「月の蛇 水滸伝異聞」第5巻
邪悪の根城・梁山泊に挑む黒い蛇矛の男・趙飛虎の戦いを描く裏・水滸伝「月の蛇」の最新第5巻であります。
王進の元で強さを磨いたという点では同門と言える史進との真っ向勝負を制し、翠華を捕らえた青面獣楊志のもとに急ぐ飛虎ですが…
この楊志が、やはりどうにもいただけない。
善玉が悪玉に、という基本的な立場の転換はあるものの、基本的なキャラクター造形は原典をベースにしてきた本作。
しかしながら、本作の楊志は、どうにも原典からかけ離れたキャラクターで…何をどういじれば、楊志が関西弁のサディスト卑劣キャラになるというのか。
一応、高キュウの下に仕えることになったものの、その青あざを疎まれ、自らの手で青あざを焼いたという過去話が語られるのですが、それが今のこのキャラクターにどう繋がるのか、作中の描写から読み取るのは困難です。
結局、飛虎との対決も、飛虎の無茶なタフネスによるところが大と見えて、不完全燃焼のまま楊志は退場するのですが、これだけ惜しくないキャラも珍しい…
と、気分を取り直して後半は、梁山泊と、そしてヒロイン・翠華と因縁を持つ男・扈成が登場いたします。。
かつては扈家荘の長の息子でありながら、梁山泊に妹を除く一族と住民を皆殺しにされ、からくも逃れた、原典からの登場人物ですが、本作では翠華の婚約者という設定。
翠華の復讐行を快く思わない――というよりはっきりと否定する――彼は、自らの元を訪れた翠華をそのまま自分の元に留め、祝言を挙げようとするのですが…
ここで問われるのは、翠華の復讐行と、それに手を貸す飛虎の行動の正当性であります。
過去を忘れ、現在を受け入れれば、一つの幸せを掴むことができるであろう翠華。
復讐のための「戦力」である飛虎の存在がなければ、彼女も復讐を諦めるはず。それは確かに道理であり、それ故、飛虎の心も乱れるというのは納得できます。
さらにそこに登場するのが、扈家荘を滅ぼした李逵と、扈成の妹であり翠華もかつて姉と慕った扈三娘というのも、なかなかにうまい展開ではあるのですが――
しかし、常人代表ともいえる扈成が、単なる小心者のイヤな奴、という描き方しかされていない(現時点では)ため、どう見ても翠華と飛虎の行動が正しく見えてしまうというのが、何とも勿体ない。
以前の翠華の過去編の際も感じたことですが、彼女の行動を単なる私闘、空しい復讐と呼んだところで、梁山泊一党があれだけ悪辣に描かれていれば、正義のための戦いにしか見えません。
今回のエピソードでは、その印象を打ち消すような描写・展開を期待したのですが…
もちろん、まだこのエピソードは中途であり、ここで結論を下すのは早すぎるかもしれません。
ドラマの盛り上がりの鍵を握る、扈成と扈三娘の今後の行動を見守ることといたしましょう。
ちなみに今回、ようやく梁山泊首領・宋江が登場。感情の起伏が激しいおっさん風の描写はなかなか面白いのですが、まあ想定の範囲内のキャラクターでしょうか。
(宋江の場合、腹黒くても意外でも何でもないのがかわいそうではありますが)
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コメント
扈三娘がどんな姿で出ると思ったら、所謂クール系、少し前だと『エヴァ』の綾波、ちょっと前だと『ハルヒ』の長門、最近だと『魔法少女まどか☆マギカ』のほむらという感じですね。私はアメコミの女悪役風のパッツンビッチ系と予想したのですが(笑)。
あと今巻登場の宋江ですが、原作で「黒三郎」と言われている通りの色黒の宋江というのは初めて見ました。中身はもっとまっ黒けみたいですが(笑)。
投稿: ジャラル | 2011.05.22 14:04
ジャラル様:
扈三娘、何かとてもつらいことがあってあんな無愛想キャラになってしまったんでは、とガクガクブルブルしてましたが、昔からあんな感じだったみたいで安心(?)しました。
色黒の宋江は、「まんがで読破 水滸伝」で出てきてました。稲川淳二さんを色黒にしたような感じでしたが…
投稿: 三田主水 | 2011.05.24 00:05