作のプロローグに過ぎません。
 この成功により、かえってその存在を危険視され、暗殺されかけた外記は、己を含めた七人と一匹――外記、外記の腹心で俳諧師の庵斎、血を見るのが嫌いな居合の達人・正助、記憶力抜群の絵師・春風、錠前破りの名人の魚屋・義助、幇間の一八、外記の娘で催眠術の使い手・お勢、そして外記の愛犬・ばつで、生き延びるための戦いに臨むことになります。

 折しも天保の改革が始まったばかりの江戸は、その厳しすぎる取り締まりのため、庶民が苦しめられる毎日。
 その改革を推進するのが、外記を除こうとした水野忠邦と鳥居耀蔵…というわけで、外記たちは自らのため、天下万民のため、水野と鳥居に対し、御庭番ならではの裏の手段で暗闘を仕掛ける――というのが本作の物語であります。

 何しろ敵は幕府の実質的最高権力者、それに挑むのですから、真っ当な手段で正面から戦えるわけもない。
 周辺を探る鳥居の配下を闇に紛れて消し、水野派の大名屋敷から大金を盗み出して庶民にバラ撒く…

 と、これが主人公の側でなければ絶対悪役の所業になりそうなことをやっていくのがなかなかに面白い。
 途中で水野の暴走を知った家慶から、将軍直属として、庶民を守り水野・鳥居を懲らしめる「闇御庭番」の命を受け、大義名分を得てからはまさに天下御免。

 もちろん、ほとんど独断の暴走とはいえ、水野も鳥居もあくまでも幕府の臣であり、政を担うもの。
 思い切って討ってしまう方が簡単かもしれない相手をいかに懲らしめるか…その一種不可能ミッションが本作のクライマックスとなっています。

 まだまだ導入編ということで、外記以外のキャラクターの個性はまだ薄目(その意味ではチームの人数がちょっと多いかと)。
 しかも結構ポロポロとミスをするのが気になってしまうのですが、こちらは、それがラストの展開への伏線になっているので、そう思ってしまう自体、作者の術中にはまっているのかもしれません。

 何はともあれ、天保の改革を動かす幕府の権力そのものに刃を突きつけた闇御庭番の七人と一匹。
 大きすぎる相手にどう挑むのか、先が気になるシリーズではあります。

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2010.12.15

「無限の住人」 第九幕「夢弾」

 アニメ版「無限の住人」第9話は、乙橘槇絵篇の後編。
 前回のラストで、天津と自分が、決して人並みの男と女の関係ではいられないことに気付いてしまった槇絵は、天津に終生協力することの証として万次を討つと誓うのですが…

 実は天津と槇絵の出会いは、子供時代から。しかしその出会いも、子供らしさなど微塵もなく、ただ後に凛の父が継ぐことになる無天一流への復讐に凝り固まった天津の祖父を介しての血なまぐさいもの…

 その中で槇絵が天津をどう感じたかは直接描写はされませんが、天津にとって、子供時代から圧倒的だった槇絵の剣力は、仰ぎ見るべき憧憬の対象だったのでしょう。
(しかし、子供時代の天津は、何というか、こう、リアリティのない子供だなあ…)

 そして、その存在自体が侍というものを否定し、嘲笑うものであるような槇絵の存在が、天津が逸刀流を作る一因になったと考えれば、その意外な存在の大きさというものを考えさせられます。
 ――それが、全ての行き違いのもとだったのかもしれませんが。

 さて、再び現れた槇絵に対し、万次はこれからお楽しみと偽って凛を引き離し、単身槇絵との決闘に向かうのですが…
 しかしこの決闘シーン、漫画で読んだときは特に感じませんでしたが、町中で長々と斬り合いしているというのに、誰も通りかからないというのはいかがなものか。
 百人斬りの万次が表を歩いてもおとがめなしなのは、まあ泳がされていたから、と原作では後で説明されましたが、今回のこれはいただけない。
 こういうところで興を削がれて話に集中できなくなるのはもったいないことです。

 と、文句はさておき、バトルとしてはかなり面白かった万次対槇絵。
 正直なところ、逸刀流に対してはあまり勝率の高くない万次さんは今回も大いに苦戦するのですが、しかしそれでも、お互いの長所と短所が噛み合った好勝負という印象です。

 常人離れした速度を持ち、手数とテクニックで勝る槇絵――女の非力さを、長物を使うことにより遠心力で補うという説明も面白い――に対し、万次はそれこそ無限に近い耐久力の持ち主。槇絵が押し勝つか、万次がそれを耐えて一発返すか…なかなかスリリングな戦いです。

 さらに万次は、戦いの中で次々と武器を落とした上に、自分の片腕を斬らせることで軽量化して、スピードの上でも槇絵に対抗しようと図るのですが、この辺りは万次でなければ不可能な、破天荒な戦法で、実に面白いではありませんか。

 そしてその中でも、一度動きを止めれば、人を殺したときの恐怖が蘇るという槇絵。その彼女を叱咤激励し、立ち上がらせるのが、敵である万次というのも、色々な意味で面白い(万次さん最強の武器は口車のような気すらしてきましたよ)。
 それはさておき、剣を捨てられない理由を思い出せ、そのために戦えと語る万次の言葉は、槇絵の生い立ち・戦う理由を知らずして、槇絵に一つの救いを与えていたというのは、なかなかよくできていると思います。

 そしてもう一つ、彼女に救いを与えたのは、凛の存在であります。結局、槇絵には及ばなかった万次。しかし地に伏した彼を庇ったのは、ようやく二人の戦いに気づいた凛。
 剣力は全く及ばないながら自分の前に立つ凛、天津と逸刀流に戦いを挑む凛に、槇絵は問います。
 大義名分もなく私怨のために人を斬ることが、人として正しいことか考えたことはないのか――と。

 言うまでもなくこれは、槇絵自身が自分自身に問いかけている言葉。
 天津のように大義名分を持つのではなく、自分と母を家から追った父に対する恨みを胸に剣を振るう――もっとも彼女の場合、その恨みを貫くこともできなかったのですが――自分への言葉であります。

 それに対して、己の正義ならざることを知りつつも人間としてその手を汚さんとする凛と、その彼女を己の身を捨てて守り、その剣となって戦う万次と…その二人の姿が、槇絵にとっては最高の答えなのでしょう。

 万次たちを討つことなく、天津とも別れ、一人槇絵が己の道を歩み始めたところで、今回の物語は終わります。


 正直なところ、槇絵が剣人と女郎を対比するのは、やはり乱暴すぎるようには感じます(もちろん彼女にとっては、己の行く道がその両極端にしかなかったのであり、そのある種の歪みなさこそが、彼女の不幸なのでしょうが…)
 しかし、それであっても、二人寄り添う万次と凛、二人離れていく天津と槇絵を対比する構造は美しく、これで絵的に前回並みのクオリティであれば文句なしだったのですが、まあそれを差し引いても良いお話でした。


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2010.12.14

「月の蛇 水滸伝異聞」第4巻 明かされる因縁、そして

 黒い蛇矛を持つ男・趙飛虎と梁山泊の豪傑たちとの戦いを描く水滸伝異聞「月の蛇」の第4巻が発売されました。
 前の巻で描かれたヒロイン・翠華の過去に続き、今回は飛虎自身の過去の物語が描かれることとなります。

 虎殺しの好漢・武松を死闘の末に退け、彼の口からもう一人の蛇矛を持つ男・林冲の強さを聞かされた飛虎。
 それをきっかけに、飛虎は自分の過去を翠華に語ります。

 かつて賊に家族を殺され、少年兵として戦いを叩き込まれた飛虎。
 生きるためには人より強くなければならない世界で、ひたすら殺人のための術を磨いてきた彼を、その境遇から救い出したのは、かつての八十万禁軍の教頭にして、今は辺境軍の将を務める壮漢――そう、水滸伝ファンであればお馴染みの王進なのでした。

