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2011.05.26

「柴錬立川文庫 真田幸村」(その一)

 柴錬立川文庫の猿飛佐助シリーズ、文春文庫版の第2弾は「真田幸村」であります。
 「猿飛佐助」同様、全8話を収録した(ちなみに収録された中に「真田幸村」という作品がないのはちょっと面白い)本書を、これから3回にわたって紹介いたしましょう。

 さて、実際の作品の前に、今回も作者前説が収録されています。
 あいかわらず、荒唐無稽な内容は、本書の元となった真の立川文庫「兵法伝奇」を遺した五味錬也斎のせい、と言い張る柴錬先生。
 しかし、錬也斎の作品の中に、滅びゆく者の持つ美を見出し、そして覇者に対する滅びゆく者が死力を尽くす点に、意気地・心意気を見出すのは、まさに「地べたからもの申す」の心境といえるでしょう。


「真田大助」

 幸村の元に届けられた書状。かつて一度契ったのみのくノ一からのその書状には、幸村の子・大助の存在が語られていた。

 これまで幾つものご落胤を登場させてきた本シリーズですが、ここに登場するのは佐助と並んで主役級の真田幸村のご落胤。すなわち、真田大助であります。

 真田大助の存在は、名前は講談の真田三代記、そしてそのフォロワーたる幾つもの時代小説で知られていますが、しかしその実像については不明な点も多い人物。
 それを本作においては、かつて幸村の新婚初夜を襲った(?)くノ一・眉花が生んだ、若き天才忍者として描いているのは、これはもう柴錬の面目躍如たるものがあります。

 本シリーズにおいては超美形として描かれる幸村が、醜女で知られる大谷吉継の娘(本作における描写は、実に柴錬好みのキャラとなっているのが面白い)と婚礼することになったことから、その妨害のため、初夜の床に忍んだ眉花が産み落とした大助は、母により忍者としての英才教育をたたき込まれるのですが――

 不器用な母の愛情と期待が、しかし思わぬ悲劇を招き、虚無に沈んだ大助を救うのは…意外な人物なのですが、それは次のエピソードに。


「後藤又兵衛」

 武士としての意気地を貫くため、主家を捨てた後藤又兵衛。黒田家の刺客となった真田大助は、又兵衛の息子を捕らえるのだが。

 残念ながら、現在では幸村に比べると知名度・人気の点で数段どこでなく落ちますが、しかし大坂の陣では彼に劣らぬ活躍を見せた後藤又兵衛。
 黒田家に仕え、一万数千石の禄を与えられながらも、主君たる長政との折り合いが悪くなるや、惜しげもなくその地位を捨てたその潔さは、実に柴錬好みの戦国武将と申せましょう。

 さて、その又兵衛をタイトルロールとした本作は、シリーズには珍しく(?)ストレートな又兵衛の伝奇…いや伝記が語られます。
 その剛直な性情から、主君である黒田長政とぶつかり合い、ついには息子が能の鼓打ちをやらされた事件を期に、主家を辞去して息子とただ二人、旅に出る。
 そんな最後の戦国武士とも言える又兵衛の痛快で、そして人としての正しき意気地のありようを感じさせる姿が、柴錬一流の文章で描き出されるだけでも、本作は実に面白いのですが…

 本作は、終盤にきて、伝記から伝奇へと変貌を遂げることとなります。
 大坂に乞食同然の暮らしを送る又兵衛の前に刺客として現れたのは、前話に登場した真田大助。

 又兵衛の息子を誘拐し、親として又兵衛がどのような態度を取るかを確かめんとする大助に対し、又兵衛が親として、武士として見せた姿が、大助の凍てついた心にどのような影響を与えたか…
 それこそが本作のクライマックスであり、最も感動的な場面であります。

 又兵衛の恩に応える幸村の粋な計らいも合わせて、私の大好きな作品です。
(又兵衛の行動には、正直引く部分もありますが…)


 次回に続きます。

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真田幸村 (文春文庫―柴錬立川文庫)


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