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2011.01.28

「無限の住人」第27巻 副将戦の死闘!

 「無限の住人」第27巻、今回は表紙の色合いがちょっと地味ですが(しかし中身は派手な逸刀流勢ぞろい)、物語の方はまだまだ盛り上がります。
 今回は(今回も)万次と凛はお休みして、逃げる逸刀流と、追う無骸流&六鬼団の激突であります。

 六鬼団の目を眩ますために街道を行く、副統主・阿葉山率いる逸刀流の一団。
 そこに追いついた六鬼団から阿葉山を逃がすため、逸刀流見習い(?)たちは六鬼団の三人に挑むのですが…
 無理矢理逃がされた阿葉山の前には、江戸から追ってきた無骸流の偽一と百淋が立ちふさがり、ここに二つの場所で逸刀流と幕府側の戦いが繰り広げられることになります。

 ここで何といっても盛り上がるのは、阿葉山対偽一の対決であります。
 片や、副統主として天津不在を束ねる隻腕の老剣士・阿葉山。片や、統領の吐を除けば無骸流剣士最強の偽一。
 言ってみれば両陣営の副将戦ではありますが、しかし実力だけで見れば、本作でも屈指の二人(たぶん万次よりも強い)であり、この二人が激突して盛り上がらないわけがありません。

 特に、阿葉山の方は、恐らくは強いだろうと思いつつも、今まで刀を抜いたことはほとんどなく――無骸流の密偵を斬った時くらい?――その技も謎だったのですが、今回明らかになったそれは、実にこの漫画らしいもので素晴らしい。
 阿葉山の失われた腕、その代わりに肩から取り付けられていたのは、何と二条の鎖分銅。彼の武術は、この鎖分銅と剣術を組み合わせた外連の技ではありますが…しかしこれが実に強い。

 近づこうとすれば堅固な楯となり、離れていても自在の軌道を描く矛となる――しかも、二条がバラバラに動くことにより、防ぐことも難しく、さらにそちらに気を取られれば、今度は刀が襲いかかる…
 無茶と言えば無茶な技ではありますが、しかし外連の技を描かせれば、屈指の腕前を持つ作者の筆にかかれば、それが超現実的な存在感を持って、浮かび上がります。

 古今、鎖分銅を武器とするキャラクターは時代劇に無数に登場しますが、その中でも阿葉山は屈指の迫力とリアリティ…というのは言い過ぎかもしれませんが、同じく鎖付きの得物を操る偽一との対決は、実に本作らしい変態剣術対決で、大いに堪能させていただきました。

 その副将対決の間、六鬼団に挑むのは逸刀流見習いの剣士たちですが、しかしこれはかませ犬以外の何ものでもなかったのは、これは残念というか仕方ないといいましょうか。
 外国人対決を始めたり、突然鬼畜な本性(この辺の悪趣味さは実に作者らしい)をむき出しにしたりするキャラこそいたものの、突然という印象は否めず…

 とはいえ、ある意味誰もが納得の扱いであり、最後に挙げた戦果を考えれば、以て瞑すべし…ではありましょう。


 そして副将対決の決着をもって終結した今回の戦い。
 こと本作においては、兵の多寡はさまで戦況に影響しないとはいえ、あまりに逸刀流に不利な状況となってきた中、逆転の目はあるのか。
 いや、その大きな戦いの輪の中から現在リタイア状態の主役カップルはどうするのか、という点も含めて、盛り上がりっぱなしの最終章はまだ続きます。

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