「薄妃の恋 僕僕先生」
僕僕先生が王弁の前から消えて五年…不意に王弁の前に帰ってきた僕僕は、喜ぶ王弁をお供に、再び旅に出る。気ままな二人旅の行く手には、様々な人間、神様、妖怪が引き起こす事件ばかり。王弁は、僕僕に振り回されながらも、解決に奔走する。
ボクっ娘仙人・僕僕とニート青年・王弁のユニークな冒険譚「僕僕先生」、大人気を博しての第二弾は連作短編集。
第一作のラストで何処かへ消え、そしてその五年後に王弁の前に現れた僕僕先生が、再び王弁を引っ張り出して気ままな旅に出た…という趣向であります。
先生が五年間何をしていたのか、そして王弁の方も五年間にそれなりに経験してきた冒険の数々も、ほのめかされるだけで説明はなし。
この五年間をすっ飛ばしたように、二人の旅は当たり前に始まり、続いていくのですが、それに違和感が全くないのは、これはもう先生のペースにこちらも飲まれているのかもしれません。
とはいえ、長編から連作短編というスタイルの違いもあってか、物語から受ける印象は今回は前作とはちょっと変わったように感じます。
文字通り世界の壁を破り、皇帝はおろか、世界の初めから存在する伝説の神怪にまで出会ってきた前作に比べると、相変わらず多士済々とはいえ、今回の冒険は、あくまでも人間の世界でのものに留まります。
さらに、前作ではそれなり以上にあった史実とのフックも、本作ではほとんどなくなったのは、ちと残念なところではあります。
簡単に言ってしまえば、よりキャラクターもの的な内容になったのですが、しかし、それで本作がつまらないかと言えば、もちろん否なのは言うまでもありません。
前作に登場した者も、今回初登場する者も…そのキャラがほとんど皆、個性的で魅力的、そんな彼らに、先生と王弁が絡んでいくのですから、つまらないわけがありません。
かくて収録の六篇――
羊羹比賽 王弁、料理勝負に出る
陽児雷児 雷神の子、友を得る
飄飄薄妃 王弁、熱愛現場を目撃する
健忘収支 王弁、女神の厠で妙薬を探す
黒髪黒卵 僕僕、異界の剣を仇討ちに貸し出す
奪心之歌 僕僕、歌姫にはまる
どの作品も、前作を楽しく読めた方なら、楽しめるのは間違いありません。弁爆発しろ! と思わず言いたくなるような、二人の関係のドキドキっぷりも相変わらずであります。
そこに一つ蛇足を承知で付け加えれば、本書に収められた各作品は、物語も登場人物も、いずれもバラエティに富んだものばかりですが、しかし本書を貫く、共通項というべきものが存在します。
それは、人が持つ、そして人の在るところに生まれる、善き感情の存在であります。
愛情、友情、尊敬の念…その現れる形は様々であります。しかし、形に見えなくとも確かに存在し、人を導く――それは時に誤った方向に向かうこともありますが――そんな感情が、本書のいずれの作品にも存在し、そしてそれが本作の味わいを高めていることは間違いないでしょう。
そして、僕僕が王弁に期待するのもそこに起因しているものではないか…そう感じるのです。
人ならざる存在、そんな存在が当たり前に在る世界を通じ、人の善き感情を、人の善き部分を描く。
本書の魅力が、単なるキャラクターものに留まらないのは、こうした点にも依るのは間違いないでしょう。
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