 飛虎の属していた賊を殲滅した王進に敗れながらもただ一人許され、王進の部下となった飛虎は、王進の強さに迫るため、ひたすらと手合わせを繰り返しているうちに、次第に人間性を取り戻していくことになります。
 しかし、そこで訪れる王進との別れ…やはりここでも(?)お尋ね者となっていた王進は、己の持つ黒い蛇矛を飛虎に託し、いずこかへ去っていきます。

 その黒い蛇矛こそは、武林の伝説に残る二つの蛇矛の一つ…
 かつてその武を競った二人の達人が、それぞれ手にしていたという蛇矛。時は流れ、その蛇矛は人から人に伝えられつつも、二つ出会うとき激しい戦いを繰り返していたのであります。

 そう、当代その一本は飛虎に、そしてもう一本は林冲に…ここに、蛇矛は再び出会ったのです。

 なるほど、正直なところ興味の薄かった飛虎の過去編ですが、ここでこのような形で「水滸伝」の物語と関わってくるとは…と感心すると同時に、いかにも武侠ものに登場しそうな蛇矛の伝説の「らしさ」にもニンマリであります。


 そして、蛇矛と飛虎の因縁は、さらなる敵を彼の前にもたらします。
 梁山泊の次なる刺客の一人――それこそは、かつて王進に手ずから武術を教えられた好漢・九紋竜史進。
 彼は、梁山泊の敵である以上に、かつて自分が授けられなかった黒い蛇矛を授けられた飛虎に対し、激しい敵愾心を燃やしぶつかってきますが、これもまた実に心憎いシチュエーション。

 王進を挟んでの男と男の対決…であると同時に、そこで飛虎と史進の生き様の違い、飛虎という男のキャラクターを浮き彫りにするのが、なかなかに面白い。
 正直なところ、キャラが立ちすぎている梁山泊勢に比べ、いささか心許ないところもあった飛虎ですが、やはり本作の主人公として、なかなかの存在感を持ってきたと感じます。

 さて、実は今回、梁山泊の刺客はもう一人、これまたメジャーなキャラである青面獣楊志が登場するのですが…
 これがまた悪い方向にキャラの立った男。
 何故か関西弁を操り、自分の半面を覆った火傷(本作ではそういう設定のようです)にコンプレックスを持ったサディストという設定で…

 いやはや、本作に登場する好漢たちは、皆悪役ではありつつも、原典ファンにも納得の造形だったのですが、今回はちょっと…と文句も言いたくなります。

 しかしこれはその時点で作者の術中にはまっているということなのでしょう。早くも、飛虎とこの楊志との対決が楽しみになっているのですから…

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2010.12.13

「鬼かげろう 孤剣街道」 孤独の蜉蝣、血煙旅

 一人中山道を行く渡世人・蜉蝣。彼には半年より前の記憶が全て失われていた。ただ一つ、肌身離さず持っていた四二目の賽を胸に旅を続ける蜉蝣に、次々と謎の刺客たちが襲いかかる。身についていた凄まじい武術の腕で刺客たちを返り討ちにしつつ旅を続ける蜉蝣の前に、恐るべき陰謀が待ち受ける。

 「勝負鷹」シリーズで鮮烈なデビューを飾った謎の覆面作家・片倉出雲の待望の第三弾「鬼かげろう 孤剣街道」が発売されました。
 タイトルを見ると、剣豪もののようにも思えますが、これが実は主人公は渡世人。
 つまり股旅ものなのですが、しかしさらにその実…という、作者らしいユニークな趣向とハードなアクションに充ち満ちた、片倉出雲ならではの作品であります。

 本作の主人公は、中山道を血の臭いを漂わせながら一人行く黒ずくめの渡世人・蜉蝣。
 あてどもなく旅する彼の前に現れるのは、老若男女、様々な刺客――いつどこから襲いかかってくるかわからない刺客たちを、彼は凄まじい腕の冴えで次々と返り討ちにしていきます。

 彼が何故狙われるのか? 驚くべきことにそれは彼にもわからない。何故なら、彼は半年前に何者かに深傷を負わされ、それ以前の記憶を失ってしまったから…
 彼に残されたのは、瀕死の重傷を負いながらも肌身離さず持っていた、四二の目しか出ないいかさま賽と、五体に身についた武術――いや殺人術の数々。

 偶然出会った国定忠治に蜉蝣の名を与えられた彼は、忠治の助言で渡世人に身をやつし、失われた己の過去を求めて旅していたのであります。


 と、そんな導入部分だけでも大いに興味をそそられますが、しかし「やられた!」と感じたのは、本作が実は――ほとんど冒頭で明かされるので書いてしまいますが――渡世人を主人公にしつつも、実は忍者ものである点です。

 断片的に蜉蝣の脳裏に浮かぶ記憶、そして何よりも彼の身についた技は、忍びとしてのそれ。
 どうやらかつては忍びであった彼は、何らかの理由で無数の敵と戦い、その時に受けた頭の傷が元で記憶を失ったことがわかってくるのですが――

 ここでこちらの頭に浮かんだのは、ロバート・ラドラムの「暗殺者」。「ボーン・アイデンティティー」として映画化されたこの作品は、やはり記憶喪失の凄腕の男が、自らの正体を求めて陰謀に挑む物語でした。
 実のところどこまでこの作品を意識していたかわかりませんが、「勝負鷹」でも時代小説離れしたアイディアとセンスを見せた作者であれば、おかしくない趣向と感じられます。

 そしてそれが単なる類似のアイディアに留まっていないのは、股旅ものと忍者ものという組み合わせを、この物語の器として用意してきたことからも明らかであります。
 あてどもなく彷徨う渡世人と、刺客に追われ続けるはぐれ忍びと――孤独という共通項を持つこの両者が、この両者を描く物語が、これほどまでに相性が良かったか…と驚かされつつも、次々と蜉蝣を襲う危機また危機に、最後まで一気に読まされてしまいました。


 実は本作、お話的にはほとんど一本道、極論すれば蜉蝣が次々と襲いかかる刺客を倒して先に進むだけという、実は相当シンプルな構造の物語ではあります。
 しかしそれがほとんど全く気にならないのは、アクションの緩急を巧みにつけ、様々なシチュエーションを用意してみせる、作者の腕の冴えというべきでしょう。

 残念ながら内容的にはまだまだ全体の導入部というところで本作は終わってしまうのですが、しかし終盤にはあの有名人が登場、作中に断片的に示される情報から考えると、物語の背後にあるものは…と想像してみるのも楽しい。
 かくなる上は、一刻も早く、蜉蝣の血煙旅の続きを! と渇望する次第であります。

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2010.12.12

「快傑ライオン丸」 第07話「呪われた金山 ギンザメ」

 黒山金山を襲ったギンザメは、近くの村の人々を攫い、働かせていた。それを知った獅子丸は金山に潜入、村人を解放するが、自分は捕らわれてしまう。沙織はギンザメが村人を再び攫いにくることを予期し、村人たちとともに罠を仕掛けて迎え撃つが、力及ばず捕らわれてしまう。その間に脱出した獅子丸はライオン丸に変身、ギンザメと激しい騎乗での戦いの末、ギンザメを倒し、金山を解放するのだった。

 「快傑ライオン丸」、第7話はとある金山を舞台としての戦い。
 悪の組織が秘密基地を作り、周囲の人々を攫って強制労働させて…という(同時期の「変身忍者嵐」には異常に多かった)パターンの応用編であります。

 黒山金山を襲撃し、これを乗っ取ったギンザメは、金塊の力で日本を戦乱に巻き込むという、意外と遠大な野望の持ち主。
 このギンザメ、どう見てもサメに見えない顔のデザインなのですが、しかし甲冑をまとい、長槍を手に黒馬――頭に角とドクロの飾りが付いているのが結構可笑しい――に乗った姿は、なかなかの風格であります。
 ちなみにギンザメの配下は、緑装束のドクロ仮面。これまで、わくらんば、フラワンダーと植物怪人の配下だったのに…

