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2011.07.05

「秀吉の暗号 太閤の復活祭」第2巻 死闘、利休争奪戦!

 太閤の辞世の句の謎を巡る暗闘は続く。死を擬装して阿波に隠れる千利休を確保し、暗号を解く任務を家康から与えられた友海と蒼海は剣山に向かうが、そこには利休を求めて、既に様々な勢力が集結していた。利休を守る謎の忍び「桐の葉」の襲撃や死の罠をくぐり抜け、利休に迫る友海たちだが!?

 太閤が残した辞世の句に秘められたという恐るべき秘密。天下分け目の関ヶ原の戦の前夜、その秘密を巡って幾多の勢力が激突し、トーナメントバトルを繰り広げる「秀吉の暗号 太閤の復活祭」、全3巻の第2巻であります。

 第1巻の時点で、あまりにテンションの高い、そしてスピードの速すぎる展開に、ただただ圧倒されていた本作ですが、この第2巻でもその超展開は全く変わらず。
 いや、この巻では、剣山を舞台に、太閤秀吉とともにこの物語の中心に位置する(であろう)千利休を巡る死闘が開巻早々から繰り広げられ、いよいよ勢いは増すばかりなのであります。

 天下分け目の大戦に太閤秀吉が甦るという奇怪な内容の手まり歌。それを流行らせたのは、死んだはずの茶人・千利休。
 秀吉と謀り、死を擬装して、阿波山中に姿を隠していた利休が、秀吉亡きいま、何らかの意図を秘めて動き出した――
 それを察知した徳川家康、石田三成、そして伊達政宗は、それぞれ太閤の辞世の句の暗号を解き明かすとともに、利休の身を確保するため、それぞれの配下を送り込みます。
 さらに、密かに秀吉・利休と結んでいた異端モーセイスト派の宣教師たち、宝の匂いを嗅ぎつけた盗賊団、秀吉に恨みを持つ異国の復讐鬼、暗号神の異名を持つ怪人までもが絡み、阿波剣山を血に染める死闘がこれでもか、これでもかとばかりにこちらの眼前に叩き付けられることになるのです。

 何しろ、本作における腕利きという表現ほど信用できないものはありません。
 いかにも強く、憎々しげに登場した忍び集団が、登場するのとほとんど同時に壊滅しているなどというのはザラ。
 トーナメントバトルで、様々な勢力が絡み合い、次々と脱落していくというのは、ある意味伝奇ものの一つの醍醐味ではありますが、しかしここまで豪快なのは久しぶりで、私は大いに楽しませていただきました。

 しかし、そんな世界の中で異彩を放つのが、(おそらく)主人公コンビの蒼海&友海であります。
 かつて利休が死を擬装した際、それを見破れずに任務を失敗し、以来、伊賀の里に引きこもり、相撲取りのように肥え太った元・暗号師の蒼海。
 そして、生存していた利休を阿波から奪還せんとした作戦に失敗、仲間が全滅した中、ただ一人生き残った隻腕の少年忍び・友海。
 肥満漢と子供という、およそヒーローには似つかわしくない凸凹コンビが、このバトルロイヤル的な状況で、家康の切り札となるというシチュエーションも痛快であります。
 しかし、この二人には、他の登場人物、他の勢力とはいささか異なる事情を背負っていることが、透けて見えてくるのです。

 暗号師を引退し、任務に失敗した者の毒殺を請け負うと見せかけて、彼らを逃がしていた蒼海と、ある任務の中で慈悲の心を見せたことで片腕を失い、それでも人の命を救うことにこそ自分の力を使おうとする友海と――
 この二人には、血で血を洗う戦いの、その尖兵たる忍びに似つかわしくない優しさ、言い換えれば人の情愛というものがあります。


 誰もがそれぞれの目的のために――言い換えれば、我欲のために動いているやに見えるこの物語世界。
 その中でただ二人、利他の心を持つ彼らが、この超展開の中でも、死闘の渦の中でも、その存在感を失うことなくいるのは、ある意味必然でありましょう。

 果たして蒼海と友海が、秀吉と利休の残した巨大な謎と企みに打ち勝つことができるのか――あと1巻、いよいよ「太閤の復活祭」は目前に迫っております。

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秀吉の暗号 太閤の復活祭〈二〉 (ハルキ文庫 な 7-4)


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