「いくさの子 織田三郎信長伝」第1巻
尾張の織田信秀の子で十二歳の少年・吉法師。海賊・髑髏党に捕らえられ、人質とされた吉法師は、自らの身代金を一万貫に釣り上げた上、髑髏党からその一万貫を奪い取ろうとする。そして、髑髏党に捕らわれていた南蛮人・シスコとの出会いが、吉法師の世界を大きく変えようとしていた。
「コミックバンチ」誌から枝分かれした「コミックゼノン」誌で連載されている原哲夫の最新作が、本作「いくさの子 織田三郎信長伝」であります。
織田信長を題材とした漫画は、古今無数に存在し…いや、作者自身の作品でも「花の慶次」や、原作にクレジットされている「義風堂々」に信長が登場しています。
しかしながら、本作が非常にユニークなのは、主人公である信長が、(少なくとも現時点では)元服前の少年である点であります。
多くの場合、信長物語で描かれるのは、青年期以降、早くても父・信秀の死前後あたりから。
うつけであったと伝えられる少年時代の信長を、真っ正面から描く作品は、存外に少ないのです。
さらに言えば本作は、原作品ではかなり珍しい(というより初めての)少年主人公。二重の意味で貴重な少年織田信長であります。
と、少年と言いつつも、本作は本能寺の変から始まります。
言わずと知れた信長最期の刻において、信長が見せるのは、完爾とした――いや、少年のような笑顔。そして、森蘭丸に対して見せるのは、敦盛などではなく風流踊り…
(原作品で風流踊りと言えば、名作「花の慶次」のラストシーンが思い浮かびますが、ここではファーストシーンなのが面白い)
こうして信長の最期の姿、到達点を見せた上で、そのスタート地点、少年時代を描いていくというのも、ありがちではありますが、面白い試みではあります。
さて、そして登場する吉法師は、少年ながらも、いかにも原主人公らしいふてぶてしい面構え…ではありますが、しかしそれ以上に無鉄砲で無邪気なキャラクター。
口癖も「んであるか」はいかにも信長的ですが、その他の口癖が「んにゃ」「にゃは」というのは、字面で見るとどうかと思いますが、これが絵で見ると違和感がない。
原主人公は据わった目つきのキャラクターが多いやに思いますが、それとは異なる、吉法師の明るい眼差しに、この破格の口癖が良く似合うのです。
その彼が、この第1巻では、開幕早々、海賊・髑髏党に捕らわれることになるのですが、しかし、捕らわれの身となっても全く萎縮せず――それどころか自分流を貫く姿は実に痛快。
ことに、海賊側が一千貫と示した自分の身代金を、自分自身で一万貫に釣り上げてしまう場面は、吉法師の強烈なオレ様っぷりが微笑ましくも楽しい…と思いきや、それが後で意外な意味を持ってくるのにはただ驚くばかりであります。
そして、物語冒頭から描かれていた、いくさに勝つため、人は腕を長くしてきたという彼独特の思想が、南蛮人の大砲と鉄砲(種子島)と出会ったことで一気に開花するという第1巻終盤の展開に繋がっていくのも、良い構成だと感じます。
いくさの内に生まれ、いくさの内に死んだ、いくさの子・信長――従来の信長伝にない結末と発端を持つこの物語が、いかに過程を描くのか。次巻には、この巻では名前のみが現れた今川義元が登場するとのこと、果たしていかに義元が描かれるのかも含め、大いに気になるところであります。
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