 さて、平和なはずの村にやってきた獅子丸たちが見たのは、源太少年がドクロ忍者に連れて行かれる姿。
 その母親から、ドクロ忍者に村の男たちが連行されたと聞いた獅子丸は、金山に潜入することを決意します。

 ほっかむり姿(これがまた白土三平のイケメンキャラ的佇まいで格好良いのです)となり、太刀を隠して金山に潜入する獅子丸ですが…これが後で災いすることに。

 源太と連絡を取り、ドクロ忍者を眠り薬で昏倒させて村人たちを逃がす獅子丸ですが、あと一歩というところで気付かれ、太刀を持っていなかったことからろくに戦うこともできず捕らわれることになってしまいます。
 というわけで、今回は獅子丸が緊縛&吊されることになってしまいました。

 と、村で待っていた沙織と小助は、帰ってきた源太の知らせで獅子丸の危機を知るのですが、ここで見事なのは沙織の振るまい。
 ギンザメが再び村を襲撃することを予想した沙織は、獅子丸を助けるよりも先に、村人を率いてギンザメを迎え撃つことを選びます。
 両側を山に挟まれた道で待ち伏せして、火を付けた藁を乗せた大八車を落として前後を塞ぎ、そこに上から岩を転がし降らす…なかなかに見事な軍師ぶりではありませんか。

 が、普通の人間ならともかく、相手は怪人。倒したかどうか確認しに近づいたところを、ほとんど無傷だったギンザメに村人ともども沙織は捕らわれてしまうのでした。

 一方、小助は獅子丸救出に向かうのですが、小助がやってきたことを知った獅子丸は、ドクロ忍者の注意を惹きつけ、相手が不用意に投じた槍を使って縄を切り、自由の身に。
 ドクロ忍者をばったばったとなぎ倒し、さらにはライオン丸に変身して、沙織や村人救出に向かいます。
 …この間、小助は獅子丸に合図を送ったのと、ヒカリ丸を呼んだだけ。

 そして金山に戻ってきたギンザメの前に現れたライオン丸。お互い、騎乗のまま激しい一騎打ちを繰り広げます。
 ここで忍法「雷剣」と叫んだライオン丸、赤く変じた太刀で一刀のもとに鎧を貫きます。
(どこが雷剣なのか、どんな効果があるのかさっぱり映像からはわからないのですが、おそらく太刀を強化したのでしょう)

 しかしここで鎧と兜を脱ぎ捨てるギンザメ! あのサメっぽくない頭は兜だったのか…と思いきや、下から出てきた頭もサメっぽくないのでした。

 それはさておき、なおも続く馬上の戦い、ここでライオン丸は馬の脇腹に身を隠し、すれ違いざまにギンザメに太刀を突き刺し、そのまま上昇!
 そのまま地面に叩き付けるという荒っぽいフィニッシュで勝利するのでした。


 今回は単なるお荷物ではない沙織の頭の冴えや、馬上での激しい戦いもあり、またやぐらのみのセットで金山らしく見せかけるという工夫など、面白い部分もあったのですが、肝心のアクションや演出が今ひとつ…勿体ない回でした。


今回の怪人
ギンザメ

 兜と甲冑に身を包み、ドリルのように回転する穂がついた槍を手にした怪人。
 黒山金山を占領し、金塊の力で日本に戦乱を起こそうとしたが、ライオン丸に阻まれ、激しい騎上での戦いの末敗れ去る。


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2010.12.11

「柳生無頼剣 鬼神の太刀」第1巻 見参、岡村十兵衛

 江戸で相次ぐ残虐な辻斬りや押し込み。その首魁が三代将軍家光という噂を耳にした柳生十兵衛は賊を捕らえんとするが、異形の技を操る「常夜衆」なる者たちに、手も足も出ず敗れてしまう。己の無力さを悔やみ、常夜衆との対決を決意する十兵衛だが、敵の陰謀は想像を絶するものだった…

 ここしばらく、伝奇ものにはいささか冷たい印象のある「コミック乱ツインズ」誌で、ほとんど唯一気を吐く時代伝奇活劇「柳生無頼剣 鬼神の太刀」の第1巻が刊行されました。

 舞台は江戸時代前期、柳生十兵衛が三代家光の剣術指南役を務めていた頃。
 江戸を騒がす残虐な賊の首魁の顔が、家光と瓜二つとの噂を聞いた十兵衛は、単身賊を待ち伏せるのですが…しかし、彼の前に現れたのは、剣の常識からは計り知れない動きを見せる奇怪な武術使いの一団。

 その一団――常夜衆の前に手も足も出せず敗れた十兵衛は、目の前で無辜の人々を惨殺された挙げ句、締め落とされて見逃されるという屈辱を味わうことになります。
 そして、意識を失う直前に見た首魁の顔は、確かに彼が良く知る家光のもの…

 かくて十兵衛は、祖父・石舟斎とも面識のあるという怪老人・鴉の手を借りつつ、常夜衆の謎に迫らんとするのですが、しかし父・宗矩は何故かそんな彼に冷たい態度であたります。
 しかも常夜衆の凶行には、上からの圧力で奉行所も捜査することができず、十兵衛の不審と不満は募るばかり。

 果たして常夜衆の正体は、戦いの中で片目を失った十兵衛の運命は。そして、柳生新陰流と常夜衆との意外な関わりは…
 と、これを伝奇と呼ばずして、何を伝奇と呼ぶ、と言いたくなるような活劇であります。

 その本作の作画を担当するのは、ベテラン岡村賢二。
 「コミック乱ツインズ」誌では、これまで「真田十勇士」「舫鬼九郎」など、伝奇活劇コミックを何作も漫画化していますが、本作においても、そのセンスは健在です。

 十兵衛の振るう正当派の剣、常夜衆の怪人たちの操る数々の妖術めいた武術――ちなみに常夜衆の面々、蛟・ダイダラ・百目・火車と、皆妖怪から名前が取られているのが、設定とマッチして面白い――の描き分けも確かで、本作のキモであろう正邪の武術の激突がはっきりと描き出されているのも気持ちよいのです。

 特に巨漢ダイダラとの対決は十兵衛の文字通り体当たりバトルに鴉の爺さんの豪快なフォローもあって、綺麗事のない死闘というものを見事に描き出していたと思います。

 その反面、ストーリー展開はちょっと急ぎすぎの面があり、十兵衛のキャラクター描写などももう少し突っ込んでくれてもよかったようにも思いますが、これはこれで一気呵成に展開する物語を楽しむべきなのかもしれません。


 物語の方は、常夜衆の、その首領の正体が判明し、最終目的に向けて動きだした常夜衆のために江戸が炎に――というクライマックスでこの巻は終了。
 江戸を血と炎に染め、家光を贄にせんとする敵の真の目的とはなにか…第2巻も少しでも早く刊行していただきたいものです。

 なお、連載の方は先月で完結しましたが、すぐに第二シリーズが開始。今後も岡村十兵衛の活躍に期待できそうです。

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2010.12.10

「男たちの戦国 新編武将小説集」 敗者の中の美しさ

 先に同じ集英社文庫から刊行された「かく戦い、かく死す」に続くオリジナル編集の柴田錬三郎の短編集「新編武将小説集」です。

 収録されているのは、以下の短編七編とエッセイ一編であります。(カッコ内は主人公・中心となる人物)

「傀儡」(小西行長)
「奇蹟の武将」(正木弥九郎時堯)
「片腕浪人」(明石掃部助全登)
「竹中半兵衛」(竹中半兵衛)
「どもり浪人」(時雨宮左門)
「切支丹剣士」(大友音之助)
「小野次郎右衛門」(小野次郎右衛門)
「五郎正宗、実在せず」(エッセイ)

