「秀吉の暗号 太閤の復活祭」第1巻 恐るべき暗号トーナメント
太閤秀吉の死後、石田三成と徳川家康の間の緊張が高まる中、奇怪な手まり歌が流行っていた。「天下分け目の大戦。太閤殿下がよみがえる。辞世の歌に聞きなされ。日の本がくつがえる…」その内容は諸将を動揺させ、暗号の解読に走らせる。果たして、太閤の辞世の句には何が隠されているというのか?
中見利男の「太閤の復活祭 関ヶ原秘密指令」が、大幅な加筆修正の上、全3巻で文庫化されました。
この第1巻はその序章的な部分ではありますが、しかし開幕早々全力疾走、凄まじい密度で繰り広げられる物語にはただただ圧倒されます。
慶長5年(1600年)、天下分け目の関ヶ原の戦の年――その関ヶ原の戦の二ヶ月前、各地で流行する奇妙な手まり歌。
「天下分け目の大戦。太閤殿下がよみがえる。
辞世の歌に聞きなされ。聞きなされ。
日の本がくつがえる。
天下分け目の大戦。太閤殿下がよみがえる。
よろいの重き武将どもやりなされ やりなされ」
一見、三成方が流行らせたとおぼしきその手まり歌は、しかし三成をも驚かせ、その奇怪で意味ありげな内容は、彼をはじめとする諸将――家康、政宗、行長らを動かすことになります。
太閤秀吉の辞世の句、さらには秀吉の遺言に、真に秘められたものは何か。そして、手まり歌を流行らせたのは何者か?
さらに、恐るべき陰謀を秘めた異国の秘密結社も現れ、事態はいよいよ混迷の度合いを深めることとなります。
本作でまず驚かされるのは、その展開の早さと、それと同時に成立する密度の濃さであります。
例えば、普通であれば物語のクライマックスに判明してもおかしくない、謎の手まり歌の仕掛け人――死んだはずのある人物の存在が、ほぼ開幕早々に明かされたのにまず驚かされますが、それは次の、そしておそらくは本来のドラマの呼び水に過ぎません。
そこから更なる、より複雑怪奇な「真実」が導き出され、そしてその背後には更なる秘密と謎が…と、物語の構造自体が、本作の主題である「暗号」と化したようにすら思われます。
尤も、作中で解き明かされる暗号の数々は、正直に言って結果ありきの解釈に見えてしまうのが困りものではあります。
史実に残る文書、すなわち内容を一言一句改変することが困難である対象から、全く表面上の内容と異なる解釈を導き出すというのは、これは見事な試みと感心はいたしますが――
しかしその解釈が、その気になれば(大変に失礼な言い方ではありますが)別の形にもできるように見えてしまうのは、大いに残念ではあります。
しかしながら、そんな部分が存在してもなお、本作は十分以上に魅力的な伝奇小説であります。
日本の命運を左右しかねない秘密を込めた暗号と、それを解読し、自軍のために利用せんとする各勢力。そしてその手足として動きつつも、それぞれの想いを秘めて暗号に挑む者たち――
様々な勢力が幾重にも入り乱れて、一種のトーナメント的戦いを繰り広げていくというのは、これは伝奇小説の非常に魅力的なパターンの一つですが、本作ではそれが、素晴らしい形で存在しているのです。
この第1巻の終盤で、ようやく登場した「太閤の復活祭」というターム。
果たしてそれが、これからいかなる意味を持つことになるのか、これは第2巻以降も飛びつかざるを得ません。
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