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2011.07.25

「軍師の秘密」 恐るべき勘介の暗号

 小幡景憲が記した軍学書「甲陽秘伝」に仕掛けられたという幕府転覆の暗号解明の命を受けた暗号師・蒼海と甲賀忍者・友海。山本勘介の正体を追う蒼海は、勘介が虚構の人物であるという秘密を握る。一方、謎の教壇に潜入した友海が見たものは、死した武田家の将たちを蘇らせる妖術を操る怪人だった!

 文庫化されてなかなかの人気らしい「秀吉の暗号 太閤の復活祭」の続編に当たるのが、本作「軍師の秘密」であります。
 「秀吉の暗号」は関ヶ原前夜に太閤秀吉が遺した暗号を巡り、様々な勢力が死闘を繰り広げる作品でしたが、本作の舞台となるのは、それから十五年後、大坂の陣の直後。
 伝説の軍師・山本勘介の事績を記した「甲陽秘伝」に秘められた恐るべき秘密を巡り、奇想天外な戦いが繰り広げられることとなります。

 徳川家康暗殺に失敗し(!)自刃した古田織部。「秘伝」の暗号が家康を破滅させるという織部の最期の言葉を重く見た家康の知恵袋・柴智安は、前作で大活躍した暗号師・蒼海に、「甲陽秘伝」の解読を命じます。

 その結果、秘伝で活躍する山本勘介の実在に疑問を抱いた蒼海は、勘介の故郷と伝えられる地に向かい、何者かが、武田家の伝令に過ぎなかった山本“菅助”の名を利用し、山本勘介を生み出したことを知ります。

 一方、蒼海の相棒である少年忍者・友海は、織部の背後にいたと思しき東方謙遜教会なる教団に潜入することとなります。
(十五年前も少年だった友海が本作でも少年なのには一応理由があるのですが、まあ本作では小さいことであります)
 そこで彼が目撃したのは、子供を生け贄にして伝説の秘剣「瞑府」を生み出さんとする魔少年・ダニエルと、彼の妖術によって冥府より蘇った真田一門!

 果たして「甲陽秘伝」で生み出された山本勘介とは何者なのか、そしてそもそも何故彼は生まれたのか?
 そしてダニエル一派が再生武田軍団を操って狙うものは…
 「甲陽秘伝」の真偽を巡り、家康の御前で繰り広げられる蒼海と小幡景憲の論戦の最中、物語はクライマックスを迎えることとなります。


 天下分け目の一戦の前夜が舞台であり、その戦いが巨大な背景として機能していた「秀吉の暗号」に比べると、史実とのリンクという点では、いささか弱い点がある本作。
 登場する勢力も、徳川方と敵方というかなりシンプルな構造であり、その意味では前作と比べると、おとなしめな作品である…と言いたいところですが、しかし破壊力という点では、むしろ本作の方が遙かに上回っているやに感じられます。

 その点を説明しようとすると、本作の根幹に繋がってしまうため非常に苦しいのですが、山本勘介の姿に、山の神との関連を見る…というのは他の作家も既に書いているところではありますが、しかしさらにそこに○○○との関連を見出そうというのは、間違いなく本作以外にはありえないでしょう。
 そしてそれと並行して描かれる魔戦というほかない戦いの姿も、時代伝奇小説はおろか、架空戦記でもお目にかかれないような奇怪にもほどがあるものであって――

 真面目な歴史時代小説を期待して手に取った方は、まず怒るか呆れるのではないでしょうか。

 しかし言うまでもなく、私のような人間にとっては、本作は実に魅力的な作品であります。
 確かに、相変わらず強引すぎる論法にしても、会話の中にその時代に明らかに存在しない用語が登場する点にしても、本作に問題が皆無であるとは到底申せません。

 しかしそれでもなお、史実の一ピースの持つ可能性を極限まで磨き上げ、巨大なあり得たかもしれない虚構を描き出す作者の手法は、それでもなお――わかって見る分には――魅力的なのであります。


 かなり読者を選ぶ作品であります。諸手を挙げて面白いというのに躊躇われる作品でもあります。
 しかし本作が、まさしく愛すべき(というには少々血腥いですが)作品であることは間違いありません。

 そんな作品でも構わないという方には、大いに楽しんでいただきたい…そんな作品なのであります。

「軍師の秘密」(中見利男 角川春樹事務所) Amazon


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