 これを見れば分かるとおり、「武将小説集」と謳いつつも、本書の収録作の主人公は必ずしも武将というわけでもなく、また架空の人物、実在が疑わしい人物も混じっているなど、短編集としての統一性は今ひとつ。
 タイトルが「姫たちの戦国」のもじりであることからもわかるように、来年の大河ドラマに便乗したものという印象は否めません。

 …が、短編集としての完成度には疑問があったとしても、収録された作品の完成度は優れたものであることは言うまでもない話であります。


 本書に収録された作品の主人公たちに、あえて共通点を探すとすれば、それは全員がいわゆる勝ち組ではない、歴史上の敗者の側に属する者であること、と言えるでしょう。

 ライバルについぞ勝てなかった者、表舞台から姿を消した者、勝ち目のない戦いに挑んだ者、立身出世に背を向けた者…
 (もちろん例外はあるものの)そんな人物が登場する作品ばかりでありながら、しかし本書の読後感が決して悪いものではない、いやむしろ爽やかさすら感じさせるのは、言うまでもなく、彼らが自らの信念を貫いて、生き、死んでいったからにほかなりません。

 私が本書で一番気に入っているのは、長曾我部盛親の旗奉行・時雨宮左門の生き様を描いた「どもり浪人」であります。

 関ヶ原の戦に敗れた末に、徳川に土佐を奪われた長曾我部盛親…その股肱の臣として、時に汚れ役を買ってまでも主君を守り、生き抜いた左門。
 その生き様は、彼がひどいどもりでありながら、いやそれだからこそ、上辺の華やかさとは無縁の至誠が、我々の心に迫ってくるのです。
 そしてそんな彼の生き様が、一つの奇蹟となって昇華するラストシーンの美しさよ!

(ちなみに、本書の他の作品でいえば、柴錬立川文庫の一編である「竹中半兵衛」の残酷かつ不思議な静謐さに満ちたラストシーンの奇跡的な美しさも強く印象に残ります)


 これまで柴錬作品を紹介するたびに語ってきましたが、柴錬主人公に通底するのは、たとえどのような境遇にあろうとも、己の信じるところを貫き、それに殉ずる心意気であります。

 それは時に極めて不器用で、社会的成功とは無縁の、そして自分や他人を傷つける生き方に繋がるものではあります。
 しかしそれでもなお、彼らの生き方に強い魅力を感じてしまうのです。

 今という閉塞感に満ちた時代、一度敗れた者がなかなか浮かび上がれない時代だからこそ、なおさら強く輝く美しさというものが、柴錬作品にはあります。


 ちなみに、巻末に収録された「五郎正宗、実在せず」は、史実というものの疑わしさを痛烈に抉ったエッセイ。
 「だから、私は、歴史小説などというものはあり得ないと思っている」というラストの一文は、作者とその作品の姿勢を明確に示したものとして、痛快ですらあります。

「男たちの戦国 新編武将小説集」(柴田錬三郎 集英社文庫) Amazon
新編武将小説集 男たちの戦国 (集英社文庫)


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2010.12.09

「鹿鳴館盗撮 剣豪写真師志村悠之介 明治秘帳」 伏魔殿が秘めるもの

 幼なじみで、今は鹿鳴館の華と称される百合子と再会し、逢瀬を重ねる志村悠之介。そんなある日、横浜居留地を撮影した悠之介は、警察すら動かす何者かにより写真を破却されてしまう。反抗心からそこに何が写っていたのか探り始めた悠之介は、井上馨と鹿鳴館を巡る黒い噂に接近していくが。

 北辰一刀流の達人にして、明治のいまは浅草で写真館を営む志村悠之介を主人公とした「剣豪写真師志村悠之介 明治秘帳」シリーズの第二弾「鹿鳴館盗撮」が新書版で再刊されました。
 前作「西郷盗撮」から十年後、条約改正に揺れる政界・社交界を背景に、悠之介の新たな冒険が描かれます。

 偶然、権力者に関わる写真を撮ってしまったカメラマンが、権力の裏側に係る事件に巻き込まれて…というのは、ポリティカル・スリラーや社会派ミステリにはままあるパターンですが、本作もその系譜に連なるものでしょう。

 横浜居留地を撮影した帰りに、地回りはおろか警察にまで追われ、ついに写真の原板を破却されてしまう悠之介。
 写真師としての意地と好奇心から、自分が何を撮ってしまったのか探り始めた悠之介は、その日横浜に外務卿・井上馨がいたらしいことを突き止めます。

 井上馨といえば、日本の最大の懸案であった条約改正のため、鹿鳴館建設を主張した男。
 悠之介は、写真が鹿鳴館に絡むものと睨み、井上を探らんとするのですが…思わぬ運命の悪戯から、当の井上を暗殺から守るために、用心棒役を務めることに。

 さらに、秘密の逢瀬を続けていた幼なじみ、今は沢田子爵家の未亡人にして社交界の花形となった百合子の助けで、鹿鳴館に近づく悠之介は、井上のみならず、伊藤博文、さらに謎のイギリス人が一連の事件の陰に存在することに気付くのですが…


 悠之介が偶然写してしまったもの。その謎は、終盤に意外な形で明かされますが、それが象徴するもの、その背後にあるものは、我々の想像を遙かに絶したもの。
 条約改正――すなわち、日本が一等国となること――のために、これほどまでの謀が必要となるのか…個人の思惑や命など一顧だにしないその巨大な力のうねりの前には、うそ寒い思いを禁じ得ません。

 しかし、本作では、その謀を――そしてそれを動かす人々を、一概に悪しきものと断じることはしません。
 その立場、その時代によって、行うべきこと、行われなければならないことは様々にある。その負の側面を知りつつも、あえて行わなければならないものもある…

 そして、そんな人の、物事の有り様を象徴するのが、鹿鳴館なのです。
 作中において、様々な人物――その設計者のジョサイア・コンドルまで――から、否定的に語られる鹿鳴館。

 猿真似、卑屈、伏魔殿…様々な言葉で語られる鹿鳴館が真に目指したものの正体を、悠之介とともに知る時、我々は、歴史を一面的に判断することの是非を、同時に考えさせられることとなります。

 そして、その一面的でない視線――どのような行いにも、それなりの意味を認め、見つめようとする視線は、後の風野作品に共通して存在する、その時々を生きる人々への暖かいまなざしに通じるようにも感じられるのが、また興味深いのです。


 近年の風野作品に比べれば、悠之介の姿は色々な意味でギラギラとして見えるものではあるのですが、しかし、やはり根底に流れるものは同じと…そう感じます。

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2010.12.08

「無限の住人」 第八幕「爪弾」

 中盤を過ぎたところで、諸般の事情にて約一年半も放置しておりましたアニメ版「無限の住人」の感想を再開したいと思います。
 その第8話「爪弾」は、逸刀流統主・天津影久と複雑な絆で結ばれた女性剣士・乙橘槇絵を描くエピソードの前編であります。

 前回、死闘の末に斃した閑馬永空のいまわの際の言葉を信じ、天津が潜伏するという深川にやってきた万次と凛。
(ちなみに原作で閑馬は深川ではなく、天津の加賀行きのことを語るのですが、この時期に既に加賀編の構想があったのかと今頃感心)
 そこで夜鷹の姿を借りて現れた槇絵の襲撃を受けた万次は、あっさりとこれを撃退するのですが…

 と、内容的にはほとんど原作そのまま。町を流していた槇絵が出会った喘息の女の子のエピソードまで、ほとんど原作そのままに再現されているのですが…

 個人的な趣味で言えば、あまり原作そのままの映像化というのには興味がないのですが、しかし今回のクオリティは、ある意味、凛以上にヒロインらしい槇絵の登場回(というより主役回)ということか、本作でも屈指のもの。
 とにかく、槇絵の顔を見ているだけでも満足できる…というのはいささか変態じみた感想ですが、美しいものを――その美しさが内に秘めたものを含めて――美しく描くということがきちんと出来ているのを見るのは楽しいものです。
(裏を返せば今までは…)

