専修大学図書館 春の企画展「水滸伝vs八犬伝」
この4月初めから開催されている、専修大学図書館の春の企画展「水滸伝vs八犬伝」に行って参りました。
水滸伝と南総里見八犬伝の組み合わせとは、これは伝奇の徒に取ってはカツカレーというかオムハヤシというか、とにかく夢の取り合わせなわけですが…
この展示、水滸伝と八犬伝を並べ競わせてその優劣を決する…
のではもちろんなく、展示場を二つに分けて、水滸伝と八犬伝、そのそれぞれの概要と、(日本における)中心となる典籍の紹介、そしてそこから派生した浮世絵や読本といった作品群を展示するという趣向。
水滸伝サイドは、全編に渡って葛飾北斎が挿絵を務めた「神変水滸画伝」を中心に、そして八犬伝サイドはもちろん読本「南総里見八犬伝」を中心に――
こちらが感心するほど簡潔かつ的を射たストーリー概要と倶に、今の目で見ても色鮮やかな挿絵の読本や浮世絵が所狭しと並べられ、好きな人間にはなかなかに楽しい展示となっています。
殊に、歌川国芳が梁山泊百八星を一人一人描いた浮世絵シリーズ「通俗水滸伝豪傑百八人之一個」の現物が展示されていたのはやはり嬉しいところです。
手元に画集(何故か本邦では出ておらず、アメリカで出版されたものですが)は持っているものの、やはり実物を――それもごく間近まで顔を寄せて――細部までじっくり見ることができたのは、眼福でありました。
そしてこれらの作品をはじめとして、展示全体から感じることができたのは、この雄渾長大な二大伝奇小説が、どのように江戸時代の日本で受容されてきたか、であります。
いくら当時の日本の識字率が桁外れのものであったとしても、読本の形式では限界がある。
それを補うものとしての挿絵があり、さらに内容を平易に書き下したリライト版が出る、アレンジ・パロディが出来る。歌舞伎になり――必ずしも現実のものでなく、歌舞伎役者を作中のキャラに当てはめたものも含めて――それがまた浮世絵になる…
その過程が一望の下に理解できる…というより体感できるという展示は、なかなかに興味深いものでありました。
しかし、不満ももちろんあります。
展示スペースが小さい…というのは、これはもう大学の図書館の一室で行われたということを考えれば仕方がないのですが、展示された作品になにがしかのキャプションは付けて欲しかった、というのは正直な印象。
現代ではよほどのことがなければ接することができないような水滸伝バリエーションも多かっただけに、それがいかなる作品であるのか、もう少し解説が欲しかったところではあります。
そして何よりも、「vs」を謳う以上は――それがむしろ「&」の意味であっても――積極的に水滸伝と八犬伝の対比を見せて欲しかったと…二つの偉大な伝奇小説が、本邦においてどのように互いに影響を受けつつ、発展し、受容されてきたかを示して欲しかった、というのは、贅沢を承知で感じた次第です。
そんな点も含めて、水滸伝/八犬伝マニア以外の方が時間をかけて見に行くべきか、といえば悩みますが、逆を言えば、マニアの方は是非足を運んで、ご自分の目で見て、色々と考えてみて欲しい展示であります。
幸い、展示期間は5月13日まで延期されたことではありますし…
(ちなみに、「専修大学前」行きバスに乗った場合は、「専修大学前」ではなく、「専修大学120年記念館前」で降りましょう…かなり迷います)
ちなみに、展示された画で、董平が戦っているのに「関勝」とキャプションが付けられたものがあって…こんなところでもこういう扱いか!
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