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2011.05.14

「柴錬立川文庫 猿飛佐助」(その二)

 「柴錬立川文庫 猿飛佐助」作品紹介のその二、今回は「三好清海入道」「柳生新三郎」「百々地三太夫」を取りあげます。

「三好清海入道」

 秀吉に釜茹でにされた石川五右衛門の子・三好清海は、秀吉に復讐を遂げた後、その軍資金を狙って秀吉の旗本を次々と襲うが。

 三好清海入道といえば荒武者というイメージが一般的ですが、柴錬がそのようなイメージを素直に踏襲するわけがありません。
 かくて本作の三好清海は、石川五右衛門と一条家の息女の間に生まれた美丈夫という設定と相成ります。

 かつて秀吉の依頼に応じ、二度までもお市の方の三人の娘を救い出し、それが元で逆に命を狙われることとなった五右衛門を父とする清海。
 それでも秀吉に最後まで屈することなく、ついには釜茹での刑となった(この場面がまた柴錬的で素晴らしい)父の復讐を果たした清海は、さらに秀吉の遺した隠し金までも狙うことになるのですが…

 そこで清海の前に立ちふさがるのが伊藤一刀斎、という驚きの展開から、急転直下の展開を見せ、すっとぼけた味わいのオチで占めるのも楽しい一編です。


「柳生新三郎」

 千姫に替玉を立てんとする家康。その命を受けた柳生宗矩が目を付けたのは、柳生を出奔した兄・新三郎の育てる子だったが。

 本作のタイトルロールは、柳生石舟斎の二男・新三郎。宗矩の上の兄という設定ですが、作中で逆風の太刀を使う場面がある辺り、モデルは石舟斎の四男・柳生宗章でしょうか(ただし、シリーズの後の方に、宗矩の弟として宗章が登場するのですが…あれ?)。

 さて本作は、この新三郎が妹を犯した末に殺したという、まさに鬼畜の所業を働いたことから語り始められるのですが――
 しかし、石舟斎に難詰された新三郎が逆に明かすのは、石舟斎の子供たちに関する衝撃の事実。ご落胤ネタのバリエーションですが、ここまでやるか! 的な驚きがあります。

 そんな「事実」を背景に描かれるのは、千姫輿入れにまつわる家康・宗矩の策謀。千姫可愛さから替え玉を立てるよう命じた家康に対し、宗矩は、偶然再会した新三郎が連れていた娘に目を付けます。
 その陰謀を察知した佐助は、これを阻まんとするのですが…

 本物と替え玉が二転、三転した末に辿り着く結末の皮肉さが胸に刺さる本作。貴種流離譚が多い柴錬作品ですが、しかし本作ではその貴種というものに、極めて皮肉な目を向けているのであります。


「百々地三太夫」

 自分を狙った忍びが、数々の戦国武将を暗殺した百々地三太夫の配下と推理した幸村。三太夫の元に向かった佐助が見たものは。

 伊賀の上忍としてしばしば登場する百々地三太夫は、元祖立川文庫では石川五右衛門や霧隠才蔵と関わりを持つ人物。
 しかし本作の三太夫は、このシリーズにもしばしば登場する木曾谷の忍びという設定にして、忍者としては強者中の強者とも言うべき存在であります。

 何しろ、その全盛期には、信玄を暗殺し、謙信を暗殺し、光秀を指嗾して信長を殺させ、さらに光秀まで殺したというのですから…

 あまりの戦果(?)に愕然とするほどですが、ここで登場するのは、しかし、老境にさしかかった彼の姿。
 幸村暗殺を狙った忍びが、三太夫に育てられたものとの幸村の推理に基づき、三太夫の隠栖先に向かった佐助が見るのは、しかし、忍者の哀しい末路とも言うべきものでありました。

 己の手で歴史を動かしてきたと自負する忍者も敵わなかった存在…それを忍びの限界と呼ぶことは、残酷に過ぎるでしょうか。
 結末の一文が印象に残る作品であります。

 ちなみに三太夫は佐助の師匠・白雲斎の好敵手だったという設定ですが…狷介に描かれた白雲斎が、実は弟子想いと読める一文があってニヤリ。


 次回に続きます。

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