 アクションの方は、万次と槇絵のファーストコンタクトと、あとはラストに槇絵が破落戸を斬る場面があるくらい、特に後者はほとんど描写は省略されているのですが、これもなかなかのクオリティ。
 クオリティが高いだけに、狭い路地で長物を振り回す槇絵の姿には疑問符がつくのですが、しかしそれも槇絵の迷いの表れと思えば、まあ納得できます。
(それに応えて自分も長物持ち出す万次は…まあ万次だから)

 さて、この槇絵のエピソード、原作では最初期のものということもあって、恥ずかしながらかなり忘れている部分もあったのですが、今回アニメ版で見てみると、クオリティ抜きにして、改めてこういう話だったのか、と感心させられる部分がありました。

 その強すぎる剣力が己の将来すらを打ち砕き、その剣力を疎むが故に、己を貶めるかのように暮らす槇絵。
 その槇絵を受け止めてくれる天津が、しかし己の剣力をのみ――と感じてしまうのが、槇絵という人物の本源的不幸でもあるのですが――求めるという矛盾に、槇絵は苦しみ、もがきます。

 実は、剣力を頼りにされている――そして頼りにされている方がそこに救いを見出す――という点では、凛に対する万次も同様ではあるのですが、しかし言うまでもなく、万次と槇絵の間には、大きな隔たりが存在します。
 それを、万次は男で槇絵が女であるという点にのみ求めていいものか…
 そんなことを、凛と万次、天津と槇絵という、一見、対置されているように見えない二組のカップルの姿から考えさせられた次第です。


 ちなみに今回、槇絵が町を流すシーンで、(彼女が唄っているというシチュエーションで)流れたのは、原作者の詞による唄。
 この辺り、きちんとやってくれたのは嬉しいですね。

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2010.12.07

「鬼の作左」第1巻 情と覚悟の鬼見参

 小田原出陣にあたり、駿府城に豊臣秀吉を迎え入れた徳川家康。だが、秀吉の前に膝を屈した家康を怒鳴りつける隻眼片足の男がいた。それは本多作左衛門重次、「鬼作左」その人だった。天下人をも恐れぬ絶対の忠義心を持つ豪傑の物語。

 あの料理漫画史上に残る怪作「鉄鍋のジャン」で知られる西条真二が、本多重次を描いた「鬼の作左」が面白い…との評判を聞き、遅ればせながら手に取りました。
 なるほど、これは紛れもなく西条漫画…であって、同時に痛快な豪傑の姿を描いた快作。作中に頻出する「ハハハハハ」という笑い声をこちらも上げたくなるような痛快な作品です。

 本多作左衛門重次は、松平清康・広忠・家康の三代に仕えた、まさに生粋の三河武士。 この物語は、秀吉の小田原攻めの場面から始まりますが、その時点で片目片足、手の指もほとんど失われ、見るからに恐ろしい「鬼」の異名も頷けるビジュアルであります。

 しかし作左をはじめとする三河武士団の恐ろしさは、単に見かけの恐ろしさだけではありません。
 作中で大久保彦左衛門が大谷吉継が語ったところによれば、「血まみれになって笑っている家来どもこそが徳川武士の基本」、主君たる家康のためであればどのような地獄にも笑って突撃する強者揃い。

 戦の後、家康を中心に、血まみれの三河武士団が「ハハハハハ」と呵々大笑しながら凱旋するシーンの見開きは、本作のある側面を象徴する名場面でありましょう。
 いやはや、狂っているといえば(「死ぬことと見つけたり」の影響で)鍋島武士が一番と思っていましたが、さすがに天下を取った男の配下は違います。

 この辺りの、悪人狂人スレスレのキャラ描写は、まさに西条真二にとってはお手の物。読む前から間違いなく似合うだろうと思っていましたが、期待通りの描写でした。
(ちなみに本作の信長はスレスレじゃなくて完全に向こう側)


 しかし、本作の魅力は、単にそうした常人離れしたキャラクター描写のみにあるのでは、決してありません。
 その容姿と言動から鬼と恐れられる作左ではありますが、しかし本作で描かれるその姿は、決して単なる戦闘狂でも暴力バカでもなく、むしろ冷静で理知的ですらある一廉の人物であります。

 この巻でも後半に描かれますが、作左は三河では奉行――すなわち行政のトップとして手腕を見せた人物。
 武官と文官の区別がこの時代どれほどあったのかはわかりませんが、しかしいずれにせよ非凡な才能の持ち主ではあります。

 そして何よりも魅力的なのは、その「情」の部分でしょう。
 若き日の家康が、松平家の長としての使命・生き様と、有能な家臣たちを死なせることの苦しみとの間で板挟みとなっていた時に、あえて悪役を買って出ながら、進むべき道を指し示し、そしてその道を不惜身命の覚悟をもって、先陣切って突き進む姿が、実に良いのです。

 「情」と「覚悟」を持った「鬼」――題材のユニークさとエキセントリックな描写が目立ちますが、決して色物ではない、味のある時代コミックであります。


 ちなみに冒頭では成長した姿が登場していますが、この巻のラストでは少年時代の大久保彦左衛門が登場。
 これが意外なことに(?)才子といった佇まいのキャラクターで、彼がこれからどのように作左と絡んでいくのか、こちらも気になるところであります。

「鬼の作左」第1巻(西条真二 メディアファクトリーMFコミックスフラッパーシリーズ) Amazon
鬼の作左① (MFコミックス フラッパーシリーズ)

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2010.12.06

「平安鬼姫草子 神ながら神さびせすと」 鬼姫と兄たちの冒険譚

 白昼に名家の姫君が次々と惨殺される「姫殺し」の怪異に揺れる平安京。坂上鈴城は、親友の源頼親とともに、必死に怪異を追う。無謀とも思える二人の少年の探索は、鈴城の従姉妹で鬼の血を引く少女・結鹿にかけられた嫌疑を晴らすためだった。しかし事件は結鹿を巻き込み、意外な方向へと進んでいく。

 少女向けにはさほど珍しくない平安もの、陰陽師ものですが、少年向けには少々珍しいかもしれません。本作はその珍しい中の一作、鬼の血を引く少女と彼女を護る者たちの活躍を描く力作であります。

 本作の舞台となるのは、平安時代中期――というより、安倍晴明がいた頃の京。
 いわゆる陰陽師ものの大半が舞台とする時代であり、本作でも晴明が重要な役割を果たすのですが、しかし、ありがちなどいう言葉とは全く無縁の、独創性に富んだ内容なのが嬉しい。

 何しろ、冒頭に登場する晴明からして、翁面の下に絶世の容貌を隠す美女という設定、そしてその晴明に「夢を売る」のが、後の○○○○というのですから、この時点で引き込まれます。

 そして彼ら(彼女ら?)に見守られる本作の主人公たちも、また実に個性的です。
 ヒロインである結鹿は、心優しくちょっと天然な美少女ながら、実はかの坂上田村麻呂と伝説の鬼女・鈴鹿御前の血を引き、人並み外れた運動能力の持ち主。
 メインキャラの一人である源頼親が毎回立ち会いを望む→頼親ブッ飛ばされる→結鹿慌てるというのは、本作のお約束となっています。

 そしてその頼親は実在の人物であり、かの源頼光の弟。そして頼光といえば、渡辺綱をはじめとする頼光四天王ですが、彼らもほぼ全員登場するだけでなく、皆、人外の血を引いた異能力者というのが面白い。
(この辺りは、平安ものの雰囲気を出しつつ、異能力者を出しやすくする設定の妙と言えるでしょう)

