「若さま同心徳川竜之助 最後の剣」
田安家の若さまが、江戸町奉行所の同心見習いとなって活躍する「若さま同心徳川竜之助」シリーズの最終巻、「最後の剣」であります。
若さま最後の事件、最後の対決、そして…新しい時代へと、時は流れていきます。
坂本竜馬との出会いにより、一度は封印を決意した風鳴の剣を、弱き者たちのために使うことを決意した竜之助。
しかし風鳴の剣と対をなす秘剣・雷鳴の剣を継承する野望の男・尾張の徳川宗秋は、竜之助を倒し、それを足がかりに尾張徳川家を歴史の表舞台に立たせることを目論みます。
そんなことは露知らず、ついに正式な同心となった竜之助は、喜び勇んで怪事件に挑むのですが…
というわけで、宿敵・徳川宗秋とついに雌雄を決することとなった竜之助。
とはいえ、彼にとっては互いに相争うという江戸徳川家と尾張徳川家の、風鳴の剣と雷鳴の剣の戦いなどは、もちろん興味の埒外であります。
それでも彼を戦いの場に引きずり出そうとする宗秋の奸計により、ついに竜之助は同心の座を追われ、一人の剣士として戦いに臨むことを余儀なくされます(おお、最終回!)
そして繰り広げられる戦いは、間違いなくシリーズ始まって以来の…いや、風野作品でも屈指の、死闘の名にふさわしいもの。
風に乗って奔る風鳴の剣、光を乗せて煌めく雷鳴の剣――二つの剣の戦いは、しかし、剣技の応酬を越えて、二人の生き様の激突とも言うべきものとなっていきます。
しかし、これまでの竜之助の生き様を――彼が何を想い、何を得て何を失い、そして何を求めてきたか、それを我々読者は知ります。
そして彼がこれまで歩んできた道のりの、彼が守ってきたものの重みが、決して天下国家を窺う者のそれに劣るものではないことも。
二つの秘剣の対決は、その再確認の場であり――そして一つの時代の結末でもあるのです。
そして時は流れる、人は変わる…本作には、その後がありますが、それをここで述べるのは野暮というものでしょう。
ただ、いつの時代も、弱き者を守る風は鳴るのだと、それだけ言えば十分でしょう。
(そしてものすごいオチがつくのですが、それももちろんここでは触れません)
全13巻、通しで読んでみると、色々と話の展開にムラもありました。パターンに流れた部分も否めません。
しかし作品は生き物。人生が決して計画通りにいかない、平坦な道のりではないのと同様、作品も様々な道のりを辿るものでしょう。
そしてそれを乗り越え、本作がまさしく大団円というほかない結末を迎えたことを、風野ファン、そして本シリーズのファンとして、本当に嬉しく思う次第です。
さらに本作には、最近では珍しく作者のあとがきが――それもかなり長いものが付されているのですが、その内容がまた実に興味深い。
最後まで読んできたファンへの、ちょっとしたプレゼントと言っても良いのではないでしょうか。
にしても、自分が鳥居に似ているからよく作品に出しているってこれはまたすごい告白ですが…
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