「鬼宿の庭」第2巻 不思議の庭から愛しい庭へ
心優しき絵師見習いの青年・可風と、水神の末娘にして草木百花を司る精霊・たまゆら姫の不思議な恋模様を描く「鬼宿の庭」の第2巻であります。
どこかコミカルなムードだった物語は、二人の恋が進展するにつれ、シリアスなものになっていくのですが…
ふとしたことから、草花たちがが美しき女性に姿を変えて暮らす「鬼宿の庭」に招かれた可風。
美しく、それでいて天真爛漫な庭の主・たまゆら姫と出会った可風は、いつしか彼女に強く惹かれ、姫も可風に想いを寄せるのですが、しかし、恋する二人の仲が進展していけばいくほど、その前に解決すべき問題・課題が現れてくるのは、これは人界でも天界でも共通のこととみえます。
文字通り住む世界が違う同士の恋に向けられる周囲の厳しい目、そして何よりも、姫の父である大神オオワタツミの存在が、二人の前に立ち塞がることとなります。
そんな第2巻に収録されているのは、二つのエピソード。
一つ目は、鬼宿の庭の春の大祭日を描いた物語であります。
言うまでもなく、春は草花にとって最も美しく咲き誇る季節であり、その草花が住まう鬼宿の庭もまた、春という季節が最も美しく輝くのが道理。
その鬼宿の庭の春の大祭日は、天界の神々までもが訪れる大変に賑やかなものなのですが、しかし今年は可風の存在で、花に嵐が…という展開となります。
ついに思いあまって姫に妻問い(プロポーズ)したことから、可風は、姫に横恋慕する雷神・らいでん、そして姫と瓜二つの花王・桜ノ姫と、あらゆる望みを叶えるというオオクニヌシの餅を巡って、蹴鞠勝負をする羽目になります。
…蹴鞠?
と、その辺りの微妙なのどかさ、おおらかさは、いかにも本作らしい楽しさですが、しかしそこに込められた三者三様の想いは、もちろん真剣なものであります。
何よりも、姫を逆恨みして、自らが鬼宿の庭の主になることを望む桜ノ姫は、いかにも恋愛もののライバルキャラ、と見せかけておいて、本作ならではの切ない造形が実に良い。
可風の師で「桜の清流」の異名を持つ画家・清流の娘と何故か瓜二つ(すなわち、姫とも瓜二つ)である理由が明かされる結末の一ひねりも実に美しく、余音嫋々たるものがあります。
さて、そんな騒動を経ながらも、人間たる自分にとっては異世界であった鬼宿の庭を、「不思議の庭から愛しい庭へ」と感じるようになっていった可風ですが、しかし次なる障害はさらに手強い。
すなわち、男にとっては一番の強敵(?)たる、恋人の父の存在であります。
実の姉の招きで一旦実家に帰った可風は、そこで、同様に一旦父・オオワタツミの元に帰った姫が、危機に陥っていることを知るのですが…
このエピソードでは、可風の前に謎の新キャラクターが登場、その正体も実に面白いのですが…
オオワタツミの恐るべき報復を暗示して、この巻は一端幕を閉じることとなります。
明から暗へ、緩から急へ、一気に物語の趣が変わってきた本作。
恋に浮かれる二人と、その前に現れる「現実」の障害の存在には、何やら身につまされるものがありますが、しかしそれだけに、二人の恋の成就を願ってやみません。
不思議の庭から愛しい庭へ――可風の想いが無駄とならぬことを祈る次第です。
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