 もちろん、独創的なのはキャラクター設定だけではありません。
 京の中で白昼堂々、次々と姫君たちが猟奇的に殺害されるという「姫殺し」の怪異と、その犯人像もユニークですし、その犯人として鬼の血を引く結鹿の名が噂に上ったことから、少年たちが解決に乗り出すという構成も良くできています。

 実は鈴城をはじめとして、結鹿の周囲の男性陣は、皆かなり結鹿に対してシスコン気味で、これはこれでライトノベル的…なのですが、それがまた、一連の事件の背後に存在するある想いと対象となっているという構造にも感心しました。


 …もっとも、褒める点ばかりではありません。

 本作を読んでいて面食らったのは、キャラクターが多すぎること。
 結鹿の周囲に集う男性陣だけで十名近く――それも皆美形で結鹿ラブ――で、そこに血縁関係が絡み、ある程度史実に関する知識を持っている者が見ても、実にややこしい。

 確かに、この設定であればこれだけのキャラクターが登場してもおかしくはないのですが、しかしキャラを覚えるまでが一苦労で、もう少し使い方なり描写なりを工夫しても…
と感じたのが正直なところです。
(もう一つ、中盤以降のストーリー展開が、敵を追いかける→追いつめるも反撃される→かろうじて助かる の繰り返しに見えるのもどうかと思いますが)

 とはいえ、この辺りは、これから巻を重ねていくうちに自然に解消される問題でしょう。
 何よりも、これだけのクオリティのものを、ほぼデビュー作(?)で描いてくれるのがうれしい。
 冒頭に記したように、少年向けでは珍しい平安ものとして、これからのシリーズ展開を期待したいと思います。


 …だから、イラストについては我慢します。

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2010.12.05

「快傑ライオン丸」 第06話「人食い花フラワンダー」

 戦乱で母を失い、父・河野幸永と生き別れた百合姫。十年後、鷹取城の城主となった父に会うための旅の途中、フラワンダーに襲われた姫は獅子丸たちに救われるが、度重なる襲撃についに攫われてしまう。姫と引き替えに、城の明け渡しを約束し、獅子丸たちを引き渡す幸永だが、フラワンダーは約束を違え幸永を斬る。幸永の最期の力で解放された獅子丸はライオン丸に変身、姫を救ってフラワンダーを倒し、城は姫が継ぐのだった。

 突然怪人の名前が洋風に変わって驚く今回は、生き別れとなった父と娘を巡る物語であります。

 父に会うために鷹取城に向かう百合姫。彼女が途中の道で魅せられた鮮やかな花。彼女のために、供の者が花に手を伸ばした時、 突然、供の体中に蔓が巻き付き、赤く染まっていく白い花!
 いやあ、美しいものが、本来動かないものが突然人間に牙を剥くというのはやはり植物系怪獣・怪人の醍醐味だなあ、という変態の感慨はともかく、花の中から飛び出してくるドクロ忍者(緑装束)、そしてフラワンダーに供回りは全滅させられてしまうという、テンポのよい(?)展開です。

 これを獅子丸たちが目撃したことから始まる今回の戦い。獅子丸が姫の打掛をまとって陽動に出たものの(この場面で倒されたドクロ忍者が花に変わり、さらに花びらが溶けていく辺りの描写は出色)、しかしフラワンダーが道々に放った(と思われる)花から狼煙のように花粉が天に吹き上がり、百合姫の位置が知られてしまうという攻防戦がなかなか楽しいのです。

 そしてついに攫われてしまった姫の救出を幸永に誓う獅子丸ですが、しかしそこに現れた奇怪な花――中に目のようなものが存在し、唇のように花びらを動かして喋るというのがまた秀逸――は、姫を助けたければ幸永一人で国境の丘まで来いと命じます。

 それに従った上、城の明け渡しを命じるフラワンダーに応じてしまう幸永。さらに嵩にかかって獅子丸たちの引渡しを求めるのにも応じてしまいます。

 この辺り、幸永が戦国武将とは思えぬ卑怯かつ軟弱な人物にも見えるかもしれませんが、しかし演じる加地健太郎の剛毅な風貌・振る舞いと、その幸永の人としての情を信じて疑わぬ獅子丸の熱い瞳(格好良いんだこれが)があって、違和感を感じさせないのはさすがだと感じます。

 しかしあっさり幸永を裏切ってバッサリ斬りつけるフラワンダー。幸永は瀕死となりながらも、ドクロ忍者を蹴散らし、獅子丸の救出に向かいます。

 その獅子丸たちが閉じ込められたのは花だらけの牢屋。しかしそこには骸骨が転がり、そして花からは勢いよく花粉が!
 すわ毒花粉か、と思いきや、豪快に首まで獅子丸たちが花粉に埋まっていくのには笑いましたが、そこに辿り着いた幸永は獅子丸を助け、百合姫を託してついに力尽きます。

 怒れる獅子丸はヒカリ丸でフラワンダーを追いかけ、走りながら馬上での変身!
 ここでライオン丸が刀を咥えて手綱をさばくのですが、この辺りはライオン丸でなければできないアクションでしょう。

 そして一瞬の隙をついて姫を奪い返すライオン丸は、一撃でフラワンダーを撃破!
 …と思いきや、第二形態となったフラワンダーはたてがみに分銅を絡みつけて反撃。しかし逆に忍法たてがみ吹雪で巻き上げられ、ライオン飛行斬りで大爆発するのでした。

 …しかしこのフラワンダー、デザイン的にはかなり微妙。
 第一形態では、顔が、花っぽく切ったオレンジ色のパーツに目のところだけ穴を開けただけという代物。第二形態ではこの顔と、体の花びらパーツを外すのですあ、出てきた顔はどちらかというと蜘蛛っぽいデザインの上、体は緑タイツに葉っぱ(状のもの)を貼り付けたものという…
 上に書いたように、細かい演出はかなり面白かったのですが、肝心の本体がナニという困った奴でした。

 困ったといえば、何であそこまでゴースンが鷹取城を狙ったのかがさっぱりわからなかったのも困りますが、これはまあ、娘一人と引き替えに城を手に入れられるから、だったのかなあ…


今回のゴースン怪人
フラワンダー

 奇怪な植物を操る怪人。得物は鎖鎌。花びらの下には第二の姿を隠している。
 鷹取城強奪のため、百合姫を攫い、その父・幸永を殺すが、ライオン丸の刀の前に第一・第二形態ともあっさり倒される。


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2010.12.04

「友を選ばば」 快男児と剣侠児、出会いの時!

 三銃士との冒険から十年後、無聊な日々を過ごすダルタニャンは、イギリスの司法関係者から、凶悪な盗賊スカーレット・ルピナス団捕縛への協力を依頼される。二つ返事で引き受けたダルタニャンは、勇躍海を渡るが、その前に隻眼の東洋人剣士ウィロウリヴィングが現れる。果たして彼は敵か味方か…?

 私事で恐縮ですが、子供の頃、「三銃士」が大好きでした。
 勇猛果敢にして友情に厚く、ユーモアを忘れない。そして何よりも己の誇りと信念のためであれば、稚気に満ちたことでも胸を張ってやらかしてしまう…
 そんな痛快男児たちの中でも、三銃士の後輩格として仲間に加わり、めきめきと頭角を現していくダルタニャンの姿には、親しみと憧れを大いに感じたものであります。

 長ずるに従って関心は我が国の時代ものに移り、一片の義心を抱き、ただ一剣を抱いて、屍山血河の修羅の世界へ、わきめもふらず馳せむかう剣侠児が私のヒーローになったわけですが…

 自分語りが長くて恐縮ですが、そんな私にとって、この作品はまさに夢のような存在であります。
 仏蘭西の快男児と日本の剣侠児の出会い! これほど胸躍る顔合わせがありましょうか?

