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2011.05.08

「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ 天地大乱」

 清朝末期、漢方医にして拳法の達人・黄飛鴻は、西洋医学会に招かれて広州にやってきた。しかし広州では過激な排外主義を唱える白蓮教が猛威を振るっていた。学会で孫文と交誼を結んだ飛鴻だが、ラン提督が孫文を追っていた。孫文、白蓮教、清国軍それぞれの思惑が錯綜する中、飛鴻の無影脚が唸る。

 突然/今頃どうしたのだ、と思われるかもしれませんが、家族が武侠ファンなのに黄飛鴻を知らないということが判明したため、それならばと「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ 天地大乱」を観たのです。
 考えてみれば本作も実に18年前の作品、既にクラシックの域に入ったとも考えられますし、何よりも本作はまさしく時代伝奇!
 リアルタイムでご覧になった方には笑止な内容かもしれませんが、久しぶりに観たことで色々と考えさせられるところもあり、ここに取り上げる次第です。


 本作は略してワンチャイシリーズの第二弾。清朝末期に実在した武術家・医師である黄飛鴻を、ジェット・リー(李連杰)が演じた大ヒットシリーズであります。
 第二弾と言いつつ、日本では最初に紹介された作品ですが、しかし完成度ではシリーズでも最高峰の本作を最初に観られたのは、我々にとっては幸いだったと言えるかもしれません。

 アクションの完成度もさることながら、歴史もの・時代ものとしても本作はなかなかに興味深い作品なのですから――

 本作で描かれるのは、清朝末期の広州。欧米列強が次々と清国を食い物とし、それに対する不満も高まる中、飛鴻とかの孫文との関わりを一つの軸に、本作は展開していきます。
 広州の医学会で出会い、たちまち意気投合した飛鴻と孫文ですが、しかし孫文は清国政府にとっては危険分子。そんな孫文を追う軍警、そして外国人、さらには外国文化に親しむ者をも襲う邪教・白蓮教と、飛鴻は対決することとなります。

 白蓮教主にツイ・ハーク作品の常連悪役・熊欣欣、そして軍警のラン提督に我らがド兄ことドニー・イェン(甄子丹)と、最強の敵(役者)を向こうに回しての飛鴻/李連杰のアクションは見事の一言、特にラストのラン提督との死闘は、カンフー映画史上に残る名勝負と言っても間違いないものではあります。その辺はもう、確かみてみろ! としか言いようがありません。

 が、しかし本作の優れた点は、そこに留まらず、ある意味わかりやすすぎるほどに盛り込まれた、当時の中国の状況と、そこから生じる――そして現代に投影される――民族意識であります。
 先に述べた通り、列強に蚕食され、それに対する強烈な民族意識が生まれた清朝末期。
 その意識の表れも様々でありますが、それらを体現するかのような革命派/清国政府/白蓮教の対立の中に、飛鴻は投げ込まれることとなります。

 ところで本シリーズの飛鴻先生、伝説の英雄のわりには、実に人物が出来ていない。
 弟子に威張る、知ったかぶりする、女性に奥手…と、完璧にはほど遠い、むしろ子供がそのまま大人になったかのように感じられるキャラなのです。

 しかしこれはキャラ設定の失敗などではなく、ある種ピュアな――そして伝統に基礎を置きながらも、少しずつ変化してゆく中国人の姿を、飛鴻のキャラクターの中に描いていると見るべきなのでしょう。
 その彼が孫文に味方して、清国の提督や白蓮教主と対決するというのは、わかりやすくはありますが、しかしエンターテイメントの中になにがしかのテーマ性を滑り込ませるのがうまいツイ・ハークらしいやり方であるなあと感じます。

 そしてツイ・ハークなりの理想は、負傷した欧米人の手当を、飛鴻が針麻酔を行い、孫文が執刀する――そしてそれを中国人少年たちが笑顔で見つめる――そのシーンにこそあるのでありましょう。


 …と、観た人にとってはわかりきったことをつらつらと書いてきましたが、本作が単なるカンフーアクションではなく、過去の史実の中に虚構を滑り込ませ、その中である種の現実の像を浮かび上がらせる、時代伝奇ものであることはご理解いただけたのではないかと思います。

 そして本作を紹介したのであれば、次は当然、東城太郎の奇作「拳侠黄飛鴻」シリーズを紹介しなければいけないのですが――それはまたいずれ。

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コメント

ジェット・リーの出世作ですね。私は池田秀一さんが吹き替えたTVで見ました(その為、池田さんは『獣拳戦隊ゲキレンジャー』では拳聖バット・リー役を演じたそうで)。あと私は長い間、『ドランクモンキー 酔拳』でジャッキー・チェンが演じてたのも「黄飛鴻」とは知りませんでした。

投稿: ジャラル | 2011.05.11 21:34

ジャラル様:
吹き替えがハマリ過ぎたのか、その後結構な作品で池田秀一さんはジェット・リーでしたね…
と、「酔拳」の主人公が黄飛鴻だと日本公開当時に知っていた人間は、日本に何人いたんでしょう(笑)

投稿: 三田主水 | 2011.05.15 23:59

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