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2011.04.01

「曇天に笑う」第1巻

 劇団☆新感線の舞台を漫画化した「TAKERU」の作画を担当した唐々煙の新作は、明治時代の琵琶湖を舞台とした作品。
 琵琶湖畔に古くから存在する曇神社の三兄弟の姿を描いていく活劇のようですが…まだまだ未知数の作品であります。

 時は明治政府が樹立されてからややあった頃、侍たちの時代から、世が移り変わりつつある頃――
 しかし、そんな活気に満ちた新時代についていけず、新政府に対する不満を持つ者たちは後を絶たず、その対策として作られたのが、琵琶湖上に存在する巨大な古木を利用して作られた脱走不可能な監獄・獄門所。

 そして、獄門所へ犯罪者たちの橋渡しを行い、時に脱走した犯罪者たちを捕らえる役目を果たすのが、曇神社の三兄弟――天火、空丸、宙太郎の三人だった…というのが本作の基本設定であります。


 が、いざ感想を書こうとして困ってしまうのは、この第一巻の時点では、ほとんどこれ以上の情報もなければ、物語もさして展開してない点。
 本編は第一話しか収録されていないため、これは仕方ないと言えば仕方ないのですが…実に雑魚っぽいキャラに次男が凹られるシーンが大半で、何とも評価し難いとしか言いようがありません。


 その代わりと言ってはなんですが、本書に併録されているのは、本編の六百年前の琵琶湖で繰り広げられたドラマを描く「泡沫に笑う」。
 こちらは、三兄弟の先祖、当時の曇神社の当主を登場人物の一人に、かの陰陽師・安倍家の青年・比良裏(ひらり)と、ある定めを背負った式神の娘・牡丹の姿を描いたアクション・ロマンスです。

 牡丹に一目惚れ(?)した比良裏と、人間と式神という間柄、いや何よりもその身に課せられた使命から、彼にすげなく接する牡丹…
 二人の微妙な関係と、太古の妖魔を甦らさんとする一党との対決が平行して描かれ、そしてその両者が、やがて巧みに絡み合い、昇華していく様はなかなかに見事であります。

 特に、脳天気な比良裏の態度の裏にあったものが明かされ、それを受けて牡丹も…というクライマックスは実に美しく、長くない物語の中で、人物配置がそのままストーリーの構造に直結していくのには、素直に感心いたしました。
(この辺り、ちょっと演劇的…というのはひが目でしょうが)


 そして、この前史から逆算して考えれば、本編の展開も予想できる…とまではいいませんが、何が三兄弟を待ち受けているのか、少し見えてくるというのもなかなか面白い関係であります。
 それだけでなく、本編の方にも様々に散りばめられた謎と秘密ももちろん存在するわけで、また一つ、先が楽しみな作品が生まれた…と言って良いのではないでしょうか。


 ちなみに「泡沫に笑う」は、実はかなり珍しい鎌倉中期を舞台とした伝奇ものになるわけで、それだけでマニア的には大いに嬉しいところであります。
(尤も、「守護大名」という言葉が出てきてしまうのはちょっといただけませんが…)

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