 本作については、先日の荒山徹トークセッションでの予告を耳にして以来、心待ちにしていたのですが(その時とは題名が一部変更になりましたが、これはこれで一種のネタバレ防止として必要でしょう)、期待通りの、いや一部予想もつかぬような作品でした。

 かの「三銃士」から「十年後」、銃士隊副隊長に就任しながらも、傍らにかつての親友たちがいないことに空しさを隠せないダルタニャン。
 そんな彼にとって、イギリスからやってきた司法関係者に助太刀して、凶賊スカーレット・ルピナス団と対決してほしいという依頼は、久々に己の腕前を存分に振るえるものかと思われたのですが…

 イギリス全土を震撼させたというスカーレット・ルピナス団が現在狙っているのは、各地の古代遺跡に眠る、キリスト教流布以前の時代の遺物。
 ダルタニャンは、ブルターニュの、そしてブリテン島の遺跡に出没する賊を追い、奮闘することになります。

 が、その前に現れたのは、団の一員と思しき隻眼の東洋人剣士ウィロウリヴィング(それにしても露骨な名前ではあります)。
 自分と互角以上の腕前を持つ謎の剣士と、幾度となく剣を交えるダルタニャンですが、しかし、彼の行く手には意外な罠と、恐るべき陰謀が――

 ここから先の展開は、色々と面白すぎるのでぜひ実際の作品をご覧いただきたいのですが、もちろんダルタニャンとウィロウリヴィングの対立は一時の誤解。
 よく見てみれば互いに似たもの同士の二人、たちまち胸襟を開いて、君僕で呼び合う無二の親友となり、共に全欧州を――いや、全世界の危機に立ち向かうこととなるのですからたまりません。

 もっとも敵の目的というのが、朝鮮と欧州と場所こそ違え、荒山作品ではある意味お馴染みなものなのには苦笑しましたが、しかしその背後にいる存在がとんでもない。
 荒山作品には何度かそれらしいものは登場していたやに記憶していますが、ついに禁断の果実に手を出したか…と感じると同時に、日仏のヒーローに対抗するには、これくらいは必要か、と納得もしている次第です。
(もっとも、トークセッションの段階である程度予想は出来たことではありますが…)


 さて、本作は最近の荒山長編としては、分量的にも、題材的にも文体的にも(もっともこれはそれ自体がパロディのようですが)かなりあっさり目の作品ではあります。

 しかし、最近の荒山作品が、作品の途中で作品を構成する一アイディア・ガジェットに傾倒して方向性を見失いがちであったことを考えれば、シンプルに描くべきのみを描いた本作には好感が持てます。

 そのほかにも、ウィロウリヴィングがはるばる欧州までやってきた理由が今ひとつだったり(この辺り、帯は誇大広告というか解説しすぎ)という部分もあるのですが、しかし快男児と剣侠児の海を越えた握手の前には小さい小さい。

 いつかまた、このような夢の出会いが描かれることを――待ち、そして希望しましょう。

「友を選ばば」(荒山徹 講談社) Amazon
友を選ばば (100周年書き下ろし)

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2010.12.03

「石影妖漫画譚」第1巻 変人絵師、妖を描く

 江戸の闇で次々と起こる怪事件。その影には妖怪たちの姿があった。妖怪専門の変人絵師・烏山石影は、妖怪たちの絵姿を残すため、事件に首を突っ込む。石影の持つ毛羽毛現の筆が、今日も奇跡を起こす…

 時代伝奇もの、なかんずく漫画やアニメにおいては、結構な確率で、絵や文字など、筆で描いたものを実体化させる能力者が登場することがあります。
 これは、いかにも時代劇らしい筆で描くという行為と、実体化というビジュアル的・能力的な面白さによるものではないかと想像しますが、ここに、その系譜に新たに加わるキャラクターが登場しました。

 その名を烏山石影、江戸の裏長屋に籠もっては、日がな一日奇怪な妖怪の絵ばかり描いているという、一種の変人・風狂人であります。

 …と、妖怪ファンであればすぐにおわかりのように、この石影の名は、江戸中期に「画図百鬼夜行」等で妖怪絵師として知られた鳥山石燕のもじり。
 ご丁寧に本作の舞台も、石燕の活動時期とほぼ重なる時期も設定されており、まずは石燕をモデルにして作られたキャラクターと言ってよいでしょう。
(ここまでするのであれば、石燕本人にしてもいいのに…というのは素人考えかもしれませんが)

 さて、それはさておき、本作は、この石影が挑む妖怪絡みの怪事件を描いた連作短編集といったところ。
 「濡れ女」「二口女」「送り狗」「墓場の怪」「火車」…物語の構成上、どうしても仕方のない第四話を除き、いずれも登場する妖怪をサブタイトルに冠したエピソードが並びます。

 江戸の闇に蠢く妖怪たち…奇怪な姿で人を驚かせ、その能力で人を害する妖怪たちに石影は挑むわけですが、しかしその理由が、使命感でも正義感でもなく、ただ「妖怪を実物を見て描きたい」というのがなかなか面白い。
 基本的には変人…というより性格破綻者な石影が、周囲を翻弄しつつ、成り行きから妖怪に立ち向かうのが一つの見せ場なのですが、もちろん、単なる絵師であれば、妖怪に対抗できるわけがない。

 そこで登場するのが、石影の持つ、毛羽毛現の筆なるアイテム。描いたものを実体化させるこの筆で、石影が描くのは――なんとオリジナル妖怪。
 様々な能力を持った石影版妖怪と、人の恨み辛みが生み出した妖怪の対決が、本作の最大の目玉であります。


 しかし――妖怪ものとしてみた場合、正直なところ、本作はまだまだ…といった印象があります。

 上でちらりと触れたように、本作に(少なくともこの巻で)登場する妖怪は、基本的に人間の負の感情によるもの。
 そのため、事件の解決策としては、単純に妖怪を倒すだけでなく、その元となった人物の怨念を解くというのが毎回のパターンなのですが、キャラの掘り下げが浅いため、感動できるかといえば…であります。

 また、妖怪に対するのに、絵に描いた妖怪で、というのは実に独自色があって面白いのですが、それが石影オリジナルの存在というのが、今ひとつ面白みに欠けるように思います。
 妖怪は単なるキャラクターではなく、それなりに生み出される根拠が――本作では上記の通りそれが人間の心に偏っているのですが、それはさておき――あるはず。
 それが全く無視されているのは、妖怪ものとして物足りません。

( そもそも妖怪をこき使って妖怪をブッ飛ばすというのは、妖怪好きとしてどうなの…というのが、妖怪馬鹿としての私の正直な感想なのですが)

 と、妖怪ものとしてはついつい点が辛くなりますが、アイディアとしてはそれなりに面白い本作。
 色々と転がしようのある設定だけに、これから作品世界がどのように展開していくのか、その中で石影が何を描いていくのか…もう少し付き合ってみましょう。

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石影妖漫画譚 1 (ヤングジャンプコミックス)

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2010.12.02

「仮面の忍者赤影」アニメ版 第23話「さらば赤影!! 炎の大幻魔城」(その二)

 前回の続き、アニメ版「仮面の忍者赤影」最終回であります。
 罠にはまり、大爆発の中に消えた赤影ですが…

 では真の千姫はといえば、本当にしつこいペドロに迫られている最中。「ベンベロベロンチョと可愛がってやりましょう」などと不穏当な台詞を吐くペドロの前に立ち塞がったのは――
 (さっきまで天井から覗いてハアハアしていた)邪鬼! ペドロをあっさりぶった斬り、千姫を連れて逃げ出します(赤影の立場は…)

 そんなことになっているとは露知らず、激突する霞丸と幻妖斎。バックにそれぞれ龍と鬼面を浮かべて大激突ですが、そこに現れたのが千姫と邪鬼。
 思わず千姫がかけてしまった声に気を取られた隙に、幻妖斎の刃を受けてしまう霞丸ですが…
 それでも霞丸は己の笛を千姫に与え、邪鬼に姫を託して逃がします。

