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2011.04.18

「猫絵十兵衛 御伽草紙」第4巻

 作者単独の増刊が出たり、「お江戸ねこぱんち」誌の実質看板作品となったりと、レギュラー連載以外に接する機会が多かったような気もする永尾まる「猫絵十兵衛 御伽草紙」ですが、やはり単行本で読みたいというのも人情。
 ここで、ようやく待ちに待った第4巻の刊行であります。

 江戸は猫丁長屋に暮らす猫絵師の十兵衛と、その相棒で元猫仙人のニタを狂言回しとした本作も、既にニタの図体並みに安定感が漂ってきました。
 サブレギュラーも増えて、ずいぶん賑やかになってきたところですが、この第4巻、連載約二周年にして、ようやく描かれたのが、十兵衛とニタの縁。二人の出会いのエピソードであります。

 これまで断片的にしか語られてこなかった二人の(特にニタの)過去。
 生来猫と不思議な縁を持つ十兵衛といえど普通の人間、それが猫仙人であるニタとどのように出会い、そしてニタが十兵衛とコンビを組むに至ったのかというのは、ファンとしては大いに興味をそそられるところですが、ここにようやく描かれたこととなります。

 気ままな一人旅の途中、なり立ての猫又に頼まれて肥後下島へ向かった(少し前の)十兵衛。
 そこで彼らを待ち受けていたのは、峠を通る旅人を脅かす猫仙人率いる猫又たち――
 というわけで、3巻にちらりと登場してファンの間で話題となったニタ人間バージョンもきっちり登場したりと、ファンには実に楽しいエピソードで、待った甲斐があったというものです。


 そしてそれ以外の通常(?)エピソードも、相変わらず総じてクオリティが高い。
 特に、主を失った猫――猫又ではない普通の猫――の姿を描いて胸に迫るもののある「待ち猫」、母親を捜して下総からやって来た少年が残酷な真実と直面する「揺籃猫歌」など、なかなかに良くできたエピソードであると感じます。

 前者で描かれた、普通の猫の(人の世界のことをわからぬ)それ故の哀しさ切なさは、第3巻にも同様の描写はありましたし、後者の内容は、ある有名な伝説ほとんどそのままなのですが、しかし、文字通り「猫絵」の見事さで読まされてしまうのであります。
(特に後者は、江戸で猫とくれば当然扱われておかしくない題材を、こう持ってくるか! と感心いたしました)

 もちろん、その他のエピソードも、人情話ありギャグあり、江戸情緒あり猫の可愛らしさあり(重要!)と、それぞれに実に楽しく、おそらく読む方によって、お気に入りのエピソードは違ってくるのでは…などとも感じた次第です。


 というわけで、久方ぶりの単行本に満足したものの、しかし収録されているエピソードは、約二年前のもの――
 あまり早く消費されるのももったいないのですが、しかしあまりじらさないで欲しい…と、早くも欲張りな気分になっているところであります。

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