「天下一!!」第3巻 彼女のリアリティは何処に
戦国時代にタイムスリップしてしまい、元の世界に戻るため、信長の小姓の中に潜り込んで悪戦苦闘する女子高生・武井虎の姿を描く「天下一!!」の第三巻であります。
自分をタイムスリップさせた謎のウサギ男により、元の時代に帰るためには信長を本能寺で生き延びさせること、という使命を与えられた虎。
信長の動向を監視する根来衆の手引きにより、性別を偽って信長の小姓となった彼女は、未来の知識を南蛮渡来のものと言い張って、信長のお気に入りとなります。
そして様々な事件を経験する中、次第に虎は、唯一自分を女だと知る森蘭丸に惹かれていくようになって…
と、ある意味お約束の展開ではありますが、しかし色々な意味で一筋縄ではいかないのが本作。
何かとイベント好きな信長に対して、いかにも現代っ子らしく物怖じしない虎は、様々なアイディアを披露していく様が――そして美少年揃いの小姓たちがそれに振り回される様が――本作の見所の一つでありますが、それはこの巻でも健在です。
蘭丸の弟を力づけるために、相撲大会に小姓たちの参加を提案したり、家康の饗応に供するためにチーズケーキを作ったり、盂蘭盆会で安土城を飾る提灯に色を塗ってカラフルにライトアップしたり…
そんな中で蘭丸との中も急接近、盂蘭盆会の晩には、なりゆきとはいえ、蘭丸と手を繋いじゃったりして…
あれ、突然異世界(に等しい異時代)に放り込まれた割りには、ずいぶんそこでの生活を楽しんでいるような…というより明らかにリア充じゃないですか、この子は!
などと半分呆れていると、ひっくり返されるのが本作の恐ろしいところ。
作中の時間軸は、天正9年…虎たちには明るい新しいもの好きの顔を見せていても、信長は周囲への疑心暗鬼の度を高め、そして自らの敵に、苛烈に当たっている時期であります。
そして天正伊賀の乱――圧倒的な戦力差による信長軍の攻撃により、文字通り焦土と化した伊賀で彼女が見たものは、彼女がこの世界に感じてきたリアリティというものを完全に失わせるのです。
リア充から一転、リアリティの喪失へ…この辺りの緩急の付け具合の巧みさ、現代も過去も変わらぬコミカルさと過去という時代背景に根ざしたシリアスさのバランスは、作者ならではのものでしょう。
もちろん、「今」がどういう時代なのか、ようやく気付いたのか!? という感がないわけではありません。
しかし、本作で描かれてきた、虎の、現代の女子高生としてのキャラクターを見ていれば、これもまた「リアル」と感じさせられます。
そして、リアリティを喪失した彼女が、再びこの時代でのリアリティを獲得する様が、そのまま、彼女が本能寺の変を阻止しようとする――単に自分が現代に帰るためだけでなく――理由と結びついていくドラマ展開にも、感心した次第です。
さて、そんな最中にも時間は流れ、運命の天正10年6月2日は刻一刻と近づいてきます。
果たして虎は運命を変えることができるのか、そして蘭丸への想いの行方は――やはり目の離せない作品であります。
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