「鬼宿の庭」第3巻 壁を破る二人の想い
二十八日に一度、その姿を現す幻の庭・鬼宿の庭の美しき主・たまゆら姫と、庭に招かれた心優しき絵師見習い・可風との恋愛模様を描く「鬼宿の庭」。
二人の物語もいよいよ佳境に入り、事態は意外なところに飛び火し、想定外の方向
に向かっていくこととなります。
鬼宿の庭の春の大祭日で、ついに姫に対して妻問い(プロポーズ)した可風。姫にも受け入れられ、後は親の許しを得るだけ…
と言いたいところですが、問題はその親であります。
人間と結婚しようという姫に対して、彼女の父・海神オオワタツミの怒りは大きく、ついには姫を黄泉の国に送らんとまでする始末。
可風の実家に伝わる守り刀の精・紫月の助けで姫は救い出したものの、今度はオオワタツミの魔手は可風の母へ――
という引きで終わった前巻。それまでどこか童話めいたのどか雰囲気を持って描かれてきた本作ですが、この第3巻ではいきなりシリアス…というより重い展開に驚かされます。
恋愛は愉しいこと、甘いことばかりではなく、時につらいこと、苦いこともある…などとしたり顔で言っている場合ではない、急展開であります。
もちろん、それだけでは終わるのではなく、哀しくも美しい余韻を残してくれるのが、本作らしいところなのですが――
そして季節は進み、夏に始まった物語は二度目の夏へ。
可風は師に認められ、師の邸で修行を積むこととなり、ひたすら絵に打ち込む毎日。
そしてたまゆら姫は、鬼宿の庭を飛び出し、ある目的を持って、天界の二十八宿を巡ることとなります。
(ちなみに毎回単行本の表紙を飾る姫は、今回は省江根型で登場。実は作中でも今回はこの姿がほとんどなのですが、これはこれで実にかわいらしい)
この辺り、胸中はじりじり焦りながらも、ただ絵を描くしかない可風と、状況を打開するため、アクティブに飛び回る姫との対比が、いかにも二人らしい…というより、世の男性と女性全般の対比のようにも見えてしまうのですが、それはさておき――
どれだけ二人が想い合っても、超えられないものがある。想い合っているからこそ、苦しい想いを抱くことがある。
この巻で描かれるのは、確かに、そんな恋愛の苦みの部分であります。
しかし、それでもなお、その想いこそが、二人の絆を一層強くすることがある。周囲を巻き込み、壁を破る力となる――
豊かに生きるために、要らぬ想いなどない、そんなことを、明確に本作は教えてくれます。
そして、そんな想いが思わぬ(本当に思わぬ!)助けを呼び、いよいよ物語はクライマックス。
可風自身(?)が「「鬼宿の庭」の物語も最終章をむかえる」と言うように、おそらくは次の巻で最終巻となるのでしょう。
二つの世界の壁を貫く二人の愛のグランドフィナーレに期待しましょう。
ちなみに今回印象に残ったゲストキャラは、終盤に登場するキクリヒメ…の背の君。あまりの意外さに、おそらく読者のほとんど全員がひっくり返ったのではありますまいか?
(ここだけ何だか「聖☆おにいさん」みたいな世界観に見えて、実に愉快)
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