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2011.06.05

「柴錬立川文庫 柳生但馬守」(その三)

 長きにわたって続けて参りました文春文庫収録の柴錬立川文庫の猿飛佐助シリーズ作品紹介もこれでラスト。
 「柳生但馬守」の収録作品紹介、第三回は「抜刀義太郎」「清酒日本之助」「伊藤一刀斎」であります。

「抜刀義太郎」

 幸村の前に現れた謎の老人が連れる少年は、抜刀術の達人だった。その出生を知った幸村は、少年の仇討ちに手を貸すこととなる。

 「真田幸村」収録の「真田十勇士」の冒頭近くで、謎の老人が幸村の前に現れます。
 仙人めいたこの老人は、幸村の佩刀を凶相と見抜き、これを打ち折るとともに、霧隠才蔵を易々と取り押さえ、才蔵が幸村の配下となるきっかけを作った人物。その正体がここで明かされることとなります。

 そしてその老人から抜刀術を仕込まれたのが、本作の主人公・義太郎。そしてこの義太郎の正体は、最上義康の落胤――
 最上義光の嫡男である義康が、何者かに暗殺されたことは史実ですが、本作ではその背後に、最上父子の不仲につけ込んだ家康の存在を設定。
 かくて、仇の一人である家康に一太刀浴びせんとする義太郎少年に、幸村は助太刀することとなります。

 クライマックスでの幸村の意外な(?)芝居っ化が楽しい一編でもあります。
(しかし、伝奇もので最上絡みというのは実に珍しい…)


「清酒日本之助」

 素晴らしい清酒を携えて幸村の前に現れた商人・鴻池新右衛門。自らの前身と、清酒の来歴を語った新右衛門の意外な願いとは。

 本作の主人公たる鴻池新右衛門は、清酒の醸造で財をなした人物であり、鴻池家の祖でありますが、実はその父は、かの山中鹿之介――というのは、伝奇小説の絵空事ではなく、歴とした事実。
 しかし、その彼がなぜ清酒を造るに至ったか、という部分については、これはもう柴錬先生の独壇場であります。

 尼子家復興のために奔走する父と幼くして別れ、海賊・奈佐日本之助に預けられた新右衛門。
 秀吉の毛利攻めに際し、毛利方に与した日本之助ととも鳥取城に入った彼を待っていたのは、秀吉の兵糧攻めでありました。

 生きるために人が人を喰らう地獄絵図をからくも生き延びた新右衛門は、開城に際し切腹した日本之助の遺骨を抱いて、商人となることを誓うのですが…

 日本之助が遺した、商人となるも武士の心を忘れるな、という言葉を、新右衛門が如何に実現したのか?
 結末で明かされる、新右衛門が幸村を訪ねてきた理由からは、刀を捨てても己の心意気は捨てなかった男の姿が浮かび上がります。
 私の大好きな一編であります。


「伊藤一刀斎」

 伊藤一刀斎には二人の弟子がいた。決闘の末、免許を得た小野次郎右衛門は、姿を消した師に代わり、将軍家指南役となるが。

 最後の作品は、剣豪師弟の姿を描く作品。
 伊藤一刀斎は、これまでもこのシリーズに登場して三好清海と決闘、またその弟子たる小野次郎右衛門も、「大坂夏の陣」で十勇士と死闘を繰り広げたことが記されていますが、本作はこの二人――いや、一刀斎の道統を継いだ小野次郎右衛門が主人公となります。

 剣豪ファンには良く知られた、免許皆伝を賭けての兄弟子・小野善鬼との決闘の末、勝利した次郎右衛門。
 将軍家指南役に就任した後も、同じ指南役の柳生家が、徳川家の隠密総帥としての役割を担うのと対照的に、剣士として己の道を行く次郎右衛門の姿が、淡々と描かれていくことになります。

 残念ながら、本シリーズにおいてはかなり地味な作品なのですが(それでも、少年柳生十兵衛との対決なども描かれるのですが)、次郎右衛門の前身が面打ちだったという設定を活かした結末の切れ味は、さすがと言うべきでしょうか。


 柴錬立川文庫の猿飛佐助シリーズ全24話、出来に多少のばらつきがあることは否めませんが、、伝奇者として読んで損はない、いや必ず読むべき快作揃いであることは間違いありません。
 現在でも入手は容易いと思われますので、興味を持たれた方は、ぜひご一読を…

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