「お江戸ねこぱんち」第二号
一冊丸ごと猫漫画ばかりが掲載されているコンビニコミック「ねこぱんち」誌の外伝と言いましょうか番外編と言いましょうか――一冊丸ごと時代もの猫漫画ばかりが掲載された「お江戸ねこぱんち」の第二号であります。
昨年発売された第一号は、正直なところ玉石混淆という印象でしたが、今回はなかなかレベルが底上げされた印象。
ここでは掲載作品十数作のうち、特に印象に残った三作品を挙げましょう。
「外伝 猫絵十兵衛 御伽草紙 麓猫の巻」(永尾まる)
もはやすっかり「ねこぱんち」誌の顔の一つとなった感のある「猫絵十兵衛」ですが、もともと時代ものということか、この「お江戸ねこぱんち」では外伝を掲載。
今回は、道場で師範代を勤める猫嫌いの浪人・西浦さんの教え子・小四郎と、飼い猫の交流物語です。
月夜の晩に浮かれ踊っているのを目撃してしまったため、姿を消した飼い猫のモモを追って、猫又たちが修行を行う伊豆の加茂に向かおうとする小四郎。彼を助けて共に旅する西浦さんは、雨に降られて、妖しげな女性ばかりの屋敷に誘われることになります。
相変わらず驚くほど安定したクォリティの本作、小四郎とモモの泣かせあり(漱石の「坊ちゃん」をちょっと想起)、怪屋敷の不気味さありと、やはり面白い。
ただ、オチなども含めて、外伝というには結構普通のエピソードという印象で――第一号に掲載された十兵衛の過去編が本当に外伝的だったこともあり――まずは水準の一作と言ったところでしょうか。
「あだうち」蜜子
主家の仇を待ち続けて、白猫と共に五十年座り続ける名物老人。中間だった彼の心には、身分を越えた友情を抱きあった主と、その弟への想いと悔恨があって…
というあらすじの本作が、おそらく、この「お江戸ねこぱんち」第二号のベストでしょう。
中間と主とその弟、仇討ちに巻き込まれて平穏な日常を失った者たちが、その中でも三人三様に相手を想う気持ちがすれ違う。その果てに長い時が流れ、最後に小さな奇跡が全てを救う…
ラストの猫の使い方も、ある意味定番とはいえ巧みで、実に良くできた時代ファンタジーというべきでしょう。
難点は、猫があまり猫っぽくない点かもしれませんが、それは気にしないことにします。
(も一つ、主従の間の感情が、どう見ても友情ではないのですが、それはそれで良いでしょう)
「江戸日々猫々 花散る里」(ねこしみず美濃)
とある廻船問屋の別邸で飼われている猫・タマと、座敷童子とも妖精ともつかぬ二人の小さな少女(?)・「ねじ」と「かっぱ」を狂言回しとした連作シリーズの一編であります。
今回は、武家の家に養子に出ることとなった問屋の上の娘が、雛祭りの日に思い出の家に別れを告げる様を淡々と描くという、言ってみればただそれだけの作品なのですが、これがなかなか良いのです。
初めて見る雛祭りにはしゃぐねじとかっぱと、彼女たちに振り回されるタマ。
そして、おそらくは二度と会えぬ父や妹に静かに別れを告げ、新たな世界に歩み出す娘。
本来交わらない両者が、思い出の庭で一瞬交錯し輝く様が、実に美しく、絵的な印象だけであれば、本書随一かもしれません。
というわけで、なかなか面白い雑誌になってきた「お江戸ねこぱんち」。どうか今後も継続的に刊行していただきたいものです。
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