 最期の力で千姫を逃がそうと立ち塞がる霞丸。
 しかし、既に力を失った彼は幻妖斎の敵ではなく、幻妖斎の刃は霞丸を真っ向から断ちます。
 それでもなお立つ霞丸は、龍幻を己の腹に突き立て――妖刀の最後の贄を己の血として、遂に倒れるのでした。

 さて、一つの戦いを終えた幻妖斎ですが、彼にとってはこれは己の覇道への序曲のようなもの。
 信長が己の通告を無視したことを知った幻妖斎は、雷神砲発射を命じます。

 その点火の寸前、そこに駆けつけたのは白影と青影。
(ちなみにここに来る直前、二人の前に現れた邪鬼は「正義と愛の戦士・新邪鬼になった」などと珍発言を)
 果敢に立ち向かう二人ですが、しかし、幻妖斎の二刀流にあっという間にピンチに…(もはや様式美)

 しかしそこに真打ち登場! 爆発に消えたはずの赤影が無傷で(そしてどう見ても肩の傷も治って)見参であります。
 赤影は白影・青影に先に行くように促し(これも様式美)、一人幻妖斎と対峙します。

 「惜しい…惜しむべき赤影。貴様ほどの男が何故正義などという幻想のために戦うのだ?」と問う幻妖斎に対し、「幻想ではない。貴様の野心こそ幻想と知れ!」と答える赤影。
 決して相容れぬ二人の最後の対決がついに始まります。

 とはいえ幻妖斎は強い。二刀流から無数の剣先を突き出す秘剣「千剣乱舞」で襲いかかる幻妖斎に、赤影はかわすのがやっとですが…
 しかし、そこで青影が去り際の駄賃に仕掛けていた火薬が爆発!

 次々に周囲の火薬が爆発していく中、その爆風を乗った赤影はすさまじい速さで幻妖斎に迫って…忍法「風神剣」――破邪顕正の一撃が、幻妖斎を見事に断った!

 そしてそのまま誘爆を繰り返し、炎に包まれる幻魔城。
 赤影の「幻妖斎、夢終わる時が来たのだ」という言葉に対し、儂は死なんと哄笑したまま、幻妖斎は炎の中に消えてゆくのでした。
 そして、湖の上から大爆発の中崩れ逝く幻魔城を呆然と見上げる白影と青影の前に、赤影も問答無用で生還。
 今頃になって木造潜水艦で現れた富蔵の姿に一同大笑いしてめでたしめでたし。

 …と、それを遠くから見つめるのは忍者装束の頭領。その姿が一瞬木の陰に隠れたかと思いきや、出てきたのは明正寺の無元和尚!
 えええええええっ、まさか二人が同一人物だったとは! はっきり言って最終回最大のサプライズでした。

 そしてエンディング曲に重ね、その後の皆の姿が描かれます。
 平和に明正寺で暮らす源之介やかえで、繭姫に子供たち、それに邪鬼(!)
 千姫は、一人月に霞丸の面影を見ます。

 そして再び何処かへ駆け抜けていく三人の影――まずはこれにて大団円であります。


 と、ようやく全23話の紹介が終わりました。
 正直なところ、最初のうちは義務感でやっていた部分もあったのですが、徐々に引き込まれ、幻魔城編突入辺りからは、次回が楽しみで仕方ありませんでした。

 今の目で見ると、やはり古さは否めない作品ではありますが、それでも毎週理屈抜きで楽しませてもらいました! ありがとう、赤影!


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2010.12.01

「仮面の忍者赤影」アニメ版 第23話「さらば赤影!! 炎の大幻魔城」(その一)

 赤影に千姫を託し、幻妖斎に刃を向ける霞丸。しかし赤影は千姫の部屋の罠に巻き込まれ爆風に消える。一方ペドロに迫られていた千姫は、邪鬼に助けられ霞丸の元に向かうが、霞丸は深手を負い、彼女を逃がして力尽きる。安土城に雷神砲発射を命じる幻妖斎。しかしそこに青影・白影、そして赤影も参上する。赤影は一人幻妖斎と最後の対決に臨み、忍法風神剣で幻妖斎を破る。大爆発する幻魔城。赤影たちはついに平和を取り戻したのだった(完)

 さて、いよいよアニメ版「仮面の忍者赤影」も最終回。
 強敵・魔童子を倒すも、右肩に深傷を負った赤影は、それでも幻魔城を先に進みます。
 一方、子供たちを連れた青影と白影は、その一人・お菊が行方不明になったことを知り(ええい、本当に迷惑なやつ!)慌てるのですが…

 待ち受ける幻妖斎の方は余裕綽々、早く千姫と結婚したいと催促するペドロに、安土城の信長の前で婚礼を挙げさせてやると、えらい性格の悪いことを言い出します。
(しかし今頃気付きましたが、子供番組・横山光輝原作を考えた上でも、幻妖斎って女色に恬淡ですね)

 その千姫は、胸に愛する人の面影を抱いた乙女の強さか、囚われの身となっても取り乱すことなく、従容とした態度をとり続けます。…しかし、娘に「何も求めていない」と言い切られる信長さんはちょっとかわいそうですが。
 それはさておき、霞丸も千姫の純な想いにほだされたか、それまで自分自身のためであったものを、初めて彼女のために笛を吹くのでした。

 と、そこにもたらされる魔童子斃れるの報。霞丸は赤影の元に向かいます。
 そして洞窟の中で対峙する赤影と霞丸ですが――

 一方、青影と白影たちの前に現れたのは、名もないわりに、猿顔で矮躯に長い腕、両手に爪という妙に個性的な二人組の敵忍者。
 捕まえたお菊を人質にして溶岩の上にぶら下げ、青影たちの動きを封じます。

 足手まとい人質のために思うように動けない青影たちですが――しかし、そこに思わぬ助っ人! 猿忍者の一人を倒し、お菊を助けたそのシルエットは、青影のじっちゃん=影一族の頭領!?

 すぐ姿を消してしまったため、その真偽を確認するまでもなく戦いは続きますが、残る一人は、床に爪が刺さってしまったところを子供に袋叩きにされるという、無残にもほどがある最期(?)を遂げることに…

 さて、再び場面は移って赤影と霞丸。
 妖刀・龍幻を抜いて躍りかかった霞丸――しかし斬りかかった先は、赤影の頭上で罠を作動させようとしていた下忍でありました。
 赤影を千姫の部屋へ行かせる霞丸、憎い男っぷりですが、しかしライバルキャラのこれはある意味死亡フラグ。そんな悪い予感を裏付けるように、その前に幻妖斎が現れます。

 親の仇である信長への利敵行為とも言える行為を咎める幻妖斎に対し、霞丸は語ります。 自分が憎んでいたのは信長ではなく、家族を助けられなかった自分自身だったと――

 信長を倒すという共通の目的を持つため、幻妖斎の悪事に手を貸してきた霞丸ではありますが、しかし、己が許せなかった者が信長でなかったと気付いた今、卑劣な幻妖斎に手を貸す謂われはありません。

 もちろん、作中で明言されることはなくとも、彼にその想いを気付かせてくれたのは千姫の一途な想いであることは間違いないところでしょう。
 この辺りの作劇は、本作の中ではある意味異質ではありますが、大人が見ても納得できる展開。
 幻魔城編ではひたすら二人の世界を作ってきた霞丸と千姫ですが、それは、霞丸の魂の「救済」として鮮やかに昇華されたと言えます。

 そして「貴様はあらゆるものを憎んでいる…!」の言葉とともに幻妖斎に刃を向ける霞丸ですが…
 しかし、そこまでして霞丸が行かせた赤影が駆けつけた先にあったのは、爆弾仕掛けの千姫人形。そして大爆発の中に消える赤影…

 やはり長くなったので続きます。


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