「秀吉の暗号 太閤の復活祭」第3巻 冷徹な世界に人の心の光を
大坂城で開催される暗号競会「太閤の復活祭」。そこに出席する利休の身柄を確保した蒼海と友海だが、利休暗殺の魔手が次々と迫る。そして競会で激突する三成・家康・政宗三者の代理人。次々に秘密が明かされる中、最後に残された太閤の暗号とは。そして、迫り来る日本消滅の危機は回避できるのか!?
太閤秀吉の辞世の句に秘められた暗号と、その秘密を知る生きていた千利休を巡る死闘暗闘を描いてきた「秀吉の暗号 太閤の復活祭」も、この第3巻でいよいよ完結。
大坂城で開催される「太閤の復活祭」こと暗号競会で、果たして全ての謎が解き明かされるのか、そしてその意味は…終盤に来て、スピードを緩めるどころか、いよいよ加速して物語は展開していきます。
死を偽装して阿波剣山に隠棲していた千利休を巡り、激しく暗闘を繰り広げた徳川・豊臣・伊達ら各勢力。
剣山はおろか、瀬戸内海までも舞台とした逆転また逆転のトーナメントバトルを制し辛うじて利休の身柄を抑えた徳川の暗号師・蒼海と少年忍者・友海の凸凹コンビですが、大坂に向かう海路でも裏切りと謎の波状攻撃は続きます。
さらに大坂城でも各勢力の暗闘は続き、太閤の復活祭の直前までそこかしこで繰り広げられる意外な展開の数々。
冗談抜きで、一ページでも読み飛ばせば物語がわからなくなりそうな勢いで物語は続き、ついに開催された太閤の復活祭で、いよいよ全ての謎が解き明かされる、はずなのですが…
しかし、この暗号競会が終わった時こそが、ある意味物語の本当のクライマックスの始まりなのであります。
さすがに詳しい内容は書けませんが、意外な形で終わった競会を受けて、なおも続く謎解きの数々。
そこに浮かび上がった亡き秀吉の真意とは、そしてそれを生ける者たちはいかに活かすのか…
そして、物語冒頭にある人物により予言されていた、恐るべき計画の行方とは!?
いやはや、この計画、あまりに豪快なスケールに目眩すらしますが、しかし歴史のifを巧みに突いた、必ずしも不可能事ではない仕掛けなのが実に素晴らしい。私も色々な作品を読んできましたが、ここまでのアイディアは読んだことがありません。
そしてまた、その恐るべき計画、今まさに真っ二つに割れている日本国内が、心を一つにせねば阻止不能な計画を、如何にして阻止するか――それが明らかにされた時には、その手があったか! と大いに興奮させられた次第であります。
それにしても、最初から最後まで、本当にその異常なまでのテンションと密度を落とすことなく完走してのけた本作には、ただただ感服した、というよりほかありません。
尤も、第1巻の時点から再三述べているように、本作の根幹を成す暗号解読の内容については、やはりあまりに強引に過ぎるのではないか、という印象は拭えません。
その辺り(私は嫌いな言葉なのですが)トンデモ本的色彩も強く、その点が駄目な方にとっては、本当に駄目だろうとは思うのですが…
しかし、この文庫版あとがきにおいては、作者自らが「トンデモ(扱いされること)を恐れるな!」と力強く宣言しており、いやここまで言い切られては、その志を諒として受け入れるほかありません。
そして――私個人にとってみれば、暗号解読という、ある意味非常に冷徹な世界に、人の心の介する余地を描いてみせた、その趣向が実に嬉しい。
定まって変わり得ないものと見える暗号解釈、そしてまた同様に不変に見える歴史の流れというものに、人の善き心――それを大言するのが、蒼海と友海の二人であることは言うまでもありませんが――が影響を与え得る。
そんな一つの希望の光を描いてみせた、その心意気を嬉しく思うとともに、単に表面的な題材・趣向だけでなく、その精神を含めて、本作は見事に時代伝奇であったと、感じ入った次第であります。
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