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2011.03.06

「隠密八百八町」(小説版) 良くも悪くものノベライズ

 神谷又十郎には、かつて父母と兄を何者かに殺された過去があった。今は気ままに浪人として暮らす又十郎だが、楽翁なる老人に依頼され、世直しのため仲間たちと「隠密組」を結成する。庶民を苦しめる老中・水野忠成一味の企てを次々と打ち砕く隠密組だが、又十郎の過去が意外な形で結びつくことに…

 NHKで本年初頭から放映されてきた土曜時代劇「隠密八百八町」のノベライゼーションであります。
 ドラマ版は全九話でしたが、本書ではその内容を全六話に再構成してノベライズしています。
(ビフォアエピソードとして正月に放映された「隠密秘帖」は、作中で又十郎が知る過去の事件として描写)

 ノベライズを担当するのは、廣済堂や双葉社等で文庫書き下ろし時代小説を発表している藍川慶次郎ですが、元々のドラマが、最初にあらすじ等を聞いたときに「書き下ろし文庫時代小説が原作なのかな?」と思ってしまったほどなので、違和感ない組み合わせでしょう。

 内容的には、上に述べた通り、ドラマ版を再構成したものではありますが、基本的な流れはほぼ完全にドラマ版通りであります。

 どこか呑気で飄々としているが正義感の強い浪人・神谷又十郎が、育ての親で何でも屋の喜八郎、剣は強いがどこか抜けてる浪人・源兵衛、大道芸人の美形姉弟・おときと春之丞という個性的な仲間たちとともに「隠密組」を結成。
 江戸の庶民を苦しめる、賄賂と汚職にまみれた老中・水野忠成一味が企む悪事の数々に挑み、これを覆していく…という物語です。


 さて、一読しての感想は、良くも悪くもノベライゼーション…ということに尽きます
 原作ドラマに忠実で、その内容もよくわかるのですが、しかしドラマを実際見るのには及ばない…という。

 確かに、ドラマでは描くのが難しい(であろう)ちょっとしたキャラクター描写、特に心情描写などは、やはりそれなりに補強されていると感じます。
 特に、源兵衛や伴内などのコミカルなキャラクター描写はなかなかに愉快ですし、終盤、父の死の真相を知ってからの又十郎の心情描写は、これは小説ならではのものでしょう。

 しかし、それも元となるドラマがあってこそ。独立した物語として読んだ場合には、物語の描写、特に個々のエピソード展開が慌ただしすぎて、ほとんどダイジェストを読まされているような味わいがあります(いや、それは正しい印象なのでしょうが…)。

 ドラマ放映に合わせたノベライゼーションという企画ものに、あまり独自性を求めるのは、確かに酷というものでしょう。
 しかし、もう少しページ数が欲しかった。それであれば、作者ももう少し充実した内容のものが書けたのではないか、というのは勝手な想像ではありますが――


 ちなみに、本書を読んで物語の結末まで知ってから今TV第一回の感想を読み返してみると、期待したことがほとんど叶わなかったことに愕然としますが、これはもちろん、原作ドラマの側の責任であります。

「隠密八百八町」(藍川慶次郎&金子成人ほか 角川文庫) Amazon
隠密八百八町      (角川文庫)


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