「正子公也作品集 戦国武将絵巻IAPONIA」 甦る戦国武将たち
「絵巻水滸伝」などで大活躍中のイラストレーター・正子公也の戦国ものの画集「IAPONIA」が発売されました。
この画集の出版元である学研M文庫や学陽書房人物文庫の歴史ものの表紙、さらにはリイド社の「コミック乱ツインズ 戦国武将列伝」に掲載された絵物語までが収録された充実の一冊であります。
既に様々な場所で活躍している氏だけに、その名前は認識しないまでも、こういうブログをご覧の方は作品を一度は目にされたことがあるのではないかと思いますが、こうして初期の作品から今に至るまでのものが集められると、ただ壮観、の一言。
既存のイメージを踏まえつつも、しかし氏ならではの自由かつ押さえるべきところは押さえた解釈によるデザインは、一目で印象に深く残る鮮やかな色の組み合わせと相俟って、武将・豪傑・美姫に新しい命を与えていると――そう言い切って良いでしょう。
個人的には、本書の題材となっているような戦国の有名人たちは、(おかしな言い方ではありますが)あまりに馴染みすぎて、素直に見れずいる部分もありました。
しかし、本書のイラストを目にした時、初めて彼らの存在・活躍を知った時の胸躍る感覚が甦った、と言っては格好良すぎるでしょうか。
本書のイラストには、一枚一枚に感想を付したいほどですが、敢えて幾つかに絞ってみれば――
・松永弾正
大仏の手、華美な衣装に身を包み茶を喫する怪老人といった趣の作品。現実には有り得ない構図だが、彼が大仏を踏みつけているのか、はたまた大仏が彼を掌中にしているのか、実に象徴的です。
・宇喜多直家
酷薄そうな表情に、片手には外したばかりの般若の面。戦国屈指の謀将・梟雄として知られる直家らしく、表も裏もない鬼の姿は強烈な印象を残します。
・徳川秀忠
あの、三方原の敗戦直後の父・家康の有名な肖像画(ちなみに対のページにこれをベースにした家康像を配置)と同じポーズでありながら、背景は華やかな江戸城、傍らにはお江と幼い千姫を配するというデザインの妙が光ります。
・柳生十兵衛
その著作「月之抄」を連想させる三日月を背景とした一枚。隻眼に湛えられた憑かれたような光と、影の中に消えた足の先は、その人生を象徴したものでしょうか。
ついつい長くなってしまいましたが、その前後は存在しない、一瞬を切り取った、一枚で完結する世界でありながら、その人物の現在・過去・未来と人となりを浮き彫りにして見せたのは、作者のキャラクター化の冴えと言うべきでしょうか。
なお、本書に収録されたインタビューには、このキャラクター化の過程が、作者の口から語られているのも興味深いところです。
というわけで、ファンとしては実に満足というほかない一冊ですが、しかし一つだけ不満を言えば、いわゆる画集スタイルではなく、ムックとして出版されていることでしょうか――
確かに求めやすい価格にはなっているのですが、より大きなサイズ、上質の紙で見たかった…という感想は、贅沢でしょうか。
(ちなみに某大手書店では、一般の画集ではなく、アニメ・ゲームの画集売り場に置かれていました…)
も一つ。時代伝奇ファンとして印象に残ったのは、本書に何故か、中里融司の時代伝奇「寛永妖星浄瑠璃」の表紙も収録されていること
描かれているのは同作の主人公とヒロインで、歴史上の人物ではありませんが、それだけ作者お気に入りの作品ということでしょうか(出雲阿国と名古屋山三郎のイラストと対になっているので、この二人を描いているようにも見えるのは面白い)。
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