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2011.06.07

「忍びの森」 忍びと妖怪、八対五

 信長の攻撃で壊滅した伊賀。妻子を殺された若き伊賀の上忍・阿保影正は、生き延びた七人の忍びを連れて脱出の途中、荒れ寺に辿り着く。が、寺は一度入れば抜け出せない閉鎖空間と化し、人外の魔物が影正たちに襲いかかる。かくて、八人の忍びvs五体の魔物の死闘が始まった…

 時代ものに登場する忍者は、通常の人間を遙かに超えた能力を発揮する超人的な存在として描かれることもしばしばですが、それでは、それに相応しい相手と対決させてみたい、というのは一種の人情でしょう。

 そこで、超人には人外…という構図で忍者が妖怪変化と対決する作品も多い――ことはなく、存外少ないのが現状。
 むしろ人外の力を見せつけるためのかませにされることが多く、むしろ勝負にならないことの方が多い…というのは個人的感覚かもしれませんが、本作「忍びの森」のように忍者vs妖怪の忍法帖的トーナメントバトルが展開される作品は、コロンブスの卵であります。
 時は天正九年、織田信長の伊賀総攻撃――容赦ない信長軍の攻撃の前に老若男女の区別なく伊賀の住人は撫で切りとされ、伊賀の地が灰燼と化した戦いの直後。
 伊賀の名門・阿保(あお)氏の上忍・影正は、五人の配下とともにからくも戦場を脱出したものの、妻子が惨殺されたことを知り、信長に復讐を決意します。
 途中、同じく伊賀の田屋氏の忍び主従二人を加え、八人となった一行は、ひとまず紀州に脱出するため、途中の廃寺に一夜の宿を求めるのですが…

 豈図らんや、その寺が彼らにとって文字通りの死地と化すとは。
 奇怪な空間歪曲により、寺の敷地内に閉じ込められた八人を喰らわんと、次々と想像を絶する魔物たちが襲いかかります。
 その魔物の数、五体――かくて八vs五の死闘が緑滴る廃寺を舞台に展開することとなります。


 本作に登場する忍びたちは、超人的な技を持ちながらも、それはあくまでも妖術魔法の類ではなく、人間の域に留まる者として描かれます。
 むしろ彼らは戦国時代の日本において、最先端の超合理主義者であり、それを活かした戦闘技術、サバイバル技術が彼らの最大の武器と言えるでしょう。
(そのサバイバルの助けとなるのが、本作において執拗なまでに描かれる寺を取り巻く緑の森の恵みなのですが、しかしそれが…という展開も面白い)

 それに対する妖怪たちは、いずれも人間を、いや通常の生物を遙かに上回るモノたち。
 その顔ぶれ・能力については、物語の展開に密接に繋がるため、ここには記せませんが、いずれも忍びの合理性の対極にあるような、理不尽極まりない強敵揃いであります。
 …まさか時代もので○○○○○に出会えるとは!


 その一方で、本作においては、相争う忍びと妖怪、その依って立つところから能力に至るまで対照的な両者に、相通じる点があることを浮かび上がらせます。

 山と緑に囲まれた伊賀の地で平和に暮らしていたところに、信長軍の侵略を受けた伊賀の忍び――
 彼らは被害者ではありますが、しかしその彼らが廃寺に現れたとき、今度は廃寺に封じられた、そこのみに生存を許された妖怪たちの平穏を乱す者と――もちろん、妖怪たちは人間を餌とみなし、襲いかかってくるわけなのですが――なったのではないか?

 だとすれば、この戦いは、一見、全く相反する存在同士のもののようでいて、実は、同様の存在同士のそれであることになり――戦いの形式のみならず、その構造において「忍法帖的」と言えるのではないでしょうか。


 残念ながら、読んでいて気になる点は幾つかあります。
 一つには敵の陣容のバランスの悪さ、統一感の――言い換えれば、この面々がこの場に現れる必然性の――なさ。
 そしてまた、敵側の正体と主人公側のルーツに、一定の符合が存在するものの、それが有機的に機能していると言い難い点。

 小説的に見ても、アクションシーンになると変化する文体は、狙い所はわかるものの、違和感は否めません。


 しかしながら、それらを差し引いてもなお、本作が魅力的な作品であることもまた真実。
 伝奇者であれば必読の作品であることは、間違いないのであります。

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