「明治失業忍法帖 じゃじゃ馬主君とリストラ忍者」第1巻
じゃじゃ馬で両親の手を焼かせる大店の娘・菊乃。そんな彼女の前に現れた親の決めた結婚相手・清十郎は、昼間から酒浸りの昼行灯ながら、かつては腕利きの忍びだった。利害関係の一致から主従となり、婚約を偽装した二人だが、様々な事件に巻き込まれて…
新刊予定のタイトルだけを見て、むむこれは!? と思っていた「明治失業忍法帖 じゃじゃ馬主君とリストラ忍者」ですが、この第1巻を手にしてみれば、予想通り、いや期待以上にユニークかつ興味深い作品でありました。
本作の舞台は、徳川の遺風を遺しながらも、新たな時代の息吹きが確実に人々の間で感じられつつあった明治初期の東京。
そこで出会うは、幕府が倒れてリストラとなり、市井で無気力暮らすかつての腕利き忍び・清十郎と、新しい時代への期待に胸膨らませつつも、周囲の反対に身動きの取れぬお嬢様・菊乃であります。
そんな対照的な二人が何の因果か、親の決めた結婚相手となるのですが、菊乃がそれに甘んじるわけがない。
なりゆきから清十郎の「主君」となった彼女は、清十郎との婚約を偽装することで親を安心させて念願の女学校入学を目指し、清十郎は安心して(?)相変わらずののんべんだらりとした暮らしを送ろうとするのですが…
まあ、無事に済んではお話にならない。毎回毎回好奇心旺盛な主君が次々と首を突っ込む事件に、清十郎が飄々と挑むというのが、毎回のパターンとなっております。
じゃじゃ馬ヒロインと、昼行灯ながら実は…な相手役というのは、これは定番のカップリングの一つではありますが、しかし本作がありがちな作品に終わっていないのは、主人公二人が、それぞれに屈託を抱え、それに苦しみ、流され、逆らう姿が、しっかりと描き出されている点にほかなりません。
新しい時代の中で自分の望みままに生きようとしながらも、なお残る(そして新たに生まれる)ジェンダーの壁に阻まれ、それを超えようともがく菊乃。
巨大な歴史の動きの前の自分の無力を思い知らされ、新しい時代に積極的に逆らおうとはせず、しかしそれが崩れ去る日を密かに待つ清十郎。
菊乃は清十郎の無気力さに憤り、清十郎は菊乃の無知さに呆れ…
一歩間違えれば簡単に崩れかねない二人の間を、主従という絆で繋ぎ、綱渡りのように歩いていく二人の姿が、この時代特有のものであることは間違いありませんが、しかし、いつの時代も変わらぬ青春の悩みがそこに重なって見えるのです。
その辺りを掘り下げて描こうとする努力、そしてこの特殊な時代背景を描き出す努力が、作品をいささか難渋なものにしている点は否めませんが、しかし、その意気やよし。
単なるラブコメディに終わらない、歴とした時代ものとして、楽しめる作品であります。
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